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2008年5月31日 (土)

素直じゃないね

 
 ありがちなお話。
 
「ヴィータちゃん、お待たせ~」
「お待たせ~、じゃねーよ。どんだけ遅れたと思ってんだ」
「ごめんごめん。ちょっと急用が入っちゃって」
「常套句だな。次からは道中でまともな言い訳考えとけよ」
「んもー。そんなにむくれないの~。せっかくの可愛い顔が台無しなの」
「ケッ。台無しにしてんのは何処のどいつだってんだ」
「ごめんったら。あ、ほら。ほっぺも冷たくなってるよ」
「うひゃ!? だ、大体! 冷たくなったのは誰のせいだと思ってんだよ!」
「じゃあお詫びに温かくしてあげるね~」
「んぎゅ。……お前なぁ、ホントに反省してんのか? ただ抱きつきたいだけだろ。うん?」
「ああ。ヴィータちゃん、冷たいなぁ」
「ああ。こんな寒空の下でお前を待ってたからな」
「うう……そういう意味じゃなくて~」
「なんのために携帯持たせてんだ。ちゃんと連絡してこい」
「……は~い」

 
「あ、そうそう。この間ね、テレビで言ってたんだけど」
「またテレビの話か。お前はそれ以外に喋ることないのか?」
「いいの。それでね、手が冷たい人は心が温かいんだってー。そう言ってたの」
「なんだそりゃ。なんの根拠もないんだろ、どうせ」
「うん。でね? ヴィータちゃんの手は……冷たいね」
「――! あ、アホ。そりゃこんなとこで立ってたからだろ。関係ねーよ」
「そうかな。私はヴィータちゃんに限っては当たってるんじゃないかな~って」
「だ、だから……もう良い。勝手にしろ」
「そうするね。あ~、ヴィータちゃんの手は冷たいなぁ。あ、ねぇねぇ。じゃあ、私はどうかな?」
「お前か? そりゃ……温かいだろ」
「えー。この前振りでその答えなの~?」
「うっせーよ。そうでなきゃ、アタシの手を温められないだろ。アタシの手は……冷たいんだからさ」
「……うん。そうだね」
「……あー、温けーなー。お前の手は温けーなー」
「じゃあ、これから寒い日はずっと私が温めてあげるね。ヴィータちゃん」
 

 
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2008年5月29日 (木)

新婚なの! 10-7

 
「うぅ~ん。今日もお疲れ様だね~」

 ソファーにどっかり腰を下ろし、ぐぅーっと伸びをして体を解す美由希。
続いてなのはにヴィータ、そして家まで一人で帰ってこられたのが不思議な士郎が腰を下ろします。
荷物を片付けた桃子も遅れてリビングへやってきました。
普段は士郎の仕事ですが、今日ばかりはその可哀想な様子に気が引けるというものです。

「全く。お父さんはだらしがないわね。せっかくなのはが帰ってきたって言うのに。ねぇ?」
「そうそう。そりゃ結婚っていうのはビックリだけどさ、もうちょっと喜んであげても良いんじゃないかなー」
「そーだよ。こ~んなに可愛い娘が出来たって言うのに~。ほらほら」
「う、うわわ! あんだよ! 急に押すなって!」

 隣に座ったヴィータを、ぐいぐい士郎の方へ押しやるなのは。
器用にソファーの上を横滑りさせると、あっという間に士郎の横へピタリと寄せてしまいます。
がっくりと項垂れた士郎は、ちらりと視線をやり「やぁ、ヴィータちゃん」と搾り出すような声。
お店にいる間は何とか元気を装っていましたが、家に着いた途端。糸が切れた人形のようになり、この有様です。
この無残な様子にヴィータも何かしたいところですが、如何せん人を慰めたり元気付けたりするのは苦手です。
じぃっと見つめるばかりで、その口からは気の効いた言葉は出てきませんでした。

「あ、あの……元気出してください、です」
「大丈夫よ。ヴィータちゃんが悪いわけじゃないんだから。放っておいてご飯にしましょ」
「まあまあ、母さんもそう言わないで。ほら、父さん。こっち見てみなさいって」
「――……ん?」

 美由希は立ち上がりヴィータを抱き上げると、士郎の前に立たせ、万歳のポーズをさせます。
何のことか分からないヴィータと士郎。
戸惑う二人の間を覗き込むようにすると、こう、切り出したのでした。

「こ~んなに可愛い娘がもうひとり出来たって言うのに、何が不満なの?」
「―――ん?」
「む、娘ぇ? ア、アタシが……ですか?」
「そう! ほらほらよく見てよ。こんなに可愛いんだよ? 父さん、可愛い娘が三人に増えて幸せものよね~」
「――う、うん?」

 持った手を旗信号をするように動かし、その可愛さをアピール。
ガックリと項垂れていた士郎でしたが、その動きと"娘"という言葉に、僅かに反応を示します。
脈アリ、と判断した美由希は、そのまま畳み掛けるように続けます。

「しかもヴィータちゃんがお嫁に来たっていうのが重要なんじゃないの! なのははお嫁に行かないんだよ? 分かる?」
「――あ、ああ! なるほど! そうか! なのははお嫁にいかないんだよな!」
「やっと気付いたの? ほらほら、この可愛いお嫁さんに我が家へようこそって言ってあげなきゃ?」
「そうだったそうだった! ヴィータちゃん、なのはとの結婚おめでとう!」
「あ、ああ。はい、どうも、です」

 見る間に元気を取り戻した士郎。
今日初めて見る満面の笑顔で、肩を優しく叩いては愛娘との結婚相手を祝福します。
 元気になってくれたのは良いものの、ヴィータはどう返せばいいのか分からないまま、社交辞令的な返事をせざるを得ません。
男親にとって娘が嫁に行くときに一悶着ある、というのはフィクションの中の出来事であって、まさか本当だろうとは夢にも思わなかったからです。
しかし、今や別人のように――これが普段の姿なのですか――明るく振舞う姿に、あれは本当だったんだ、と思うのでした。

「もう。心配して損しちゃったわ。さ、早くご飯にしちゃいましょ」
「は~い。ヴィータちゃんもほらほら。何時までもこんなダメお父さんに構ってなくていいから」
「いや、待ってくれって。ああ、母さん。悪かったよ、本当に」

 少し大げさに振舞って、自分が怒っているのだとアピールする桃子の後ろを、慌てて追いかける士郎。
 今のこの人を見て、誰が、昔はボディーガードを生業としていたなんて思うでしょう。
そんな父の情けないやらな後ろ姿を見て、この分なら自分達は手伝わなくて良さそうだと、美由希はヴィータの腕を持ったまま、ほくそ笑むのでした。

「え、ええっと。手伝いにいかなくて良いんですか?」
「うん。良いの良いの。あの分なら今日は父さんがなーんでもやってくれるから。ね、なのは?」
「そだね。ああなると今日は一日頭が上がらないモンね」
「ふ、ふーん。そう言うモンなのか……男親ってのは大変なんだな」
「全部が全部、そう言うわけじゃないと思うけど。まあ、ああいう父親もいるってことだわね。さぁて。私たちはノンビリ待ちましょっか」
「はーい。ところでお姉ちゃん。いい加減ヴィータちゃんを返してくれないかなー?」

 あははっと軽く笑いながらヴィータを渡す美由希は、妹の腕の中にすっぽりと納まる様子を興味深げに見つめています。
抱きつくな、と嫌々するヴィータ。
それに全く構うことのない妹。
その妹は、むしろ嫌がられるのが嬉しいかのように腕に込める力を増しているのです。
その内、腕を取ってグルグルと回り始め、勢いにのって抱き上げるとそのままソファーへ一直線。
膝の上にヴィータを抱くその姿に、かなりの年季を見て取るのでした。

「ねぇ、なのは。いつもそうやってヴィータちゃんといちゃいちゃしてるの?」
「そーだよ。こうしてね、膝の上に乗せて頭を撫でたり三つ編みを触ったりすると一日の疲れが飛んでっちゃうんだ~」
「お、お前は良いかもしんねーけどよぉ。うぇ~」
「良いなぁ。私も何か、こう、抱き心地の良いもの欲しい~」
「ダメだよ! ヴィータちゃんは私のモノなんだから! いくらお姉ちゃんでもそこは譲れないよ!」
「なに言ってんのよ。流石に人の嫁を盗るような真似はしないから落ち着きなって」
「……ア、アタシはお前のモノなんかじゃねーぞぉ」

 膝の上でグッタリしながらも意思表示は欠かしません。
しかし、当人達はその言葉に耳を貸すことなく話を続けています。
抱いたまま、さもそれが当たり前のようにしているなのはに、その抱き心地はどうなのだと聞く美由希。
文句の一つでも言いたいのは山々ですが、久しぶりの姉との、友人と接するのとはまた違う、楽しげな様子に口を挟むなんて野暮なことはしません。
仕方なく、嫌だという意思を込めた視線だけに留め、黙って膝に抱えられていることにするのでした。

「さーて。いい加減仲直りしたろうし、私も手伝ってこうよかしらね」
「だったら私も。ヴィータちゃん、降りてくれるかな」
「くれるかなってな。お前が乗せたんだろうが。へん、言われなくたって降りてやらぁ」
「ああ、良いよ良いよ。四人もいたんじゃ台所も狭いしね。新婚さんはここでゆっくり待ってちょうだいな」

 冗談めかすように二人をソファーへ座っているよ促して、手を振りながらリビングを出て行きます。
 一旦はヴィータを持ち上げたなのはでしたが、疲れもあって、素直に姉の好意に甘えることにして、お嫁さんを抱きなおします。
 抱かれ直されたヴィータは、美由希の姿が見えなくなったのを確認して、自分を拘束する腕を軽く抓りました。

「ったーい。なにするの~」
「もう良いだろ? いつまでも調子乗ってんじゃねーよ」
「えー。何にも言わなかったからそのままにして……えへへ、嘘嘘。ありがとう、ヴィータちゃ~ん」
「だ、だからそうやって事あるごとに抱きつくなって言ってるだろ~」
「はいは~い」

