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新婚なの! 10-8 (1)

 
「なんか元気ないね」

 大きく唸りを上げながら、定刻より少し遅れて到着したバス。
 こんなところからも、自分は今、故郷に帰ってきたんだなぁと思わせてくれます。
 静かに、定刻どおりにやってくる公共交通機関。
 日本のそれは、大概時間に正確ですが、色々と技術の進んだミッドでは、もう一つ正確なのです。
 そんな、少し遅れたバスに乗り込んだ二人。
 顔をむっと撫ぜる熱気に、思わず声が漏れてしまいます。
 今日は、この時期にしてはいくらか温かいというのに、バスの中は充分すぎるほどに暖房が効いていました。
 日差しと反対側の、陰になっている席を取ろうかと思いましたが、もう一度親友の顔を見たいと思い、なのはは、あえて日の差すほうを選びました。
 そこで、手を取っていたお嫁さんのことを思い出します。
 嫌じゃないかしら、と思い尋ねてみれば、別に、とだけ。
 素っ気無いのはいつもの通りだとしても……
 引っかかりは、やはりという思いでしたが、ここは自分を気遣ってくれたのを無下にしないよう、なのはは素直に好意を受け取ることに。
 ガラス越しに受ける日差しは、こちらへ来た時よりも幾分か弱くなっているみたい。
 単に位置的な問題なのか、主観なのか、それは分かりません。
 そうする内に、車内にアナウンスが流れ、バスは一度、大きく身体を揺らしては、ゆっくりと進み始めました。

「私、こっち側で良いよね?」

 尋ねる声に、またも素っ気無く答えるヴィータ。
 というのも、尋ねる前になのはは窓側にいましたし、ヴィータは既に腰を下ろしていて、尋ねるまでもないだろ、と言うことだったかもしれません。
 足を投げ出し――深く座ると、足が床に着きません――、ぐったりするように背中を預けているヴィータ。
 ひどく疲れたように見えます。
 自分たちだけで盛り上がってしまったし、気疲れしてしまったのかもしれません。
 その、気疲れというのがどういう意味でのモノなのか、考えなくてはならなくて、必要ならば、ちゃんと確かめなくちゃ――
 今のヴィータの様子だけではなくて、その前からの違和感の正体。
 なのはが、それらを考えようとしたところで、バスの前方に、バニングス邸の大きな門構えを見ることが出来ました。
 窓側に身体を寄せ、ぐっと顔をせり出します。
 アリサちゃんとすずかちゃん、まだ居てくれるかな――
 なのはの、そんな想いとは裏腹に、既に表門には二人の姿は見えず、僅かばかりに気を落とすことに。
 やっぱり不義理が過ぎたかなぁ、などと冗談めかせば、ヴィータも同じように窓の向こう――反対側ですが――へ視線を投げ、物思いにふけっているようです。
 こう言うときは先制攻撃。
 敢えて、ヴィータちゃん元気がないね、と聞いてしまえば、当然のように――しかも素っ気無く――いつも通りだ、と答えます。
 そう言ってくれるなら大丈夫だ、と思う反面。
 憂いとは違う、悲しみともいえる光を湛えた、その青い大きな瞳。
 今にも溜息を吐きそうに開かれた、小さな口。
 なんの意思も感じられない、手。
 一度中断されてしまった、違和感の正体を探るべき思いが、ふと蘇り、その感覚にある程度の確信を得るのです。
 今確かめようか、それとも――
 自分に気付いていないだろう、彼女の視線に、なのはは幾らか悩むのでしたが。

「そっかな。いつもはもっとぷりぷり怒ってる感じだ――いたたっ」
「怒らせてるのは誰だよ。アタシだって怒りたくって怒ってるわけじゃないんだぞ」
「んもー。ぷりぷり、ってところが可愛いのに……」

 大げさに頬をさすってジットリ目を装えば、お返しとばかりに、いーっ!としてそっぽを向いてしまいます。
 そんな顔も可愛いんだよ~?なんていって、次の反応を引き出そうとしますが、そっぽを向いたままの顔は、なのはを向くことはありません。
 怒っているより、笑ってくれる方が嬉しいのは当たり前ですが、落ち込んでいるよりは、怒っている方がマシです。
 落ち込んで、内へ内へと向いてしまうのは良くない傾向です。
 どこまでも落ち込んでいってしまうから。際限なく、内へ内へ。下へ下へ……
 そうやって落ち込んだ心は、いつしか身体をも引っ張って落ちていってしまいます。
 そんな心に引っ張られた身体は、少しずつ蝕まれ、気付いた頃には、取り返しのつかないことに。
 ならば、となのはは思ったのです。
 かつての自分が同じであったから。
 そうする自分に、ヴィータはいつものように怒ってみせます。
 怒っているのは、少なくとも、外へ関心が向いているから。
 だから、安心したのです。
 鬱屈を溜め込むことなく、外へ向けることで、それに身体が蝕まれてしまうことを防ぐことが出来るから。
 今のヴィータが、それほど重症ではないだろうけれど、それは他人からは気付きにくいもの。
 いくら夫婦だといっても、結局は、どこまでも二人は別の人間なのですから。
 若しかして、と思うならば、行動に移すべき。
 間違っていても、それが杞憂ならば問題はないのです。
 それを恐れて、取り返しのつかないことになるぐらいなら、比べることすらないほどに。
 そうやって、なのははヴィータが怒るという反応を見せてくれたことに、少しだけ安心するのでした。

「もう。ヴィータちゃんったら~」

 人気のないバス。
 心地よささえ感じる、エンジンの振動。
 足元のヒーターが吐く熱い風に、窓からの温い日差しが思考を鈍化させます。
 ヴィータちゃんとお喋りしたいなぁ。
 それは、純粋な欲求と懸念。
 けれど、落ち込むその理由と、そこから立ち直らせることへの突破口が見つからないまま、微温湯のような空気に委ねてしまうのでした。


 


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