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新婚なの! 10-6 (1)

 
 最寄のバス停で降り、郊外とはいえ久しぶりの故郷を歩く二人。
 既に住宅街を抜けているために、遮蔽物も多くなく、大きなバニングス邸が遠めにも確認できます。
 とは言っても、その大きなお屋敷自体を見ることは叶わず、お屋敷をぐるりと取り囲む、背の高い柵が見えるだけ。
 そのまま歩みを進めると、敷地をぐるっと囲った背の高い柵が近づいてきます。
 それでも玄関はまだまだ見えません。
 相変わらず大きいねぇ、というなのはに、すずかさん家だって大きいよなぁ、と返すヴィータ。
 小さい頃は豪邸に憧れるという子もいるでしょうが、実際に住む友達がいれば、子供らしくない実感とともに、その憧れもなくなっていた、と語るのはなのは。
 人間そういうもんか、とヴィータはさして興味のない風に答えるだけです。
 玄関が今だ現れないだろうと、暇つぶしの一環に、二つの豪邸の思い出話をしている二人のところへ、馴染みの――特になのはにとって――声が届くのでした。

「二人ともー! ちんたら歩いてないで早くこっちいらっしゃいよー!」
「へ? あ、アリサちゃんだ! おーい、アリサちゃ~ん!」

 まだ小さくにしか見えませんが、その凛々しくも可愛らしさを充分に残した声が、二人の耳に届きます。
 それに応えるように手を振るなのは。

「ほれ、お呼びだ。お前だけでも走ってけよ」

 アタシも直ぐに行くからさ、と伴侶の背中を押すヴィータ。
 一度つんのめる様になりながらも、お嫁さんが押してくれた背中を気にしながら、なのははそのまま駆けて行くのでした。

 

 

「あははは、お久しぶり、アリサちゃん。元気してた?」
「ええ、元気してたわよ。面白くないのは、それが社交辞令じゃなくて本当にそう聞いてるってことね」

 にっこりと答える、その笑顔とは裏腹な雰囲気を乗せた口調。
 普通ならば「社交辞令なんて止しなさいよ」とでも言える間柄であるのに対して、相手のそれは、言葉どおりの意味を込めた挨拶。
 親友なのだから黙っているという選択肢もあったろうに。
 けれど、そこで我慢せず、言いたいことははっきりと言うのが、アリサ・バニングスなのです。

「ええっと……ゴメンね。あまりメールとか出来なくて。でも元気そうで安心したよ」

 特に、気分を害した様子もないなのは。
 親友が、そのような態度に出る理由が自らにあっては、そうも言ってられない、というのが本当のところですが
 彼女は決して不用意に本音を言ったりしない、真実相手の為に成らぬことはしない、という優しさを持っていると分かっているからです。
 これも、昔から繰り返してきた、自分の不徳のなすところ。
 そうやって毎度反省してくれれば、アリサに始まり、ヴィータに受け継がれた"世話係"の心労も多少は減ったのでしょうが。

「まあね、しがない学生だし。ところで、そんな忙しいわけ? その教導隊ってところは。そうなるとフェイトの執務官ってのは随分――」
「ああ、それはね。まあ、立ち話もなんだし。すずかちゃんも待ってるんでしょ? ほらほら」
「あ、ちょっと! それは私のセリフでしょ!? まだ話は終わってないんだからー!」

 がーっと噛み付かんばかりに、文句を言うアリサの背中を押していくなのは。
 取りあえず一旦打ち切りたい、という思いのほかに、この話題が出ている間にお嫁さんの到着は、どうしても避けたかったからです。
 この場で二人に挟まれるのは得策ではありません。
 何故なら、先日からのお嫁さんの小言と、目の前の親友の疑問は、ピタリと一致するからなのです。
 そうでなくとも、親友の鬱憤は随分と溜まっており、その勢いで小言の一つや二つ、いや、それだけに留まらないのは火を見るよりも明らかでした。
 どうせ後で一緒になるのだから、後か先かの違いだけじゃない?と思ったりもしますが、もう一人の親友の存在が緩衝材になってくれることを期待しての行動でした。

「こんにちは、なのはちゃん。久しぶり、元気そうで何よりだね」

 この季節にしては温かく、心地よい空模様でしたが、それでも一度風が吹けば、流石の空気の冷たさに体温を奪われる思い。
 それも、じっと腰を下ろしていれば尚更のこと。
 その為に、広い庭に面したコンサバトリーに設けられた、四人分のお茶会セット。
 白いテーブルに始まり、その上に集まるポットやティーセット。
 椅子に至るまで、用意された品々は、見た目こそシンプルですが、きっと名の知れた人の作った高価なものであることは想像に難くありません。
 そこにゆったりと腰掛けている、深い紫色の豊かな髪に上品な仕草の少女。
 今日の主役のもう一人の親友――すずかは、二人の顔を見るや腰を上げ、笑顔で出迎えます。

「うん、お陰さまで。すずかちゃんも元気そうで何より、で良いかな?」

 今だ文句を言い続けている親友の肩越しに、ホッとした面持ちで答えるなのは。
 分かっていても、実際に顔を見るのは安心できる、と言わんばかりのすずかも、ニッコリと返します。

「私もお陰さまで。毎日――」

 二人に近づき、アリサを受け取ろうとしたすずかを遮ったのは、更に不満顔になった少女でした。

「なーに社交辞令満載の挨拶交わしてんのよ。白々しいったらありゃしないわ!」

 受け取られてしまう前に、薄情な親友から離れ、社交辞令を繰り返す二人を見据えるアリサ。
 つん、と顎を逸らしては、自分の心中を表し、相変わらずだなぁ、と困り顔のすずかに対して、注文をつけるのでした。

「すずか? もうちょっとビシッと言ってやんなさい?」
「それはアリサちゃんに任せるよ。だって、あんなに毎日なのはちゃんの話ばっかりし――むぐむぐ」
「だあーって! 私の話じゃなくてすずかの話をしてんでしょー!」

 慌ててその口を塞ぐアリサ。
 付き合いが長いのだし、言われたとおりのことをする訳がないと分かってるはずなのに。
 余裕があるように見えて、その実、余裕がなかったのかもしれません。
 しかも、力ずくで止めることが、何より相手の言動を肯定することになっていると考えが至らないようです。
 そんなピンチな状況において、遮った言葉の真相を知られたくない相手は、相変わらず運動神経が良いんだなぁ、と的外れな感想を抱いているのでした。

「よう、なのは。久しぶりのご対面はどうだ? ちったぁ感動したか」

 一瞬で、嘗てのやり取り加減を取り戻した三人。
 そこへ遅れてやってきたのは、普段の三つ編みを解き、ポニーテールにしたヴィータでした。
 聞くまでもない状況に、敢えてそう聞くのは、普段のちょっとした仕返し、というところでしょうか。
 せっかく、すずかの介入によって思惑通りに運んでいたなのはにとって、それは全くに嬉しくない一言でした。

「相変わらず意地悪だね、ヴィータちゃんは。そうならないって分かってるくせに……」
「自業自得だ。それに、ほれ」
「あ、アハハハ……はぁ。ええっと、どうしたら良いかな」

 ヴィータに背中をつつかれると、ジトッとした目でアリサが、こちらを睨んでいます。
 すずかとの調整は済んだようで、すっかり余裕を取り戻しているようです。
 なのはは笑って誤魔化そうとしますが、よく自分を知った親友に通用するはずもなく、すずかの仲介で取り合えず席に着くことになるのでした。


 


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