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新婚なの! 10-11 (3)

 
「う~ん! やっと目処がついたかな~」

 背もたれに押し付けながら、グーっと伸びをすれば、ギシギシと固まった身体が解れていきます。
 姿勢が悪いのか、デスクワークにからきし向いてない性質のか――
 自分としては後者だと思うのですが、お嫁さんに言わせれば「慣れないことするからだ。普段から――」とお説教が始ってしまいます。
 身体を動かしている方が性にあっている、とはいえ、全部が全部、そうやって終わる仕事ではありません。
 有効な反論もなく、お嫁さんのお説教を頂いていたのを思い出していると、不意にそのお嫁さんの事が気になるのでした。

「ねぇ、ヴィータちゃん。ちょっと過ぎちゃったけど……寝てる?」

 いつからか。全く話しかけていないことに気付きます。
 こちらから言わなければ、向こうから言うこともありません。
 話しかけて欲しいなあ、とは思うけれど、ヴィータとしては、わざわざ作業の手を休める口実を作ってやることはない、と考えるだろうから。
 逆に、こちらから話しかければ「黙って続きやれ」と怒られてしまいます。
 そうでなくても、一日の終わりが近づいているのですから、黙って続きをやらざるを得ないのでしたが。
 寝ているなら、起さないようにしなくちゃね。
 音を立てないよう、ゆっくりと椅子を引けば、そこには案の定、可愛らしい寝顔が布団から出ていたのでした。

「……ちょっと寒かったのかな?」

 お風呂から上がって随分――普段と比べて、ですが――経っていましたから、冷えていたのかもしれません。
 いかにも布団を手繰り寄せた、という感じで首元に丸まっている布団が、そう思わせます。
 もっと近くで見ようにも、スタンドの明かりを自分自身が遮ってしまって、どうしようもありません。
 その時のなのはは、近づくことばかりを考えて、少しだけ横に逸らすとか、そんな簡単なことすら思いつかないのでした。

「じゃあ寝ちゃおう、かな?」

 こういうとき、便利に慣れちゃうと駄目だねえ。
 呟いて机に戻り、スタンドを消せば、部屋は正に真っ暗。なにも見えません。
 その内、この暗さにも慣れるでしょうが、それまで黙って立っているわけにもいきません。
 ただでさえお風呂から上がって時間が経っていますし、なにより、早くお嫁さんの待つベッドに潜り込みたかったからです。
 ならば、と慎重に進むかと思いきや。
 なのはは、十年来使い続けた場所なんだから、部屋の感覚は身に沁みて――

「あいたっ! いったーい……んもう」

 もう一歩。
 そう思ったところで、爪先がベッドの足を捉えたのです。
 思いがけない痛みに飛び出した声は、静まり返った部屋と家に響き渡ってしまった――ように聞こえました。
 起してしまったかとお嫁さんを見やれば、今だ暗さに目は慣れず、姿は全く確認できませんが、その気配はありません。
 きっと、今も可愛い寝顔を披露していてくれることでしょう。
 ホッと胸を撫で下ろし、なのはは、改めてベッドに潜り込む準備をするのでした。

「はあ、中学からそれほど、身長、伸びてないんだけどなあ」

 こう言うときは普通、身長が伸びた分を考慮してなかったー、というのがセオリーです。
 しかし、中学まではこちらにいたので、それはありません。
 やっぱり三年近くという年月は人を変えてしまうのね――なんて下らないことを考えては、そう納得するなのは。
 ……少し足元も冷えてきた上に、ヴィータの隣が恋しくなってきたからです。

「お邪魔しまーす」

 足元から布団を捲り、中を這って進めば、直ぐに顔を出すことが出来ます。
 ヴィータは随分と小さくなっているようで、その分隙間も多く、容易に到達することが出来ました。
 寄ってしまった毛布を元に戻し、ベッドを確かめていると、足元からゾクゾクと這い上がってくる寒気。
 思ったより冷えていたみたい。
 布団に入るまでは分からなかったけど、いくら暖房を効かせていたとは言え、やはりこの時間帯は冷えるものです。

