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新婚なの! 10-4 (2)

「……プハッ。うぅ~、やっぱちょっと寒いな」
「エアコンは片付けてないけど、今更電池取りに行くのもね。今日はこのままで我慢してね~」
「わーってるって。流石にそれは酷だしな。それにもう遅いしよ、今日は早く寝ちまうに限る」
「そーだね。だけど、ちょっとドキドキしちゃってるから直ぐに寝られないかも」

 布団の中にいたために、返って部屋は明るく感じられるぐらいで、なのはの顔もよく見ることが出来ます。
少し近づきすぎなその顔は、思ったとおりにデレデレとだらしないものでした。
最近は、毎晩同じベッドで寝ているのですし、どうしてこうも興奮しているのか、ヴィータには分かりません。
"どういう意味"で、興奮しているのか分かりませんが、考えた末に、暴れまわったせいではないか、と思ったようです。
全く、こう言うことには疎い子です。

「あんな動きゃ興奮して寝られなくなるに決まってるだろ。後な、全然困った風に聞こえねーぞ。表面だけでも取り繕えよ」
「ヴィータちゃんがも~っと素直になってくれれば、私もそんなことしなくて済むんだけどな」
「おい。アタシが悪いのか? そう言うのはこの口か~?」
「い、いひゃい~! ヴぃーひゃちゃん!」
「減らず口を叩くからこうなるんだ。もう痛くされたくないなら……分かってんな?」

 頬っぺたをぎゅーっと引っ張って、なのはを喋らせません。
言い合っての勝率がとても低いヴィータは、口以外で勝つ方法を考え、とりあえず採って見た方法です。
パッと手を離せば、紅くなったろう頬を擦りながら目じりに涙を溜めて、なのはが、ひーひーと泣き言を零します。
これは成功だ。
ヴィータは、へへへ、と悪戯っ子のように満足げに笑います。
しかし、そう思ったのも束の間。
頬を撫ぜていた、なのはの手が迫り、自分の頬を摘んだのです。

「い、いっへー! あにひやがんだ!」
「なにするって、さっきの仕返しだよー。そうやって痛いことする子にはこーだからね!」
「んぎぎ! しょれならこっち――ってへぇ! 卑怯らぞ! 手をのらすなー!」
「卑怯でも何でもないよ。使えるものは全部つかって勝つ。これは勝負の世界でのオキテなの」
「く、くっしょー~」

 手を目一杯伸ばし、壁側にヴィータを押し付け絶対的なイニシアティブを取るなのは。
反撃しようにも、ヴィータの手は全く届きません。
代わりに寝巻きの上から腕を抓ったところで大した効果もなく、足は布団の中でむなしく空回りするばかり。
痛さと、ホンの少しの悔しさで、ヴィータの目尻には涙が溜まっていくのでした。

「あ、ヴィータちゃん。泣いた?」
「な、泣いてなんてねーよ。こんにゃぐらいの痛さで泣くかよ……ぐす」
「んも~、やっぱり素直じゃないんだから。そういう子にはこうだよ――」

 ヴィータが、自分の袖で涙を拭こうとした、その瞬間。
急になのはの顔が寄ったかと思うと、それが視界を覆い、柔らかな何かが、そっと目尻に触れました。
視界を覆っていたものが退くと、ちょっとだけ舌を出して照れ笑いをし、頬を染めているだろう、なのはの顔。
お風呂上りとも、ちょっと暴れた分とも違う、それらとは比べ物にならないほどの熱が、顔の全面から噴出してきそうな錯覚を覚えます。

「えへへ。しょっぱいから、悔し涙だね」
「――バ、ババババ……バッカ野郎! い、いいいいきなり何しやがんだ! びっくりするだろうが!」
「ああ~ん、せっかくしてあげたのに何でそういう事するのー? あと私は野郎じゃないよ」
「拭くなら拭くで寝巻きの裾とか色々あんだろーが! な、ななななんで、その……」
「その、なぁに? 私がなにしたっけ? 記憶にないなぁ。反省したいけど記憶にないから反省できないや。残念」
「んぐ。ぐぐ……!」
「ねぇ。ヴィータちゃんが教えてくれたら反省するんだけど~」
「…………知らね」

