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新婚なの! 10-6 (4)

 
「じゃあ、アリサちゃんは少しお休み。今度は私の番でいいかな?」
「うん。答えられることなら。ね? ヴィータちゃん」
「あ、アタシに振るなよ……だ、大丈夫です。もし、あるなら答えますから」
「うん。それじゃあね、最近のはやてちゃん、どうしてるかな? やっぱりメールだけじゃ寂しいから」

 ふん、と顎を逸らし、興味なさげに振舞うアリサに代わって、今度はすずかの番です。
 アリサの態度を図りかねているだろう、ヴィータにとっては、取りあえず話の矛先が変わったのは歓迎すべき状況のようです。
 はやての話となってしまえば、多少は結婚話から、離れられるからでしょう。
 そんなホッとするヴィータでしたが、今は別々に暮らしているために、すずかの期待には応えられそうにないのが不安でした。

「はやてちゃん、元気してるかな? 便りのないのは無事な証拠とは言うけど、ね」
「はい。つい一昨日会ったばかりですけど、元気すぎるぐらい元気してました」

 元気すぎるぐらい元気。
 その表現に思わず表情を綻ばせるすずか。
 隣のアリサも、その光景を想像したのか、思わず噴出しそうになっている始末です。

「お仕事大変だって聞いてるけど、具体的にどのくらい? あ、言えない部分は飛ばしてくれて良いから」
「ええと……前と変わらず捜査官をしながら指揮官研修受けたりしてます。今は何か事件に関わってて、それで忙しくて中々会えなくて……それぐらいです」
「指揮官研修? はやてちゃん、もうそんなところまで出世しちゃったんだ」

 あえてなのか、何か事件に関わっている、という部分を飛ばすすずか。
 それも、忙しくて会えない、という部分への掛かりとして、大して気にしなかった、というのが正解かもしれませんが。
 そんな、親友の状況に感心するすずかに、なのはは、まるで自分のことのように、鼻を高くします。

「はやてちゃんはキャリア試験一発合格だからね。私たちの中じゃ一番の出世頭なんだよ? ね~、ヴィータちゃん」
「お、お前が威張るなって。あ、ええと。自分の指揮する部隊が欲しいって、それの為に頑張ってて、その為の研修とか資格で」
「ふうん。はやてってば、そういう人の上に立つタイプには見えないけどなぁ」
「どうして? アリサちゃん」

 てっきり加わってこないと思っていた親友の言葉に、すずかは思わず尋ねます。
 それは決して、アリサとの見解の相違を正すなりする意図はないものですが、咄嗟にでたもので、そうなってしまったのかもしれません。
 尋ねられた方にしてみれば、まさか疑問を呈されるとも思っていなかったために、多少面を食らっているようです。

「え? ああ、必要ならってだけで、自ら進んで地位を欲しないっていうか……まあ、アンタ達三人の中じゃ一番指揮官向きだとは思うけどねー」
「ふふふ。上昇志向の強いアリサちゃんにしてみたら、歯がゆいんじゃない?」
「な、なんでそういう話になんのよ!?」

 付き合いの長い、すずかだからこその、読みだったかもしれません。
 アリサの、親友三人に対する評価に対して、歯がゆく思っている、という部分を読み取ったのは。
 それも、全くに的外れなら呆れたでしょうが、慌てるその様子から、その読みはかなり当たっていたようです。
 聞いた本人のみならず、なのはにヴィータまでが、なるほどぉ、と頷くのでした。

「うふふ。あ、そうだ。なのはちゃんやヴィータちゃんはそう言うこと、興味ないの?」

 アリサからの追求を逸らすために、さっさと話題を元に戻してしまう。
 そうなってしまえば、常識あるアリサが話を遮ってまで、己の要求を飲ませないと分かっているからです。
 ぐぬぬ、と唸るアリサを横目に、なのはとヴィータは、うーんと考えているようです。

「私は現場志向だから。教えるのは良いけど、人の上に立って~っていうのは似合わないと思うな」
「アタシも……性にあわないって言うか。なのはの場合は、それよりも居ても立ってもいられなくて、椅子に座ってられない方が強いと思うです」

 二人の返答――特になのはのモノは――は、予想通りのものでした。
 しかも、ヴィータの付け足した解説は、多少曲がったアリサの機嫌も直すものだったらしく、すずかは、くすりと笑います。
 ああ、やっぱりなのはってそういう子なんだなぁ、と。

「それより。今は……はやての夢を叶える手伝いをしたいから」
「それは私も一緒かな。約束したし。はやてちゃんが自分の部隊をもったら勿論、駆けつけるよって」

 続けるヴィータの言葉に、なのはは深く頷きます。
 それは、向こうへ行った親友達と、ここへ残った――というのは語弊がありますが――自分たちとの溝を感じられ、一抹の寂しさを感じさせるものでした。
 すずかは思わず、隠しながらも、それを口に乗せてしまいました。

