« 新婚なの! 10-5 (2) | トップページ | バナーですよ、バナー! »

新婚なの! 10-5 (3)

 
 街中から郊外まで、定期的にぐるぐると回っている路線バス。
 少し大きな通りに出て、それに乗り込み、今日の目的地、アリサの家を目指す二人。
 路線バスは住宅街を抜け、海沿いの道路に出ます。
 今日は天気がよく、窓を開けても良さそうな気がしましたが、海沿いは風が冷たく、それは躊躇われました。
 その、自分たちと外とを隔てるガラス窓の向こう。
 お天道様の光を受けた海面は、それに負けないぐらいに眩しく輝き、思わず目を細めてしまいます。

「いい天気になって良かったねー」
「ああ、そうだな」
「これは、私の普段の行いが良いからじゃないかな?」

 どうだ、と言わんばかりの態度に、ヴィータは思わず溜息を吐いてしまいました。
 それが、その楽観的な考えに呆れたのか、厚かましさになのか。はたまた両方なのか。
 にっこりと笑うなのはの顔を見ながら、どっちなのだろうと考えましたが、別に溜息の原因を突き止めたところで、どうしようもありません。
 決して自分が優れた表情をしていないだろうに、それでも変化のない伴侶。
 まあ、この笑顔が嫌いなわけでもないのだし、別に良いか、とヴィータは適当に生返事をしておくのでした。
 そんな、二人ぐらいしか乗っていない路線バスは、ゆるゆると昇っていくお天道様の陽を受けながら、街中に入っていくのでした。

「変わってるようで変わってないっていうか」
「何がさ」

 街中に入り、窓の外を眺めるなのはが、呟きます。
 主語がないそれは、何を指しているのかさっぱり分からず、思わず聞き返してしまうヴィータ。
 そうした直後に、何かこれは罠なのではないか、と警戒を強めたのですが、それは全くの杞憂で、なのはは相変わらずの視線です。
 こちらの声が聞こえてなかったのか?
 心配になったヴィータが声をかけようとしたとき、なのはは、呟くように答えました。

「街の景色」
「景色?」
「うん。自分たちがいない間に、すごく変わってるんじゃないかなーって思ったんだけど」
「三年も経ったわけじゃねーんだし。そんな直ぐには変わらないだろ。特に街中の大きなビルとかはさ」

 自分の否定の言葉に、なのはは、ふーん、と気のない返事。
 その返事は、先に呟いた言葉とは明らかに感じが違い、取りあえずヴィータは安心するのでした。
 先の呟きには、明らかに寂しさというか、感傷に浸るようなモノが含まれていました。
 それが、生返事と化したそれには含まれておらず、励ますことはしなくとも、"取りあえずは"上手くいったのではないかと。

「……そうかもね」
「だろ? ま、その内変わってくんだろうけどさ」
「その内……でも何だか寂しいな、そういうの。自分の生まれ育った町なのに、ね」
「ふうん」

 二人を乗せたバスは街中を抜け、窓の外に見える景色は、だんだんと背の低いものになっていきます。
 住宅街の人通りを横目に、郊外へ進み、人も家も少なくなっていきます。
 いよいよバニングス邸が近づいている証拠です。
 それに合わせるように、口数の少なくなっていくなのは。
 ヴィータとしては、相手が喋らなければ、自分から口を効くこともないと思い、同じように黙っていました。
 そのまま二人は、最寄のバス停で降車。
 走り去るバスの煙に咳き込むヴィータが見上げれば、そこには少し寂しげな瞳のなのはが立っていました。

「さて。久しぶりに親友に会うんだからよ、そんな時化た面してると変な勘ぐりされるぞ?」
「あ、えへへ。そうだね。アリサちゃんに怒られちゃうかも」
「しっかたねぇな」

 軽い笑いを交えながらも、既に見えなくなったバスを未だに見るように、視線を遠くに投げるなのは。
 並ぶヴィータは、こういうとき。身長差があることを有難く思います。
 無理に視線を合わせるなりしなければ相手の顔を見ることもありませんし、相手から見られることもありません。
 普段は恨めしいこの埋められない差。
 たまには役に立ってもらわないと割に合わない。
 腐るような、諦めにも似た感情を握りつぶすように、ヴィータは黙ってなのはを待つのでしたが――

「……っわ! な、なにすんだよ」
「んーとね。こうするのが一番元気出るからー、かな?」

 視界の外から回された手に抱き寄せられる。
 文句を言おうと見上げた先にあるのは――にっこり笑ったなのはの顔。
 こんな顔されちゃ、なんにも言えないじゃねーかよ……
 眉を顰めながらも、なのはの気持ちが分からないでもないのですから、普段よりも押さえ気味に、"一応"文句を言いことにます。

「――あ、あっそ。だからってな。もうちっと前置きしろって。いきなりだと驚くだろうが」
「だって。断りを入れたらヴィータちゃん、ダメだーって言うでしょ? だから」
「なんだよ。それはアタシが悪いって言いてーのか? そんなのな、お前が時と場所を選ばずにするから悪いんだろ? 違うか?」
「私としてはちゃんと考えてしてるんだけど。う~ん、ヴィータちゃんと考え方が違うのかなぁ」
「けっ。白々しい」

 わざと嫌味ったらしく言うも、いつも通りに、軽く笑って返すなのは。
 今、なのはは自分を抱き寄せながらどんな顔をしているんだろう――気にならないわけではありません。
 その"どんな顔"というのは、当然に、表に出ているモノではなくて。
 それが分かっているなら。
 このまま無視し続けるのか。それとも一言声をかけるべきか。
 以前だったら、無視してたかもしれない。
 けれど、今は曲がりなりにも夫婦なんだから、何かすべきだ、という選択肢が当然に浮かんできます。
 しかし、そうしたところで、こういう時に気の効いた言葉の思いつかない自分が際立つだけで。
 結局何も出来なくて、それを情けなく思うばかりで、それを言い訳がましく、何もしない自分がイヤになるのでした。

「……さ、行こうかヴィータちゃん。何時までも道端でこうしているわけにもいかないし」
「――ん。そうだな」
「あれ? 今日は怒らないの? いつもはこんな人通りの多いところで~とか言うのに。あ、私は勿論怒られない方が嬉しいんだけど」
「分かってんだったら普段からすんなって。まあ……良いんだ、今日ぐらい。滅多に帰ってこないんだからよ」
「……そっか」

 思ってもいないことを――何も思いつかなくて。
 なのはに気を利かせたつもりで。けれどそれは、自分への言い訳で。
 そんなヴィータの心情に、なのはが気付いていないわけがないのに。
 それに気付かないのは、肯定出来ない自分への卑屈さが目隠しになっているのか、それとも。
 自分が思っているほど。
 気が利かないでもなく、何も出来ていない訳でないのに。

「ねぇ、ヴィータちゃん」
「うん? なんだよ」
「――そろそろ行こうか。アリサちゃんに叱られちゃう」
「そうだな。せっかく久しぶりに会うのに怒ってちゃ台無しだからな」
「は~い」
「まったく。怒られるんじゃないと動けないなんて、どこの子供だよ。世話するこっちの身にもなれっての……」
「ゴメンね、世話のかかる旦那様で」

 精一杯の甘えで、お嫁さんを肯定してあげているのに。
 それに気付かないのは、やはり、ヴィータ自身になにかあるせいなのでしょうか。

 


 
 新婚なの! 10-6 (1) >

 

|

« 新婚なの! 10-5 (2) | トップページ | バナーですよ、バナー! »

新婚なの!」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 新婚なの! 10-5 (2) | トップページ | バナーですよ、バナー! »