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新婚なの! 10-7 (2)

「ごちそうさまでした」

 案内された先。
 アリサの部屋に特別に用意された、少し早めのお昼ご飯。
 テーブルの上に並べられた、数々のお皿の装飾から、先ほどまで使っていたティーセットと同じ作者でしょうか。
 他にも、真っ白な輝くようなテーブルクロスに、真ん中に置かれた花瓶に生けられた花は、見たこともないものです。
 フォークやナイフの類も、それ自体が輝きを放っているかのように、ピカピカに磨き上げられています。
 それら、並べられた品々の数から、客への持て成しの気持ちが、十二分に窺えます。
 なのはにとって懐かしく――とは言いすぎの、けれど久しぶりな――、ヴィータにとっては初めての、アリサの部屋。
 場を改めたために、会話の内容も一度リセットされたようで、再会を喜ぶ三人の会話はとても弾みました。
 女の子四人を持て成すといっても、少々大目であったお昼ご飯も、それも手伝ってか、お陰で箸も進み、その全てが綺麗に片付いてしまうのでした。
 もちろん。
 作ってくれた、バニングス家お抱えのシェフの腕が確かであったことは、言うまでもありません。
 しかし、その中にあって、余り箸の進みが思わしくなかった――とはいえ、きっちり平らげてはいますが――子が一人。
 ヴィータは、その場所と、若干興奮気味のなのはが口を滑らせないか心配で、落ち着きのないまま、その時間を過ごさねばならなかったのです。
 そのような事態もありましたが、表面上、滞りなくすすんだお昼ご飯。
 今は鮫島以下のお手伝いさん達がお皿を下げているところです。

「では、後でコーヒーをお持ちいたします」
「ありがとう、鮫島。少しゆっくりでも良いわよ」

 サイドに黒い部分を残し、その多くを白髪で占めるようになった頭を深々と下げ、音もなく部屋を後にする執事の鮫島。
 勿論。自分の使える少女の言うところの意図もしっかりと理解して。
 扉も閉まり、一呼吸置いたところで、なのはが一番に話を切り出しました。

「ねぇねぇ、アリサちゃん。鮫島さんってもう良いお年じゃない?」

 ゆったりと腰掛け、件の老人が消えていったであろう方向に視線を向けながら、尋ねます。

「そうね。今年で64だったかしら。でもパパも手放す気はないし、本人もまだまだ現役でいく気満々みたいよ?」
「へ~。ちょっと白髪が目立つ感じだけど正にロマンスグレーって感じがするな~」
「もうそんな年齢じゃないけどね」

 特に否定するわけでもなく、ただ、事実を述べるだけといったアリサに、思わず尋ねた本人は首を傾げます。

「え? そうなの?」
「元々は中年男性のことを指すんだよ、なのはちゃん。だからかな」
「へ~。ヴィータちゃんは知ってた?」

 要領の得ない友人に対し、やんわりと指摘するのはすずか。
 間違いを正され、一人居心地が悪かったのか、自分と同じであろう、期待を込めてお嫁さんに同意を求めたようですが。

「ああ、知ってたぞ。はやてに教えてもらってたからな」

 その意図を分かっているだろうに、当然、とばかりに答えるヴィータ。
 その響きに、一人だけ間違った――というほど、大げさでもありませんが――使い方に、思わず照れ笑いをして誤魔化したようです。
 変わってないわねぇ、と小さな溜息を吐くアリサ。
 相変わらず可愛いね、と笑って応えるすずか。
 そんなことも知らないのか、と隣で呆れながらも、向ける視線は優しいヴィータ。
 そんな三者三様の――しかし、根底に流れるのは愛情の他ありません――反応に、当の本人だけがそれに気付かず、ノンビリと笑っているのでした。

「だけど、なのはがそんなしっかり仕事してたとは思わなかったわ。まさか若手ナンバーワンに数えられる一人とはねぇ」

 てっきり上司が扱いにくい部下ナンバーワン、なんてのをやってるのかと――
 意地悪そうな視線を投げかけ、にひひ、と笑うアリサに、すずかはやんわりと助け舟を出すのです。

「それは失礼じゃないかな、アリサちゃん」
「ヒドイなぁ。管理局なんて私より強い人は山ほど居るんだよ? ねぇ、ヴィータちゃん」
「そういう問題じゃねーよ。お前の性格のことを言ってんだよ、アリサさんは」

