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新婚なの! 10-1 (3)

 
「そうなの。おめでとう、二人とも。ほら、お父さんも何か言ったらどうなの?」
「え? あ、ああ。そう……なのか? いや、まあそうだけど」
「あたしもちょっと驚いちゃったというか、う~ん」
「もう二人とも。だらしないわね。さ、ヴィータちゃん。腰を下ろしなさいな」
「は、はい!」

 軽く肩を抑え、ゆっくりとソファーに腰を下ろさせます。
いまだ身体の震えが抜けないようで、その小さな膝と、そこで丸められた手が小さく震えているのを見逃しません。
大丈夫よ、と落ち着かせるように、揺れるアンテナ頭を優しく撫ぜれば、大きく息を吐き、それと共に緊張も抜けていったようでした。
俯き加減の表情は窺えませんでしたが、もう大丈夫だろうと、情けない二人の間に腰を降ろします。
それを合図に士郎も腰を下ろし、美由希は眼鏡のズレを直しました。
そうこう母親がしている間も、娘は一人、デレデレと自分の嫁を見ているだけです。
 この場でまともな話を出来そうなのは私だけね――
そう判断した桃子は、なのはに声をかけます。

「ところでなのは。結婚したのはいつなの?」
「え~っと、そうだなぁ。1ヶ月……もうちょっと前かな。まだあんまり寒くなかった頃」
「もう。そうならそうと早く連絡しなさいな」
「ちょ、ちょっと待って母さん。両親の同意とかいらない訳? なのははまだ未成年でしょ?」
「その辺ミッドは少し違うの。二人とも働いてるし、管理局務めだから。未成年でも両者の合意だけで良いの」
「まあ、就学児童が働いている時点で言いっこなしかも……」
「い、いやいや! それより大きな問題があるだろう!? そもそも女の子同士で結婚ってのはどうなんだ!?」

 士郎の疑問は尤もなのですが、それすらもなのはは涼しい顔をして答えます。
その答えに改めて世界の違いを実感させられる三人。
口をあんぐりと開けたまま、ソファーにへたり込むようにしている父親に、美由希は小さく溜息をつくのでした。
男を連れてきた時のことを考えれば恐ろしいことになってただろうけど、これはこれで目も当てられない姿だなぁ、と。

「とにかく。私たちはお店を開けなくちゃいけないからもう行くけれど、大丈夫?」
「あ、あー! そうだった! こんなゆっくりしてる場合じゃなかったよ! ほら、お父さん! 何時までそんな顔してるの!?」
「…………もう少し、このままでいさせてくれ――」
「甘ったれてないの! ほら、いくよ!」

 まるでヌイグルミか何かのように引きずられていく父の姿に、苦笑するなのはと桃子。
いまだ視線を合わせられないでいるヴィータに「ゆっくりしていってね」と声をかければ、ハッと顔を上げて頷いてくれます。
それを確認して、足早に二人の後を追い、情けない父親を二人で引き摺っては家を出て行きます。
何だかあっという間だった、結婚報告の興奮冷めやらぬリビングに残された二人。
桃子に声をかけられながらも、まともに返事が出来なかったヴィータ。
その事を悔いていると、隣のなのはが、クスクスと声を殺して笑っているのが聞こえます。
人がこれだけ緊張しているっていうのに、この気楽さはなんだ、と頭の上で笑う旦那に段々と腹が立ってきました。

「……あに笑ってんだよ、なのは」
「ふふふふ。べーっつに。なんでもないよ、なんでも」
「何でもないことないだろ。お前は何でもないのに笑ったりすんのかよ」
「そーだね。箸が転んでも可笑しい年頃だから?」
「聞くなよ。ったく。こっちがどんだけ苦労してあの一言を搾り出したと思ってんだ……」
「なぁに? もしかして私に褒めて欲しかったの? うんもー。そうならそうと言ってくれれば良いのに~」
「んぎゅ! 急に抱きつくんじゃねーって!」
「だったら今度から徐々に抱きつくね~。それとも抱きしめた方が良いかな?」
「どっちにしろ同じだろーが! 放せ、放せって!」

