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新婚なの! 10-7 (1)

 
「……ねぇ、アンタたち。というかアンタ。いい加減にしてくんないかしら。それが久しぶりに親友の家に遊びに来た人間のする態度なの?」

 我慢ならない、といった感じで、その苛立ちを微塵も隠すことなく言い放ったのはアリサ。
 ヴィータをがっちりと抱いたなのはは、ハッと顔を上げる。

「――え? あ、ああ。ゴメン、アリサちゃん。アリサちゃんも大好きだよ~」

 その態度といったら失礼でなかった。
 すっかり二人きりの世界に浸っていて、不機嫌面を構える人物の存在など忘れていた、と言わんばかりなのです。
 例え、なのはにそのつもりがなかろうとも、この場にいた三人は例外なく、そう受け取った……受け取らざるを得ませんでした。
 この事態を面白がっているすずかと、数年べったりのヴィータは、そうでないと言っても良かったかもしれません。
 アリサが、その態度が、実際はそうでないと分かっていたでしょう。
 この"高町なのは"といわれる人間が、どういう人間なのか分かっていれば。
 本当は、そういうことをするような子ではないと分かっていても。
 けれど、自業自得だ、庇ってやるものか、と思われたのか、苛立つ気持ちが、理解してやるものですか、と思わせたのか。
 結局は、そうなってしまった限りなのです。

「舐めんじゃないわよ。嫁の前でそんなこと言えるアンタの神経を疑うわ。安っぽいのよ」

 せっかくの美少女振りが台無し寸前に、眉宇をひそめ、つん、と顎を逸らします。
 背もたれに思い切り背を預け、腕組みをしてふんぞり返らんばかりに。
 余り彼女を知らない人が見たら、身体を折らんばかりに頭を下げて謝ったかもしれません。
 しかし。
 怒られたのは、自他共に認める親友なのですし、当然にそうはなりませんでした。

「そういう意味じゃないなのに~。ヒドイ、そんな目で見なくても……」

 ぴったりとヴィータの横に寄せ、肩を抱いたまま、怒られた態度を改めようともしません。
 言った本人にしてみれば、当たり前だと言わんばかりなのでしょうが、そんなこと、言われた側にしてみれば、知ったことではありません。
 特に、今のアリサは、言い表せない苛立ちを抱えており、そういった傾向が強くなっています。
 いくら親友とはいえ、言葉の裏側や真意など推し量ってやるもんですか、と意地を張るのです。
 それが、一見してそういう意味だと分かったとしても。
 自分ですら名前の付けられない感情を、抱えているとしても、アタシの気持ちも分からないのに、アンタのことなんて分かってやるものですか、と。
 "分かってなぞやるものか"と。
 アリサは、そうして、もう一度なのはを見据えるのです。

「じゃあ、どういう意味だっていうのよ。それともなに? 冗談だっていうわけ? 私に対して冗談でいうのかって……ったく」

 意外にもあっさり引き下がるアリサ。
 それは、そう見えただけで、決してそうではありません。
 だのに、言われた本人はあっけらかんとしていますし、横にいるすずかは、相変わらずといった風を装ってニコニコしています。
 ただ、一人。この事態に胃の痛い思いをしていた赤いポニーテールのお嫁さんといえば。
 真剣に怒られる――なのはには良い薬だ、とあえて黙っていたのです――と思っていたのに。
 やけにあっさり引き下がった風を繕う、このアリサの態度に言いようの無い違和感を抱くのでした。
 その違和感はどこからくるのか。
 場の空気を悪くしないために、我慢したというのは違う気がします。
 それでも、彼女ならば必要とあれば言ってしまうでしょう。
 アリサの率直な意見は、相手の為にならぬことは言わない、と言うのが、この短い時間でも、ある程度分かったから。
 本当に諦めてしまったのか。
 そんな柔な心の持ち主でもないような気がします。
 きっと納得できないうちは、一晩、いえ、倒れるまで意見を交わすタイプのように思えます。
 ならば、何故。
 単に彼女を理解するための情報が少なく、その隣に座る親友ならば、それが分かるのでしょうか。
 それとも、誰にも分からないように、彼女が壁を作っているのか。
 どちらにしろ――結論が出そうにありません。

「全く。ここまでくると長所か短所か判だ……ん、そろそろいい時間ね」

 幾分か柔らかくなった調子で、溜息混じりに口を開けば、左腕に目をやるアリサ。
 どうやら、左腕に納まっている腕時計――豪華な装飾は見られませんが、きっと名の知れたものでしょう――のことのようです。
 アリサの言う、いい時間とはどういうことなのか。
 その向かいに座る二人は目をあわせ、お互いにそれを疑問に思ったようだと、確認しあうのでした。

「ちょっと早いけど大丈夫だよね、なのはちゃんヴィータちゃん。ご飯、食べていくでしょ?」
「ご飯? あ、そっか。元々そういう予定だったもんね。うん」

 そう、顔に書いてあるのに気付いたのか、すずかがいち早く助け舟を出します。
 そこで初めて今日の予定を思い出すなのは。ポン、と手を打ちます。
 余りに見事なその態度に、ヴィータは不安を覚えないでもありませんでしたし、そもそもそんな予定聞いて覚えがありませんでした。
 自分が忘れていただけでしょうか。
 しかし、悩んでいる暇はありません。

「ヴィータちゃんも良いよね?」
「あ、うん。ご馳走になりますです」

 この口ぶりからして、やはり聞かされていなかったのでしょう。
 今日はそう言う予定だよ、というだけの言葉に、うん、とだけ頷いて、すずかにお礼の言葉を述べます。
 言われたすずかは、二人とも大丈夫だって、とアリサとの間でクッション役。
 初めからその予定だったのですし、あくまでも形だけの確認。

「なら鮫島に言ってくるわ、その間に中に入ってて。すずか、頼んだわよ」

 これまたお嬢様らしくない飲み方でカップを片付け、派手にソーサーへ戻すと、足早に席を立つアリサ。
 言われたとおり、すずかが案内をしてくれると言うので、なのはとヴィータはタイミングを合わせたようにカップを傾けると、その場を後にしました。


 


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