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新婚なの! 10-4 (1)

 
 おやすみなさい、の挨拶を交わし、なのはの部屋へ引き上げていきます。
声をかけたときは元気を取り戻したかに見えた士郎でしたが、二人仲良く並ぶ姿にまた凹んだようでした。
"可愛い娘が増えたんだから~"という美由希の言葉をもってしても、「なのはが結婚」という事実は重いものなようです。
余りに哀れなのか、ヴィータが酷く心配するのでしたが、桃子と美由希の背中を押され、その場を後にします。
実の父親であるのに、もう少し心配したらどうだ、と隣に立つ伴侶に対して思うところがない訳ではありませんでしたが、その本人は余り気にかけていない様子。
若しかしたら、何かあるのかもしれない――そう自分を納得させ、後を付いていくことに。
薄暗く、まだ火照りが僅かに残る身体には丁度いいぐらいの空気の冷たさの中。
なのはの部屋の前に到着しました。

「ヴィータちゃん。部屋で待ってて。お布団取ってくるから」
「ん? さっき桃子さんが準備してくれてたんじゃなかったのか?」
「そう言ってくれたんだけどねー。ヴィータちゃんの分は自分で用意したいかなぁって」
「ふーん。それが桃子さんの前だけで終わらないと良いんだけどな。んじゃ先にま――うわっ」

 手をかけ、ドアを開けた瞬間。
廊下の冷たさとは段違いの、一瞬チクリと指すような空気が開けた隙間から流れ込んできました。
思わず後ずさるヴィータは、なのはに背中を預ける形になってしまいます。

「な、なんでこんな寒いんだ? 暖房点けてなかったにしたっておかしいだろ、これ」
「ホントだね。う~、寒~い。なんでこんなに寒いんだろ」
「電気点けるぞ」
「はーい。う~ん、この寒さはちょっと普通じゃないね。まるで外にいるみたいだよ」

 踏み込んだ部屋はその空気だけでなく、絨毯もスリッパを通しても分かるほど、冷たくなっています。
明かりを点け、進んだ先にあるベッドの布団も朝のフンワリ感と暖かさを微塵も感じさせません。
身体が熱いままでは眠りづらいとはいえ……これでは寝る気が失せてしまいます。
その眠気を失せさせる布団に触れながら、ヴィータは、どうした物かと考え込むのでした。
 コレじゃ流石に一人で寝ろとは言えないよなぁ……
一緒に寝たい!と拳を固めるなのはを何とか説得し、一人ずつで寝ることを渋々承諾させましたが、この状況では流石に気が引けると言うものです。
はてさて、どうしたものか。
ヴィータは頭の端でその対策を練りながらも、寒さの原因を探り、部屋をウロウロと歩き回ります。
寒さのせいで頭も回らないや、と思い始めた矢先、ついに寒さの原因を突き止めるのでした。
その"原因"の場所に立っていると、何事かと近寄るなのは。
口を噤んだまま、ヴィータは偉そうに顎で、その原因を指します。

「え、窓? なに――あ、ああ~! 窓開いてるよヴィータちゃん! 早く閉めなきゃ!」
「わーってるよ。――ったく。朝から開けっ放しにしてりゃ寒くもなるっての。用心が悪すぎるぞ、なのは」
「は~い。ゴメンなさい、です」
「うぅ~、寒い! せっかく温まったのにこれじゃ意味ねーじゃんか。なのは。お前責任とって下で寝ろ」
「下ってどこ? まさかリビングで!?」
「アタシはベッドで寝るからお前は布団持って来い。んじゃな、おや――っておい。なんだよその手は」
「えへへ~」

 寒さに身体を抱えてベッドに向かおうとしたところで、ガッチリと腕を捉まれてしまいます。
寒い上に、なのはが"何か"言い出さないうちにベッドに入ってしまいたいヴィータは、嫌そうに、ゆっくりと振り向きます。
上目遣いに――といっても視線は高いのですが――見つめるその視線に嫌な予感が的中したと溜息を吐き、仕方なく理由を尋ねることにしたのです。