「あ~あ、ヴィータちゃん湯たんぽが恋しいよ~」

 こう言うときは、ヴィータをがっちりと抱き込んで、暖を取るに限るのです。
 そうすると、「アタシに抱きつくなー」とか何とか言って嫌がってくれるのが、可愛いくて仕方ありません。
 抱きつくのを容易に許してくれるのは、ホンの一握りの人たちだけだから。
 ホントにイヤなら、文句を言うまでもなく、そもそも抱きつかせてくれないからです。
 決して口にはしない"好意に"、こっそりと微笑んでみる。
 そうやって反応を確かめつつ、暖を取りながら、お嫁さんの可愛い姿も見ることが出来る。
 ああ、寒い部屋って素晴らしい。
 そう言えば、昨日も寒くてこうやって抱きついてたんだっけ、となのはは、胸元の温かみが染み渡っていくような感覚に重ね合わせます。

「やっぱり、起きててくれないと寂しい、かな」

 目下の赤い頭。
 いつもなら、向き合うかそうでないかの違いはありますが、直ぐに黙って抱かせてくれません。
 しかし、今日は先に寝てしまっていて、素直に抱かせてくれる上に、その赤い頭からは何も聞こえてきません。
 勿論、抱っこするのは好きです。
 小さくなってしまった身体が、腕の中にすっぽりと納まって、その髪に顔を埋めると、好きな香りを胸いっぱいに出来るから。
 けれど、一番の目的は、そうすることで、あーだこーだと、文句を言うヴィータを構えること。
 ヴィータ自身、それが目的で、こちらがちょっかいを掛けていることを分かっていると思います。
 それでも。
 最後には「仕方ねーなあ」と言って。口にしないでも、そう態度を取って。
 それ以上は自分にとっても、どうしてなのか分からないけれど。
 ヴィータがそうしてくれることが、なにより自分を安らかにしてくれる――なのはにとって、それだけは、確かなことでした。

「……なんだか。私ばっかりだね」

 ぽにょぽにょお腹に手を回しても、何の反応もありません。
 カレンダー上、新しい日になり、徐々に慣れてきたとは言え、一段と夜が深まっています。
 その、部屋を覆いつくした暗闇に吸い込まれてしまっているのか、何一つ、物音がしません。
 ただ耳に届くのは、自分の心臓の音と、胸に抱くお嫁さんの微かな寝息だけ。
 さっきは「知らないのはヴィータちゃんだけ」なんて言ったけど、殆ど口から出任せ。
 実際、自分が夜中に目を覚ますことなど本当に稀。
 以前偶然に、喉が渇いたか何かで起きたときに見たきりで、その時の話を膨らませただけなのです。

「たまにはこうやって、ヴィータちゃんより遅く寝るのも良いかもしれない、かな?」

 ここまで来ると、その寝顔を間近で拝みたいところですが、下手に動かして起してしまうのは可哀想です。
 なのはは、グッと堪えて、珍しく"ヴィータより遅く寝た夜"を堪能することにします。
 予定としては、明日、リンディの家に――といっても家にいるのはエイミィですが――挨拶に行って終わり。
 他に行きたいところが出来れば別ですが、後は家に帰るか翠屋に顔を出すかぐらい。
 その日の夜にこちらを発ち、ミッドに帰る予定。
 ですから、今日の夜は夜更かしをして多少なり寝不足になったところで、問題はないのです。

「…………」

 段々と、身体の先まで温もりが染み渡っていって、縮込めた足をやっと自由に出来そう。
 なのはは、恐る恐る伸ばしていくと、その先のシーツは当然冷たくて、また引っ込めてしまいたくなるけど、そのまま伸ばしていきます。
 ぐーっと伸ばした身体は窮屈さからの開放感か、思わず、大きく口から漏れるのでした。