 そうは言いながらも、距離を取るでもないお嫁さんに再び手を伸ばします。
口では文句を言いつつ、最近はそれだけになっていることに自覚のないヴィータに甘える、なのはなのでした。

 

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2008年5月27日 (火)

二人の放課後

 
 王子様にきゅん(はぁと、となったのは「大好きなヒカルちゃんが男の子だったらこんなだったのかしら」という妄想具現化だから。
それでヒカルが男子用の制服を着れば、まさに「大好きなヒカルちゃんが王子様になっちゃった、きゅん(はぁと」なわけ。


 ああ、凄い、こんな乙女ちっくな展開だったなんて……
もっとヒカルを可愛く女の子らしい、乙女できゅんきゅんなのにすれば良かった……

 

 そんな読んでるこっちがテンション上がっちゃうような日記は、ヒカルです。


約束通り、家に入る前に庭のあずまやで待ち合わせて
こっそり着替えられたし、
ちゃんと時間差で帰ったから――


 ちょっと、どんだけ豪邸なのよトゥルーハウスは。
でもそれよりも、これは気になるわよ? だって、まるで逢引みたいじゃない。
先に東屋で待ってた彼に「ちょっと楽しくて。待たせちゃったか?」とかホント初々しい恋人みたいに待ち合わせしちゃって!
この「ちゃんと時間差で帰ったから」なんて、きっと「オマエが先に帰れよ。いつも私が遅いんだから」とか何とか。
お互い全くそ知らぬ顔をするよう気をつけて、ヒカルなんてドキドキと逸る気持ちを抑えて「もうアイツ。家に着いてゆっくりしてる頃かな?」なんて想像しながら。
家に入って一番に顔を会わせたときなんて不自然にならないように気をつけるんだけど、かえってそれが不自然になっちゃったりして!
気にしてたホタや春風さんにはバレなかったみたいだけど、はてさて。
若しかしたら気付いてるかもしれませんよ?
なにせ、あの春風さんですから。王子様はもちろん、ヒカルの些細な変化にもピンと来ているかも。
もう、これ以上引っ張らないとは思うけど……気になるわ。


へへ―― (はぁと

なんか、けっこう――さ。

――かわいかったよ?

――うん(はぁと

 これは女子用の、いいえ、これはヒカルの制服に身を包んだ彼の外見を指してるんだろうけど。
若しかしたら、慌てふためいてる様子や、モジモジと照れる様子を指してるのかも。
それはそれで、同年代の、しかも同い年の女の子から「かわいかったよ?」なんて!
態度や様子がそうだった、という方が良いかも知れないけど、やっぱり私は外見のことだと思いたい。
女子用の制服を着て可愛い男の子なんてロマン過ぎるもの。
ああ、やっぱりホタぐらいにはバレて、可愛いコスプレの餌食になってもらう展開でも良かったかも……


いざ、本番になったら――さ。
え、本当にココで――
2人っきりで――。
着替えしちゃうの――って――。

 危ない。
これ、ちょっと焦って読んでしまった時に、どこのえっちぃテキストかと勘違いしちゃったわ。
オホン。
 自分から誘っておいて、いざとなったらその行為のとんでもなさに気付いて、あたふたしちゃうなんて可愛いけれど。
そりゃ、いくら家族とは言え、年頃の男女が放課後の体育倉庫で待ち合わせなんて、ねぇ?
それこそ何かにありそうなシチュエーションじゃないのよ。
こうなると、5時限目辺りから「ああ、そろそろだなぁ」とか、その内どんどん気になっちゃって。
HRが終わって、体育倉庫に向かう足なんかは、地に着いてない感じだったのかも。
この「ウチで着替えるのと同じみたいに軽く考えてたから――」なんて考えてる辺り。
ホントに大したことないと思ってて、その重大性に気付いた時の落差というか、それに浮き足立っちゃうの。
ああ、ラブレターなんかでも出して、放課後に待ち合わせするような心境だったんじゃないかしら!
こういうシチュを天然で組んじゃう辺りに、ヒカルの魅力を増幅させてるのかも。


汗と日向の匂いのする体育倉庫。
中には私たちの他には誰もいないのに――
まわりには放課後の生徒たちの行き交う気配がいっぱいで――

 ホント、どこのえっちぃテキストか(ry
うん、まさにこれから告白でもしようかというとき。
日常の中に生まれた、ホンの僅かな非日常的なシチュエーション。
それが余計に事態の特異性を浮き彫りにしていて。
わけもなく意識を先鋭化させちゃって……

これ以上ないって言うくらい、
――2人きりの場所だった。

 ああん! これだからヒカルは! 乙女ポエムを書いちゃうような女の子なんだわ!
もう今まで感じてたことなんて、遥か遠くに聞こえるようで、ホントに世界は二人っきりになってしまって。
傾き行く陽が二人を照らしてるのね。
ああ、良いなぁ。こういうのってロマンだなって。
なんで昨日はこれを思いつかなかったのかしら……


こんな風に――同い年としてオマエの制服を着れるのは、
私だけなんだからって。

 明らかに、けれど無意識に、彼に対する意識が変わってる様に見える。
そりゃ第一インパクトで言えば春風さんの「王子様」発言が凄かったわけで。
霙姉さんは少し分かりづらくて、氷柱と麗はちょっと距離を置いているような感じだったけど。
他の姉妹は新しい家族に、初めての男の子に好意だけを向けていて。
そんな中。
少しだけ立ち位置が不安定だったヒカルが、明確に(意識的にでないにしろ)他姉妹と一線を画する言動をとった。
これって大きいわよね。
この家族は何においても「家族が一番!」と強い連帯意識を持ってるから、悪く働くことはないでしょうけど。
それでも、ヒカルのこの認識の変化ってのは大きいと思うわ。
若しかして、海晴姉さん辺りが気付いちゃうかもしれないけど……それはそれで楽しみよね。


それとも――

 ヒカルは以前から、こうして自分の意識に対して、少しだけ自問するかのように言うことがあるけど。
まだ結論が出ない、この感情の正体が分からないのか。
それとも、分かってはいるんだけど、それをハッキリと答えにしてしまうのが怖いのか。
繰り返して、その内答えを出しちゃうかもしれないけど、この想いは彼に伝わっているのかしらね。


制服――少しだけ。
オマエの匂いがしてた。

 家族なのだから、ボディーソープ(若しくは普通に石鹸)、入浴剤の類なんか、同じのを使ってるのでしょうし。
特別気にしている姉妹以外は同じ匂いなんじゃないかしら。
きっと、彼も他の気にしない姉妹たちを同じ匂いなんだろうと思うわ。
けれど、それをして「オマエの匂いがしてた」なんて。
あえて"それ"をそう認識した(したかったのか)のか、本当に"オマエの匂い"がしたのか。
それはヒカルにしか分からないけれど、こうやって相手にアピールしちゃう辺り、やっぱり、ねぇ?


だから――

もう少しだけ――

貸しておいて。

ね。

 洗わなくたって良いよ、なんて、きっと彼なら気を利かす意味で言っちゃうかもしれないけど。
しかも「貸しておいてね」じゃなくて、「貸しておいて。ね」と一呼吸置くところが。
念を押すように。
きっと、そこまで言わなくたって貸しておいてくれるのだろうけど。
ヒカル自身もその自信というか確信があっても、その幾らかの不安がそうさせちゃったのかな、と。
ここまで言われちゃ、貸しておかないわけにはいかないでしょう?


 久しぶりの霧賀先生のイラストですけど。
見た瞬間、男子用の制服に身を包んで、まるで王子様のようなヒカルに目を惹かれまして。
後で「きゅん(はぁと」となっているのが春風さんに違いないのですけど。
まあ、これがウィッグをつけた彼でも面白そうだなぁ、と思ったのでした。

 ところで。
この日記って、他の姉妹も読める状態ですよね?
さて、この一連の流れ。
知った春風さん、海晴姉さん、ホタが知ったら(誤魔化された観月も)どうするかしらね。

 

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2008年5月25日 (日)

そんなじゃないはずなのに。

 ベビプリSSです。

続きを読む "そんなじゃないはずなのに。"

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2008年5月24日 (土)

新婚なの! 10-6

 
「はーい。出来ましたよ~」
「わ~い。朝から何も食べてなかったんだもん、お腹空いちゃった」
「急だったもんね。そうだ、管理局でもそういうことってあったりするものなの? ご飯も食べる暇がないとか」
「どうかな。私のところは滅多に動かない、というか動けないんだけどね。ヴィータちゃんはどう?」
「そう、だな。あ、えっと。向こうには直ぐにお腹に入れられる携帯食料なんかの類も色々ありますから」
「ふぅん。ねえ、今度そう言うの、持って帰って来れない? 興味あるなぁ」
「ダメだよお姉ちゃん。管理外世界への持ち出しは厳禁なんだから」
「ほらほら、二人とも。ちゃっかり座ってないで手伝ったら? 少しはヴィータちゃんを見習いなさいな」

 すっかり休憩モードの二人に、料理を運んできた桃子が注意します。
は~い、と返事をする二人に対し、褒められた当の本人は恥かしげに顔を逸らしては、モジモジしています。
なるだけ平静を装いますが、胸のうちにジワジワと温かみが染み渡っていくのに、何ともいえない心地よさを感じていました。
そんなヴィータに遅れて手伝いを始めた二人。
あっという間に並べ終わった料理を前に、何とか生気を取り戻した士郎を加えて、遅めの昼食となりました。

「これ、ヴィータちゃんが作ってくれたのよ? 食べてみてちょうだい」
「あ、作ったって言っても、その」
「母さんもコレ作ったりするよね。へぇ、どれどれ……わぁ、これって」
「美味しいでしょ? お姉ちゃん」
「なによ。別になのはが作ったわけじゃないんだか、そんな偉そうなのはおかしいんじゃない?」
「で、で? 美味しかったでしょ? ヴィータちゃんの」