「あのね。こんなに寒い部屋じゃ風邪引いちゃうよ」
「だったら暖房つけりゃ良いだろ。タイマーセットしてさ。それに今こうして突っ立ってる方が身体冷えるだろ。ほら、放せって」
「そんな、地球温暖化が叫ばれる昨今に建設的な意見じゃないよ。もっとエコを意識して、ね?」
「……お前がそんな地球に優しいとは知らなかったな。その優しさをアタシにも分けてくれると嬉しいぞ。だから放せ」
「あ、あのね。え~っと……そうだ。冬山で遭難したって話、知ってるよね」
「今は遭難してねーし、冬山でもないぞ。だから放せよ。ふ、ふぇ……ふぇっくしょい!」
「ほ、ほらぁ。だからね、ね? 一緒に寝よーよ~。ヴィータちゃ~ん」

 どうしてもこの手を離したくないようです。
いつの間にか、しっかりと両手で握られてしまい、コレでは動きようもないと、半ば諦め気味のヴィータ。
しかし、それでもあっさり負けを認めてしまうのも癪で、無言を貫くのでした。

「私も寒いなぁ。ヴィータちゃんの温もりが恋しかったりしちゃうな~。まさか、可愛い旦那様を寒い布団に寝かしたりしないよね?」
「……まあ、可愛いかどうかは別としてだ」
「そこも重要なんだよ、ヴィータちゃん」

 無言を貫く――それはどうしたのかと、自分でも思うのです。
それでも、こうも可愛らしく――本人が言うには、ですが――迫られては、流石に可哀想になってくるから仕方ありません。
こういう積み重ねが、甘いと言われる由縁なのかしら、と思わないこともないヴィータです。

「一緒に寝ざるを得ないってところか。温まるまで待ってちゃ身体が冷えてしょーがないしさ。ほれ、寝るぞ」
「わーい。じゃあ早速寝ちゃいましょう~」
「電気消してこいよ、先に入って待ってるからな。う~、寒ぃ~」

 今だ外気と変わらぬ冷たさを誇る部屋の中で、らんらん気分で明かりを消しに行くなのは。
 こんなに元気なら、やっぱり仏心を出すんじゃなかった。
呆れにも似た気持ちを抱きますが、後の祭り。
しかも、こう寒くては敵わなく、素早く布団の中に滑り込みました。
スリッパのない素足に、布団の冷たさがダイレクトに伝わります。
思わず中で縮こまり、両手両足を互いに擦り合わせ少しでも暖を取ろうとしますが、冷たい布団に挟まれ思うようにいきません。
パッと明かりが落ちたかと思うと、二、三足音があり、足元から何かが侵入してしてきます。
急に足を掴まれ、大した抵抗も出来ないまま布団の中に引きずり込まれると、直ぐに温かく柔らかい何かがヴィータの顔を覆いました。

「うぅ~、寒~い! やっぱり寒いときはヴィータちゃんに限るね!」
「なーにが寒いときは~だ。そうじゃなくても抱きついてくるだろうが。うぅ、こうなったら冷たい足だ!」
「ひゃっ!? ちょ、ちょっと~。そんな冷たい足じゃお腹壊しちゃうったら。ええーい、ぐぐ」
「は、離れるもんかよ。温まる為に一緒の布団に入ったんだからな。ちょっとはその腹を貸しやがれ。ぐぐぐ」
「ダメダメ。そうは問屋が卸さないんだから。ヴィータちゃんがそう来るなら私にも考えがあるんだからね。ええい」
「ひぇっ!? ね、寝巻きの中に入れんのは反則だろ! うわぁわぁ。ち、ちべてー手で触んじゃねーって」

