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新婚なの! 9-6 (2)

「はぁ~、肩こった。もうちっと早く助けろよな」

 仰々しく首を捻っては肩を鳴らし、肩がこったとアピール。
はやてとなのはは用があると席を外してしまい、この場には自分とザフィーラしかいません。
本当は肩なんて凝っていないのですが、次に会うのはいつになるか分からない相手に対しての口実なのでした。
しかし、相手にはそのような気持ちなどないのか、前足に顎をぐったり乗せたまま片目でチラリと伺うだけです。
反射的にスリッパを投げつけても。
ふんわり飛んだスリッパの柔らかい部分が、首周りにふさっと当たるだけ。
「投げつけた」割には柔らかい反応に、変な気遣いなんてしてやるんじゃなかったと思うのでした。

「なぁ、こんな朝早くからどこ行ってたんだ? 散歩にしちゃ変だよな」
「……護衛、というのも大げさだがな。散歩と称してな」
「ふぅん。別に実害があるわけでなし、大げさすぎないか?」
「女の一人歩きは危ない。それに、シャマルも気味悪がっているしな」
「それもそっか。……はやては?」
「主にも出来るだけ同行させて頂いている。ただ研修に事件にと、機会は少ないがな」

 毛の多いその顔からも不安や不満が見て取れます。
心配性だな、と思いながらも、はやての元を離れてしまったことで後ろめたい気持ちもあり、それを口には出来ません。
ヴィータは"その視線"の主に対して苛立ちを募らせます。
それでも。はやてのこれまでと、これからを無駄にするわけにはいかず、ただグッと堪えるしかありませんでした。

「主とシャマルのことは任せておけ。お前は代わりに自分の伴侶を守ってやるんだな」
「……うん? なのはもそうなのか?」
「そうだ。言うならばテスタロッサも対象らしい」
「……はやてを中心に仲がいい連中は全部ってことか」

 首をもたげ、黙って頷く。
全く予想外とまでいかなくとも、事実であると分かれば多少なりともショックであるものです。
特になのはは自分と結婚したことでマークが強くなっているのではないか。
自分に心配をかけまいと、"その視線"に気付いていても黙っているのではないか。
あの分かりやすいなのはが、もし隠しているとすれば……
素直な分、顔に出やすいヴィータ。
ザフィーラは起き上がると、ソファーで難しい顔をしてるヴィータの足元に移りました。

「高町は教導隊だ。我らの中ではテスタロッサの次に近づきにくい相手だろう」
「う、うーん。そう言われりゃそうかもしんねーけどさ」
「何を心配している? 高町に足を引っ張られる主か。それとも高町自身のことか?」
「う、うっせーよ!」
「一人で二人も三人も守ろうとするのは贅沢だぞ、ヴィータ」

 その言葉に反論の言葉を飲み込んでしまう。
図星だな、とでも言いたげな顔をするザフィーラから思わず目を逸らします。
確かにその時。
脳裏には仲の良い人たちの顔が次々に映し出されていたからです。
それに、なのはに要らぬ心配をかけやしないか。はやてがそのことを知って胸を痛めたりしないか。
その表情の通り。
見事に図星を指されていたのです。

「悪い癖だ。それは昔から変わらぬな。いや、寧ろ悪くなったぐらいだ」
「ふん! うっせーよ! そうそう簡単に変わるってんならお前の辛気臭い表情、何とかしてみせろよな」
「し、辛気臭い……」
「ニコッとしろとは言わねーけどさ。犬じゃねーときぐらい愛想良くしてみせろって」
「む、むむ……!」
「それにさ。近所の犬だってもう少し可愛げあるぞ? こうだな、口の端をむにーっとあげて」

 口に手を突っ込み、無理やり笑った顔を作らせます。
口だけは笑ったように見えますが、割と鋭い歯がぎらりと並び、赤い歯茎がその白さを際立たせています。
しかも目は全く笑っていないので、不気味なことこの上ありません。
これなら無愛想な方が幾らか印象が良いだろうと、手を放すのでした。

