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新婚なの! 9-4 (1)

 
「はぁ~あ。ヴィータを堪能したわぁ。うんうん」
「はぁはぁはぁ……もう少しで死ぬかと思った。ゲホゲホ」

 はやてとしてはまだ放す気はなかったのですが、ヴィータの身体がぷかぷかと浮いてしまっては仕方ありません。
「アタシが騎士じゃなかったら今頃死んでたぜ」とはヴィータ談。
例え騎士であろうと普通は死んでたろう、なんて呑気なことを考えていたはやてでしたが、元気に振舞うヴィータを見ては黙っていました。
そんなヴィータを抱えて胸枕させるはやて。
管理局に入って鍛えたために、いくらかぽちょぽちょ分がなくなってしまったお腹に手を当て、その感触を楽しみます。
久しぶりの抱っこなので、ヴィータも大人しくしていますが、なのはもやりたがるこの体勢には何か秘密があるのだろうか、と問答を繰り返します。
二人は湯船に浸かりながら、それぞれそのときを楽しんでいると、すりガラスに誰かの影が映りこみました。

「はやてちゃーん、ヴィータちゃん。ここにお着替え置いておきますねぇ」
「うーん。ありがとなー、シャマル~」
「ほーい。分かったー」
「それじゃごゆっくりどうぞ~」

 何かを降ろすと、段々と影が小さくなっていきます。
戸を閉め気配が遠のいていくと、また浴室は静かな風景を取り戻しました。
何も音のしない、立ち込める湯気に明かりが反射して、ボンヤリとフォーカスが掛かったようになる浴室。
シャマルとのやり取りになんだか昔に戻ったみたいだ、とヴィータは感慨深げに思い、はやても思いを同じくするところでした。
ただ、ヴィータは肩甲骨に感じる、まろやかな膨らみに、改めてはやてが元気に大きくなったのを実感し、安堵するのです。
自分達と、なのはにフェイト。その他大勢の助力。
それらが集まった結果。自分たち、ヴォルケンリッターとしての存在。その最大の肯定が今のはやてなのですから。

「うーん? どうした、ヴィータ」
「なにがぁ? アタシは別になんもないよ」
「そうか? なんや楽しそうな感じしたからな。嬉しいことでも思い出したりしたんかと思って」
「う~ん……思い出すってわけじゃないけど――良いことはあったかな」
「なんやの。この状況でエエこと言うたら……ヴィータもついにおっぱい教に目覚めたっちゅうことか!?」
「ブハッ! は、はやてぇ! そういうの大きな声で言うもんじゃないって」
「あはははは。今はヴィータと二人っきりやろ? 全然問題あらへん。ほ~、ヴィータもついにおっぱいの良さが分かる歳に」
「だから違うって! それに、そうやって油断してると普段で出ちゃうんだぞ、はやて」
「なになに? えらく実感の篭った言い方やね? なんかあったんか? それとも――」
「べ、別に! 別になんでもないったら! ただの、その……一般論だよ、そう。一般的な意見」
「ふふーん、なるほどねぇ。まあ、安心おし。私の猫かぶりは三国一よ。ヴィータの心配には及ばんて。若干数名バレてそうな人はおるけどね」
「若干数名って……それじゃ駄目じゃんかはやて。分かってるんだったら止めないと」

 大人しくしている分には静かな水面に、プカプカと浮かぶ胸。
それの感触が背中から伝わり、それ自体がヴィータに何とも言えない安心感を覚えさせていたのは確かです。
しかも、はやての言うことに心当たりがないわけではありません。
それでも、ヴィータとしてはその「おっぱい教」なる胡散臭い宗教への入信を認めるわけにはいきません。
いくら主であり、姉であるはやての言うことであっても、です。

「まあまあ。そういう事できる人が近しい人以外にも出来たいうことを喜んだってよ」
「う、う~ん……数名ってのが引っかかるけどさ。はやてがそう言うんだったら……認めるのも吝かじゃない。でもさ、やっぱ」
「その人は男の人やったり、歳も結構離れたりしてるから、おっぱいの話したりせぇへん。安心したって」
「あ、当ったり前だ! しかもそんな相手なんてもっての他だって、はやて!」
「お、おお~。それは男というところか歳が離れてるいうのかどっちが問題ない?」
「どっちも!」
「え、えぇ~。おっぱいは好きやし女の子自体も好きやけど、そういう意味で好きなのとはちょい違うし、男の人がダメや言われると……」
「ダメダメダメ! まだはやてには早いって! ホント、まだ!」
「そ、そないなこと言うて行き遅れになったら嫌やん。それに」
「それに何さ」
「まあフェイトちゃんはまだやろうけど、同い歳のなのはちゃんは結婚してるし。なぁ?」
「うぅ……!」