 暖を取る為に湯たんぽ宛らにヴィータを抱き込むなのは。
しかし寒いのはヴィータも同じです。すかさず腰を浮かして、冷たい素足をなのはのお腹に乗せます。
これには流石のなのはも離れざるを得ません。
背中に回した手でぐいぐいと引き剥がそうとしますが、こちらとて、好きなようにさせるつもりはありません。
その手をガッチリ掴んで距離を取らせません。
その上に、ならばこちらも、と寝巻きの裾を捲くって背中に冷たい手を潜り込ませます。
ここから離れようとすれば、ますます手がくっ付くだけになってしまいますし、引っ付いては足をくっ付けにくくなります。
なのははくっ付いてくれれば有難く、この状態を維持したとしても、既にお腹に当てた足は暖まりつつあります。
退路は絶たれた――ヴィータはそう確信しました。

「ちぇ。これでお相子だな。普段のこと考えりゃアタシの方が損してる気もするけどよ」
「もう~。これで明日お腹壊してたらヴィータちゃんのせいだからね。責任とってよ? 出かけられなくなると困るんだから」
「正露丸でも飲んどきゃ治るぞ。後は腹巻だ」
「えー、酷い~。そんなんじゃヤダよ。久しぶりに会うのに正露丸の臭いを漂わせるなんて」
「だったらどうすんだよ。アタシは治し方なんて知らねーぞ。兎に角お腹を冷やさないことぐらいしかさ」
「へー。私のお腹で足を暖めたヴィータちゃんがそれを言っちゃうんだ。へー、へー」
「あ、あうぅ……そ、それはそもそもお前が直ぐに抱きついてくるからだろ? だ、だからアタシだって温まってやろうと思っただけだ」
「なに言ってるのー。一緒に寝ようってことはそう言うことでしょ? 二人でこうして抱き合って温まるの~」
「そ、そりゃそうだけどよ……む、むぅ。い、いや、なんつーか。いつもの調子でつい、その」

 お互いの表情も分からない布団の中で、一頻り取っ組み合いを繰り広げます。
いつも、なのはがズボラだ、と言いつつ、こういう時はイニシアティブが全く取れません。
なのはは表裏の少ない性格のために、交渉事なんかは苦手そうでありそうで、その実、全くそんなことはなかったようです。
しかも、それは自分相手において大いに発揮され、次点がフェイトであり、しかも、性質の悪いことに、ほぼこの二人限定なのです。
何故そのように思うかといえば。
その他の人物が、なのはの犠牲にあったと言う話を聞かないからです。
少なくとも、ヴィータの耳には、なのはの悪行の数々というものは届いていません。

「うんも~。しょうがないなぁ。ヴィータちゃんの、て・れ・や・さ~ん」
「むぎゅー! ぐ、ぐるし~ぞ、なのは~」
「良いの良いの。これもいつも通りなんだから。はぁ、やっぱりヴィータちゃんの抱き心地は良いなぁ。はやてちゃんの気持ちが分かるよ~」
「な、なに勝手なこと言ってやがる。お前に抱きつかれる為に一緒に寝たわけじゃねーんだぞ」
「うんうん。分かってますよ。ヴィータちゃんが私を大好きなんだってこと~。えへへ、照れちゃうなぁ」
「……ちぇっ。勝手に言ってろ」

 こういう時。
なのはは何の計算なしに、素直に馬鹿馬鹿しいようなこと口にします。
デレデレと軽い口調で言うので、ふざけているのかと思われますが、本人は至って本気で、しかも、それが存分に分かってしまうのですから困るばかり。
自分とフェイト。
この二人以外にはデレデレせずにいうので、相手は真剣だと勘違いしてしまい、撃墜王の名が不名誉な形で広まっていくのです。
 コレが逆だったら良かったのに――
それがどういう意味の言葉なのかも知らず、ヴィータは胸のうちで呟きます。
幸運なことに、思ったことはあっても、口に出したことがないので、言われるべき本人は、未だにそれを知りません。
と、そんなこんなで、なのはの言動に反論するのですが、こんな狭い布団の中でこれ以上暴れることも出来ず。
"そういうことにして"、黙って受け入れることにしたのでした。


 


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