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新婚なの! 10-1 (2)

 
「まさかこんな朝早く来るとは思わなかったから、母さん慌てちゃったわ」
「ハハハ。母さんは慌てん坊だからなぁ」
「なに言ってんの。一番に台所から飛び出した癖に勢い余って壁に激突したのはどこの誰よ?」
「そうよ。でなきゃ玄関で全員同着になったりしないでしょ?」
「あははは(それでも、お父さんとお姉ちゃんに追いつくお母さんが凄いと思うんだけどなぁ)」

 何とか玄関を抜け出し、愛しの愛娘とその親友を迎え入れた高町家。
朝食もそこそこに全員がリビングに集まり、なのはとヴィータをメインに、桃子に士郎、美由希という順でソファーに座っています。
三人共に寝癖がついたまま、服には皺が寄っていて、激突したという士郎は特に酷い有様です。
久しぶりに帰ってきた娘に、三人は話したいことが沢山ありすぎて逆に上手く口から出てこない様子。
なのはの、まあ落ち着いて、という言葉にも全く効果がないほど。
そんな三人をなのはは笑いながら見ていましたが、その中で一人。左手を隠すようにしながらハラハラとしている人がいました。

『おい、なのは』
「うん? どうし――『どうしたのヴィータちゃん』」
『あのこと。いつ言うつもりなんだよ。そのために来たってのもあるんだろうが』
『あー、そのこと。もう少し良いじゃない。そろそろ翠屋に行かなきゃいけないし、今話したら混乱しちゃうよ?』
『……ホントにそう考えてるなら良いけどな。うっかり忘れてたんじゃねーかと心配したぞ?』
『……あはははは。まっさかー。流石にそれはないよよよ』
「それでね。お父さんったら」
「もう~。相変わらずなんだから、お父さんは~」
「ひ、酷いぞ! 別にそういう意味じゃなくてだな――」
『…………』

 表情を変えず念話で会話する二人。
その間も、なのはは平然と家族との会話を続けています。
魔導師に必須のマルチタスク思考というので、だれも不振に思っていませんがヴィータは少し申し訳ない気持ちがしてきました。
向こうは久しぶりの会話を楽しんでいると言うのに、当の本人は頭半分で聞いているのです。
滞りなく会話のキャッチボールは行われています。
でもそれは表面上のことで、その実、半分は違うことを考えているとしたら悲しくならないか――そう考えたのです。

『まあ、今日のお昼には……』
『分かった。それはもう良い』
『へ? もう良いって、どういうこと?』
『せっかく帰ってきたんだからよ。今のはアタシが無粋だったって言ってんの』
『……? う、うん、分かった。ここはちゃ~んと私から言うから、ヴィータちゃんは安心しててねー』
『……へいへい。頼んだぞ』

 どうにも心配だ、思うヴィータに対し、ニコッと笑って応えるなのは。
どうにも驚かせようとそのタイミングを窺ってるんじゃないか?との気掛かりに、余り踏み込めない。
下手を打って、なのはの家族の前で見っとも無い姿を見せたくはありませんから。
もし、それを見込んでの言動なら――今のなのはならあり得ないとは言い切れない。
これが結婚報告の後ならば構わないのですが……こちらにも、それなりのプライドと言うものもあるのです。

「ところでなのは? どうしてヴィータちゃんと一緒に帰ってきたの?」

 一体どうやって切り出すのか、と眺めていたところで、不意に切り出したのは桃子でした。
士郎も美由希も、その指摘によって、初めて"ヴィータが一緒に帰ってきたこと"を不思議に思ったようで、顔を見合わせています。
 寧ろそっちの方が驚きだよ……
その様子に、改めて、なのはは高町家の人間なのだなぁ、と思うヴィータ。
そう思うのと同時に、隠すようにしていた左手の薬指が熱を帯び始め、自己主張を激しくし始めました。
隠れて見えないはずの左手を、更に隠すように後ろへ思わず引っ込めてしまいます。
それと呼応するように、視界の端のなのはは、デレっと目じりを下げては、頬がぽうっと紅潮させます。
――コレは一体!?
 高町家の面々に緊張が走ります。
この反応はただ事ではない――
士郎は、男でも出来たか!?と戦々恐々とし、まだ名前も知らない相手への殺意にも似た感情を全身から滲ませています。
美由希は父の変化に、ヴィータちゃんと関係ないじゃない、と冷静に分析したりしながらも、なのはの次の一言にワクワクと心躍らせています。
そして桃子。
なのはの反応とヴィータが隣にいることに、まさか?と思いながらも、何だか楽しそうね、と楽観的に構えています。
そんな高町家の面々の反応を他所に、一人デレデレと目尻を下げているなのは。

