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新婚なの! 10-6 (2)

「……ねぇ。色々聞きたい事があるって言ったわよね?」

 席に着くなり、お茶の一杯に口をつける間もなくアリサが切り出しました。
 これが普段であれば、すずかも口を挟んだかもしれませんが、今ばかりは黙っていたようです。
 精一杯に平静を装って、見っとも無く貧乏揺すりなどしている親友の姿を見れば、当然かもしれませんが。

「うん。纏めてあるから覚悟しなさいって。覚悟できてるわけじゃないけど――ええ、不精なのは認めますです」

 思わず眉間に皺の寄ってしまったアリサの視線に、強引に言葉の終わりと取り繕うなのは。
 明らかな取り繕いに呆れながらも、「分かってるなら今度からメールぐらいなさい」と半ば諦めにも似た感情が読み取れたのは気のせいでしょうか。
 しかし、そのままで終わらないのが、ある意味怒り心頭のアリサ・バニングス。
 見事に切り替えて見せると、なのはを見つめ直します。

「じゃあいきなりだけど本題に入るわ。考えてた事と全然違うことになっちゃったけど」

 ふぅ、と溜息を吐き、頬杖を突くその視線に、ヴィータは思わず喉を上下させるのでしたが、一番気にしなければならない人物は知らん顔。
 自分の伴侶のその態度に、また怒られるぞ、と心配ながら、頬杖を突いたままのアリサから飛び出した言葉は予想通りのものでした。

「あのね、なのは。アンタとヴィータの関係って……どうなってるの?」
「そ、それは……また直球だね、アリサちゃん」

 聞かれないと思っていた話題のために戸惑っているのか、言いづらい為に口ごもるのか。
 どちらとも言えない態度のなのは。
 やっぱりこの子は一度性根を叩き直さなきゃいけないかしら――アリサは横に座る親友に同意を求めます。

「嘘は下手なんだからさっさと正直に言った方が楽よ? ねぇ、すずか」
「私に同意を求めないでくれるかな。一番気になってるのはアリサちゃん自身なんだから」
「……か、肝心なところで手を離すタイプね」

 唖然とするアリサの表情に思わず噴出すなのは。
 かぁっと顔を赤らめては「ほ、ほら! 早く言いなさいよ!」とのん気に構えるなのはに、身を乗り出さんばかりの勢い。
 "予想通り"なアリサの態度を楽しんでいるかのようなすずか。
 すずかさんってこんな人なのか……と思いながらも、さっぱり自分の置かれた状況を分かってなさそうな伴侶に、内心突っ込むヴィータ。
 件の伴侶は、すっかり余裕の態度なのですが、がうがうと噛み付かんばかりのアリサに、いい加減覚悟したのか、打って変わって、凛とした表情で見つめ返します。

「あのね、アリサちゃん、すずかちゃん」

 その声と表情に、思わず息を呑み、黙るアリサ。
 昔からこの手の雰囲気に迫力のある子でしたが、管理局ので経験がそうさせるのか、以前と迫力が違うのでした。
 大人しく腰を下ろすアリサに、大方予想でもついているのか、落ち着き払った様子のすずか。
 それでも、なのはの隣のヴィータは、どうも落ち着きません。
 それは、なのはとの結婚のことではなく、その後に訪れるであろう、嵐の予感からでした。
 そんな、ヴィータの心中とは別に、なのはは深呼吸の後。
 ゆっくりと口を開くのでした。

「私ね。私とヴィータちゃん――結婚したの」
「……………………は?」
「そうなんだ。おめでとう、なのはちゃん。ヴィータちゃん」

 一瞬の、それでいて長い、長く感じる沈黙の後。
 至って冷静に、何事もなかったかのように、すずかは祝福の言葉を述べます。
 既に胃がキリキリとし始めたヴィータに対し、なのはも至って普通に、ありがとう、と返します。
 そんななのはであっても、流石に今だ黙りこむ――まだ非常に僅かな時間かもしれませんが――もう一人の親友の様子は気になったようです。