 扱いにくい、の解釈に隔たりがあるようで、なのはは、少し不満そうに真意を尋ねます。

「え~。そうなの、アリサちゃん?」
「……さぁ? でも自覚がないのならヴィータの言う通りなのかもよ?」

 少しだけ考える振りをして、なのはに期待を持たせる辺り、意地悪は継続中なのかもしれません。
 自覚がないのを分かっていながら、そうならば、否定したい事実そのままね、なんて言うので、言われた本人は更に首を傾げています。
 これは愉快だわね。
 なんて思ったか、満足そうに口の端を緩めるアリサですが、そこは一筋縄でいかないのが、高町なのは。
 首を傾げたまま、何かを思いついたようで、隣に座るお嫁さんに、さっと腕を伸ばします。

「またヒドイことを言われた気がする……ひーん、ヴィータちゃ~ん」
「ご飯食べたばっかなんだから動くなって。後でお腹痛いっていう羽目にあうんだぞ。ええい」

 意地悪されたのを口実に、ヴィータに慰めてもらおうとする様子に、アリサは呆れたように黙っているだけ。
 ツッコミを入れるのも億劫と感じたか、また別の何かを思ってか。
 緩んだはずの口の端を、くっと結んで見つめる瞳に、その心の向こうを図り知ることは出来ません。
 その隣のすずかも、変わらずニコニコとしてはいますが、浮かべるその表情と、胸のうちが同じであることの保障はありませんでした。

「ホント。お前が普段しっかりしてるのか心配だぞ、アタシは。誰の前でも殆ど態度変わらないんだからさ」
「やっぱりそうなの? はぁ、成長してないわね、アンタ」

 ぐいぐいと押し退けた結果。何とか自分を抱き寄せようとする手を退けることに成功したヴィータ。
 アリサの話を引き継ぐように、心配ごとを口にする。
 所属の部署が違うために、普段の姿を目にする機会はとても少ないのです。
 目の届く範囲での行動なら咎めるなり、その度に注意することも出来ます。
 それが出来ないために、お前が心配だぞ、と口にするのでした。
 それを受け、なのはが駄目っぽいという点において、強く同意する金髪の親友は、さほど驚く様子もなく、溜息混じりにがっかりと肩を落とします。

「やっぱりって? 何か思い当たる節があるんですか?」
「あるもなにも。公私の区別がないってわけじゃないんだろうけど。自由人なのよね、この子」

 ヴィータの食いつきのよさに、肩をすくめるアリサ。
 褒めているわけでない言葉に、それがなのはの良いところなのかもね、なんて決して口にすることのない思いを潜ませて。
 それは、誰も気付かないでいてくれて構わないものでしたが、そこは一番の親友。
 豊かな紫色の髪をたゆたわせては、こちらもひっそりと、その意図に応えます。

「ちゃんと礼儀はしっかりしてるんだし、裏表がないって言ってあげなきゃ。素直でいい子だよね? アリサちゃん」

 ニッコリと、同意を強要する響きに、アリサはそっぽを向いては口を尖らせてしまいます。
 思ったとおりの反応に、すずかは、くすくすと小さく笑うだけ。
 この、付き合いの長い二人にしか出来ない、気心知れたやり取り。
 勿論。なのはとヴィータに、その真意まで把握することは出来ません。

「へ~。なのはってやっぱり昔からそうだったんだ」
「昔って言っても、三年もないぐらいじゃないかな? 私たちとヴィータちゃんのブランクって」

 言葉の表面だけを捉えた感想に、そうでもないよ、と答える。
 話題の中心になっている人物にしてみれば、居心地の悪いことこの上ない状況ですが、三人は一向に気にする様子はありません。
 酷いことをいうなぁ、という顔をされる内容ではありますが、それもなのはの魅力の一つであるには違いなく、一種の愛情の裏返しなのでしょう。
 特に花を咲かせているのが、ヴィータとアリサ。
 何だかんだ言って似たもの――なのは被害者の会、会員として――同士。なのはのダメ話に花を咲かせています。
 その横にあって、居心地の悪そうに、口を一文字に噤んでいる人。
 こんなところで。
 なのはの危惧は見事に的中したのです。
 緩衝材となるべく期待を寄せたすずかは、特に何もしてくれる様子はありません。
 流石に凹み始めました。
 その様子に、二人はどうだ、と言わんばかり。
 まだ話の止まらない二人に対し、すずかは、今はそんな態度でも、最終的には頭の上がらないだろう様子を想っては、ひっそりと頬を緩めるのでした。

