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新婚なの! 10-2 (3)

 
「はーい。出来ましたよ~」
「わ~い。朝から何も食べてなかったんだもん、お腹空いちゃった」
「急だったもんね。そうだ、管理局でもそういうことってあったりするものなの? ご飯も食べる暇がないとか」
「どうかな。私のところは滅多に動かない、というか動けないんだけどね。ヴィータちゃんはどう?」
「そう、だな。あ、えっと。向こうには直ぐにお腹に入れられる携帯食料なんかの類も色々ありますから」
「ふぅん。ねえ、今度そう言うの、持って帰って来れない? 興味あるなぁ」
「ダメだよお姉ちゃん。管理外世界への持ち出しは厳禁なんだから」
「ほらほら、二人とも。ちゃっかり座ってないで手伝ったら? 少しはヴィータちゃんを見習いなさいな」

 すっかり休憩モードの二人に、料理を運んできた桃子が注意します。
は~い、と返事をする二人に対し、褒められた当の本人は恥かしげに顔を逸らしては、モジモジしています。
なるだけ平静を装いますが、胸のうちにジワジワと温かみが染み渡っていくのに、何ともいえない心地よさを感じていました。
そんなヴィータに遅れて手伝いを始めた二人。
あっという間に並べ終わった料理を前に、何とか生気を取り戻した士郎を加えて、遅めの昼食となりました。

「これ、ヴィータちゃんが作ってくれたのよ? 食べてみてちょうだい」
「あ、作ったって言っても、その」
「母さんもコレ作ったりするよね。へぇ、どれどれ……わぁ、これって」
「美味しいでしょ? お姉ちゃん」
「なによ。別になのはが作ったわけじゃないんだか、そんな偉そうなのはおかしいんじゃない?」
「で、で? 美味しかったでしょ? ヴィータちゃんの」

 早速一口放り込んだ美由希に、なのはは身を乗り出すようにして答えを迫ります。
こう急かされては味もヘッタクレもありませんが、それをしてヴィータが作ったとされる炒め物が美味しいことに変わりありません。
桃子の隣に座っているヴィータに向かって、親指をグッと立てては、美味しかったことをアピールします。
ヴィータは、その後ろに居るなのはの自慢げな笑顔に一言ありましたが、まずは褒められてことに対して礼を述べます。
続いて口に運んだのは士郎。
この中で一番長く桃子の料理を口にしている人物の評価を、ヴィータは固唾呑んで見守りました。
何とか元気を取り戻しただけの、未だに生気が3分の1ほど抜けている顔が段々と血色を取り戻していくではないですか。
喉仏がゴクリと上下し、一息ついたところでニッコリとヴィータに向き直ると、言葉にする代わりにもう一口と、箸を進めるのでした。

「それにしても驚きだなぁ。母さんっぽい味になってるよね。一体いつ習ったの?」
「えっと――」
「あのね! 私がレシピを聞いてヴィータちゃんに作ってもらってたの。それで何回もしてる内に近づいてきたって感じかな~」
「へぇー! そりゃ凄いじゃない! 確かはやてちゃんも料理が上手だって聞いてるから、それも関係あったりするのかな?」
「そーかもー。一人暮らしを始める前にはやてちゃんに習ってたんだもんね?」
「ま、まあな。あ、うん。はい、そうです」
「へぇ。ということはヴィータちゃんは家の味とはやてちゃんの所の二つの料理が作れるわけだ?」
「そ、そういうことになると思うデス」
「じゃあ今度から私も料理を教えてあげなくちゃね。せっかく家の子になったんですもの」
「は、はい! 宜しくお願いしますです!」

 士郎にも感心され、改めて料理を教えてくれると言った桃子に、ヴィータは少しばかり頬を赤らめて応えるのでした。

「ごちそうさまでした~」
「お粗末さまでした。ふぃ~、疲れた……」
「お粗末さまでした。ヴィータちゃんもお疲れ様ね。それにしても途中でお客様が一人も来なくて良かったわね」
「喜ぶべきなのかどうなのか。まあ、今日は特別ゆっくりしたかったし良かったかもね」
「さあて、後片付けは俺がやるよ。みんなは休んでてくれ」

 少し多めに並んだお皿も全て綺麗に片付き、食後の一服を促しながら士郎が皿を片手に立ち上がります。
お茶を飲んでいたヴィータは慌てて腰を上げようとしますが、隣の桃子に制止されてしまいます。
普段は自分がやっていること――稀になのはがやってはくれますが――をしないでいるというのは、何とも居心地が悪いものです。
それでも、「作ってくれたお礼だよ」などと言われてしまっては、逆に動くわけにはいきません。