「あれ、アリサちゃん、どうしたの? そんな顔して」

 なのはの向かいに座る二人の表情はとても対照的です。
 すずかは祝福の言葉を述べた通り、にっこりと、心休まるような笑顔を向けてくれています。
 そしてその隣に腰掛けるのは、これでもかと目と口を見開いたアリサ。驚きのあまり声も出ないようです。

「どうしたの、じゃねーだろ。驚いてんだよ。分かれよそれぐらい……」

 流石に言ってやらねばなりません。
 溜息混じりの言葉は、なのはの返事によって更に大きな物になるのです。

「え~、でもそんなに驚くことかな。あ、でも普通に学校に通ってたら高校生なわけだし、確かにちょっと早いかも」
「ねぇ、なのはちゃん。多分ね? 早いとかそういう問題じゃなくてお相手のことを言ってるんだと思うよ」

 なのはとすずか。
 表面的には同様に冷静と言うか、落ち着き払っていますが、その裏に潜むものは全くの別です。
 なのはのそれは、すっ呆けているとも取れる、事態を理解していないというか、驚く意味が分からないといった風。
 すずかは、全くに冷静以外のなにものでもなく、慌てふためいては勿体無いじゃない、といった多少不謹慎な考えが含まれているのでした。
 そんな中。
 事態を理解しながらも、楽しむなんてとんでもない、どこが冷静でいられるのだ、と言いたげな、先ほどから表情を変えない人がいました。

「――お、おおおお」
「大? 大きい事はいいことだ、みたいな」
「――驚くに決まってんでしょうがーっ! だ、大体普通結婚するってだけで驚きなのにどうして相手がそうなってんのよーっ!」

 声とともに立ち上がり、はしたなく盛大にテーブルに手をつき、乗り上げんばかりの勢いで、なのはに詰め寄ります。
 思わず仰け反りびっくりしますが、ビックリするだけ。
 その態度が余計にアリサの心に火をつけるのを分かっていないのか、久しぶりだから忘れていたのか。
 どちらにしろ、こうなると流石のすずかも止めるのが難しい――いえ、まだ止めるべき事態ではない、と思っているのかもしれません。

「ええっとね。ヴィータちゃんとは彼是二年ぐらい同棲しててです――ゲフッ」
「しれーっと嘘吐くなよ。一年とちょっとだろうが」
「そういう問題じゃないと思うよ、ヴィータちゃん。同棲してたって事実がまたアリサちゃんを混乱させてるみたいだから」

 肘鉄を打ち込んだヴィータに対し、自身の言葉が更に油を注いだと、親切にも教えてくれるのは、ニッコリ顔のすずか。
 馬鹿なこといって、となのはに呆れていた自分が、まさか同じことをしているとは。
 しまったと、思う間もなく、油を注がれた火が伴侶に降りかかるのでした。

「ど、同棲ですって!? 一体何がきっかけでそう言うことになっちゃうわけよ! しかも一年ちょっと!? それって中学出てすぐじゃない!」
「直ぐって言っても半年は経ってるよ。あ、でもそもそもって話だからやっぱり二年ぐらい経ってるよ? ヴィータちゃん」
「……そういう考え方もありかもしんねーけど、いまアリサさんが聞きたいのはそういうことじゃねーだろ」
「私もそう思うな。ほら、早く答えないとまた――」
「あ、あたしの質問に答えなさい! すっとぼけんじゃないわよぉ!」
「おお、落ち着いてアリサちゃん。順を追って説明するから。ね、ね? ヴィータちゃんも協力してくれるし」
「この状況で落ち着けとかアンタこれがどういう状況か分かってんのー!?」
「ほ、ほれ見ろなのは。あんまアリサさんを待たせるから……」