 はやての腕の中でなにやら暴れるヴィータでしたが、その一言であっという間に劣勢に追い込まれてしまいます。
背中に胸が歪むほど押し付けられ、横から覗き込むその顔は、笑ってはいますが、コレは警戒しなければならない表情です。
しかし、その顔を見たときは既に相手の術中に嵌っていることが大半。
ヴィータは、ただただ、嵐が過ぎるのを俯いて耐えるしかないのでした。

「んっふふー。しかもそのお相手が自分の家族やなんて……ああ、夢にも思わなんだわぁ」
「……むー」
「なのはちゃんはまだ十七やっけ? 日本でも結婚できる歳やから問題はないんやろうけど」
「ま、まあ。うん」
「そか。よう考えたら、私等と桃子さん。家族って事になるんやね。いやぁ、まさか去年まではそないな事になるやなんて……ふーむ」
「ア、アタシだってそうだよ」
「年月というのは人を変えるね。もちろん、良い意味でやよ? 第一印象はお互い悪かったはずやのに。
 ホント、後でフェイトちゃんとなのはちゃんから初顔合わせの話聞いて胃の辺りがキューってなってご飯も一食抜きそうになったもんや」
「あ、あれは何ていうか……なのはが悪いんだ、もん」
「ふふふ。ヴィータがどんなけ大切に思うてくれてるか。嬉しかったよ? ホント言えば」
「……はやて」
「そんな二人が結婚かぁ。九年前の二人に聞かせたったらどんな顔するやろ? 信用せぇへんやろな。私も初めはビックリしたもん」
「そうだよ。菓子折り一つでアタシを売っちまうんだから」
「あ、あははは。アレは冗談いうかね。私なりに理由が必要やったんよ。ヴィータをお嫁にやるために」
「理由……?」
「ヴィータがな? 話を聞きに来た時は"好きあった相手と結婚するんやから~"なんて言うたけど、ホントはちょっと面白くなかった。
 なんやヴィータが盗られてしまうみたいで。ちょっとだけ。ホンのちょっとだけヴィータが嫌がったりせぇへんか期待してたんが本音や」
「…………」
「だから、言うのは卑怯やって分かってるけど、ちょいと二人に意地悪になってまった。
 特に。なのはちゃんがな? 想像以上にヴィータにデレデレしてたんやもん。そんで、それを嫌がらんヴィータ、な?」
「……そんなの。そんなの気にすることないのに」
「なんで?」
「だってさ。はやて言ってたじゃん。なのはと結婚しても、アタシははやての子だって。この家の子だってさ」
「…………」
「これからもっと忙しくなるし、はやてと会う時間を作るのも難しくなるけどさ。それでも」
「うん?」

 はやての尋ねるような頷きに、ヴィータは答えません。
グッと深呼吸。浴室に満ちた空気を咽そうになりながら胸いっぱいに溜めこみ、ゆっくりと全てを吐き出すように。
そして、頭の後ろで待つはやてに、はっきりと告げました。

「――この家の子だってのが変わらない限り。いつでも帰ってこられるもん。その内さ……なのはに愛想尽かすかもしんないし」
「……あは。あははははは。そうか、そうやな。自分で言うてたことやのにすっかり忘れてたわ」
「そうだよ、はやて」
「うん。うん。そっか。ヴィータが結婚したこと、結構ショックやったんやなぁ。なのはちゃんに盗られたって、本気やったんや……」
「は……はやて?」
「なんやろ。シグナムもシャマルも、ザフィーラも。今も一緒に居てくれてるいうのに……あかんなぁ、私」
「はやて――」
「フフフ。せやけど、ヴィータはエエ子やから愛想尽かさへんのやろうなぁ」
「か、買いかぶり過ぎだって、はやて……」

 はやては顔を下げてしまい、ヴィータからその表情を伺えないようにしてしまいます。
その口調。鼻声が混じっているような調子に心配になりますが、敢えて顔を見せないようにしている事を気遣い、黙って身体を預けるだけ。
それに応えるように、すっぽりと収まったヴィータを更に力を込めて抱きしめるはやてでした。


 


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