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新婚なの! 9-3 (5)

 
「……なぁ、ヴィータ」
「な、なにさ。はやて」
「なのはちゃんと結婚して――今、幸せか?」
「…………」
「確か、なのはちゃんが家に転がり込んできて二年やったっけ?」
「……一年半ぐらい、のはず」
「その間、ずーっと今みたいにして上げてたんやろ? そう覚えてるけど、違ったかな」
「ううん、大体あってる。確かに、結婚したからって特別変わったことは……ない。ただ」
「ただ?」
「ただ……指輪買ったり、ちょっとだけ認識が変わったっていうか、意識してなかったことを意識するようになったって言うか」
「よう分からんけど、無意識にやってた事が色々変わってった、言うこと?」
「……多分。自分でも分かんないけど、やっぱり結婚したって事。意識にしてるんだと思う」
「そか。ならエエわ」
「……もう、良いの?」
「うん。ヴィータが結婚して、それを前向きに捉えてるって言うなら、まあ別にそれでエエわ」
「……そ、その言い方。何か引っかかるんだけど」
「うん? ああ、なのはちゃんがヴィータの好意の上に胡坐をかいてるような気ぃしてな? それでもヴィータが納得してるなら、ってこと」
「あ、胡坐って。それ、どういう意味さ」
「慣用句というか。簡単に言うと怠けたり慢心したり、特に何にもしん事を言うね」

 白い顎を見せたまま、表情もなく、抑揚の無い声で、無感情に。
そこからは何も読み取れませんでしたが、ヴィータはその言葉の響きだけに堪らず反応しました。

「な、何にもしないってどういうことさ!」
「う、んー?」

 立ち上がり、ザブザブと波立たせて詰め寄る。
それでも上を向いたままのはやての顔を覗き込んでは、勢いよく反論しました。

「なのははそんなヤツじゃねーよ! それははやてだって分かってるだろ!?」
「さぁ? 面の皮が厚くて私が本性知らんだけかもしれんし。"私の知ってる"なのはちゃんは確かにそうかもしれへんけど」
「そんな器用じゃねーよ! 外と中とか、人によって表と裏を使い分けられるような、そんな頭良くねーもん!」
「じゃあ、なのはちゃんはヴィータに何してくれるの? 話聞いてる限りなーんもしてくれてへん見たいやない。違う?」
「違う! アタシが言わなかっただけで、なのはだって色々してくれんだ!」
「ふぅ~ん」
「そ、それにさ! するとかしないとか! そんなん嫌だったら結婚なんてしねーもん!」
「ほぉ~」
「納得っていうか、はやてが思ってるようなことはないから! そうやって悪く言うのは止めてくれよ!」
「…………」

 何がヴィータを駆り立てるのか。
本人にも分かりませんでしたが、兎に角はやてに対して一言言わなければ堪らない気分であったのは確かです。
自分を見ず、何も読み取れない顔に声。
家族であり嘗ての夜天の書の主とはいえ、自分の伴侶をそのように言われたのでは当然の反応です。
それでもヴィータにしてみれば、何か分からない感情に突き動かされたように、ただ勢いだけで詰め寄りました。
その上、今この話をしているはやては、はやてであってそうでないような外見だけが同じで、まるで別人のようで。
自分の中とはやての態度。その二つに対する上手く説明の出来ない感情がグルグルと渦巻いているのでした。

「な、なんでさ。なんでそう言うこと言うのさ……はやてはさ、そんなんじゃねーのに」
「それは家族の欲目やね。残念やけど私はヴィータが思ってるほど聖人君子やない」
「ち、ちげーもん。はやてはそんなんじゃねーもん……」
「……はぁ。やっぱ残念やなぁ」

 浴室の暑さのための汗なのか。それとも大きな目からあふれ出そうとする涙なのか。
そのどちらとも付かないモノが顔の表面を流れようとした時。
明らかにある種の感情が篭った声に、何に対してか呆れたような表情を浮かべました。
その変化に戸惑うヴィータ。
はやては、そんなヴィータを見て寂しげな笑みを浮かべました。

「あんなヴィータ。私はヴィータが思ってくれてるほどエエ人やないんよ。今ので分かってくれたやろ?」
「わ、分かんねーもん……」
「ヴィータがなのはちゃんのこと、どう思ってるか図るための演技。わざと挑発するように、ヴィータが怒るように仕向けたんや」
「……で、でもさ」
「大体な? なのはちゃんとどうしてるかって事。前に聞いたことあるやん。そこでご飯作ってくれるーとか自分で言うたやん」
「……あっ。そういえばそんな気がする」
「掃除とかもしてくれるんやろ? ヴィータが忙しい時は代わってくれる言うて。ちゃ~んと覚えてるよ」
「あ、あああ、ああ!」
「そんでもな。なのはちゃんのこと好きかなって気になるやん。ちゃんと聞いてへんし。
 なにせヴィータは大切な大切な妹なんやから。ちゃんと望んだ今があるのか。少なくとも本人が幸せって感じてるか心配なんやもん」
「そ、そんなんだったら……偉そうなことかもしんないけど」