「うわっ。涎、ばっちぃ」
「……人の身体で拭くな。ちゃんと手を洗って来い」
「へーい。分かりましたよーっと。それ、いけザフィーラ。洗面所だ」
「……仕方あるまい。しっかり掴まっているんだぞ」

 背中に飛び移ったヴィータを乗せて、ザフィーラはゆっくりと洗面所へ向かうのでした。

 

 

「ヴィータ。今日はどのくらいにこっちを発つ予定なん?」
「う~んと。お昼過ぎー。移動時間とか時差とか考えるとそれぐらいで丁度よくなるはずだから」
「そか。んならお昼は一緒できるね」

 着替えを済まし、こちらから持っていくもののチェックをしていると、はやてが時計を気にしながら聞きます。
予定を聞くとゆっくりと席を立ち、腕まくりをしながら台所へ向かいました。
お昼ご飯を作ってくれるようです。
時間としては少々早い気もしますが、作ってくれるのですから文句はありません。
しかもそれがはやてとあっては尚更のこと。
ヴィータはアンテナをピン!と立てながら、足を跳ねてソファーから降り、はやての後を追いかけました。

「うんもー。ヴィータちゃんたらホントにはやてちゃんの事が好きなんだからぁ」
「そうだな」
「ザフィーラさんもそう思います? あ、そうだ。今なら聞こえちゃったりしないかな」

 荷物チェックを放り出してしまったヴィータの代わりをするなのは。
ザフィーラの声に耳を傾けながらも、視線はヴィータの背中を追ったままです。
そうしたまま、別に聞こえなければそれで良いといった具合で、ボソリと呟きました。

「ヴィータちゃんって、はやてちゃんの所に来た時から、ずっとあんな感じでしたか?」
「……いや。そうでもなかったぞ」
「ふぅん。やっぱりツンツンしてたんですか?」
「どちらかと言えば戸惑いの方が大きかったかもしれん。それはヴィータに限らず、だが」
「戸惑いかぁ。はやてちゃんって変わってたのかな。私はそうは思わないけど」
「我らにとって。我らの世界とは主が全てであり、それ以外はないも同然、という面があることは否定しない。
 その上で"今までの主"を基準に考えれば、八神はやて、としてではなく、我らの主としてはそういう事かもしれん。
 ただ、これまでの暮らしで広がった世界から考えれば……ヴィータの戸惑いもどちらの意味であったのか。それは分からん」
「……暗に変わり者だって言ってるようなものですよ? ザフィーラさん」
「む……。ただ、今までの我らの経験からすると、今の主はイレギュラーであることは否定しない」

 お互いに視線を合わせることなく、独り言でも呟くように会話は続いていきます。
なのははヴィータを。
ザフィーラははやてを。
視線の先にいる二人が楽しそうにお昼ご飯の用意をしているのを、とても楽しげに見つめています。
ただ、表情に反して声のトーンはそれほど高くありませんでした。

「ヴィータちゃんってああ見えて人見知りっていうか、初対面の人に弱いですよね」
「そういう意味でシャマルは強いな。物怖じしないとでも言おうか、この時代にも一番に馴染んだからな」
「ふふふ。そういうイメージですよね。どこへ行ってもやっていけそうで……一番バイタリティ溢れてるのかも」
「アレも昔はそうでなかったのだがな」
「へぇ~。じゃあ、ザフィーラさんとシグナムさんはどうだったんですか?」
「……シグナムは表面上、余り変化はないかもしれんな」
「うふふ。ザフィーラさんでも照れたりするんですね」

 僅かな沈黙と上擦った語尾。
それが照れから来るものであるのは明白で、初めてザフィーラのことが可愛いと思いました。
実際のところどうなのか。
後でヴィータから聞いてみるのも良いかも知れない、と思いながらも、今日のところは止めておくことに。
それより出来るだけ自分の知らないヴィータの話を聞くことにしました。