 見た目にも分かるほど頬を膨らませて拗ねるヴィータを抱き寄せては、ギュッとその顔を胸に埋めさせます。
腕の中でモゴモゴと動いては、わき腹を掴んだりポコポコと叩きますが、それすら楽しいぐらい。
ヴィータはこうしていると負けてしまうのが分かっているので、久しぶりに頑張って抵抗を試みているようです。
それを余計に面白がって放さないなのはでした。
 ちくしょう、このままじゃ……
ここは自分達の家と違ってなのはの実家なのですから、いくら二人きりでも、ベタベタしているのは悪いことのような気がします。
そう思って色々試してみるものの、頭を撫で続けるその手に、段々と抵抗心が萎んでいくのが自分でも分かりました。

「…………あれ? もう良いの?」
「……べっつに。ちょっと疲れたから休んでるだけ。元気になったらまた始めるぞ」
「そっか。ならそれまでこうしてて良いんだね?」
「――勝手にしろ。こういう時ぐらいゆっくりしてーんだよ。一々怒ってたら疲れちまうからな」
「そだね。普段からもうちょっと心に余裕を持った方が良いと思うよ。私もゆっくり抱きついてられるしー」
「バーカ。お前が一々アタシを心配させたりするから疲れるんだろうが。ゆっくりしてらんねーんだよ」
「あはははは。そうだったね。ヴィータちゃんにはいつも心配かけてばっかりだから」
「……そうだな。心配ばっかだ。アタシも――フェイトも」
「……そだね」
「だから。ちょっとだけゆっくりさせろ」
「はーい」

 物音のしない、二人きりの静かなリビング。
お天道様の光が差し込む窓の向こうからも、通勤通学を思わせる音は殆ど聞こえてきません。
その中で、大き目のアナログ時計が、チクタクと時を刻む音だけが聞こえてきます。
背中で日差しの暖かさを感じながらヴィータの頭を撫で、満足げに目を細めるなのは。
時計の針に合わせるように、耳に伝わる鼓動に目を閉じ、大人しくするヴィータ。
本当にさっきまでと同じリビングなのか、と思わせるほど、辺りは静寂に満ちていました。

「ねぇ、ヴィータちゃん」
「……あんだよ。まだ休憩中なんだ」
「やっと報告できたね。これで結婚の大仕事は一段落ってところかな?」
「時間、かかっちまったけどな。後は近しい人だな。メールだけじゃなくて、ちゃんと顔を見てさ」
「そうだね。私はアリサちゃんとすずかちゃん、かな?」
「その点アタシは楽だ。こっちの世界にゃいないからな。ま、リンディさんぐらいか」
「そだね。エイミィさんにも会わないと。カレルちゃんとリエラちゃんも久しぶりに抱っこしたいし」
「アルフの顔も久しぶりにな。滅多に会いにいけないしよ」

 抱っこされたまま、これからの予定を口にするヴィータ。
なのはは、たまには素直に抱っこされてくれれば良いのに、と思いながらも下手を言って怒られるのもイヤなので黙っています。
これはある意味ヴィータも同じで、もう少し素直になっても良いような……などと、決めかねているようです。
ただ、抱っこして、抱っこされてしまえば関係なく、お互いに黙ってその状態を維持するのでした。

「ずっとこうしてるのも良いんだけど、お昼まで時間あるし、どうしよっか?」
「……う~ん、そだな。ちっとはゆっくりして良いんじゃねーか? 久しぶりの実家だろ?」
「ヴィータちゃんがそれで良いなら良いけど」
「くっだらないね。いつもの我侭ぶりはどうしたんだよ」
「えへへー。じゃあ我侭言っちゃうねー!」
「んぎゅ」
「じゃあこのまま抱っこだよー」

 膝の上に乗せ、しっかりと抱えます。
実家に帰ってきたせいか、幾分かテンションが高くなってしまっているようで、腕の中のヴィータが戸惑っているのが分かります。
しかも、その戸惑いは、"旦那の実家"という、慣れない環境に変に高揚しているのも手伝っているように、感じられました。
引っ越す前。
何度か遊びに来て知らない家ではありませんが、その家でつい先日まで"他人"だった相手と抱き合っているのです。
そうならない方が変かもしれません。
でも、その戸惑いに似た感情は、ヴィータだけでなく、当然自分にもありました。
久しぶりの実家で数年来の"友人"と抱き合っているんですから。
お互いがお互いに。
普段と違う環境に、胸のうちを高ぶらせているのでした。


 


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