「……お、起きてない、よね?」

 返事を求めない確認は、無言という形でもって肯定されます。
 全くブレることもなく、寝息もリズムを崩していません。
 息を潜めて安堵すると共に、それとは真逆の考えが頭を過ぎるのでした。
 別に、いまので起きてくれても良かったかな。
 これだけ抱っこし続けるのは滅多にない機会ですし、充分堪能すべきです。
 しかし、その一番の目的である、ヴィータに構ってもらえる、という欲求は満たすことが出来ません。
 ベッドに入る前。
 お嫁さんが恋しくなった、なんて思っていたのに、抱いている今のほうが、もっと恋しくなってしまったのです。
 距離は近づいているのに。
 その人はこの腕の中にいるというのに。
 何だかどうしようもなく、ヴィータが"この場にいない"ように感じてしまう。
 やっぱり、我侭だね。私――
 はやては、ヴィータと一緒に居られなくなったことを、自分の前では出さないものの、大変寂しく思っているようでした。
 はやてにして見れば、毎晩こうして一緒に寝られることなど、羨ましくて仕方ないことでしょう。
 それなのに。
 自分ほどヴィータの近くにいる人もいないであるのに、それを持って寂しがっているなんて。
 なのはの自嘲的な呟きは、全てを飲み込んでいくような闇に吸い込まれていくのでした。


 


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新婚なの! 10-11 (2)

 
「なのは。まだかかりそうか?」
「う~ん、そうだなあ。切りいいところまで読んでおきたいから」
「じゃあアタシは先に寝るぞ」
「え~、待っててくれないの? せっかく二人で居るのにぃ」
「……しょうがねぇな。布団の中に入って見ててやるから。頑張れよ~」

 いけず~、そこに夫婦の愛はないノー?などといっていますが、ヴィータは、それを気にすることなくベッドに潜り込みます。
 ぼんやりと温まった部屋の空気をいっぱいに含ませれば、足元からゾクゾクと何かが駆け上がってくるような感覚。
 思っていたよりも身体は冷えていたようでした。
 手足をギューっと縮込ませて、少しでも熱が逃げていかないようにします。
 ぐるりと寝返りを打つヴィータ。
 すると、スタンドの明かりを背にしたなのはが、宛も、テレビで可愛らしい子猫でも見たような顔をして、こちらを見ているのです。
 椅子の背もたれに頬杖をつけば、小さく軋む音。
 舟を漕ぐようにキシキシ言わせては、目を離しません。
 こちらの意思が伝わるよう、あからさまに嫌そうな顔して、ヴィータは文句を言います。

「……あにやってんだよ。モニタはこっちに向いてないだろ」
「だってえ。ヴィータちゃんがとっても可愛いんだもーん」
「ああ、それは分かったから。早く済ませろ。湯冷めして風邪ひいたって知らねーぞ」

 構うことなく、なのはの軽口を受け流したつもりでしたが、そうされたはずの本人は、ニヤニヤとこちらを見るばかり。
 嫌な予感がする……ヴィータは思わず眉間に皺を寄せます。

「それは認めるんだ。そっかあ、ヴィータちゃんも自分が可愛いって自覚あるんだ。ふ~ん。でも当然だよね。私がコレだけ毎日可愛いって言ってるんだから」
「う、うっせ! 無駄口叩いてるヒマがあったら、さっさとアリサさんからのメール読めよ!」

 自信満々に胸を張り、どうだと言わんばかりのなのは。
 軽く受け流したはずなのに「可愛いって自覚がある」なんて言われては、こそばゆいやら何やらで、すっかり相手のペース。
 結局構ってしまって、なのははニンマリとしています。

「は~い……っくしゅん」
「ほれ見ろ。身体が冷えてきてんだ。大体、全部片付けてからだな……」
「あー、はいはい、分かってますよ~」
「ったく。ホントに知らないんだかんな。休みの最後をベッドで過ごす羽目になっても」

