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新婚なの! 10-3 (1)

 
「うぅ~ん。今日もお疲れ様だね~」

 ソファーにどっかり腰を下ろし、ぐぅーっと伸びをして体を解す美由希。
続いてなのはにヴィータ、そして家まで一人で帰ってこられたのが不思議な士郎が腰を下ろします。
荷物を片付けた桃子も遅れてリビングへやってきました。
普段は士郎の仕事ですが、今日ばかりはその可哀想な様子に気が引けるというものです。

「全く。お父さんはだらしがないわね。せっかくなのはが帰ってきたって言うのに。ねぇ?」
「そうそう。そりゃ結婚っていうのはビックリだけどさ、もうちょっと喜んであげても良いんじゃないかなー」
「そーだよ。こ~んなに可愛い娘が出来たって言うのに~。ほらほら」
「う、うわわ! あんだよ! 急に押すなって!」

 隣に座ったヴィータを、ぐいぐい士郎の方へ押しやるなのは。
器用にソファーの上を横滑りさせると、あっという間に士郎の横へピタリと寄せてしまいます。
がっくりと項垂れた士郎は、ちらりと視線をやり「やぁ、ヴィータちゃん」と搾り出すような声。
お店にいる間は何とか元気を装っていましたが、家に着いた途端。糸が切れた人形のようになり、この有様です。
この無残な様子にヴィータも何かしたいところですが、如何せん人を慰めたり元気付けたりするのは苦手です。
じぃっと見つめるばかりで、その口からは気の効いた言葉は出てきませんでした。

「あ、あの……元気出してください、です」
「大丈夫よ。ヴィータちゃんが悪いわけじゃないんだから。放っておいてご飯にしましょ」
「まあまあ、母さんもそう言わないで。ほら、父さん。こっち見てみなさいって」
「――……ん?」

 美由希は立ち上がりヴィータを抱き上げると、士郎の前に立たせ、万歳のポーズをさせます。
何のことか分からないヴィータと士郎。
戸惑う二人の間を覗き込むようにすると、こう、切り出したのでした。

「こ~んなに可愛い娘がもうひとり出来たって言うのに、何が不満なの?」
「―――ん?」
「む、娘ぇ? ア、アタシが……ですか?」
「そう! ほらほらよく見てよ。こんなに可愛いんだよ? 父さん、可愛い娘が三人に増えて幸せものよね~」
「――う、うん?」

 持った手を旗信号をするように動かし、その可愛さをアピール。
ガックリと項垂れていた士郎でしたが、その動きと"娘"という言葉に、僅かに反応を示します。
脈アリ、と判断した美由希は、そのまま畳み掛けるように続けます。

「しかもヴィータちゃんがお嫁に来たっていうのが重要なんじゃないの! なのははお嫁に行かないんだよ? 分かる?」
「――あ、ああ! なるほど! そうか! なのははお嫁にいかないんだよな!」
「やっと気付いたの? ほらほら、この可愛いお嫁さんに我が家へようこそって言ってあげなきゃ?」
「そうだったそうだった! ヴィータちゃん、なのはとの結婚おめでとう!」
「あ、ああ。はい、どうも、です」

 見る間に元気を取り戻した士郎。
今日初めて見る満面の笑顔で、肩を優しく叩いては愛娘との結婚相手を祝福します。
 元気になってくれたのは良いものの、ヴィータはどう返せばいいのか分からないまま、社交辞令的な返事をせざるを得ません。
男親にとって娘が嫁に行くときに一悶着ある、というのはフィクションの中の出来事であって、まさか本当だろうとは夢にも思わなかったからです。
しかし、今や別人のように――これが普段の姿なのですか――明るく振舞う姿に、あれは本当だったんだ、と思うのでした。

「もう。心配して損しちゃったわ。さ、早くご飯にしちゃいましょ」
「は~い。ヴィータちゃんもほらほら。何時までもこんなダメお父さんに構ってなくていいから」
「いや、待ってくれって。ああ、母さん。悪かったよ、本当に」