 早速一口放り込んだ美由希に、なのはは身を乗り出すようにして答えを迫ります。
こう急かされては味もヘッタクレもありませんが、それをしてヴィータが作ったとされる炒め物が美味しいことに変わりありません。
桃子の隣に座っているヴィータに向かって、親指をグッと立てては、美味しかったことをアピールします。
ヴィータは、その後ろに居るなのはの自慢げな笑顔に一言ありましたが、まずは褒められてことに対して礼を述べます。
続いて口に運んだのは士郎。
この中で一番長く桃子の料理を口にしている人物の評価を、ヴィータは固唾呑んで見守りました。
何とか元気を取り戻しただけの、未だに生気が3分の1ほど抜けている顔が段々と血色を取り戻していくではないですか。
喉仏がゴクリと上下し、一息ついたところでニッコリとヴィータに向き直ると、言葉にする代わりにもう一口と、箸を進めるのでした。

「それにしても驚きだなぁ。母さんっぽい味になってるよね。一体いつ習ったの?」
「えっと――」
「あのね! 私がレシピを聞いてヴィータちゃんに作ってもらってたの。それで何回もしてる内に近づいてきたって感じかな~」
「へぇー! そりゃ凄いじゃない! 確かはやてちゃんも料理が上手だって聞いてるから、それも関係あったりするのかな?」
「そーかもー。一人暮らしを始める前にはやてちゃんに習ってたんだもんね?」
「ま、まあな。あ、うん。はい、そうです」
「へぇ。ということはヴィータちゃんは家の味とはやてちゃんの所の二つの料理が作れるわけだ?」
「そ、そういうことになると思うデス」
「じゃあ今度から私も料理を教えてあげなくちゃね。せっかく家の子になったんですもの」
「は、はい! 宜しくお願いしますです!」

 士郎にも感心され、改めて料理を教えてくれると言った桃子に、ヴィータは少しばかり頬を赤らめて応えるのでした。

「ごちそうさまでした~」
「お粗末さまでした。ふぃ~、疲れた……」
「お粗末さまでした。ヴィータちゃんもお疲れ様ね。それにしても途中でお客様が一人も来なくて良かったわね」
「喜ぶべきなのかどうなのか。まあ、今日は特別ゆっくりしたかったし良かったかもね」
「さあて、後片付けは俺がやるよ。みんなは休んでてくれ」

 少し多めに並んだお皿も全て綺麗に片付き、食後の一服を促しながら士郎が皿を片手に立ち上がります。
お茶を飲んでいたヴィータは慌てて腰を上げようとしますが、隣の桃子に制止されてしまいます。
普段は自分がやっていること――稀になのはがやってはくれますが――をしないでいるというのは、何とも居心地が悪いものです。
それでも、「作ってくれたお礼だよ」などと言われてしまっては、逆に動くわけにはいきません。

「そうだよヴィータちゃん。せっかくお父さんが片付けてくれるんだからゆっくりすれば良いんだよ~」
「な! そ、そんなに言うならお前も普段から手伝――あ、あのぉ……手伝ってください、です」
「やっぱり? さっきから聞いてる限り、全然作ったって話、聞かないから」
「あらあら。もっと普段通りでいいのよ? 今のはなのはが悪いんだし」
「そ、そんなことないよ。私だってちゃんとしてるんだから。その…………たまに、だけど」
「こんな調子でよく一人暮らしなんて出来てたね? 若しかして毎日コンビニ弁当だったりしたんじゃないの?」
「はぁ……やっぱり一度様子を見に行った方が良かったかしら」
「良いったら、大丈夫! ね? ヴィータちゃん」
「あ、う、うん。まあ」
「ヴィータちゃんがそう言ってくれるなら良いのだけど……甘えてちゃ駄目よ?」

 桃子はヴィータが来てくれたことが嬉しいらしく、ことあるごとに頭を撫でます。
子供らしいのは外見だけで中身は自分より随分年下なのですが、それでヴィータの機嫌が悪くなることはありません。
寧ろ尊敬すら――はやての次に、ですが――している相手から褒められて、お尻がムズムズするように嬉しいぐらいです。
ただ、その人が隣にいては、いつも通りにするわけにもいかず、どうにも調子が出ません。
どうしたものか。
そうは思っていたところに、さっぱり頭が上がらない様子のなのは。
普段のいい加減さはすっかり形を潜め、大人しく反省しているようです。
"あの"なのはが、さっぱり頭の上がらない唯一の人物と言ってもいい人。
どことなく――惚れた弱みとまでは言わなくとも――なのはに敵わないヴィータにとって、桃子のステータスは更に上がっていくのでした。

「ちゃんと教えたんだから。ヴィータちゃんばかりに頼ってちゃダメよ?」
「そうそう。母さんの味が懐かしいならヴィータちゃんに作らせるんじゃなくて、自分で作らなきゃ」
「ハハハハ、可愛いお嫁さんの――あぁ、なのはが結婚してしまうなんて…………ガクッ」
「ちょっと父さん。自分で言って落ち込まないでよ。ああ、情けない――」

 何を言おうとしたのか大体想像はつきますが、倒れてしまいその続きはとても聞けそうにありません。
洗物の途中だと言うのに元の木阿弥と化している父を横目に、美由希は仕方なく腕まくりして続きに取り掛かるのでした。

「でも。ヴィータちゃんが家の料理を習ってるところなんて、ちょっと前までは想像できなかったわよね」
「そうそう。でね、ヴィータちゃんったら勉強熱心なんだから、どんどん覚えてくんだよー」
「まあ、その記憶力ってのは凄いと思うよ。あの調味料が足りないだの多いだの、指摘が的確だかんな」
「あら。私の教育もある程度間違ってなかったってことね。だけど、どうしてこんなに面倒臭がり屋になっちゃったのかしら……」
「お、おい! 桃子さんが落ち込んでるじゃねーか! お前がしっかりしないからだぞ!」
「お母さん、そんな落ち込まないで! えっとそれはね、何ていうか…………ヴィータちゃんが優しすぎるから! うん、そうなの!」
「はぁ? なんだそりゃ。そういう意味だよ!」
「あれよ、ヴィータちゃん。親切で何でもしてくれるから、私怠け者になっちゃったのーって言いたいのかもねー」
「えぇ~! なのは、それってアタシのせいだって言いたいのよ!」
「そ、そうは言ってないけど、何ていうか……うぅ~ん、ゴメンなさい」

 結局のところ、なのはは「ヴィータが何でもしてくれるから、物臭になってしまった」というのです。
ヴィータにとってこんな言い訳など到底受け入れられません。
これが家ならちゃぶ台の一つでもひっくり返してビンタでもくれてやっているところです。
しかし、翠屋で、高町家の面々の前でそのような暴挙に出るわけにもいきません。
まんまとなのはに陥れられたようで、ヴィータはギリギリと歯軋りをするばかりでした。

「もう。こんなことならヴィータちゃんだけ家の子になってもらっちゃおうかしら?」
「あ~、どうする、なのは? 母さん、思った以上にヴィータちゃんのこと気に入っちゃってるみたいだよ?」
「駄目だよ、お母さん! ヴィータちゃんは上げないんだからね!」
「ちょっと待て。アタシはお前の所有物じゃねーんだぞ! どうするかはアタシの勝手だ!」

 ツーンとそっぽを向いてしまいます。
拒絶の意思ならば、ヴィータは桃子を選んだと言うことです。
このままではいられません。
慌ててヴィータの元に駆け寄れば、隣の桃子からふんだくる様に抱き寄せるのです。

「あぁ~ん、ヴィータちゃ~ん! 私のこと見捨てないでぇ~!」
「ぐぅえ~! そ、そんな言うぐらいなら明日から心を入れ替えるんだな、なのは」
「は~い、精進します~」
「あら。私としてはちょっぴり残念かしらね」

 

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2008年5月23日 (金)

ほら、やっぱり

 
 昨日のこれで、今日は一体どうなるのか。
二日連続でヒカルになるのか、それともホタが来るのかはたまた……

 しかし。私の予想に反して今日の日記はこの子


おや?

そこな、おなごよ。

 あれ?
観月。そんな知らない人に声をかけちゃいけませんよ、とかそんなボケ要らない。
コレはどういうことかしら。
観月から見てもお兄ちゃんは完璧に「お姉ちゃん」に見えているご様子。
小さい頃は割りと人を見分けるのが不完全というか、そういう事が多い子も居るんじゃないかと思いますけど。
それでも男女を間違えるのに比べれば。
 しかし、このお兄ちゃん。
呼び止められて律儀に止まるだなんて。
普通はその場でダッシュして逃げちゃうモノじゃない?
幾らヒカルとの制服を交換しているとは言え、そんなの事情を説明したところで分かってもらえるとは……
でも、そうだと話しにならないし……うん、お兄ちゃんは良い子よね。

 この観月。
どうやら高校に通う姉たちを迎えに来た、みたいなことを言っているけれど。
ここはどこなのかしら。
確か高校は電車通学なのよね。
それを観月が電車に乗ってまで迎えに来たとは思えないし……
じゃあ、電車を降りて、駅からこっち、帰り道の途中?
公園で遊んで行きたい、と言っているし、そうなのかもしれない。
でもそうなると今度は、お兄ちゃん。
ヒカルの制服を着たまま電車に乗って帰ってきたことになるし……
どっちかしら?
私としては後者の方がロマンがあると思うのだけど。
女装して一人、電車で帰ってくるだなんて。それも、学校の終わる時間。
もっとも利用者数の多い時間帯の一つに。


わらわのたった1人の兄じゃが――
偶然一緒に帰ってくる――ような気がしての。

 この辺りがナチュラルに凄い子なんだけど。
その「たった一人の兄じゃ」が、目の前で俯いている可愛らしい女の子だって。
下から覗き込んだりしなかったのかしら。
スカートの裾を両手で必死に押さえながら、俯いて顔を見られないようにするお兄ちゃん可愛い!
それで観月に顔を上げよ、といわれても上げるわけにいかず、どうしようかと悩んでいるお兄ちゃん可愛い!