 ホントに分かったかどうか怪しげな態度で、机に向かって座りなおすなのは。
 呆れてモノも言えないと言うか、何と言うか、それでも放っておくわけにもいかず、念を押すように、嫌味で返すのです。
 けれど、慣れたものか、なのはは全然堪えていない様子でした。

「そうだね。明日には帰らなきゃいけないし……でも、ヴィータちゃんの看病も捨てがたいしなあ、なんて」
「勘弁してくれ。アタシだって用事があるんだぞ?」
「じゃあ明日は頑張って、明後日から風邪のお世話になるねー」

 机に向かったまま、軽い調子。
 冗談であるだろうことは分かっていても、ゲンナリせざるを得ないヴィータは、思わず棘棘とした口調になってしまいます。

「あさって? バカ言うなよ、仕事はどーすんだよ。アタシだって行かなきゃいけねーんだぞ」
「えー? 私が心配で仕事に行けないって? う~ん、そんなに私のことが――」

 頬を押さえては、一人でイヤンイヤンしているなのは。
 何を勘違いしてんだ――とは言いたくても言えません。
 はっきりとは言いませんでしたが、なのはの言いたいことは大方当たっているのですから、尚更です。
 風邪をひいて休まなきゃいけないような状態で一人、家に放っておいたら心配で仕方ありません。
 しかも、職務柄、急な仕事で呼び出されないとは言い切れません。
 教導官が引っ張り出されるような事態など、そうそう起きはしないとは言え、です。
 もし自分が家にいれば、特殊な事柄でなければ、代わりも出来ますが――しかし、それは多分無理でしょう――
 言ってしまえば説得出来ようとも、それだけは――ヴィータは、それを口にするのを憚れるのでした。
 理由は二つ。
 単に、なのはが調子に乗るのがイヤだから。
 言ってしまえば、今後なにかにつけて、今日のことを蒸し返すでしょう。
 後もう一つは――何てことはありません。
 恥かしいのです。

「ぐっすり眠れる薬を打って、ベッドに括りつけておくから安心しろ」
「ひっどーい。病人をそんな扱いするだなんて!」

 背もたれに押し付けて、椅子をキシキシ言わせはしますが、こちらを向くことのないなのは。
 別に顔が見たいわけじゃないし、顔が見られるのもイヤなので、気にもしないぞ、と胸の中で強がるヴィータでしたが。

「だったら病人にならないよう努力するんだな。とりあえず、机に向かってメールを読んで、早く寝ろ」
「……はーい。ちぇ、ヴィータちゃんの意地悪」
「意地悪で結構だ」

 ブツブツと、こちらに聞こえない程度に文句を言う態度が面白くありません。
 けれど、せっかくやる気になったようですし、こちらに興味を向かせないよう、余計なことは言えないのが、それに拍車をかけます。
 ヴィータが、むーっとしていることなど知らず、机に向かうなのは。
 左側の髪はスタンドの明かりを通すために、普段は栗色をしているものが、琥珀のように見えます。
 その琥珀色の長く、真っ直ぐに伸ばした髪をバンドで一本にまとめ、右肩から前へ。
 いつも、寝るときはポニーを解いているなのは。
 日常は、左側にポニーを作っていて、以前はそれのない姿に違和感を覚えたことを、ふと、ヴィータは思い出すのでした。
 それも今は、ポニーを作っていない姿も見飽きるほど見ていて、何時から、そう思わなくなったのかと、疑問に思います。
 その疑問を解決するべく、いくらか頭をめぐらせますが……結論は出ません。
 ああ、そんな長く、一緒にいるのか……
 ぼそり。
 感慨深げな口調で小さく零れたことに、ヴィータ自身、気付かないのでした。