 とにかく腕と足を振ってその熱を誤魔化そうとしますが、なのはは全く冷静で、追い討ちまでかけてくる始末。
余裕綽々のなのはに、余裕があるとかないとかそんなレベルでないヴィータ。
こうなってしまっては、下手に口を効くだけ不利になるのは目に見えています。
結局のところ。
ヴィータはいつも通りに、なのはにも、自分にも無視を決め込んで寝てしまうことにしました。
くるりと背を向け、毛布を巻き込んで寝る背中。
そんな無言の背中を、なのはは暫く黙って見ていましたが、静かに手を伸ばすとゆっくり抱き寄せました。

「……ねぇ、ヴィータちゃん。初めてお泊りに来てくれた日の事。覚えてる?」
「…………さあな。そんな昔のことは覚えちゃいねーよ」
「昔のことだってことは覚えててくれてるんだ。ゴメンね。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったみたい」
「ふーん。あんま普段と変わらないから分かんなかったぞ。お前、いつもはしゃいでるように思えて仕方ねー」
「えへへ~。だって、ヴィータちゃんと一緒にいられるの嬉しいんだもん。それでも、今日は特に、ね」
「……あっそ。そんなのに付き合わされるこっちの身にもなってくれ。普通にしててもお前に付き合うのは大変なんだよ、こう見えてもな」
「ごめ~んね。これでも普段は気をつけてるんだけど、今日は何ていうか、その」

 耳元に熱い吐息がかかり、それに乗って囁き声が届きます。
背中に押し付けられる胸からドキドキが伝わってきて、なのはの想いは口に出さずとも分かりそうなほどです。
それでも、今更この態度を取ってしまってしまってはそれも認めにくく、尚更黙っているしかありません。
この性格はどうにかならないモノかと、自分のことながら何度も思うヴィータでしたが、一向に変化の兆しを見せようとしないのです。
そもそも、この性格が災いしてか、変えようと努力する思考すら邪魔するので、袋小路に迷い込んだかのようです。

「……久しぶりの実家だかんな。家族に会えるってのは嬉しいもんだ」
「うん、そうそう。やっぱりホッとするって言うか、リラックス出来ちゃうよね。友達とはまた違った感じで」
「……まあ、分からんでもない。アタシも帰ってはやての顔を見たときはそう思ったからさ」
「だから――何ていうか、うん。そういう感じ。ホント……ゴメンね、ヴィータちゃん」

 二回目のゴメンね、は一度目と違い、ヴィータの言葉を引き出そうとするものではなく"謝罪"が目的のモノでした。
当然、ヴィータはそのことは承知していますから、それ以上言葉を続けることはありません。
ただ。それにしても勝手なヤツだ、とか、急に態度変えるから反応に困るんだ、とか。
背中に触れる温かさと柔らかな感触が、それら文句を胸のうちで呟くだけに留めてしまって、外へ追いやることはありませんでした。

「一番の理由は、それじゃないんだけど……それは秘密だよ」
「……ふーん。そんな風に言っても聞いてやんないからな。言いたいなら勝手に言えよ。アタシは知らないからな」
「はーい。じゃあ言わないね。きっとヴィータちゃんの方から聞きたくなるだろうから~」
「言ってろ。絶対に我慢しきれなくなってお前から言うに決まってる。お前は変なところで我慢弱いからな」
「へへーん。そう言ってるヴィータちゃんが我慢できなくなって聞いてくる姿が眼に浮かぶようだよ。ホント、楽しみ~」

 今までがそうであった為に、今度こそは相手の作戦に乗っかるわけにはいかない、とヴィータ。
 ヴィータは意固地になって聞いてくれないだろうけど、それを乗り越えてしまうと聞いてくれるので、もう一押しかな?となのは。