 少し大げさに振舞って、自分が怒っているのだとアピールする桃子の後ろを、慌てて追いかける士郎。
 今のこの人を見て、誰が、昔はボディーガードを生業としていたなんて思うでしょう。
そんな父の情けないやらな後ろ姿を見て、この分なら自分達は手伝わなくて良さそうだと、美由希はヴィータの腕を持ったまま、ほくそ笑むのでした。

「え、ええっと。手伝いにいかなくて良いんですか?」
「うん。良いの良いの。あの分なら今日は父さんがなーんでもやってくれるから。ね、なのは?」
「そだね。ああなると今日は一日頭が上がらないモンね」
「ふ、ふーん。そう言うモンなのか……男親ってのは大変なんだな」
「全部が全部、そう言うわけじゃないと思うけど。まあ、ああいう父親もいるってことだわね。さぁて。私たちはノンビリ待ちましょっか」
「はーい。ところでお姉ちゃん。いい加減ヴィータちゃんを返してくれないかなー?」

 あははっと軽く笑いながらヴィータを渡す美由希は、妹の腕の中にすっぽりと納まる様子を興味深げに見つめています。
抱きつくな、と嫌々するヴィータ。
それに全く構うことのない妹。
その妹は、むしろ嫌がられるのが嬉しいかのように腕に込める力を増しているのです。
その内、腕を取ってグルグルと回り始め、勢いにのって抱き上げるとそのままソファーへ一直線。
膝の上にヴィータを抱くその姿に、かなりの年季を見て取るのでした。

「ねぇ、なのは。いつもそうやってヴィータちゃんといちゃいちゃしてるの?」
「そーだよ。こうしてね、膝の上に乗せて頭を撫でたり三つ編みを触ったりすると一日の疲れが飛んでっちゃうんだ~」
「お、お前は良いかもしんねーけどよぉ。うぇ~」
「良いなぁ。私も何か、こう、抱き心地の良いもの欲しい~」
「ダメだよ! ヴィータちゃんは私のモノなんだから! いくらお姉ちゃんでもそこは譲れないよ!」
「なに言ってんのよ。流石に人の嫁を盗るような真似はしないから落ち着きなって」
「……ア、アタシはお前のモノなんかじゃねーぞぉ」

 膝の上でグッタリしながらも意思表示は欠かしません。
しかし、当人達はその言葉に耳を貸すことなく話を続けています。
抱いたまま、さもそれが当たり前のようにしているなのはに、その抱き心地はどうなのだと聞く美由希。
文句の一つでも言いたいのは山々ですが、久しぶりの姉との、友人と接するのとはまた違う、楽しげな様子に口を挟むなんて野暮なことはしません。
仕方なく、嫌だという意思を込めた視線だけに留め、黙って膝に抱えられていることにするのでした。

「さーて。いい加減仲直りしたろうし、私も手伝ってこうよかしらね」
「だったら私も。ヴィータちゃん、降りてくれるかな」
「くれるかなってな。お前が乗せたんだろうが。へん、言われなくたって降りてやらぁ」
「ああ、良いよ良いよ。四人もいたんじゃ台所も狭いしね。新婚さんはここでゆっくり待ってちょうだいな」

 冗談めかすように二人をソファーへ座っているよ促して、手を振りながらリビングを出て行きます。
 一旦はヴィータを持ち上げたなのはでしたが、疲れもあって、素直に姉の好意に甘えることにして、お嫁さんを抱きなおします。
 抱かれ直されたヴィータは、美由希の姿が見えなくなったのを確認して、自分を拘束する腕を軽く抓りました。

「ったーい。なにするの~」
「もう良いだろ? いつまでも調子乗ってんじゃねーよ」
「えー。何にも言わなかったからそのままにして……えへへ、嘘嘘。ありがとう、ヴィータちゃ~ん」
「だ、だからそうやって事あるごとに抱きつくなって言ってるだろ~」
「はいは~い」

 そうは言いながらも、距離を取るでもないお嫁さんに再び手を伸ばします。
口では文句を言いつつ、最近はそれだけになっていることに自覚のないヴィータに甘える、なのはなのでした。


 


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