 一旦視線を逸らすものの、目を閉じ、深呼吸をして、しっかりとはやてを見据えます。

「アタシのこと、心配してくれるのは嬉しい。だけどさ、それならアタシのこと信用してくれよ。
 なのはと一緒に居る、居ることを選んでるアタシのことをさ。ホントに嫌なら帰ってくるって。はやてのこと、好きだもん」
「……ヴィータ」
「ま、まあさ。なのはのヤツはズボラだし、中々言うこと聞かないし、えっと……他にも色々あるからさ。
 いくら我慢強いアタシでも愛想尽かすかもしんないけど、それでも、何ていうか。あの、今はまだそうじゃないから、一緒にいてて」
「…………」
「さっきも言ったけど、一人にしとくと危なっかしいって言うか、自分を省みないヤツだからさ。
 フェイトが居りゃ良いんだろうけど、執務官は忙しくて中々帰ってこられないもんで、その、アタシぐらいが付いててやらないと……。
 だ、だから何が言いたいかっていうと、まだ堪忍袋の緒が大丈夫って言うか、その……アタシが居ないとなのははダメだからさ! そういう事!」
「ふ、ふーむ」

 はやての目を見て話し始めたはずなのに、段々と歯切れが悪くなり、最後には全く視線を逸らして、モジモジと言い辛そうに。
それでも、何とか自分の思っていることを伝えようとする姿に、はやても背筋を伸ばして、しっかりとヴィータに向き直りました。

「うん。分かった。ヴィータがどんだけなのはちゃんのこと好きなんか、よ~く分かった」
「ブッ!? だ、だから別にアタシはそう言うんじゃない……」
「あ~あ。私もそういう風に思えるようなエエ人が現れんもんかねぇ」
「だ、だから―――わっぷ!?」
「ううん、もおううう! そこまで言っといて、まだ違う言うヴィータ。なんて可愛~んやろうなぁ~!」

 背筋を伸ばした分、ヴィータとの距離が近くなったはやては腕を伸ばしヴィータを抱きしめます。
恥ずかしさから視線を逸らしていたせいでその動きに気付くのが遅れ、まろやかな胸の中に顔を半分埋めてしまいます。
腕に力を込め、頭をワシワシと痛いほど撫でるはやて。
ヴィータは脱出しようにも、上半身が伸びきったせいで力が入らず何ともならず、成すがままにならざるを得ませんでした。

「ん~。この髪の感触も身体の細さも変わらん言うのに、なのはちゃんを好きやーって気持ちはこんなにも大きなっとったんやねぇ」
「んぐぐぐー! は、離してってはやてー!」

 頭を抱いていた腕で腰を抱き寄せ、ついにヴィータは完全にはやてに抱きつく形になってしまいました。
体勢が悪い上に浴槽の底は少しツルツルして、踏ん張ろうにも力が入らず、全く離れられそうにありません。
頭の上では、はやての楽しそうな声が響き、腕に込められた力から、とてもじゃないけれど当分離してくれそうにありません。

「…………はやての。バカ」
「うんうん。ヴィータのことが信用できんかった私は大馬鹿者やね、ホント」

 涙声のはやてに、仕方なく。仕方なく、ヴィータは気が済むまで大人しくせざるを得ないのでした。


 


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コメント

はじめまして。
いつも楽しく読ませていただいています。
一つ質問なのですが、どうしてこのごろ、地の文の形式をかえられたのでしょう?
途中でかわるというのはやはり少し読みづらい部分があります。
何か意図されることがあるのでしょうか。もしないーまたは意味の薄いものでしたら、もどしたほうがよいのでは、とおもいます。
あくまで勝手な意見ですが。すみません。

これからも素敵なSSをかいていってください。
応援しています!

投稿: カイ | 2008年4月 2日 (水) 04時47分

こんばんわ。

ご質問の件に関してまして、途中で形式を変えたことで読み辛くなって事については申し訳ありません。

形式を変えた理由はヴィータ以外の人物の描写が欲しかったからです。
今まではあくまでヴィータ視点であり、知りえないモノは物語の中でなかった事になってしまうからです。
変える前より、一場面に登場させる人数が増えた為に今までの方法では書き切れませんでした。
これは私の技量の問題でもあり、その事でご迷惑をおかけした事は申し訳なく思っています。

ですが、この後も一時的に戻す事はあっても全体として変える事は無い予定です。
もし宜しければ、今後とも宜しくお願いいたします。

投稿: あや | 2008年4月 3日 (木) 22時33分

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