「ねぇ。いつもとは位置が違うから何だかドキドキしちゃうね。帰ってからもこうして寝ようかなぁ」
「ヤーだね。帰るのはアタシの家なんだぞ。位置取りはアタシの言う通りにしろ」
「こうして後ろから抱っこしてるのイヤ? いつもみたいに向き合って抱っこする方が良いんだ。ならそうするけど」
「……あのな。抱きついて寝るのを前提に話進めんじゃねーぞ。今日も、家にいるときも偶々なんだかんな。良いか? 勘違いするなよ」
「してないしてない。ヴィータちゃんがこうされるの好きだって知ってるもん」
「なーにが、知ってるもん、だよ。そんなのお前の勝手な思い込みって可能性もあるじゃんか」
「えへへ。その辺ははやてちゃんから情報を入手済みだから確実なんだよ? 残念でした、ヴィータちゃ~ん」

 背中のなのはが動く気配がします。
抱いた手でわき腹を掴み、大雑把に纏めた髪に顔を埋め、すぅっと深呼吸。
その匂いを胸いっぱいに満たすようにしているのが分かります。
別にそうするのは、いつものことですし、ヴィータとしては無視し続けても構わなかったのですが。
そこで飛び出した、はやての名前。
「勝手な思い込みだ」と否定しようとしたのに、それをはやての名前で否定されてしまっては、立つ瀬がありません。
滅多に目にしませんが、自分の驚く顔を見て笑うはやての顔が目に浮かぶようでした。

「……ちぇ。なんだよ、はやて~。なのはに余計なこと教えないでくれよぉ」
「へへ~ん。寧ろ喜んでくれなきゃ。お義姉さんとの関係が良好な証拠なんだよ~って。ね、ヴィータちゃん」
「くっそー。んな事なら少しぐらい仲が悪くたって構やしねーよ……」
「拗ねない拗ねない。でも、そうやってちょっと拗ねてるヴィータちゃんも可愛いよ? うん、可愛い~」
「頭撫でんな! ああ、そうだ。止め――う、うおおい! そうやってわき腹掴むんじゃねーよ!」
「んもー。どっちもダメなんてそんな我侭ダメだよ。どっちかにしなきゃ」
「む、それもそう――って、んなわけあるかよ。いかにも正論みたいなこと吐きやがって。そもそもどっちもやっちゃダメなんだ!」
「うぅーん。それは困ったなぁ」

 なのはの手は、ヴィータのわき腹に回っていますが、顔は相変わらずの位置にあるために、何か喋るたびに、そよそよとヴィータの耳を撫ぜます。
それがくすぐったくて仕方ないのですが、止めるよう言ってしまうと、余計に面白がって続けるのを分かっているので、ヴィータとしても我慢、我慢です。

「うーん。じゃあ、このまま抱っこで良い。こうやってると凄く落ち着くもん」
「あ、あっそ。じゃあ、そうやって大人しくしててくれ。アタシはもう寝るぞ。たまには早く寝かせてくれ」
「そうだね。明日は色々行かなきゃいけないところもあるし、早く寝ないとね」
「分かってんなら初めからそうしてくれ。んじゃな、お休みだ。なのは」
「はーい。お休みなさい、ヴィータちゃん」

 そういってゆっくりと目を閉じるヴィータでしたが、背中のなのはが気になって中々寝付けません。
耳にかかる吐息に、寝てしまったのか尋ねたくても、それで起してしまうようでは可哀想で、確認も取れないでいます。
 代わって背中のなのはも同様で、腕に大人しく収まっているお嫁さんにドキドキとして中々寝付けません。
殆ど身動きをとらないヴィータに、寝てしまったのかと聞きたいけれど、もし起こしてしまったら悪いと切り出せないでいます。
二人は黙ったまま、幾らか遅くまでそうしていたのでした。

 

 

「おはよう、二人とも。昨日はよく眠れ――てないみたいね。どうしたの?」
「え、ええっと……久しぶりの我が家でちょっと興奮しちゃったって言うか……ね、ヴィータちゃん」
「同意を求めるなよ。アタシはお前さえ静かにしてくれりゃ寝れたんだ」
「あらあら。なのはったらお嫁さんの前ではしゃぎ過ぎはダメよ? さ、顔を洗ってらっしゃい」
「「はーい」」
「うふふ。なのはったらああいう風にはしゃぐ子だったなんて。大きくなれば落ち着きが出てくるものなのに、ね」

 眠い目を擦りながら洗面台に連れ立っていく二人を、桃子は呆れたような、それでいて嬉しそうに見つめるのでした。


 


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