「あ、アンタ。そんなことやってんの? 恥かしくないわけ?」
「もっと言ってやって下さい。コイツ、アタシの言うこと全然聞かないんです」

 これはもう、呆れるとしか言いようのない、といった様子で肩を落とすアリサに、ヴィータはもっととはやし立てるのです。
 背中を押されたアリサが勢いづいてしまう前に、なのははそれを抑えようと、身振り手振りで反論します。

「あ、愛情表現だよ愛情表現! 夫婦なんだから抱きつくぐらい普通だよ~。まして新婚なんだから~」
「う~ん、向こうの風俗が分からないから何とも……その点どうなのかな、ヴィータちゃん」
「こっちと大差ないと思います。……多分」

 一応はなのはの意見も尊重しながらも、さっぱり信用してないのでは、と思わせるすずか。
 しかし、なのはも、聞かれたヴィータすらそれに気付かず、即答します。が。
 僅かな沈黙にのあとに付け足された言葉。
 これは自信のなさの現われなのか、それとも伴侶を不憫に思ったヴィータなりの愛情表現なのか。
 それは本人以外には分かりませんし、若しかすると本人にも分からないのかもしれません。

「同性婚が当然みたいになってる辺りそうは思えないけど……そうだわヴィータ。年齢って大丈夫だったの?」
「年齢って、結婚のことですか?」
「そうそう。なのはは分かるけど、今でやっと見た目を追い抜いたぐらいじゃない?」

 詳しく言えば、アリサの疑問は外れです。
 純粋な活動期間で言えば、また違うのですが、長い長い時を生きてきたヴィータにとって、とっくに外見年齢を超えているのです。
 勿論、アリサの言いたいことは分かるので、ヴィータは黙って頷きます。

「普通はダメですけど、管理局に勤めてると色々例外があって。アタシはその特例のお陰というか……そういう感じです」
「まあ、小学生が堂々と所属できる時点でこっちの価値観じゃあねぇ。普通の会社経営とは違うんだし……うん、ありがと」

 言われて見ればそうよね、とゆったりと足を組むアリサ。
 いま自分たちがいる世界のことを上手く説明できたとは思えませんが、概略は伝わったようです。
 それはひとえにアリサの理解力の高さに起因するのであり、流石だなぁ、とヴィータは一人感心するのでした。
 しかし、理解したのはアリサだけでなく、その隣に座るすずかも同様です。
 うんうん、と頷いては、なるほど、という指摘をするのです。

「じゃあ、ヴィータちゃんが管理局にいなかったら、結婚できなかったかもしれないんだね」
「そう言えばそうだね。う~ん、なるほど」

 ここでなのはがもう一言惚気るかと思いきや、うんうんと頷くばかりで、特に何も言いません。
 アリサも期待していたわけではありませんが、構えていたところに何も来ないと、少しばかり気持ち悪いものです。
 なのはの言動が気にならないわけではありませんが、別段気にもなりませんし、追求して解明したところで酷い結論になろうものなら堪りません。
 この話題を続けるのは癪だ、と言わんばかりに、さっさと別の話題を振るのでした。

「なのは。教導隊っていうの、仕事は順調なの?」
「うん、まだ五年だから、覚えることにやる事がいっぱいで大変だけどね。親切な先輩もいてくれて、順調も順調だよ」
「ふうん」

 小さくガッツポーズするようにして、その順調振りをアピール。
 もし、仮にそうでなかったとしても、性格からして――しかも久しぶりに会った親友の前で――弱音を吐くタイプではありません。
 そのガッツポーズを、本音を隠すためのポーズなのか、本当に元気振りを主張しているだけなのか。
 もう少し突っ込んでみないことには分からない。
 そう思ったようで、アリサはさして興味もなさそうに、けれどしっかりと話は続けるのです。

「だけど未だに、そんな人にモノを教えたりする仕事に就くなんて思いも寄らなかったわ」

 これは話を引き出すためのものでなく、純粋な感想。
 決して特性がなさそうだ、というわけでなく、ただそういう可能性を考えたことがなかった、というだけですが。
 それはなのはにも伝わったようで、自分の仕事とはどういうものなのか、その一端を説明することにしたようです。

「教えるばかりじゃなくて、装備とか戦闘の技術のテストとか。自分の技術や経験が大切な仕事かなぁ。教官業も勿論あるけどね」
「そっちの方は納得だわ。発想とか思い切りとか、好きなことはトコトン突き詰めるタイプだし。そういう意味じゃ天職かもね」
「えへへ、ありがと」