 絶叫。
 少し大げさかもしれないけれど、"お嬢様"な年頃の女の子が上げる声だとすれば、充分にそうと言えるのではないかしら。
 それだけの声を上げ、乗り出したまま肩で息をしているアリサ。整えた髪の毛も振り乱して前髪が滅茶苦茶です。
 そうさせている張本人と、すずかの勧めで何とか席に着くアリサですが、到底収まるものではなく怒りにも似た感情を全身から漲らせています。
 何とか腰を下ろしてくれたことに安心する二人。
 けれど、なのはの隣に座る、この騒ぎのもう一人の中心人物は、小さく、小さくなっていたのです。
 はやてと仲良し五人組の中では、モノをはっきり言うタイプだと思っていましたが、ここまで感情を顕にするのは初めて見たわけですから。
 その上、アリサの溢れるオーラに、どこからそんな余裕が生まれるのかと思わせる旦那が、下手なことを言わないかの心配が拍車をかけます。
 そんな余裕のなのはといえば、カップを傾け、咳払いを一つ。
 少々砕けた感じで説明し始めました。

「えっとね。まずはヴィータちゃんが一人暮らし始めたのを聞いた辺りかな」
「へー。はやてちゃんと今は一緒に暮らしてないんだ? またどうして?」
「え? ええっと……ちょっと勤務地への通勤がちょっと大変で。それで少し離れたところで一人暮らしすることになったんです」
「よく考えてみればそうだよね。はやてちゃんと一緒に暮らしてて、そこへ入っていくのは大変だもの。それで?」

 少しばかり、別なことに意識を向けていた為に、一瞬詰まりながらも、なるべく簡潔に説明するヴィータ。
 言われずとも分かっていた、と言わんばかりの態度を隠し、表面上は納得、といったすずかは、わくわくと、なのはに促します。

「それでね。お引越し祝いに遊びにいったんだ。それが良い部屋でね? 高かったんじゃないって聞いたら、ヴィータちゃんが――」
「……脱線してないでしょうね? その部屋の話は」

 低い、ジットリとしたアリサの声に、なのははハッとして、愛想笑い。
 脱線しかかってたんだ――その場にいた、なのは以外の人間は思わず溜息をついてしまうのです。
 ……表か内かの違いはありましたが。

「えっと、それでね。私も本局――これは時空管理局の本部で、ヴィータちゃんもそこにいるの」
「それでそれで?」
「何ていうのかな。何度か遊びに行ってるうちに居心地が良くて、こう、ズルズルと……って感じです」

 悪びれた様子もなく、えへへ、と照れ笑いするなのは。
 なんで怒ってんのかしら、私……アリサはイライラを通り越して、何だかバカらしくすら感じられてきたのです。
 なのはは昔からこういう子だったような気もしますし、そうじゃなかったような気もします。
 ならば、怒っても仕方なく、こんな友人を持った自分を恨むほかありません。
 しかしそんな親友が結婚!
 その上、その相手が全くの予想外。ううん、予想外というか、大穴にすらならない子だったのですから、そんな事実の前では些細な問題でした。
 そんなこちらの心境を知ってか知らずか。
 のんびりと喉を潤すなのはに、アリサは更にガッカリします。

「な、なんていうかダメ男一直線な感じね……」
「だとすると、ヴィータちゃんはダメ男のせいでヒドイ目に会う男運のない女の子だね」
「ヒドイ! 私はそんな男じゃないよ!」

 力強く否定するなのはに、突っ込むとこはそこじゃねーだろ、とヴィータ。
 えー、と不満げななのはに、更に追い討ちをかけます。

「だけどな。大体当たってる気がするぞ? ……アタシが言うのもなんだけどな」
「ヴィ、ヴィータちゃんまでそんなこと言うなんて……夫婦のお互いを助け合うっていう美しい愛はどこへ行ってしまったの!?」
「どこも何も初めからねーよ」