ふふふ――わらわは兄じゃと遊ぶのが好きなのじゃ!

 ああ、可愛い!
少しばかり大人びた、というか、尊大とまではいかないけれど、そういう喋り方をしちゃうからすっかり勘違いしちゃうけど。
こう歳相応な、その上「お兄ちゃん大好き!」なところを他人(だと思っている人)に言ってしまう辺り。
やっぱり子供よね、と思ってしまう。
こう、なんていうのかしら。
会ったばかりなんだけど、お兄ちゃんが大好きだということを言いたくて仕方なくて、それがお兄ちゃん自慢でもあって。
ここは偉ぶってみせて、自慢げに胸を張る様子が目に浮かぶよう。
それが本当に他人に対してなら「あら、可愛い妹さん」で済むけれど。
目の前で話を聞いているのは、紛れもなく本人の「大好きな兄じゃ」であって。
こうなってくると、別の意味で正体を明かせなくなるわよね。
今更「その兄じゃは僕だよ」とも言えず。
他にも観月は、大好きな兄じゃについて彼是褒めたのかもしれないけど。
嬉しいような、恥かしいような気持ちで、可愛い妹の素直な気持ちを聞いてたんじゃないかしら。


確かになにやら毛深い様子――

 こ、これは……!
気になる記述よね。
兄は妹から見ても分からないほどの女装が似合う子で。
だけど毛深い様子。
でも、様子と言っているだけで断言はしてないのだから、猫毛みたいに目立たないのかしら。
うぅ~ん。高校一年生ならまだそんなものかしら。
しかしそのまま「待て待て待て――!!」と追い掛け回される兄じゃの運命やいかに。
妹を一人置いていくわけにもいかず、結局一緒に帰る羽目に遭いそうですけど。

 
 さて。
ここで昨日、バレたら大変な、と名前の挙げられた海晴姉とホタですけど。
きっと着せ替え人形にされちゃうってことよね?
海晴姉は性的な意味で。
ホタは念願の看護婦さんごっこで!
これでホタと"一緒に看護婦さん"ごっこしちゃいたい!決定ね。
ヒカルと同級生ということで、多分双子だったりするんじゃないかしら?とか、それで二人は容姿が似てるかも?
これだけ美人揃いの姉妹(トゥルーママも美人)なんだから、彼も美人さんに決まってる。
しかも、冗談でなく女の子が似合う模様。
これは期待せざるを得ないわ。
もし、あのまま家に帰ってしまって、その姿を誰かに見られてしまう。
先日の立夏の騒ぎのときに一緒にいた子たちは「可愛いー!」で済むかもしれないけど。
氷柱はまだしも(フレディ事件のときのように頭を抱えて現実逃避するかも)、麗だったらそれはもう罵倒してくれるでしょうね。

 ああ、ヒカルは名前を挙げなかったけど春風さんならどうなるかしら。
「王子様には違いありません(はぁと――きゅん」となるか「これはこれで良いかも知れませんね(はぁと――きゅん」か……
これは二日あって、月曜日。
この話題を引き摺るのか、それとも全くスルーしてしまうのか。
どちらにしろ、次の更新が楽しみで仕方ないですね。

 

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2008年5月21日 (水)

新婚なの! 10-5

 
「ごめんなさいね、なのは。帰ってきたばかりだって言うのに」
「ううん。初めからそういう約束だったし、ちょっと早くなっちゃっただけ。ね、ヴィータちゃん」
「さっきまで文句言ってたのは誰だよ……あ、桃子さん。手伝いに来ましたです」
「ヴィータちゃんだけでもゆっくりして貰えば良かったんだけど……お願いできるかしら?」
「はい。お邪魔にならないよう、頑張ります」
「もう、他人行儀なんだから。これからはもう少し肩の力を抜いて、ね?」

 桃子から連絡を受け、急いで翠屋に駆けつけた二人。
とにかく急いで!というなのはに、ヴィータは疑問を口にする間もなく引っ張り出されてしまってのです。
行きがてらその内容を尋ねると、なのはは簡潔に説明してくれました。
驚きの表情を隠しきれないヴィータ。
その内容とは、真っ白になってしまった士郎が、全くの戦力にならず、急遽応援に来て欲しいということなのです。
今までの士郎のイメージとは、優しくて格好いいお父さん、といったところ。
元々、八神家には大人の男性が近くに居らず――いたとしても老人会のお爺ちゃんです――、「父親」と言うものが分かりません。
管理局に勤めるようになってから、そういう事態とは少しばかり縁遠くなりましたが、それでもです。
ヴィータにとって「父親=高町士郎」というイメージであり、士郎のイメージが父親そのものだったのです。
その人が"何故か知らないけれど"、落ち込んで身動きを取れないと言います。
それがどれほどの事態なのか。
なにやら重大な事件が起きているのではないか、と走るなのはの後を追いかけてココでまで来たのです。

「そうそう。これも将来のための予行演習なんだから」
「ま、まだその話ししてんのか?」
「だって。そうはいうけどこの経験はいつかきっとヴィータちゃんの財産になると思うんだ」
「……アタシ個人の財産なら歓迎だけどな」
「え~。そこは私たち、じゃないの~?」
「ほらほら、なのは。早く美由希の手伝いに行ってちょうだいな」

 桃子に肩を押され、渋々その場を離れていきます。
ヴィータはホッとするものの、なのはは意外に真剣に考えてるのではないか?と思い直すのでした。
なのはも自分も、当分この仕事を辞めるつもりはありませんが、"そういう"事も頭の片隅に止めておくぐらいは良いんじゃないか、と思うのでした。
 出迎えた美由希にエプロンを手渡され、慣れた手つきで身につけるなのは。暫く離れていたといっても見事なもの。
視界の端でその様子を捕らえては、流石に様になってるなぁ、と本人を前にしては決して口にしないだろう事を呟きます。

「あら、どうしたの? 難しい顔しちゃって」
「え、え? そんな顔……してましたか?」

 そこにはエプロンを持った桃子が立っていました。
エプロンを持っていると言うことは、美由希から預かったのでしょうに、全くその事に気付きませんでした。
ニコニコとするその様子に、今の迂闊さが見透かされたような気がして、慌ててエプロンを受け取ります。
それがまた桃子に"なにかあったかしら?"と思わせることになるのも気付かずに。
いそいそと準備をする手元は覚束ず、なのはとの違いが浮き彫りになってしまったような気がしました。
それでも、家事をするようになってからエプロンは必需品。
その出で立ちは中々のもの。
普段を知らない桃子にすら、その様子は伝わったようでした。

「なのはが小学生の頃に使ってたのを取っておいて正解だったわね」
「あ、これ……そうなんですか?」
「うふふ。着心地はどうかしら」
「あ、あぅ。えっと、あの」
「大丈夫、似合ってるわよ。じゃあ、あっちでお皿洗い。お願いできるかしら?」
「……はい!」

 ニッコリ、と優しく微笑む桃子。
ヴィータにとって母親であり姉であるはやてとは別に、"母親"というと高町桃子なのです。
その言葉のイメージするとおり、後押しされては厨房へ向かうのでした。

「う、うおぉ……こ、これがあの士郎さん、かよ」

 そこには真っ白に燃え尽きたぜ――
と言い出しそうなほどに、ガックリと項垂れた士郎が厨房の端に座っていました。
公園でゲートボールをやっている、老人会のお爺ちゃんたちよりも小さく見えるぐらいの様子に、つい、声を漏らしてしまうのでした。
何とか元気付けたいところですが、何故落ち込んでいるのか分からないのでは下手なことは言えません。
軽く頭を下げ、流し台へ急ぎます。
 こ、こんなに忙しいものなのかよ……
そこには、ウンザリするような量のお皿や何やらが、山のごとく器用に積みあがっては自分を出迎えてくれました。
これが一人暮らしを始めた頃なら、この時点で弱音を吐いていたかもしれないような量です。
その上、なのはの言ったとおり、予行演習になりそうなのが少し癪でしたが、そうも言っていられません。
桃子をガッカリさせないためにも、ここは気合を入れ、腕まくりをし、スポンジと洗剤を取って立ち向かうのでした。

「ふぅ、一段落ってところかな?」
「そうだね。次は下校時間ごろかな。少し、時間がある内に休んできたら? 久しぶりで疲れたでしょ」
「えへへ。いくら昔とった何たらとは言え、久しぶりだと疲れちゃうな。なんていうか……気疲れ、かな?」
「普段のお仕事とは使うところが違って疲れちゃうんだよね~。分かるよ、そういうの」
「なのは、ヴィータちゃんも呼んできて。少し遅くなっちゃったけどお昼にしましょう?」
「「はーい」」

 人影途切れた店内を見渡して、桃子は昼食の準備に掛かります。
3人分しか用意していない中から、どうにかして4人分を捻出しなければなりません。
しかしそこは、長年の経験がモノを言うものよ、とばかりに何とかしてしまう桃子。
その手際の良さに、ヴィータはただ感心するばかりなのでしたが、コレは何か一つ学べないかと手伝いを申し立てるのです。
二つ返事で応える桃子。
簡単な作業しか手伝えませんでしたが、ヴィータはとても満足するのでした。

 

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2008年5月20日 (火)

いつだって笑顔でいるよ

 
 昨日のことがあったので、今日は来るか来ないかと思っていましたが。
日曜から体調を崩していたようなので、一日あって今日はなんとな日記を書けるぐらいには回復したようで安心です。

 随分大きくなったって、39度なんて死にそうなほど苦しかったような覚えがあります。
それを小学1年生の女の子が「ちょっぴりお熱が出ちゃっただけだから――」なんて。
昨日、氷柱が言っていたように、余程兄を心配させたくないんだな、と。
でも、いくら心配させたくないと言ったって、これほど体調を崩していたのなら無理な注文だと言いたくもなるところですが……