 こっちに来てから、初めてかもしれない、お褒めの言葉になのはは満面の笑みを浮かべます。
 素直じゃないアリサならば――コレは勿論、誰に対しても発揮されるわけではありません――、そう考えても充分です。
 そんな本音の部分を見抜かれたアリサ。
 笑顔を向けられたのに、ムスッとした顔で、つんと顎を逸らせては、そんなんじゃないのよ!と強くアピール。
 そうするから、余計に自分の言動を肯定することに気付いているはずなのに。
 付き合いの長い性格と言うのは、そうそう簡単に変えられないものだ、と両者共に納得するのです。
 しかし、プライドの高いアリサにしてみれば、ここで納得して引き下がるのも癪で、皮肉の一つでも言わなければ納まりが付かないようでした。

「なのはは頑張り屋だから、教え子なんかは随分成長が早いんじゃないの? ねぇ、ヴィータ?」
「え~、そうかなぁ、照れちゃうな。えへへ~。どうかな、どうかな? ヴィータちゃんはどう思う?」
「……お、お前」

 全く通じてない……と、ある意味想定内の行動でありながらも、その通りにされてしまうと、アリサもガッカリせざるを得ません。
 横で、そのガッカリと肩を落とす原因を作りながらも、のほほんと笑っているなのは。
 親友の顔ぐらい見てやれよ、と言いたいけれど、言ってしまっては台無しだと、ヴィータは次の句が告げないでいました。

「はぁ……その内、あたし主導で"高町なのは被害者の会"を立ち上げる羽目にならないよう、気をつけなさい?」

 努めて平静、というか、変わったところを見せないアリサ。

「は、は~い。以後気をつけます。だからちゃんと見張っててね、ヴィータちゃ~ん」

 分かっていないがらも、それすらお嫁さんに甘える口実にしてしまう。
 ここまで来ると一種の才能としか言いようがありません。
 本当に、なのはがそれを分からず、天然という範疇に納まるかどうかギリギリのラインで言っているのであれば、ですが。
 抱きつかれながら、そう思わなくもない、正直どうかと考えていたヴィータ。
 けれど、この場で確かめるわけにもいかず、一応に話しだけは合わせておくことに。

「そんなこと言ったらお前。アタシがいつも一緒に居なきゃダメじゃねーか。仕事してる時はどーすんだよ」
「だーかーら。教導隊に来てーって言ってるじゃない。はやてちゃんにも聞いたでしょ?」

 反省する態度を微塵も見せる気のない様子に、大げさな咳払いで釘を刺すアリサ。
 流石のなのはも、二度目ですので自重することにしたようですが、名残惜しそうに、ポニーテールの先を指先に絡めたりと弄ぶのをやめません。
 いくら食事が終わったとはいえ、余りマナーの宜しくないなのは。
 ヴィータは嫁の務めとして手の甲を思い切り抓るのでした。

「なのは? ヴィータにも休息を与えないと倒れちゃうわよ。職場ぐらい別のところに居ないと気が休まらないじゃない」
「逆かもよ、アリサちゃん。離れてると"今どうしてるかな~"って余計気になっちゃうかも」
「あ~、それはアリね。歩き始めた子供みたいなモノで目の届く範囲にいないと心配っていうの? それね」
「わ、私の評価が散々なんですけどアリサちゃん」

 とうとうと喋り続ける二人。
 このまま放っておけばいつまでも続きそうだった為に、なのはは慌てて口を挟みます。
 それを飛んで火にいる夏の虫、と言わんばかりに、アリサはニヤッと口の端を持ち上げます。

「自業自得よ。だけどこんなで生徒はついてくる訳? 舐められてんじゃないかと心配だわ」
「それは大丈夫。なんたって――」
「"お話聞いてもらうから"、だもんな。へへへ」
「なぁにそれ。ヴィータちゃん」

 興味津々のすずかに、ヴィータはなのはへ一瞥をくれてから得意げに話し始めます。

「やんちゃな生徒には実力行使するんですよ。フェイトにも初めはそうだったって聞いてます」
「えー! なのはちゃんってそんな子だったの?」
「うっわー。なのはってそう言うことしちゃうタイプなん……あ、いや。そんなことないか」
「え、え? ヴィータちゃんヒドイよ! どうして私の評価を貶めることばっかり言うの~。もっと褒めてよ~」
「確かにお前は褒めて伸ばすタイプだけど増長してもらっちゃ困るんだよ」

 アリサは何か思い当たる節があるのか、ふと考え込むように左頬を押さえています。
 それにも構わずじゃれ合う二人に、すずかは直ぐに思い出せずにいた記憶を胸に止め、報われないなぁ、と一人呟くのでした。


 


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