 だったら、普段からもっと助けてくれ。
 付け足された言葉に、なのははぐっと黙ってしまい、アリサからは驚きの声が聞こえます。

「あんたって子は……一体向こうに行ってから何やってたわけ!?」
「まあまあ、アリサちゃん。まだ話の続きがあるんじゃない? まだ同棲が始まったところまでだよ?」
「くっ。そ、そうね。あたしが話を脱線させちゃ元も子もないわ」

 すずかの一言になんとか冷静さを取り戻そうとするアリサ。
 用意されたお茶を一杯。ぐぃーっと飲み干し、ソーサーに戻す姿はとてもお嬢様とは思えません。
 慎ましい中にも美しさを保つカップもソーサーも、作られて以来これほど雑に扱われたこともないだろうと言うぐらい。
 幾分か落ち着きを取り戻したアリサを窺いながら、ヴィータも一口。
 緊張の為に喉はカラカラに渇き、もっと早くに喉を潤わせたかったのですが、場の空気がそれを躊躇させたのです。
 このヴィータの気遣いが、その数分の一でもあれば――との声が聞こえてきそうです。
 そんなヴィータでしたが、きっと美味しいお茶だったろうに、さっぱり味がしませんでした。
 それはアリサの発する空気でも、なのはが余計な事を言わないか、という心配でもありません。
 勿論。それらが全くないわけではありませんが、決して多くはなくなっていました。
 何故なら。
 それは――なのはがどうして自分のところに来たのか?という問題が、本人の口から語られるのです。
 何となく分かってはいたものの、はっきりとした事は本人の口から聞いていません。
 アリサと同様に、ヴィータも疑問に思っていたことだったのです。
 そのために、先ほどのすずかの質問にも、一瞬詰まってしまったのでした。

「えっとね。遊びに行って遅くになると"ご飯食べてくか?"って聞いてくれるの」
「そ、それはちょっと違うんじゃ……」

 突っ込むアリサを無視し、なのはは続けます。

「朝一で出かけなきゃいけないときがあってね? 家に帰るのが不便だって気を利かせてくれてお泊りしたのが初めてだったかなぁ。その時は一週間ぐらいお泊まりしたの」
「いきなり一週間はやりすぎじゃないの……」
「仕事のスケジュール上そうなっちゃっうんだもん。それで何かにつけてヴィータちゃんが心配してくれるし、持って帰るのが面倒だなぁって」
「それでヴィータちゃんの家にどんどん荷物を増やしていったんだ?」
「人聞きが悪いよ、すずかちゃん。そんな計画性はなかったんだよ、ホントホント」

 興味津々――他二名とは違う理由で――な、すずか。
 なのはは口ぶりこそ、不本意だと言いたげですが、その空気は決して悪くありません。
 段々と話を飲み込む気になってきたアリサは、何とか冷静に疑問を呈します。

「んで? 段々荷物も増えるからヴィータの家にいる時間も増えていったわけだ」
「逆かな。自分の家に居る時間が減っちゃった、ていう感じ。この違い、なんとなく分かる?」
「分かるような分からないような。どっちにしろ、そうやってヴィータと同棲するって事実を積み上げていったわけね……はぁ」
「そーいうことになります。ふぅ、疲れたぁ」
「お疲れ様、なのはちゃん」

 呆れた顔で大きく溜息を吐くアリサと、ニコニコとなのはを労うすずか。
 一つ任務を終えたかのように、背もたれに身体を預けグッタリとしながら、一口休憩するなのは。
 しかしヴィータは一人、なのはの話を反芻し、ジッと考え込んでいました。
 確かになのはの話に嘘はありません。短くする為に随分端折った部分もありますが、概ね要点を押さえています。
 それでも。何か抜けているような気がするのです。
 一番重要で、それが自分のところにきた最大の理由で――今の今まで自分が忘れていたもの。
 なのはの話によって浮き彫りになり、忘れていたことすら忘れていた、ぽっかりと穴の開いたように欠落した――それが何なのか。ジッと考えていたのでした。


 


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