いつも笑ってる――お日様みたいなお兄ちゃんの顔が好き。

いつも楽しくて笑顔でいるお兄ちゃんのことが――。

 これは綿雪だけじゃなくて、他の姉妹にとってもそうなのでしょう。
自分が。家族みんなが大好きな、「お兄ちゃんの笑顔」が自分のせいで曇ってしまう。
熱を出してうなされているだろう時に、そんな家族みんなのことを考えられるこの子が、なんて優しいんだろうと。
以前にも真璃が口にしていましたが、家族ほど大切なモノはない、と。
それが大きな子たちだけでなく、こんな小さな子たちにも共通の認識として、はっきりと根付いている。
そんな家族の一員としていられる彼は、とても幸せなのだろうと。
そして、その家族に笑顔をあげられる彼は、とても幸せ者です。


あ、うぅん、そんないけないこと考えたらいけないですよね。

……

えへへ――(はぁと

 全く、この子は……!
さっきまで何のかんの言いましたが、ここで家族としてでなく、一人の女の子"綿雪"として、チラリと垣間見せるこの態度。
初めの自己紹介。
「もしユキがいなくなっても……」なんて言ってた子が。
きちんと「これから」のことを考えている。
それって何て素晴らしいことなのかしら。
確かに、昨日氷柱が「きっと――喜ぶから――。」と言うわけが分かります。
氷柱自身。自分が一番綿雪を励まして、元気付けてあげられる存在でいたいはずです。
それを譲れるほど(ホワイトデー辺りで随分軟化した印象はありますが)、氷柱にとって綿雪が大切な事が分かりますし
その綿雪からの信頼が、どれほど確固たるモノなのか。
氷柱は自負も拘りも全て綿雪のため。
例えそれが自分を必要とされていないといしても、受け入れられる子。
この二日間のやり取りに、氷柱がしたかもしれない嫉妬は、兄だって綿雪と氷柱にあるのかもしれません。


氷柱ちゃん、こういうときはぷんぷん怒るんだもの (はぁと
ヒドイですよね、病人なのに――ウフフッ。

 ちゃん、ですか。
こういう風に呼称が変わる瞬間も、色々垣間見えて楽しいですよね。
度々、この子達は相手に対する呼称の変化で、その裏にある関係なんかを読み取れそうです。
以前の夕凪さんのときに、怒られてちょっぴり羨ましい、という趣旨の発言をしていたこと。
図らずもそうなったこと、少し喜べるぐらいの余裕があるなら安心です。
しかし、この瞬間。
綿雪の方が氷柱より上なんじゃないかしら、と思うのですが。


夢の中のお兄ちゃんは、眠っているユキのおでこにそっと

チュってしてくれて――

 なにをやってますか、お兄ちゃん。
そりゃ様子を見に行けとは言われましたが、お凸チューとは……
笑顔が素敵みたいですし、寝ている妹にそっとチューしたり、どんだけ素敵お兄ちゃんなんだと。
良かったなぁ。
氷柱も昔はお兄ちゃんが欲しかったようですし、ちょいとタイミングが違えば氷柱もお兄ちゃんラブになっていたかも……
まあ、海晴姉を初め年長組みはガチで狙うような良い子なようですし、今からでも充分可能性はありますが。


夢の中でお兄ちゃんに会えるといいな――

 そんなこと言わずに。
目の前のお兄ちゃんに我侭いうなりしたら良いのに。
そんな綿雪のお願いなら何でも聞いてくれますよ、お兄ちゃんなら。

 

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2008年5月17日 (土)

敵わない

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2008年5月16日 (金)

おしらせ

 
 今週末に行われるリリカルマジカル4にて、Recovery&Reloadさんが配布される本のおしらせです。

 詳しくはトップページのチンク姉が目印なバナーをクリックされれば分かりますが、少し詳細を。

 襲の色目の夜都様との共著になられるようです。

 内容はチンク姉とゼストにまつわる、過去・現在・未来、といった感じのようです。

 他にどのような作品を書かれているか、目を通されては如何でしょうか。
気になった方は是非! 18日のリリカルマジカル4でお手にとって見てくださいな。

 

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2008年5月15日 (木)

キミの手

 
 今日の日記は、すっかり元気になったような吹雪です。
昨日の海晴姉さんの日記で「寒い日が続いたけど」なんて言ってましたが、吹雪は大丈夫だったのかしら。
どちらかと言うと、アッツイ日の方が過ごしにくい子かもしれませんけど。


なにかこう――浸食されそうな気がするのです。

 ああ、虫(バグ)ってそういう……じゃなくて。
小さくて、ざわざわしている類の虫は、そういう感覚に捉われるのも分からなくはありません。
表現自体は、吹雪らしい独特のものですが。

 吹雪は虫に対して苦手意識があり、それ以上ではないのでしょうか。
興味あることは、はっきりさせたがる性格のように思える吹雪が「虫にはあまり詳しくないのです。」とだけ。
何かのきっかけで詳しくなる可能性もありますけれど。


特に小さな子たち――青空や虹子やマリーなどは

 青空とマリーは、分からなくはありませんが、虹子までとは。
多分、天道虫に蝶々。見た目がカラフルで可愛らしい虫が好きで、毛虫や芋虫。ムカデは絶対駄目でしょう。
私だってキライです。特に足のたくさん動く類の虫は。

 しかし、言葉としても「しんだアリ」と、自分なりに理解している青空は流石と言わずには。
その内、潰してしまったアリの本当の意味が分かる時が来ると思います。そう遠くない未来に。


反対に虫が苦手なのはさくらや春風姉や氷柱姉などです。

 これは予想通りの布陣。
さくらは泣き出し、春風さんは卒倒。氷柱はぎゃーぎゃー騒ぎながら大暴れしそうです。
冬に、青空が冬着のポケットに山ほどダンゴ虫を詰めたまま家に帰ってきて、それを気付かず春風さんが片付けようとして――
こう言うとき、ホタが一番頼りになりそうです。
幼少のみぎりから、雷など全く怖がりもしない子だったようですし。
件の虫が出たとしても、冷静に広告か新聞を丸めてバシバシ!と叩いてくれそう。
名前は挙がっていませんが、ヒカルや麗も、涼しい顔をしながら心中穏やかでない感じかも。


!!

きゃっ。

 ……!
か、可愛い! あの普段クール(というには語弊がありますが)な吹雪が!
なんて可愛らしい。やっぱり、どう振舞おうと女の子は女の子なようですね。
虫も普通程度以上には苦手そうですし。
ふとした時に現れる、こういった意外な一面というのは可愛く感じられるモノですね。
それが予想外なモノであれば。


キミの手でしたか――

突然何かが触れたので、一瞬例の虫が止まったのかと――

 あれ。
随分と近くにいるようです。
こうなると、「きゃっ」といったときに上着の裾ぐらいは掴んでいそうな勢いです。
以前は眩暈がするといって、体温の高い姉妹にすら触れなかったと言うのに。
吹雪が変わったのか、それとも全くの無自覚であるのか。

 最後。
本当――ですか?」なんて、兄の手をまじまじと見つめ、そう思ったのでしょう。
今一信じがたいのか、そう信じたくて、本人から確認を取りたいのか。
ただ純粋に、兄に対して接しているようにも思えますが、どうにも頼りになる、それ以上を求めているようにも思えます。
吹雪としては当然、肯定してほしい問いかけでしょう。
そして、その"頼りになる手"に対して、触れていたいし、触れて欲しいと思っているのかもしれません。

 

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2008年5月14日 (水)

お天気お姉さん

 
 確かに寒い日がいくらか続きましたね。
数日、GW辺りは暖かい日があったのですけど、その寒暖の差で体調を崩された方も。
一番に心配してくれる海晴お姉ちゃん、流石。といったところです。


あの楽しかったゴールデンウィークの旅行みたいに――

フフフッ(はぁと

 彼はこの日記を読むまでもなく、GWをどうやって家族で過ごしたか、大切な思い出として胸に収めるわけですけど。
私たちは、この日記や、G's本誌の連載から、その一端を読み取らなければなりません。
このとき、海晴姉さんと彼は思い出を共有しているわけで、こちらとしては、少々残念な限りです。


そう、あれはたしか小学校にあがってしばらくして――
2年生くらいの頃だったかな。

 年齢について、唯一推測するしかなく、その材料に乏しかった人ですが、ここで一つの可能性が。
ヒカルは高校一年に上がったばかりなので、15歳。
小学二年のこの時期、海晴姉さんはまだ7歳なので、ヒカルがこの時点でゼロ歳としても。
海晴姉さんは現在23歳。
最高を見積もっても23歳です。
飯事して、お庭で跳ねて遊べるぐらいですから、もう少し大きいでしょう。
すると……というわけです。
ふふふ。彼との年齢差も同様ですから、中々に魅力的な差ではないでしょうか。


ヒカルちゃんをつかまえて思わずギュッて――
抱きしめたの、覚えてる(はぁと

 長姉として、妹の世話もよく見てきたのでしょうし、こうやってスキンシップ大好きお姉ちゃんだったのかしら。
その中でヒカルは海晴姉さんが、よく面倒を見た妹の中で一番のお転婆っ娘だったんじゃないかしら。
それより下には、そういう子は……立夏とかいますけど。
すると、ヒカルは頻繁に抱っこされたり、怒られたり、海晴姉を少し苦手意識をもっているような気がするのは、そのせいかも。
霙姉に対してもそうですし、ヒカルは上三人に対して頭が上がらないようね。


自分の未来は自分が気がつかないだけで
いつもほんの近くに――
転がっているのかもしれない。

 こういうセリフを吐けるのは、一人歳の離れた姉である特権かしら。
勿論、海晴姉にも将来・未来の方が多く用意されているのだけど、いま、中学・小学、それ以下の子は、未来しかない。
まだ過去を思い出として振り返るような歳じゃないものね。
更に、彼に対してもこう言えるのは、霙姉でも少し足りなくて。
やっぱり、海晴姉の人生経験というか、含蓄というか。
流石、お姉ちゃんです。