「そうだよヴィータちゃん。せっかくお父さんが片付けてくれるんだからゆっくりすれば良いんだよ~」
「な! そ、そんなに言うならお前も普段から手伝――あ、あのぉ……手伝ってください、です」
「やっぱり? さっきから聞いてる限り、全然作ったって話、聞かないから」
「あらあら。もっと普段通りでいいのよ? 今のはなのはが悪いんだし」
「そ、そんなことないよ。私だってちゃんとしてるんだから。その…………たまに、だけど」
「こんな調子でよく一人暮らしなんて出来てたね? 若しかして毎日コンビニ弁当だったりしたんじゃないの?」
「はぁ……やっぱり一度様子を見に行った方が良かったかしら」
「良いったら、大丈夫! ね? ヴィータちゃん」
「あ、う、うん。まあ」
「ヴィータちゃんがそう言ってくれるなら良いのだけど……甘えてちゃ駄目よ?」

 桃子はヴィータが来てくれたことが嬉しいらしく、ことあるごとに頭を撫でます。
子供らしいのは外見だけで中身は自分より随分年下なのですが、それでヴィータの機嫌が悪くなることはありません。
寧ろ尊敬すら――はやての次に、ですが――している相手から褒められて、お尻がムズムズするように嬉しいぐらいです。
ただ、その人が隣にいては、いつも通りにするわけにもいかず、どうにも調子が出ません。
どうしたものか。
そうは思っていたところに、さっぱり頭が上がらない様子のなのは。
普段のいい加減さはすっかり形を潜め、大人しく反省しているようです。
"あの"なのはが、さっぱり頭の上がらない唯一の人物と言ってもいい人。
どことなく――惚れた弱みとまでは言わなくとも――なのはに敵わないヴィータにとって、桃子のステータスは更に上がっていくのでした。

「ちゃんと教えたんだから。ヴィータちゃんばかりに頼ってちゃダメよ?」
「そうそう。母さんの味が懐かしいならヴィータちゃんに作らせるんじゃなくて、自分で作らなきゃ」
「ハハハハ、可愛いお嫁さんの――あぁ、なのはが結婚してしまうなんて…………ガクッ」
「ちょっと父さん。自分で言って落ち込まないでよ。ああ、情けない――」

 何を言おうとしたのか大体想像はつきますが、倒れてしまいその続きはとても聞けそうにありません。
洗物の途中だと言うのに元の木阿弥と化している父を横目に、美由希は仕方なく腕まくりして続きに取り掛かるのでした。

「でも。ヴィータちゃんが家の料理を習ってるところなんて、ちょっと前までは想像できなかったわよね」
「そうそう。でね、ヴィータちゃんったら勉強熱心なんだから、どんどん覚えてくんだよー」
「まあ、その記憶力ってのは凄いと思うよ。あの調味料が足りないだの多いだの、指摘が的確だかんな」
「あら。私の教育もある程度間違ってなかったってことね。だけど、どうしてこんなに面倒臭がり屋になっちゃったのかしら……」
「お、おい! 桃子さんが落ち込んでるじゃねーか! お前がしっかりしないからだぞ!」
「お母さん、そんな落ち込まないで! えっとそれはね、何ていうか…………ヴィータちゃんが優しすぎるから! うん、そうなの!」
「はぁ? なんだそりゃ。そういう意味だよ!」
「あれよ、ヴィータちゃん。親切で何でもしてくれるから、私怠け者になっちゃったのーって言いたいのかもねー」
「えぇ~! なのは、それってアタシのせいだって言いたいのよ!」
「そ、そうは言ってないけど、何ていうか……うぅ~ん、ゴメンなさい」

 結局のところ、なのはは「ヴィータが何でもしてくれるから、物臭になってしまった」というのです。
ヴィータにとってこんな言い訳など到底受け入れられません。
これが家ならちゃぶ台の一つでもひっくり返してビンタでもくれてやっているところです。
しかし、翠屋で、高町家の面々の前でそのような暴挙に出るわけにもいきません。
まんまとなのはに陥れられたようで、ヴィータはギリギリと歯軋りをするばかりでした。

「もう。こんなことならヴィータちゃんだけ家の子になってもらっちゃおうかしら?」
「あ~、どうする、なのは? 母さん、思った以上にヴィータちゃんのこと気に入っちゃってるみたいだよ?」
「駄目だよ、お母さん! ヴィータちゃんは上げないんだからね!」
「ちょっと待て。アタシはお前の所有物じゃねーんだぞ! どうするかはアタシの勝手だ!」

 ツーンとそっぽを向いてしまいます。
拒絶の意思ならば、ヴィータは桃子を選んだと言うことです。
このままではいられません。
慌ててヴィータの元に駆け寄れば、隣の桃子からふんだくる様に抱き寄せるのです。

「あぁ~ん、ヴィータちゃ~ん! 私のこと見捨てないでぇ~!」
「ぐぅえ~! そ、そんな言うぐらいなら明日から心を入れ替えるんだな、なのは」
「は~い、精進します~」
「あら。私としてはちょっぴり残念かしらね」


 


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