「はやてちゃんに戸惑うヴィータちゃんなんて想像できないな、私」
「こちらに現れて十年。我等とてあの日の出来事は夢の中の出来事のように感じるぐらいだ。そう感じて当然だろう」
「ちょっと見てみたかったな。はやてちゃんにツンツンするヴィータちゃん」
「……ヴィータと初めて会った時のこと。覚えているか」
「初めて、ですか? そうだなぁ……覚えてますよ。インパクト抜群でしたから」
「それの少しまろやで、戸惑いを足した分で想像すると近いかもしれん」
「ま、まろやか、ですか」
「初めから従者として対するのと、敵対するのと。それだけの違いだ。前者が主であり、後者が高町だった」
「基本的に同じなんですね。そっかぁ。素直になれずツンツン戸惑うヴィータちゃん……うふふ」

 自分に対する態度の違いは、主であることと、そうでないことだけ。
けれど今は夫婦なのですから、きっと近いうちに、はやてに対するそれと近くなっていくのかもしれません。
そんな希望観測と共に、自分に対するように、はやてにツンケンするヴィータを想像します。
今のデレ期を分かった上で、想像するそれは愉快でしょうがありません。
もし、出会った当初の態度を今に見せてあげたら悶絶してしまうんじゃないかしら。
台所へ視線を投げたまま、楽しげに笑うなのは。
ザフィーラは楽しげな雰囲気を感じ取ると、ゆっくりと瞼を下ろします。

「私、こんなにザフィーラさんとお喋りしたの初めてかもしれませんね」
「……少々、お喋りが過ぎたようだ」
「ふふふ。今後もこういう機会があると嬉しいですね、私としては」
「家族になったのだ。この先幾らでもあるだろう」
「そうですね。じゃあまた今度、お願いできますか? ヴィータちゃんのお話」
「ああ。精々ヴィータの耳に入らぬよう気をつけねばな」

 荷物を纏めた鞄をに寄りかかるなのはと、前足を組んで寝そべるザフィーラ。
二人の鼻と耳には、美味しそうなお昼ご飯を予感させる匂いと、賑やかな音が届いているのでした。

 

 

「そんなら宜しくね。粗相するんやないよ。ヴィータなら大丈夫やとは思うけど、まあ一応な」
「大丈夫だって。そんじゃお土産楽しみにしててくれよ、はやて」
「最近私も帰ってへんし楽しみにしとくわ。ああ、なのはちゃん。そっちもお願いね」
「うん。義姉さんからの大事な言付けなんだから。それでなくても、顔は出すつもりだったから」
「そか。んなら久しぶりに実家、楽しんできてな」
「二人とも道中気をつけてな」
「お。お前がそういう心配するって珍しいな」
「そういう日もあるよ、ヴィータちゃん。ねぇ、ザフィーラさん」

 軽くウインクするなのはに視線だけで応えるザフィーラ。
ヴィータは不思議に思いましたが、はやてだけは何か納得している模様。
いつまでもここに居るとヴィータに付き合わねばならなくなってしまうので、強引に手を牽いてその場を離れるなのは。
当然不満たらたらに、何だ何だと声を上げながら遠ざかっていくヴィータに、はやては二人の姿が見えなくなるまで手を振るのでした。

「う~、寒い寒い。折角温まったのに冷えたら勿体無いわ。さっさと中に入って温まり直そかね」

 黙って頷き玄関ドアを開けるザフィーラ。
犬状態で器用にこなすものだ、と何度かテレビ出演も考えたはしましたが、こちらの世界ではそれほど珍しくなかったようです。
玄関で足を拭きているザフィーラの尻尾を見つめながら、何か芸でも仕込もうかと思案します。

「まあ、それはエエとして」
「何でしょうか、主」
「結構なのはちゃんと仲がエエんやね。あんま接点ないと思ってたんやけど。何かあったん?」
「いいえ、特には。ヴィータの扱い方をレクチャーしたぐらいです」
「ふ、ふふふ……クレチャーかぁ。そりゃ教えたらないかんねぇ、義姉としては」
「是非そうなさってください。高町も楽しみにしているそうです」

 先に上がり主を待つザフィーラ。
突っ掛けを乱雑に脱ぎ捨て、さっさとリビングへ引っ込んでいくはやて。
ザフィーラは黙って突っ掛けを揃えると、ほんの少しご機嫌斜めな主の下へ向かうのでした。


 


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