そう、今も――私の隣に――

 ……え、えー。
これはやっぱり「そういう意味」かしら。
いえいえ、それは家族として、これからも一緒に居ましょうね?という願いであって――
それでも、この人のある意味、一番女の子としての凄さは、あの春風さん以上であるのですから。
やっぱり「そういう意味」になっちゃうのかも。
でも、この日記は家族全員が目を通せるモノであるのですから、やはり家族としての……う~ん、春風さんも口にしてますし。
この発言を機に、春風さんやホタが勢いづいちゃったりすると面白いかもしれませんね。

 バレンタインの日や3/13あさひの誕生日の日だったり、なにかとお姉ちゃんとして以上に、親密に誘惑してくるお姉さんですよね。
そう読むと、日記の冒頭の「フフフッ(はぁと」も、なんだか他の姉妹に内緒で。
疲れた彼を「疲れたんじゃない? 肩でも揉んであ・げ・る(はぁと」とか、キャッキャウフフしてたんじゃないかと思ってしまうんですけどー。
 

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2008年5月13日 (火)

新婚なの! 10-4

 
「懐かしいなぁ。全然変わってないよ」
「ふーん」

 窓辺に立ち、空の半ばまで上ろうとするお天道様を見上げて、呟くなのは。
温まりきっていない、朝の冷たい空気を取り入れようと、窓を開けます。
ドアは閉まっているので、部屋の中を通り抜けることはなく、足元を撫ぜるようにヒンヤリとした空気は入ってきました。
思わず飛び退いて、その空気から逃れようとします。
 なにズレたことやってんだ――
ヴィータは部屋の中央辺りで、頭の後ろに腕を組んでは周りを見渡しながらも、さも興味なさ気に答えました。

「んも~。……あ、ほら、見て? 埃も全然ないの。お母さんが掃除してくれたのかな」
「うーん? こりゃ違うだろ。昨日今日で掃除したんじゃねーよ。ちゃんと定期的にしてんだ」
「そっか。ヴィータちゃんったら分かるんだね」
「まーな。前にお前の部屋を掃除したとき、こんな綺麗にならなかったろ?」
「あ、あう……えへへ、そうだったかなー?」

 飛び退いた先にあったのは、使い慣れた、懐かし机。
着いて手をそのままに、人差し指で優しく撫ぜてみます。
少し自慢げに人差し指の腹を見せますが、それを無視して机の端をじっくり眺めるヴィータ。
呆れたような指摘に、なのはは素直に感心したつもりでしたが、嫌味で返され、恍けるしかありません。
小さく聞こえる溜息。
ごめんねー、とは言うものの、ヴィータの呆れ顔を元に戻すことは出来ませんでした。

「ったく。まあ、あれは、引き払う前だったし、全然帰ってなかったんだから仕方ないけどよ。今は――」
「あ、あー。それにしても殆ど帰ってきてないのに掃除してくれてるなんて嬉しいな~」
「……そりゃそうだろ。いつ帰ってきても良いようにしとくもんだ。――特にお前ん家の場合はな」
「……どういう意味?」
「言わなきゃ分かんねーか?」

 ヴィータとは視線を合わせず、机から離れ、反対側にあるベッドの端に腰掛けます。
埃の立たないようゆっくり落としたお尻には、ふんわりとした羽毛の感触が伝わり、それが干したてであることを窺わせます。
これは帰宅の予定を聞いて干してくれたようです。
しかも見覚えのない布団カバー。これも帰宅に合わせて新調してくれたのでしょうか。
でも、これ以外。
足の裏に触れる絨毯も、日差しを部屋へ招き入れている窓ガラスも。
何時。例え明日、急に帰ってきても良いように、普段から手入れがなされていることを容易に想像することができます。

「お前が何時、管理局を辞めても良いようにってことだよ」
「あはは。気の長い話だね」
「どうだか。どのくらい危険な仕事してるかって分かってりゃ、そう無理な心配でもないだろ? ま、生きて帰ってくれば、の話だけど」
「…………不吉なこと言うんだもん、ヴィータちゃん」
「そうやってさ。不安な気持ちを誤魔化してんの。分かってるんだろ」

 ヴィータは絨毯に視線を落とし、なのはから視線を逸らします。
どういうつもりで自分と一緒にココへ来たか。
いま、それを言うべきタイミングでないことも分かっていますが、言わずには居れないのです。
それが、指摘する桃子と同じ行動原理であることに気付かないまま。
対してなのはは、どこを見るでなくお天道様から目を背けるようにするだけ。
何度か遊びに来たことのある部屋で思い出話をするつもりだったのに、どうしてこうなってしまったのか。
どうしてヴィータがそういう態度をとるのか。
直ぐに答えは出そうにありません。

「まあ、今度からちょくちょく帰るんだな。桃子さんの努力が無駄にならな――いや、無駄になるようにかな」
「……無駄に、か」
「そうすりゃさ。毎日か、二日に一回か知らないけど。"よく実家に帰る娘の為に"って。それぐらいしたって罰は当たらないだろ」
「うん。そだね。じゃあ、今度から一緒に。なるべく帰ろっか?」
「な、なんでアタシまで付き合わなくちゃなんねーんだよ。お前だけ、家族水入らずじゃねーか」
「ざーんねん!」

 素早く立ち上がれば、左手でその小さな身体をさらい、有無を言わさず抱き上げます。
そのままの勢いで、ベッドへ倒れこむようにし、ゆっくりとお嫁さんの腰へ手を回します。
普段なら文句の一つも言って離れようとするのに、この時ばかりは黙ってしたいようにさせてくれます。
思わず頬が緩むなのは。
 こうやって甘やかすからダメなんだろうなぁ……
緩んだ顔をするなのはを見ながら、そう思わなくもないヴィータなのでした。

「ヴィータちゃんも今や立派な高町家の一員なんだから、一緒じゃなきゃダメだよー?」
「そ、そういうときは良いんだよ! じゃあ何か? アタシがはやてのところに帰るときはお前もついて来るって言うのかよ?」
「うーん、そうだなぁ……イヤだって言うなら留守番してるよ?」
「む、むぅ。そう面と向かって言われると」
「うそうそ~。そう言うの、ちゃんと分かってるから。私に遠慮しないでね~」
「……ちぇ。そう言うんなら普段から遠慮してくれっての」

 右手も回してしっかり抱っこすると、ゆさゆさ自分も揺れます。
左右に身体を傾ける度に胸に横っ面を押し付けられ、顔が歪むヴィータ。
しかし、自分の胸が割りとフラットなことをコンプレックスに思っているわけではないので、いやな気分ではありません。
ただ、はやてのおっぱい好きが伝染したのか、と少しだけ心配になるだけです。
それともう一つ当たるのが、なのはのサイドポニー。
頭に乗っかっては、くしゅくしゅと撫ぜてくすぐったいのですが、両腕を押さえ込まれどうしようもありません。
二人が揺れるたびにベッドがギシギシと音を立て、そのぎこちなさは、ベッドが主を迎え入れるのが久しぶりであることを窺わせます。

「ふ、ふぅ。ちょっと気持ち悪いかも……」
「調子乗りすぎなんだ。そんなに頭を揺らしたらそうなるに決まってんだろ?」
「そ、そういうヴィータちゃんはどう? 平気?」
「……平気じゃねーよ。お前の胸は当たって余分に揺れるし」
「ふっふーん。こーんな感じっかな?」
「むぎゅー! お前はそうやって抱きついてばっかいるんじゃねーよ!」
「ヴィータちゃんはそうやって私が抱きつきたくなることばっかり言うんだもん、仕方ないよ~」
「アタシのせいかよ!」

 余りに調子に乗って揺れを大きくするので、いい加減、わき腹を抓ることにします。
しかし、流石引き締まっているというか、掴み損ねて爪先でちょっと引っ掛ける程度になってしまいました。
これが逆効果とでもいうのか、普通に抓るより痛かったようで、なのはは手を離さざるを得なかったようです。
チャンスとばかりに、ベッドを離れ、二歩三歩と机に近づいたところで振り返ります。
ベッドの上では涙目でこちらを見るなのは。
ツンとした表情で、自業自得だ、と無言の抗議をするのでした。

「全く。油断も隙もあったもんじゃない」
「そう言ってぇ、隙だらけなんだもん。ダメだよ、ヴィータちゃん。私以外の人の前でそうやってするの」
「アタシがいつ油断したってんだ。それにな、お前の所有物でもないんだぞ」
「え~、油断だらけだと思うのに……あ、若しかして。それで"警戒してたの"?」
「ど、どういう意味だよ」
「ううん、なんでもないよ~。うんうん」

 一人納得したような態度に、なんだよー、と文句を言いますが、なのはは取り合いません。
何か腹立たしくて、問い質そうとしますが、こうやって近づくのは相手の思う壺。警戒してその場からは動きません。
余裕たっぷりにベッドに寝転び、手足を伸ばしてリラックスムードのなのは。
コレで近寄ったら絶対に押し倒される――アンテナは敏感にそれを察知します。
結局ベッドと机で言い合うばかりで、決着は付きませんでした。

「へ、へん。別に良いんだ。お前がそうやって思い違いをしてれば」
「どうかな? でも、思い違いを放っておくと後で大変だよ。私は頑固だから」
「ちぇ。分かってんなら直せっての、そういうところ」
「は~い」

 ふぅ、と一息。机に寄りかかって休もうとしたヴィータは、あることに気付きました。

「なぁ。この辺りにレイジングハート、置いてたよな? あのハンカチ、どうした?」
「えっとね、どうしたかな……う~んと。そうそう、引っ越す時にちゃんと持っていったよ。今は私の部屋にあるはず。でも、どうして?」
「いんや、別に。ただ、今は肌身離さず持つようになったからさ。どうしたのかなって」
「ふ~ん」
「な、なんだよ。その顔は。だから別にって言ってるだろ」