「ねぇ、ヴィータちゃん。起きてる?」
「……ん。ああ、起きてるぞ」
「いま、寝かけてたでしょ? 返事がちょっと遅かったもん」

 むーっと膨れっ面であることが、想像できる口調のなのは。
 やれやれと言った感じで、ヴィータが答えます。

「……いつも直ぐに返事できるわけじゃねーぞ。こっちだって色々考えることがあんだよ」
「ふーん。ねえねえ、それって私のこと?」
「……まあな。色々な意味で」
「ふうん。素直じゃないんだからあ~」

 えへへー、と笑うなのはに、見えていないことが分かっていながら、べーっと舌を出すヴィータ。

「気遣いを分からない奴だな。正直に言ったら傷つくから言わなかったってのに」
「どーいうこと?」

 なのはは、首を右に傾けては、文面が映し出されたモニタを見続けています。
 琥珀の部分は増えたけれど、逆側の暗さが深まり、その落差に僅かばかりの気味の悪さを覚えるヴィータ。
 その、明るく照らされる琥珀色が普段のなのはであるなら、その暗さは、自分にも分からない、気付けないでいた闇であるように思えてきます。
 早く終われば良いのに――ヴィータの呟きは、なのはの耳には届かないのでした。

「仕事しっかりしてるか?とか、誰かに迷惑かけたないか?とか、また騒動起してねーか?とか」
「え、ちょっと、最後のは心当たりがないんだけど……」

 流石に心当たりがなかったことには、戸惑いを見せるなのは。
 にししっとヴィータは笑います。

「予防だよ、よ・ぼ・う。万が一に起したとき、対処できるだろ?」
「さ、流石にそれはないと思うけど……はい、気をつけますです」

 今一真剣みの足りない声。
 こっちから顔が見えないと思って油断しているんだろうか、はたまたいつも通りなのは……多分、後者でしょう。
 相変わらずだなあ、とヴィータは思いますが、今日はそれだけ。
 少しずつ、眠気が自分に腕を伸ばしてきているために、何だか上手く頭が回らないのです。
 まだ大丈夫ですが、億劫に感じるようになっているのは確かなのでした。

「……なぁ、まだかかりそうか?」
「うん、って。さっきからそんなに経ってないよ、そんなに進まないったら」
「そうじゃなくて喋ってるからだろ」

 言われてハッとし、直ぐに言い繕います。
 直ぐに出たのは幸運でしたが、そんなに眠くなって思考が鈍っているのか、それとも――
 その可能性がなきにしもあらずですが、一応否定しておくヴィータ。
 何だか認めるのは癪ですし、なのははが調子に乗ってくるからです。

「う~ん……なあに? そんなに早く終えて一緒にお布団に入りたいの? んもー。そうならそうと言ってくれれば良いのに~」

 否定しておいた可能性を、ばっちり言い当てる勘の良さが恨めしい。
 案の定。調子に乗って、なのはは、あーだこーだと、いかにヴィータが自分を好いているか、勝手にしているのです。

「ば、ばーか。お前は没頭すると他のことに手が回らなくなるからだろ」
「流石に寝る間を惜しむことは無いよ。しかも、ヴィータちゃんがベッドが待ってるのに」
「べ、別にアタシはお前なんか待ってなんかないぞ。勘違いするな」

 机に向かったままでも、にえっへっへ、と笑っているなのはの顔が、ありありと脳裏に浮かびます。
 慌てて否定しますが、そういう態度が余計になのはを喜ばせたり、相手の言葉を肯定していることに気付かないヴィータ。
 そうやって気付かずにやっていることが、いつものなのはの態度に繋がっていることに、今だ自覚がないのでしょう。
 気付いているのなら、とっくに改めていることでしょうから。

