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新婚なの! 10-5 (2)

「行っちゃった。さぁて、私たちはお昼までのんびりしよーね~」

 玄関の上がり口で出かけていく家族を見送る二人。
 なのははぐーっと伸びをしては、ヴィータをリビングへ誘うよう腕を伸ばしてきます。

「しねーよ。まだ寝巻き・寝癖のままでなに言ってやがる。さっさと髪だけでも整えてこいよ」

 さっと腕をかいくぐり、後ろに回りこんでは、自分に比べ、高い位置についたお尻を軽く叩きます。
 きゃっと可愛らしく声を上げ、叩いた相手をいじっとした目で見つめますが、思ったよりもあっさり、引き下がりました。
 こういう時、お嫁さんが譲らないのは分かっていますし、お昼前には出かけなければなりません。
 それが分かっているからでしょうか。
 大きな欠伸を一つ。
 スリッパをぺたぺた鳴らしながら洗面所へ向かうなのはの後姿に、ヴィータは思わず呟くのでした。

「――嘘は吐いちゃいない。吐いちゃいないんだけど……何だろう、この胸のモヤモヤは」

 上手く丸め込まれてしまったのではないかと、そんな義母への心配を口に、言葉にならない気持ちを抱えてリビングへ引っ込んでいくのでした。
 その心配は、全く持って杞憂なのですが、その辺りがヴィータの良いところなのでしょう。

「どうかな? ちゃんと綺麗になってる?」
「うん? ああ、大丈夫だぞ、いつも通りだ。そんで、今日は括るのか? そのまんまか?」
「う~ん、どうしよっかなぁ。たまには気分転換しても良いかなって思ってる。ヴィータちゃんは?」

 顔を洗い、寝癖を整えたなのはが洗面所から戻ってきました。
ソファーでくつろぐヴィータの前でくるっと一回転。整えた、腰まで届きそうな長い髪がふわりと広がります。
毎朝の出勤時、ヴィータが手伝ったりせずに自分ひとりで――しかも以前一人暮らししていたのですから――準備しているので聞くまでもありません。
それでも、今日は久しぶりに。
小学生からの付き合いである二人に会うのですから、いつも以上に気になるのも頷けます。
ヴィータもそれを分かっていますから、黙ってチェックしてあげるのでした。
なのはは満足そうに髪を肩から前に垂らして、ヴィータの隣に腰掛け、左右に広がっているウェーブの掛かった紅い髪を手に取ります。
項のところから二つに分けたり、後ろで一本に纏めてみたり。
これもいつもの事なので、特に何か言ったりせず、ある程度はしたいように任せます。

「んー。今日はポニーテールにしよっかな」
「どうしたの? 滅多にしないよね、可愛いから良いんだけど~」
「あのさ。何時も同じ髪型にしてるとそっから禿げるんだと。だからこういう時ぐらい積極的に違うわけ方しようかと思って――どうした?」

 髪を撫でる手が、一瞬、凍りついたのが伝わってきます。
 何かそれほど気になることがあったのかと、ゆっくり、視線を髪を握ったままの、なのはへ向けるのですが。

「それって本当なの? 迷信じゃなくて? どこで聞いたの?」
「そ、そんな必死になんなよ」
「必死にもなるよ! それで? それってどうなの!?」
「さ、さぁ? け、けどさ。ミッドにはちゃんとした禿げ治療の方法が確立されてんだしよ……」
「そんなこと言って! ヴィータちゃんは旦那様が禿で悩んだっていいって言うの!? ヒドイー!」
「だから。悩まなくたって良いだろ、病院に行きゃ治してくれるんだから……」
「治るからって禿げなんてイヤだよ。私は、ヴィータちゃんが禿げなんてイヤだよ?」

 何時になく真剣ななのは。
 治るものをそんなに嫌がらなくても良いのに、とも思いましたが、よく考えれば治ると言っても病気になったりするのは嫌なものです。
 禿げは病気ではありませんが、そういう場合もあるのでなのはの態度も一理あるな、とヴィータは思うのでした。

「分かった分かった、アタシだってお前が禿げても良いなんて思っちゃいねーよ。だから泣くな」
「……泣いてなんてねーですよ」
「……なんだよ。それはアタシの真似でもしてるつもりか?」

 一瞬でも心配したのが馬鹿らしくなる、その口ぶりに、思わず語尾に不機嫌加減が乗ってしまいます。
 それでも、似てもいない物まねをする伴侶は、全く悪びれた風もなく、あっけらかんと続けます。

「あ、分かった? えへへ、こうやっていつも一緒にいれば真似も出来ちゃうよ。結構堂に入ったものでしょ?」
「全っ然。ただ口調を真似ただけじゃねーか。そんなんだったらな――」
「どうしたの?」
「……別に。全然似てねーってことを言いたかっただけだ」
「もう、素直じゃないんだから。う~ん、そんなに似てたんだ。どうしよう、今度から特技"ヴィータちゃんの物真似"にしよっかな~」