 ベッドに寝転んだまま、ニヤニヤとこちらを見つめるなのは。
またくだらない事を思いついたな、と思いますが、それを問い質すべきかどうか悩みます。
どうせ先ほどと同じく押し問答になるか、余計なことを口走って更に調子付かせるかのどちらか。
しかも今回は後者の算段が高そうなのだから余計に悩むのです。
こちらとしては、余り来たことのない部屋のインテリアや物が置いてあった場所など覚えていたとバレてしまうからです。
そんな心配は全く骨折り損でした。
時すでに遅し。
なのははヴィータが自分の部屋を詳しく覚えていてくれたことを嬉しく思い、それを隠し切れずに思わずニヤニヤとなっているのでした。

「うん、そだね。別にー、だね。えへへ~」
「く、くそぅ。余計なこと聞くんじゃなかった。ホントどうでも良いことだったのに……」
「何か言ったヴィータちゃん?」
「なーんも! 別に何にも言ってませんよーだ!」
「あん、待ってよヴィータちゃん」

 ツーンとそっぽを向いて部屋を出て行こうとすると、なのはは慌てて後を追うために、ベッドから飛び起きます。
久しぶりに活気を取り戻した部屋は、何時とも知れない、主の帰りを待つ、寂しい空間に逆戻り。
ただ、いつもより少し遅い、少しだけ温まった空気が、そよそよと辺りを満たしていくのだけが違っているのでした。

 

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2008年5月10日 (土)

新婚なの! 10-3

 
「そうなの。おめでとう、二人とも。ほら、お父さんも何か言ったらどうなの?」
「え? あ、ああ。そう……なのか? いや、まあそうだけど」
「あたしもちょっと驚いちゃったというか、う~ん」
「もう二人とも。だらしないわね。さ、ヴィータちゃん。腰を下ろしなさいな」
「は、はい!」

 軽く肩を抑え、ゆっくりとソファーに腰を下ろさせます。
いまだ身体の震えが抜けないようで、その小さな膝と、そこで丸められた手が小さく震えているのを見逃しません。
大丈夫よ、と落ち着かせるように、揺れるアンテナ頭を優しく撫ぜれば、大きく息を吐き、それと共に緊張も抜けていったようでした。
俯き加減の表情は窺えませんでしたが、もう大丈夫だろうと、情けない二人の間に腰を降ろします。
それを合図に士郎も腰を下ろし、美由希は眼鏡のズレを直しました。
そうこう母親がしている間も、娘は一人、デレデレと自分の嫁を見ているだけです。
 この場でまともな話を出来そうなのは私だけね――
そう判断した桃子は、なのはに声をかけます。

「ところでなのは。結婚したのはいつなの?」
「え~っと、そうだなぁ。1ヶ月……もうちょっと前かな。まだあんまり寒くなかった頃」
「もう。そうならそうと早く連絡しなさいな」
「ちょ、ちょっと待って母さん。両親の同意とかいらない訳? なのははまだ未成年でしょ?」
「その辺ミッドは少し違うの。二人とも働いてるし、管理局務めだから。未成年でも両者の合意だけで良いの」
「まあ、就学児童が働いている時点で言いっこなしかも……」
「い、いやいや! それより大きな問題があるだろう!? そもそも女の子同士で結婚ってのはどうなんだ!?」

 士郎の疑問は尤もなのですが、それすらもなのはは涼しい顔をして答えます。
その答えに改めて世界の違いを実感させられる三人。
口をあんぐりと開けたまま、ソファーにへたり込むようにしている父親に、美由希は小さく溜息をつくのでした。
男を連れてきた時のことを考えれば恐ろしいことになってただろうけど、これはこれで目も当てられない姿だなぁ、と。

「とにかく。私たちはお店を開けなくちゃいけないからもう行くけれど、大丈夫?」
「あ、あー! そうだった! こんなゆっくりしてる場合じゃなかったよ! ほら、お父さん! 何時までそんな顔してるの!?」
「…………もう少し、このままでいさせてくれ――」
「甘ったれてないの! ほら、いくよ!」

 まるでヌイグルミか何かのように引きずられていく父の姿に、苦笑するなのはと桃子。
いまだ視線を合わせられないでいるヴィータに「ゆっくりしていってね」と声をかければ、ハッと顔を上げて頷いてくれます。
それを確認して、足早に二人の後を追い、情けない父親を二人で引き摺っては家を出て行きます。
何だかあっという間だった、結婚報告の興奮冷めやらぬリビングに残された二人。
桃子に声をかけられながらも、まともに返事が出来なかったヴィータ。
その事を悔いていると、隣のなのはが、クスクスと声を殺して笑っているのが聞こえます。
人がこれだけ緊張しているっていうのに、この気楽さはなんだ、と頭の上で笑う旦那に段々と腹が立ってきました。

「……あに笑ってんだよ、なのは」
「ふふふふ。べーっつに。なんでもないよ、なんでも」
「何でもないことないだろ。お前は何でもないのに笑ったりすんのかよ」
「そーだね。箸が転んでも可笑しい年頃だから?」
「聞くなよ。ったく。こっちがどんだけ苦労してあの一言を搾り出したと思ってんだ……」
「なぁに? もしかして私に褒めて欲しかったの? うんもー。そうならそうと言ってくれれば良いのに~」
「んぎゅ! 急に抱きつくんじゃねーって!」
「だったら今度から徐々に抱きつくね~。それとも抱きしめた方が良いかな?」
「どっちにしろ同じだろーが! 放せ、放せって!」

 見た目にも分かるほど頬を膨らませて拗ねるヴィータを抱き寄せては、ギュッとその顔を胸に埋めさせます。
腕の中でモゴモゴと動いては、わき腹を掴んだりポコポコと叩きますが、それすら楽しいぐらい。
ヴィータはこうしていると負けてしまうのが分かっているので、久しぶりに頑張って抵抗を試みているようです。
それを余計に面白がって放さないなのはでした。
 ちくしょう、このままじゃ……
ここは自分達の家と違ってなのはの実家なのですから、いくら二人きりでも、ベタベタしているのは悪いことのような気がします。
そう思って色々試してみるものの、頭を撫で続けるその手に、段々と抵抗心が萎んでいくのが自分でも分かりました。

「…………あれ? もう良いの?」
「……べっつに。ちょっと疲れたから休んでるだけ。元気になったらまた始めるぞ」
「そっか。ならそれまでこうしてて良いんだね?」
「――勝手にしろ。こういう時ぐらいゆっくりしてーんだよ。一々怒ってたら疲れちまうからな」
「そだね。普段からもうちょっと心に余裕を持った方が良いと思うよ。私もゆっくり抱きついてられるしー」
「バーカ。お前が一々アタシを心配させたりするから疲れるんだろうが。ゆっくりしてらんねーんだよ」
「あはははは。そうだったね。ヴィータちゃんにはいつも心配かけてばっかりだから」
「……そうだな。心配ばっかだ。アタシも――フェイトも」
「……そだね」
「だから。ちょっとだけゆっくりさせろ」
「はーい」

 物音のしない、二人きりの静かなリビング。
お天道様の光が差し込む窓の向こうからも、通勤通学を思わせる音は殆ど聞こえてきません。
その中で、大き目のアナログ時計が、チクタクと時を刻む音だけが聞こえてきます。
背中で日差しの暖かさを感じながらヴィータの頭を撫で、満足げに目を細めるなのは。
時計の針に合わせるように、耳に伝わる鼓動に目を閉じ、大人しくするヴィータ。
本当にさっきまでと同じリビングなのか、と思わせるほど、辺りは静寂に満ちていました。

「ねぇ、ヴィータちゃん」
「……あんだよ。まだ休憩中なんだ」
「やっと報告できたね。これで結婚の大仕事は一段落ってところかな?」
「時間、かかっちまったけどな。後は近しい人だな。メールだけじゃなくて、ちゃんと顔を見てさ」
「そうだね。私はアリサちゃんとすずかちゃん、かな?」
「その点アタシは楽だ。こっちの世界にゃいないからな。ま、リンディさんぐらいか」
「そだね。エイミィさんにも会わないと。カレルちゃんとリエラちゃんも久しぶりに抱っこしたいし」
「アルフの顔も久しぶりにな。滅多に会いにいけないしよ」

 抱っこされたまま、これからの予定を口にするヴィータ。
なのはは、たまには素直に抱っこされてくれれば良いのに、と思いながらも下手を言って怒られるのもイヤなので黙っています。
これはある意味ヴィータも同じで、もう少し素直になっても良いような……などと、決めかねているようです。
ただ、抱っこして、抱っこされてしまえば関係なく、お互いに黙ってその状態を維持するのでした。

「ずっとこうしてるのも良いんだけど、お昼まで時間あるし、どうしよっか?」
「……う~ん、そだな。ちっとはゆっくりして良いんじゃねーか? 久しぶりの実家だろ?」
「ヴィータちゃんがそれで良いなら良いけど」
「くっだらないね。いつもの我侭ぶりはどうしたんだよ」
「えへへー。じゃあ我侭言っちゃうねー!」
「んぎゅ」
「じゃあこのまま抱っこだよー」

 膝の上に乗せ、しっかりと抱えます。
実家に帰ってきたせいか、幾分かテンションが高くなってしまっているようで、腕の中のヴィータが戸惑っているのが分かります。
しかも、その戸惑いは、"旦那の実家"という、慣れない環境に変に高揚しているのも手伝っているように、感じられました。
引っ越す前。
何度か遊びに来て知らない家ではありませんが、その家でつい先日まで"他人"だった相手と抱き合っているのです。
そうならない方が変かもしれません。
でも、その戸惑いに似た感情は、ヴィータだけでなく、当然自分にもありました。
久しぶりの実家で数年来の"友人"と抱き合っているんですから。
お互いがお互いに。
普段と違う環境に、胸のうちを高ぶらせているのでした。

 

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2008年5月 9日 (金)

王子様とあなた。

 
 週の最後は、GWの締めとして春風さんの登場です。

 実のところ、今月号を読んでいないのでGWに実際なにがあったかは、春風さんの日記から読み取るしかないので、さっさと買ってこなければいけないのですけど。
そうかぁ。
蛍は泳げないんだ……
春風さんはじゃんけんが弱いんだ……