「さっきは待っててやる~って言ってくれたじゃない~」
「そ、そんなこと言ったか? 見張っててやるとは言ったけど……いや、確か言ってない、はず」

 え~? 言ってたよ~と、なのは。
 これで逆に確信を深めたのはヴィータでした。
 こちらが自信のないことに付け込んで、自分の思い通りにしようと言う魂胆が見えたからです。
 もう騙されないぞ!となのはに詰め寄れば――実際はベッドの中ですけど――、思ったとおり、えへへー、と誤魔化し笑い。
 全くどうしようもないヤツだ、と毒づけば、だってヴィータちゃんはそういうと可愛いんだもん、と返します。
 ほとほと呆れてものも言えない、といった態度を取って、黙ることにしたヴィータ。
 その後、何度か話しかけられましたが、内容も大したことはなかったので、そのまま無視します。
 すると、徐々に腕を伸ばしてきた眠気に、がっちりと捉われてしまい、いつの間にか瞼はしっかりと落ち、意識は沈み込んでいくのでした。


 


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新婚なの! 10-11 (1)

 
「もう。また臍を曲げてるの?」
「つーん。流石に二度目はないよ~」
「そりゃこっちのセリフだっての……はあ」

 髪を乾かし、向こうから持ってきた櫛で梳かしてもらっている最中に戻ってきた旦那様。
 別に、普段から就寝前のブラシを任せていたわけでもないのに、桃子がやっているのを見るなり不機嫌そう……いえ、明らかに不機嫌でした。
 ツンとしてあごを逸らし、口をへの字に曲げ、明らかにそうなのです。
 参ったなぁ、ホント……
 こうも簡単に臍を曲げられては、ご機嫌をとる身分としても堪ったものではありません。
 初めはそれに付き合ってはいたものの、流石にそうそう臍を曲げられては、こちらも付き合いきれない、とヴィータも対抗してそっぽを向きます。
 すると、そこへ桃子の耳打ち。
 なのはに、見せ付けるようにするそれは、「やっぱり、甘えてるのね。あの子」と、いかにも楽しそうと言った感じでした。
 その後に続く「普通は親の前で良い格好をするものなのに……うふふ、可愛いわ」など、特にそうです。
 どうしたものかと、薄目でなのはを確認すれば、向こうもこちらを窺っている様子。
 なんて事はありません。
 臍を曲げた振りをして、構って欲しかっただけなのです。
 ヴィータは仕方なさそうに、ため息を吐くのです。

「だったら。今度からお前がやってくれりゃ良いだろ?」
「じゃあ、やらせてくれるの?」

 思わず歩み寄ってくれたヴィータに、なのはは拗ねた態度など何処へやら。パッと顔を明るくします。
 しかし、ニヤッと笑って応えるヴィータの態度に、さっと身構えるのでした。

「嫌がったことなんざ無いだろ。いっつもお前の風呂が遅くてする暇がないだけじゃねーか」
「……そ、そだったっけ」

 あっという間に劣勢に追い込まれたなのは。
 しれっとやり過ごそうと、視線を逸らしますが、ヴィータは追撃の手を休めるつもりはありません。

「ああ、そうだ。逆に、アタシがお前の髪を梳かしてやってるんだろう?」
「え、えっと……あ、その櫛。持ってきてくれたの?」
「話を逸らそうとしても駄目だぞ」
「なんなの? この櫛。なにかあるのかしら?」

 ぴしゃりと遮ったところで、桃子が乗ってきたために、計算通りに話のそれそうなことに、にんまりと口の端を上げるなのは。
 どこまでが計算か分かりませんが、まんまとなのはの思惑通りになってしまうようです。
 ヴィータはしてやられた!と悔しがりながらも、桃子の話となっては、無視するわけにもいきません。
 ほらほら、と薦めるなのはを横目に、その疑問に答えることにしたのでした。

「これは、櫛を通しているだけで、髪のケアが出来るって優れものです」
「あら。それは便利ね。コレ一つで……うーん。どうみても普通の櫛にしか見えないけど」

 指差し説明するヴィータに、桃子は不思議そうに櫛を眺めます。
 そこになのはが、ここぞとばかりに口を挟みます。

「原理は知らないんだ。でも、ちゃんとしておくと、次の日なんか全然感じが違うんだよ。初めてのときはビックリしたもん」
「ああ、それはあったな。コレ一つで随分違うもんだ」
「ふ~ん……それで、どうしたの。なのは、何か気になることがあったみたいだけど」