「あのねぇ。実は、私。高町なのは――いったーい!」
「バカ! もうちっとシャキっとしろ」

 デレデレと、身体をクネクネさせながらの砕けた様子に、思わずわき腹を抓ってしまうヴィータ。
涙目に見つめますが、しっかりしろ、とその大きな目で訴えかけられれば、なのはも従わざるを得ません。
オホンと咳払いを一つ。
気を取り直したなのはは、改めて家族に向き合うと、凛としたよく通る声ではっきりと言いました。

「私、高町なのは。この度ヴィータちゃんと結婚しましたことを、ここに報告させていただきます!」
「…………?」
「…………え、え?」
「……あら。本当」
「えへへー。そういうことなのです。ねぇー、ヴィータちゃ~ん」
「ひ、ひっつくなって! そういうちゃんとしないとこがダメだって言ってんの!」
「照れない照れない~。結婚報告はちゃんとしたんだからぁ」

 報告した途端、ヴィータを抱き寄せ頬擦りするなのは。
いつも通りに嫌がるヴィータと、いつも通りに構わず続けるなのは。
向かいに座る3人など放っての、余りに慣れた様子。
いままで、数々の普通では体験しえないような出来事に見舞われてきた高町家の面々も、流石に度肝を抜かれたようです。
どうあっても、やはり人の子。いえ、人の親、といったところでしょうか。

「ほ、ほれ。まだなんか言うことがあるだろ」
「なにが? 結婚報告ってこれぐらいだよ。ねぇ、お母さん。何か聞きたいことある?」
「――え、ええ。そうね」
「ま、待て待て待て! なのは、ヴィータちゃんと結婚したって言うのは本当か!?」
「うん、本当だよ。ね、ヴィータちゃん」
「あ、ええっと……」

 三人の視線が、ぐぅっと自分に集まります。
なのはが嘘を言っているとは思えなくとも、名前の挙げられた人物の発言は要、注目。
やっとのことでなのはから離れるものの、今度は、その視線に絡め取られたかのように動けなくなってしまいました。
三者三様。
敵意は全くないというのに、これだけ動けなくなるなんて――ヴィータは脇の下を汗が流れていくのを感じるのでした。
そうは言いながらも、話を振られてしまった以上答えなければなりません。
手前から順に視線を送っていきます。
平静を装いながらも、興味津々な桃子。
額に汗を浮かべながら身を乗り出すようにしている士郎。
隠そうともせず、ニヤニヤしながら眼鏡の奥で瞳を輝かせている美由希。
それぞれの思惑を秘めた視線。
しかし、そんな自分に注がれる視線の中。
ジリジリと焼けるようなそれは、自分の真横から感じられます。
 いま視線を合わせたらダメだ……!
ヴィータは経験に則っとり、顔を前に向けたまま旦那に意見を求めたりしないのでした。

「い、いい今、なのはが言ったとおりで、その……け、けけけけ――」
「ゴクリ……」

 膝の上で拳を固く作り、背筋をピンと伸ばしてしっかりと向き直りますが、グングン体温が上昇してそれどころではありません。
しかも、自分に集まる視線は更に熱を帯びていって、本当に焼けてしまいそうです。
この事態を打開するには、さっさと言うことを言ってしまわないといけないのですが、身体が全く言うことを聞きません。
喉だけでなく口の中までカラカラに乾き、飲み込む唾もないので乾きは酷くなるばかり。
脇だけでなく、顔も背中も、手の平にも汗をかいて、これだけ緊張するのは久しぶりです。

「あ、ああう……」
「ほら。ヴィータちゃん、頑張ってー!」
「なのは? それは応援するところじゃないと思うんだけど」
「わ、わわわわーってるよ……む、むぐぐ! ええーい!」

 立ち上がり、新兵がするように直立不動の構えを取ります。
ゴクリ。
目の前の三人の喉が下る音が聞こえたような気がしました。
 躊躇するな。別に大したこっちゃねーじゃん。
何度も頭の中で呟きますが、一向に緊張が解れる様子もなく、足の震えは全身に広がっていきます。
注がれる視線から逃れるように、僅かに顎を上げ、恥かしさを吹き飛ばすように大声を上げるのでした。

「こ、この度! ワタクシ! 八神ヴィータは! 高町なのはと結婚いたしましたー!」
「ほ、本当なのかー!」
「お父さん、そのツッコミは変だと思うよ」

 顔を真っ赤にし、湯気を立ち上らせて今にも倒れそうなヴィータ。
思わず腰を上げ、こちらも倒れそうにビックリしている士郎。
余りに情けない父の姿に仕方なく突っ込む美由希。
その間もヴィータから視線を放さない桃子は、いい加減固まったままの二人をどうにかする為にゆっくりと立ち上がりました。


 


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