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新婚なの! 10-1 (1)

 
 いくつか転送ポートを経由して、日本に到着。
最後のポートまでは渋滞もなく順調でしたが、最後で引っかかってしまいました。
転送先の安全確認――この場合は誰かに見られてはいけない、という"安全"――に手間取ったのが原因です。
モニターで様子を伺い、最低、周囲100mばかりに人気の無いことを確認。それからの転送となりました。
場所は人気のない、臨海公園の雑木林の中。
真っ白な光の中、目を開けるとまた辺りは靄が漂い、まだ転送中のような意識のはっきりしないような印象を抱かせます。
辺りを伺っていると、途端に飛び出るくしゃみ。
こちらもそろそろ冬の足音が間近に聞こえる時期、それなりの格好をしてきたつもりでしたが、少し肌寒かったようです。

「うぃ~、ちょっと寒ぃな」
「私も。だったらもうちょっとこっち来てー」
「むぐぐ。ったく、しょうがないヤツだな」
「んも~、素直じゃないだから、ヴィータちゃんは」

 お互い寒いのですから、くっつくのは道理に適っているとは言え、あくまでなのはがそうしたいという態度を崩さない。
なのはもなのはで、そういうヴィータが好きなのですから、別に構いはしません。
それでも、素直にしてくれれば文句はないのですけど、これからだよー、とばかりに余裕の構えです。

「ふぃー。それにしてもひっさしぶりだな……って。なのは、どうかしたか?」
「う、ん? どうかしたの、ヴィータちゃん」
「そりゃこっちのセリフだ。どうかしたのかって聞いてんの。何だかボーっとしてさ」
「そんなつもりはなかったんだけど。ああ、もう良いじゃない。ほらほら」
「こ、こら! 質問に答えろ! なのは!」
「はいはい。まだ朝早いんだから声が響きますよ~」

 荷物で両手の塞がったヴィータは、両手で背中を押されて雑木林の中を進んでいくのでした。
雑木林を抜け、朝日を照り返すキラキラと眩しい海を臨み、潮の香りを懐かしみながら臨海公園を歩く二人。
陽の光が降り注いでいますが、それでも海からの風が頬や髪を撫ぜ、その熱を奪っていってしまいます。
一層身体を寄せ合う二人。
空と海からの光が眩しく、ぽつりぽつりと見える人影は黒くなり、それは相手からも自分達がそう見えていることを現しています。
それならばくっ付いていても気にすることはなく、なのはもそれを踏んで黙ってそのまま。
幾らか歩き、そろそろ臨海公園を抜けようかとする頃。
いささか遅い疑問ではありましたが、聞かないわけにもいかず、なのはに尋ねるのでした。

「なあ、やっぱこの時間は早かったんじゃないのか?」
「どうして?」
「これからお店の準備するんだろ? そんな忙しい時に帰ってきたら迷惑だろ。あ、そういやお前――」
「ちゃんと連絡してあるよ。だから午後からお店を手伝うことになってるんだ。宜しくね、ヴィータちゃん」
「ああ、それならべつ……っておい。アタシも手伝いこと決定なのかよ」
「そりゃ私のお嫁さんなんだもん。管理局を辞めたりした時に役に立つよ、きっと」
「や、辞めたらってお前……だったら精々開店資金を貯めるんだな。自分で」

 なのはの勝手な将来設計にヴィータはぶっきら棒に答えますが、最後の一言には力を込めて。
案の定「え~!」と不満の声を上げるなのは。
朝だから声が響くと言ったのはどこのどいつだ、などと言ってもその耳には届いていません。
釈迦に説法、とは重々承知していますが、店の経営など大変でとてもじゃないが思いつきで出来る物じゃないと文句を言います。
そんな心配などどこ吹く風、とでも言いたげに、なのはは自分をぐいぐいと押しながら、二人で経営する喫茶翠屋ミッドチルダ店に想いを馳せています。
いい加減にしろ、と身体を捻って肩越しに覗きますが、当人の幸せそうな顔を見て、暫く放っておくことにするのでした。
せめてもの抵抗として、一つ盛大に溜息を吐いて。

「ふぅん。この辺りは人通りが多いな」
「そだね。全然変わってないように思えるよ。こうやって学校に行ってたなぁって」

 臨海公園を抜け、大通りを渡り街中に入っていきます。
この辺りになれば人通りも多く、スーツ姿のサラリーマンに制服を着た学生。そろそろ背負う鞄の姿も様なってきた小学生。
忙しそうに行きかう人々を横目に歩くヴィータとは別に、なのはは懐かしそうに眺めていました。
見上げる顔に、ふと思い出す。
数年前はこの中に混じって、なのは達も毎日のように学校に通っていたんだと言うこと。
そうして考えるのは、管理局に入ることなく、また、自分たちの姿が時と共に変わっていくのであれば、普通の高校生としてこの中に居たのだろうか、と。
もしや、その往来の中に顔見知りが居たりするのではないだろうか。
だとして相手がこちらを見つければ面倒だ――と、口には出せず胸の内に収める。
なのはとしても、久しぶりに友人と会うなどして、それを「面倒だ」などといって片付けられては悲しむに違いない。
ヴィータはなるべく早くにこの場を離れることにしました。