 さて。
今回の日記で、春風さんはいつもの如く「王子様(はぁと」とラブいっぱいに呼んでくれるのですけど。
一箇所、「あなたがいてくれてよかった(はぁと」とあります。
最初は「大切な私たちの――王子様と(はぁと」と呼び、その後も「王子様」は崩しません。
私たちの王子様であるのに、蛍を助けたところでは、あなた。
そして次には「頼もしい私の王子様」となります。

 私の、とついている限り、私→彼であるのに対して、あなた、と呼ぶのは、家族→彼、となっているからでしょうか。
王子様と呼ぶのは、私→彼の関係であって、あなた、と呼ぶときは家族→彼、ではないかと。
以前にも、あなた、と呼んでいたときがあったので、必ずしもそうではないのですけど。

 蛍がボートから落ちた下りでは、まだ王子様と呼んでいる春風さん。
ここでは言ったとおり「頼りになる私の素敵な王子様」といって評価している気がします。
しかし、「だから、本当に――」の部分。
この部分で、春風さんは、蛍の姉として、彼にお礼と評価をしたのだと思います。
次の瞬間には、いつも通りなのですけど。

 他の姉妹たちは、概ね一つの呼び方で彼を呼んでいるのですけど、こうして、場面・心情ごとに変え、その内面を読み取れるかのように変えてくるのも面白いですね。
ただ、春風さんの「あなた」は、どうにも新婚夫婦の練習を兼ねているような気がしないでもないのが恐ろ――いえ、可愛いところなんですけどね。
 

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2008年5月 7日 (水)

新婚なの! 10-2

 
「まさかこんな朝早く来るとは思わなかったから、母さん慌てちゃったわ」
「ハハハ。母さんは慌てん坊だからなぁ」
「なに言ってんの。一番に台所から飛び出した癖に勢い余って壁に激突したのはどこの誰よ?」
「そうよ。でなきゃ玄関で全員同着になったりしないでしょ?」
「あははは(それでも、お父さんとお姉ちゃんに追いつくお母さんが凄いと思うんだけどなぁ)」

 何とか玄関を抜け出し、愛しの愛娘とその親友を迎え入れた高町家。
朝食もそこそこに全員がリビングに集まり、なのはとヴィータをメインに、桃子に士郎、美由希という順でソファーに座っています。
三人共に寝癖がついたまま、服には皺が寄っていて、激突したという士郎は特に酷い有様です。
久しぶりに帰ってきた娘に、三人は話したいことが沢山ありすぎて逆に上手く口から出てこない様子。
なのはの、まあ落ち着いて、という言葉にも全く効果がないほど。
そんな三人をなのはは笑いながら見ていましたが、その中で一人。左手を隠すようにしながらハラハラとしている人がいました。

『おい、なのは』
「うん? どうし――『どうしたのヴィータちゃん』」
『あのこと。いつ言うつもりなんだよ。そのために来たってのもあるんだろうが』
『あー、そのこと。もう少し良いじゃない。そろそろ翠屋に行かなきゃいけないし、今話したら混乱しちゃうよ?』
『……ホントにそう考えてるなら良いけどな。うっかり忘れてたんじゃねーかと心配したぞ?』
『……あはははは。まっさかー。流石にそれはないよよよ』
「それでね。お父さんったら」
「もう~。相変わらずなんだから、お父さんは~」
「ひ、酷いぞ! 別にそういう意味じゃなくてだな――」
『…………』

 表情を変えず念話で会話する二人。
その間も、なのはは平然と家族との会話を続けています。
魔導師に必須のマルチタスク思考というので、だれも不振に思っていませんがヴィータは少し申し訳ない気持ちがしてきました。
向こうは久しぶりの会話を楽しんでいると言うのに、当の本人は頭半分で聞いているのです。
滞りなく会話のキャッチボールは行われています。
でもそれは表面上のことで、その実、半分は違うことを考えているとしたら悲しくならないか――そう考えたのです。

『まあ、今日のお昼には……』
『分かった。それはもう良い』
『へ? もう良いって、どういうこと?』
『せっかく帰ってきたんだからよ。今のはアタシが無粋だったって言ってんの』
『……? う、うん、分かった。ここはちゃ~んと私から言うから、ヴィータちゃんは安心しててねー』
『……へいへい。頼んだぞ』

 どうにも心配だ、思うヴィータに対し、ニコッと笑って応えるなのは。
どうにも驚かせようとそのタイミングを窺ってるんじゃないか?との気掛かりに、余り踏み込めない。
下手を打って、なのはの家族の前で見っとも無い姿を見せたくはありませんから。
もし、それを見込んでの言動なら――今のなのはならあり得ないとは言い切れない。
これが結婚報告の後ならば構わないのですが……こちらにも、それなりのプライドと言うものもあるのです。

「ところでなのは? どうしてヴィータちゃんと一緒に帰ってきたの?」

 一体どうやって切り出すのか、と眺めていたところで、不意に切り出したのは桃子でした。
士郎も美由希も、その指摘によって、初めて"ヴィータが一緒に帰ってきたこと"を不思議に思ったようで、顔を見合わせています。
 寧ろそっちの方が驚きだよ……
その様子に、改めて、なのはは高町家の人間なのだなぁ、と思うヴィータ。
そう思うのと同時に、隠すようにしていた左手の薬指が熱を帯び始め、自己主張を激しくし始めました。
隠れて見えないはずの左手を、更に隠すように後ろへ思わず引っ込めてしまいます。
それと呼応するように、視界の端のなのはは、デレっと目じりを下げては、頬がぽうっと紅潮させます。
――コレは一体!?
 高町家の面々に緊張が走ります。
この反応はただ事ではない――
士郎は、男でも出来たか!?と戦々恐々とし、まだ名前も知らない相手への殺意にも似た感情を全身から滲ませています。
美由希は父の変化に、ヴィータちゃんと関係ないじゃない、と冷静に分析したりしながらも、なのはの次の一言にワクワクと心躍らせています。
そして桃子。
なのはの反応とヴィータが隣にいることに、まさか?と思いながらも、何だか楽しそうね、と楽観的に構えています。
そんな高町家の面々の反応を他所に、一人デレデレと目尻を下げているなのは。

「あのねぇ。実は、私。高町なのは――いったーい!」
「バカ! もうちっとシャキっとしろ」

 デレデレと、身体をクネクネさせながらの砕けた様子に、思わずわき腹を抓ってしまうヴィータ。
涙目に見つめますが、しっかりしろ、とその大きな目で訴えかけられれば、なのはも従わざるを得ません。
オホンと咳払いを一つ。
気を取り直したなのはは、改めて家族に向き合うと、凛としたよく通る声ではっきりと言いました。

「私、高町なのは。この度ヴィータちゃんと結婚しましたことを、ここに報告させていただきます!」
「…………?」
「…………え、え?」
「……あら。本当」
「えへへー。そういうことなのです。ねぇー、ヴィータちゃ~ん」
「ひ、ひっつくなって! そういうちゃんとしないとこがダメだって言ってんの!」
「照れない照れない~。結婚報告はちゃんとしたんだからぁ」

 報告した途端、ヴィータを抱き寄せ頬擦りするなのは。
いつも通りに嫌がるヴィータと、いつも通りに構わず続けるなのは。
向かいに座る3人など放っての、余りに慣れた様子。
いままで、数々の普通では体験しえないような出来事に見舞われてきた高町家の面々も、流石に度肝を抜かれたようです。
どうあっても、やはり人の子。いえ、人の親、といったところでしょうか。

「ほ、ほれ。まだなんか言うことがあるだろ」
「なにが? 結婚報告ってこれぐらいだよ。ねぇ、お母さん。何か聞きたいことある?」
「――え、ええ。そうね」
「ま、待て待て待て! なのは、ヴィータちゃんと結婚したって言うのは本当か!?」
「うん、本当だよ。ね、ヴィータちゃん」
「あ、ええっと……」

 三人の視線が、ぐぅっと自分に集まります。
なのはが嘘を言っているとは思えなくとも、名前の挙げられた人物の発言は要、注目。
やっとのことでなのはから離れるものの、今度は、その視線に絡め取られたかのように動けなくなってしまいました。
三者三様。
敵意は全くないというのに、これだけ動けなくなるなんて――ヴィータは脇の下を汗が流れていくのを感じるのでした。
そうは言いながらも、話を振られてしまった以上答えなければなりません。
手前から順に視線を送っていきます。
平静を装いながらも、興味津々な桃子。
額に汗を浮かべながら身を乗り出すようにしている士郎。
隠そうともせず、ニヤニヤしながら眼鏡の奥で瞳を輝かせている美由希。
それぞれの思惑を秘めた視線。
しかし、そんな自分に注がれる視線の中。
ジリジリと焼けるようなそれは、自分の真横から感じられます。
 いま視線を合わせたらダメだ……!
ヴィータは経験に則っとり、顔を前に向けたまま旦那に意見を求めたりしないのでした。

「い、いい今、なのはが言ったとおりで、その……け、けけけけ――」
「ゴクリ……」

 膝の上で拳を固く作り、背筋をピンと伸ばしてしっかりと向き直りますが、グングン体温が上昇してそれどころではありません。
しかも、自分に集まる視線は更に熱を帯びていって、本当に焼けてしまいそうです。
この事態を打開するには、さっさと言うことを言ってしまわないといけないのですが、身体が全く言うことを聞きません。
喉だけでなく口の中までカラカラに乾き、飲み込む唾もないので乾きは酷くなるばかり。
脇だけでなく、顔も背中も、手の平にも汗をかいて、これだけ緊張するのは久しぶりです。

「あ、ああう……」
「ほら。ヴィータちゃん、頑張ってー!」
「なのは? それは応援するところじゃないと思うんだけど」
「わ、わわわわーってるよ……む、むぐぐ! ええーい!」

 立ち上がり、新兵がするように直立不動の構えを取ります。
ゴクリ。
目の前の三人の喉が下る音が聞こえたような気がしました。
 躊躇するな。別に大したこっちゃねーじゃん。
何度も頭の中で呟きますが、一向に緊張が解れる様子もなく