 プロフィール欄にでも書く気満々な態度を見せるなのは。
 お陰で、僅かばかりに脳裏を掠めた記憶が、綺麗さっぱり消し飛んでしまったのです。
 何だったのか思い出せない、その気持ち悪さを、思わずぶつけてしまうヴィータです。

「あ、なのな! そんなの特技にすんの止めろよ! 大体、アタシのことを知ってなきゃ似てるか似てねーか分かんないじゃんか!」
「大丈夫。このRHに記録した私とヴィータちゃんの愛の日々を再生すれば――ったーい! 何するの?」
「何するの?じゃねーよ。お前そんなモン人に見せたりしてねーだろーな! つーかいつの間に録画したんだ!」
「…………だ、誰にも見せたりしてないよ。それに録画はオートです。RHが独自の判断で行っているんです。言わば、独断専行です」
「こっち見ろよ。アタシの目を見て喋れって」

 しれーっと目を逸らすなのは。
 どう見ても嘘を吐いている目です、嘘を吐いてる態度です。
 何度も口にした、「なのはは嘘なんて吐けないよ」と言ったのは、こういう分かりやすい嘘を吐くところからも来ています。
 寧ろ、そういう事例が殆どのような気もしないではないですが、あの時は頭の片隅にすらそんな考えはありませんでした。
 もし、それを思い出していたらもう少し態度も違っていたのだろうか、と思っても後の祭り。
 あんな必死にはやてに反論したことが、今更ながらに恥かしくなってくるのです。
 ヴィータは、とりあえずこの恥かしさをどうにかしようと、その矛先を、なのはに向けるのでした。

「ええい! こっち向け!」
「い、いいい痛いよ! だけど、そのぐらいじゃ負けないモンね!」

 叱ってやろうと、目の前でそっぽを向く顔を両側から挟んでこちらを向かせようとしますが、必死の抵抗を見せるなのは。
 その態度が、嘘を吐いているということの反証になっていると分かっているのか。
 いいや、多分分かってないんだろうなぁ、というのがヴィータの考えです。

「全く。RHの優秀さも考えモンだな。なぁ、RH。ご主人に尽くすのは間違ってねーけど時には叱ることも大切だぞ?」

 結局、その強硬な反抗に根負けしたヴィータ。
 けれど、そのまま引き下がるのも癪ですし、少しばかりの皮肉を口に乗せるのでした。

『It agrees. 』
「ほれ見ろ。お前はもうちょっと叱られたほうが良いってよ」

 意外や意外。
 突っぱねることも、無視することもなく。
 レイジングハートは、マスターのお嫁さんの意見をご尤もだと言うのです。
 我が意を得たり。
 ヴィータは更に追い討ちを掛けようとするのですが。

『You are also the same.』
「――は?」
「あはははは。ヴィータちゃんも同じだって~。怒られちゃったね?」
「な、なに言ってんだ。笑ってんけどな、アタシとRHの二人に怒られるって事だぞ? それに今なら漏れなく桃子さんもついてくる!」
「な、なんですってー!?」

 珍しく、ノリもよく驚くなのは。
 このノリに乗ってしまうのはどうかと、心配もないことはありませんが、話の向き先が逸れた事はチャンスです。
 再び自分へ向かぬよう、ヴィータは二の轍を踏む恐れにも構わず続けます。

「そうだ。そうやって驚いてりゃいいさ。へへへ、何時までもお前に好き勝手させねーぞ」
「んもー。ヴィータちゃんこそ、そうやって余裕の態度でいられるのも今のうちだよ。後ではやてちゃんに報告しちゃうんだから」
「ひ、卑怯だぞ! あんではやての名前が出てくんだよ!」
「だって。はやてちゃんは今は私の義姉なんだから、ヴィータちゃんについて情報を共有するのは当然!」

 えっへん、と胸を張るなのは。
 その主張は当然なのでしょうし、二人の仲が良いに越した事はありませんが、ヴィータにとっては素直に受け入れられる状況ではありません。
 先日の実家帰りの様子が脳裏を駆け巡り、あの時の疲労が、まるで今であるかのように押し寄せる錯覚に囚われます。
 なのはは、その瞬間を見逃さなかったようです。
 ぐったり下がった腕を押し退け、持ち上げられてしまい、両手を広げさせられてしまいます。
 足で思いっきり蹴飛ばせば脱せそうですが、流石にそんな事をするわけにもいきません。
 せめてもの抵抗としてジタバタ足を振るだけです。