「おい、行くぞ。桃子さんたちが待ってるんだからな」
「……そだね。朝は忙しいから」

 これなら傷つけずにすんだろうか。
一応。その時の用意はしてあり、言い訳を考えてないわけではない。
事前に二人で口裏あわせを行っていたのだ。
だからと言って……
ヴィータがなのはの横顔を見つめたまま、あれこれ考えていましたが。

「考えてた言い訳、使わなくて済みそうだね。せっかく考えてもらったのに。ホント言うとちょっと面倒かな~って。えへへ」
「……まったく。そんな言うなら今度からアタシは手を貸さないぞ」
「え~、そんな意地悪言わないでよ~」

 荷物を持った手の、負担を減らしてくれるかのように手首を持ち上げてくれる。
なのはとしては気を使ってくれたのだろうか。
引っ張るように前を歩くその顔を見ることは出来なくて、判断がつかない。
けれど。この握る手から伝わる温かさ。
肌寒さのせいか、それとも――
ヴィータは、なるべく良い方向へ考えたとしても悪くは無いだろうと、そのまま黙ってついていくのでした。

 

 

「ねぇ、ヴィータちゃん。一つ聞いて良いかな」
「今更一つ位で伺ったりすんなよ。で、なんだ。こんなとこまで来て」
「あのね。私の家から先でよかったの? なんならヴィータちゃんの用を先に済ませても……」
「あ、あのなぁ。それならこっちに来る前に言えよ」

 二人はどのくらい久しぶりになるか正確に言えないほど久しぶりに、高町家の前に立っています。
表通りから入った住宅街の中でも、辺りは朝の通勤通学で足早に道を行き交う人たちの気配を多く感じます。
きっと家の中でも朝の準備に追われている人たちが、バタバタと家の中を歩き回っていることでしょう。
そんな中。
ヴィータはなのはの的外れな気遣いに思い切り顔を崩すのでした。
その時初めて気付いたのか、なのはは取り繕うように乾いた笑いをするのが精一杯。
気が利いてるのか利いてないのか。
気に掛けてくれるのは嬉しいけれど、出来ればもう少し早く言うか、普段の我侭を減らしてくれ――
ヴィータは今日二度目の溜息を吐く羽目に合うのでした。

「アタシの用事は明日で充分だ。それも帰る前でさ。だから今日は一日こっちでゆっくりしろよ」
「い、いいの? 私は別にどっちでも……」
「ダメだ。結婚の報告もしてねーし、大体前に里帰りしたの何時だよ? ちゃんと思い出せるのか? 出来ないだろ」
「え、え~っと…………あはは。その通りです」
「それみろ。だから今日は一日親孝行しろ。そんで一番最初に報告だ、いいな?」
「はーい。分かりました」
「ったく。しょうのないヤツだな。ほれ、インターホン押せよ。アタシは両手が塞がってるんだから」

 荷物をぶら下げた両手を、さも重そうに振舞えば、無言で頷くなのは。
そんなことしなくとも自分の家なのですから、押すのは当たり前だとしても、久しぶりの実家。
柄にもなく緊張の面持ちであったのを察して、背中を押してあげるのです。
一つ息を吐き、ゆっくりと手を伸ばします。
普段との様子の違いに、思わず可笑しくて笑ってしまいそうになるのを抑え、なのはの指先をジッと待ちました。
何度も深呼吸しながら伸ばした手は、ついにインターホンを捉え、ゆっくりと押し込まれると、ピンポーン、と懐かしい音が聞こえます。
ピンポーン。
二度目の知らせが静かに響きます。
ミッドチルダでは聞くことのなくなった、その懐かしい音を感慨深く思う間もなく、玄関向こうの様子に耳を澄ませます。
しかし、二人の耳に届くのは、相変わらずどこか遠くを行きかう人々の気配だけで、高町家の中からは一向に聞こえてきません。
顔を見合わせる二人。

「……おい。まさかとは思うが」
「それはないと思うな。だって、そんなに早くは出かけてなかったもん」
「コレに関しては信用するけどな。今日は偶々早くに出たって可能性は?」
「う~ん、私が帰ってくるって伝えてるんだからそれはないと思いたいなぁ」
「だとすると――」

 特に次の言葉が思い浮かんだわけではありません。
けれど、なにかあったのでは?と考え始めたところで、ドタドタと太鼓を叩き鳴らすような足音が聞こえてきました。

「なのはっ!?」

 玄関が勢いよく開け放たれ、その場で押し合いへし合いお互いが引っかかっている三人。
見事にバランスが取れているのか、ひっかかったまま身動きが取れなくなっています。
思わず噴出す二人。
何だ何だと、お互いがお互いに譲るように言い合っていた三人も一瞬にして静まり、釣られて笑い出しました。
静かな朝。
図ったように、近くで雀などの鳴き声が、遠くの喧騒の合間を縫うように聞こえ。
感じた肌寒さも少しずつ温まっていき、澄んだ青空に上り行くお天道様の下、暫く家族の笑い声が響くのでした。


 


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