「良いなぁ、そういうの。私もはやてちゃんのお手伝いが出来たら良かったのに。ね? アリサちゃん」
「ま、まあ、まだ自分のしたい事も固まらないし、必要だって言われるなら、吝かじゃないわよ? 評価してもらってるってことだしね」

 素直じゃないなぁ、というのが正直な感想。
 別に本人が聞いてるわけじゃなし、こんなときぐらい素直に言えば良いのに、とすずかは思うわけですが。
 そういう、素直じゃない、自分の感情を吐露するのに戸惑いを覚える、その姿が可愛く思えるので、何も言わず、微笑むのでした。

「そうだね。はやてちゃんに伝えておこうか? それとも、やっぱり自分の口で言ったほうが喜ばれるかも」
「どうしようか。いきなり私たちから言うのも変だし。なのはちゃんにお願いする?」
「こ、こっちに振らないでよ……だ、だから力を貸して上げられたら良いなって、思ってるわよ!」

 本当に可愛い。
 別にそんな声を出さなくたって良いのに、そうしてしまうことが、余計に自分を含む他者を喜ばせてしまうことに気付かないのかしら。
 別に、アリサにそういう態度を取らせる為に話を振ったわけではありませんが、兆候が見えてしまうと、思わずそうしてしまうのです。
 される方にしてみれば、迷惑な性格でしょうが、これが、すずかなりの愛情表現なのかもしれません。

「なのはちゃん、私たちの分まで。はやてちゃんのことお願いね」

 すずかやアリサほど優秀ならば、魔法の力がない事を差し引いても、きっとはやての力になれるでしょう。
 けれど、管理外世界から素質を持たない人間が移住するのは大変ですし、そもそも、二人はこの世界と分かれるわけにいきません。
 ただ、二人がいつも親友のことを想っていてくれている、というのは、はやての大きな力になるはずです。
 出来れば、その事を自分の口から伝えてあげて欲しい、となのははそれとなく伝え、それを返事としました。

「そうやって言って。実際駆けつけられる人間が一番足手まといだったりしてね?」

 今のアンタを見てると心配なのよ――と素直じゃない。
 そうならそうと、それだけを言えば良いだろうに、酷いことを初めに言ってカモフラージュのつもり、なのかもしれません。
 けれど、それも余りに付き合いが長くなってくると、意味を成さなくなっていることに、当の本人がきづいていなくて、またそれが可愛いのです。

「ひっどーい。ヴィータちゃん、何か反論してくれないと私が誤解されちゃうよ? 愛しの旦那様が~」

 その通りの、さほど気にしていない反応。
 しかも、そのアリサを利用して、ヴィータに甘えようとするのですから、利用されたほうにして見れば堪ったものではありません。
 なんだか方向がずれてきたかも、と思いながら、楽しい様子にもう少しほかっておこうと、すずかは黙って見守るのです。

「愛しの、とか余計なこと言うな。それに十年来の親友が言うことのほうが当たってるだろ。うん? 違うか?」
「…………え~ん、ヴィータちゃんのバカ~」
「うわわ!? だ、抱きつくな! それも二人の前で! 何考えてんだ!」

 その幾らかの沈黙が、自らその指摘を肯定しており、ヴィータの口元が緩みます。
 しかし、それは長く続かず、フォローしてくれない嫁にすがり付く旦那。
 ヴィータは、普段以上にその拒絶を強く打ち出しますが、なのはも、嫌がってくれるほうが盛り上がる、と言いたげに、腕に力を込めるのです。
 その情けない風景を目の前に、予ねてからの友人の反応も流石と言うべきものでした。

「夫婦だって言う割には全然ノリが変わってないわね。アレじゃ小学生のじゃれ合いと変わらないわよ?」
「ふふふ。なのはちゃん、全然変わってなくて何だか安心しちゃった」
「そう? 私は呆れてたところよ」

 間髪入れず、口を挟んだのは、アリサのそれが明らかに場を壊しそうな響きを含んでいたからでした。
 表面上、感想というべきものを軽く口に乗せただけのように思われるそれを、すずかが絶妙に読み取ったためです。
 自分の意図を読み取られた為に、アリサは尚も――今度はそれほどの意図を込めずに――続けますが。

「だって。自分の夢を叶える為にどんどん先に行っちゃうんだもん。何だか私たちだけ取り残されたみたいに……そう、思ってたから」

 それは、本音。
 本当に心から溢れた一端を含ませて。
 アリサの言いたいことではないと分かっていながら。
 そしてそれは、本音であったからこそ。自分の宥めたり、方向性を逸らそうとした細工でないと分かった為に。
 アリサも、本音で。多少素直になれないままに。

「……まあね。確かに、なのはのこの変わらなさ具合は安心するわ。ああ、私たちのほうがマシだ、成長してるな、てね」
「うふふ。アリサちゃんも、だよ? 分かってるかな」
「……うっさいわね、すずか」

 二人の声は、テーブルを挟んでじゃれあう二人の耳には届かないのでした。


 


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