「どうかな、ヴィータちゃん。観念した?」
「観念もなにもあったもんじゃねーよ。放せって。出かける準備が出来ないだろ」
「まーだ大丈夫。あと1時間ぐらいはのんびりしたって平気だよ? ほらほら~」
「んぎゅ!」
「こうやって抱っこするとホント落ち着くなぁ。この腕にすっぽり収まる感じといい、この温かい感じといい……生きてる、って感じ」
「お、お前さ。昔っから直ぐに髪触ったり身体引っ付けたりするよな。なんでなんだよ。こっちの身にもなってみろっての」
「どうしてって……う~ん、なんでだろうね。なんでかな……ヴィータちゃん、分かる?」
「分かんねーから聞いてんだろうが。分かってたら聞かねーよ」
「それもそだね。えへへ」

 お嫁さんを抱っこして、すっかりくつろぎモードのなのはに、さてどうやってこの事態を乗り切ろうか、と考えるヴィータ。
 まだ香水の類をつけていないし、今なら頭がくらくらすることもなく、あっさり脱出できそう――そう、思い立ったとき。
 RHがお知らせの電子音を響かせました。
 気の効く優秀な彼女が構わず鳴らしたのですから、きっと重要なお知らせなのでしょう。
 なのはは、いかにも仕方なく、といった顔で応答するのでした。

「あ、電話? 誰からだろう……はーい。高町なのはです」
「はーい、高町なのはでーす――じゃないわよ! ホントに今日遊びに来るんでしょうね!」
「え、え? その声は――アリサちゃん?」
「アリサちゃん?じゃないわよー! まさかアンタ! あたしの声を忘れただなんて言うんじゃないでしょうね!」
「あは、あははは。ま、まっさか~。そんなことあるわけ無いじゃない。ちょっと朝一番だったからビックリしただけ」
「はぁ、情けない。あんたがそんなに薄情な子だったなんて知らなかったわ」

 電話の主は名前を聞かなくても分かります。
 なのはの十年来の親友、アリサ・バニングスです。
 電話が手元に無いため、RHが転送をしてくれているようで、膝の上にいるヴィータにもアリサの声が充分聞こえてきます。
 すっ呆けた返答をしてしまった為に、電話口でアリサに責め立てられるなのは。
 攻勢に出ていたなのははあっという間に追い立てられ、その困り顔に、胸元でニンマリと笑うヴィータです。

「だ、大丈夫だって。ホントに今日行くから。ね、ね? ヴィータちゃん」
「ヴィータ? ヴィータがそこにいるの? またどーしてよなのは。どういう組み合わせなわけ?」
「あ、えっと――」

 目は口ほどにものを言う。
 自分を見つめる視線が、何よりもそれを物語っているのをヴィータは感じていました。
 どうせ、昨日と同じ事をするつもりなのだろう。
 あえて聞くまでもないとは思いましたが、一応。その確認をとってみることにするのです。

『なんだよ、なのは。説明してないのか? どうせまた、驚かせよ~とか思ってんだろ?』
『え、ええっと……えへへ。まさかのその通りです』
『……ったく。良いから直ぐに行くって言っとけ。電話じゃ余計に誤解するだけだ』
『は~い。「あ、アリサちゃん? 今いいかな」
「私の質問に全然答えないくせに……なに? どうかしたの?」
「予定だとお昼前って言ったけど、もうちょっと早くても良い? 何だか色々話したいこともあるし……どうかな」
「良いわよ~? 大体聞きたいことは昨日のうちに纏めてあるんだから、覚悟なさい」
「は、は~い。お手柔らかにお願いしますです……それで、すずかちゃんは?」
「いないわよ。お昼だって言ってあるんだから。私から連絡しとくから安心して早くこっちにいらっしゃい」
「はーい、分かりました」

 電話の相手ではない自分にすら、はっきりと聞こえるほどの溜息を最後に、プツリと通話が終了します。
 完全に通話を終えたことをRHが知らせると、なのははドッと疲れが押し寄せたようで、大きく息を吐きます。
 余程疲れたようで、お嫁さんを抱いたままだというのに、手足を投げ出してしまうのですから。
 ソファーに、だらしなくとひっくり返るなのはの上で、小亀のように乗っかるヴィータは、腑抜けた顔の中心に乗った鼻を摘みました。

「自業自得だ。分かるだろ」
「……うーん、分かってます~。もう、アリサちゃんったら」
「お前が不精なのが悪いんだろ。フェイトはまめにメールしてんじゃねーの?」
「どうなんだろ。多分してると思う。私やはやてちゃんにだってメール沢山くれるぐらいだし」
「ほれ見ろ。別に時間が無いわけじゃないんだしよ、ちゃんとメールぐらいしろって」
「はーい、分かりました」


 それじゃ出かける用意しよっかなぁ、などと言うくせに、さっぱりその気を感じません。
 思わず溜息が漏れてしまっても、責められはしないでしょう。
 そんな、溜息を吐くお嫁さんを乗せたまま、のんびりと構えるなのは。
 呼び出され、出かけようかな、と言ったにも拘らず、未だに動きそうな気配を様子を見せません。
 このだらしない様子に、アリサはアリサでなのはの事をしっかり分かってるんだろうなぁ、と苦笑いするしかないヴィータでした。


 


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