 突然、桃子に話を振られ、ぎょっとしたなのは。
 さあて、どう答えるよ。
 咄嗟に話を逸らすために持ち出した話なのですから、答えに詰まるのは当然です。
 桃子も、それを分かってか偶然か。
 ヴィータには知る由もありませんが、どちらにしろ、上手く答えられないようなら、ツンとするのを放っておけば良いだけです。
 オタオタと慌てるなのはを尻目に、少しだけ優位に立ったような気分に足を崩して、ゆったりと待つのでした。

「え~っと……私忘れちゃったから。流石ヴィータちゃんだなあって……うん」
「な、なんだよ、それ」

 もっともらしい言い訳を期待していた――その方が見っとも無いのですから――ヴィータとしては拍子抜けです。
 嫌味をこめたため息の一つでも吐いてやりたくなりますが、桃子の手前、遠慮することに。

「忘れた? ヴィータちゃんに準備してもらったって言ってたじゃない」
「そ、それはそうなんだけど~」
「いかにも自分も用意した、みたいな言い方はよくないわね。駄目よ?」
「は~い、済みませんでした」

 桃子に痛いところを突かれたのか、不味そうに眉を寄せ、謝ってみせますが、仕方なーい、といった感じです。
 今一反省の色が見えないことに、ヴィータと桃子は呆れて顔を合わせました。

「……今一誠意ってもんが感じられないな」
「仕方ない子ね。あのね、なのは。旅の準備、したりするのって楽しかった経験ないかしら。例えば、学校の遠足とか」
「え~っと……そうだなぁ、遠足とかも、前の日とかが一番楽しいかも」

 えへへ、と悪気もなく笑う顔。
 イライラしていても、この笑顔でなんとなく有耶無耶になってしまうのだから、得な性分だよな、とヴィータは思います。
 ですが、それをあっさり許すのは自分を含めた一部の人間だけ――他の多くの人にも効果のある笑顔ですが――ということには、気付かないのです。

「そう言うことよ。今度からヴィータちゃん一人に任せたりせず、そうなさい」
「そうしまーす」

 ホントに反省しているのか分かりませんが、母親の手前、そういったことは信用してあげることに。
 ツンと拗ねていた態度も何処へやら、すっかりご機嫌になっています。
 こんなことなら、と機嫌をとろうか一瞬でも考えたことが馬鹿馬鹿しくなってくるヴィータ。
 自身に呆れているヴィータに対し、いつもの調子を取り戻したなのはは、桃子に勧められてお風呂場に向かいます。
 既に湯気が出るほどの熱気はなくなってしまったヴィータを、残念そうに見つめながら。
 しかし、向けられた本人は、その視線に気づくことはありませんし、なのはも、それを望まないようでした。

「変な子ね。櫛は一つで充分なのに。話を逸らすにしては下手ね?」
「あ! え、えっと……」
「ふふふ。二人で一緒に用意することになって、効率悪くなったりしたら……ごめんなさいね」

 本当に悪く思っているのか。
 いささか疑問の残る、語尾の軽さですが、"二人ですること"が何事も重要であると再確認したばかり。
 これは桃子の気遣いなのだと、ヴィータは素直に頷くのでした。


 


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購読してて良かった そしてただいま

 
 長い、一週間の旅行も最後となりました。
 そして、取りを飾るのはこの子です。
 しかし気になるのは、虹子を隠すように立って?いるピンク色の動物。
 今までの日記が旅行先でのモノかどうか悩んでいたところに、爆弾が投下されたような感じ。
 まさか北海道までこの常識外の動物を連れて行けるわけありませんし、やはり、小雨のときどうよう、夏休みの一シーン、と考えるのが妥当ではないでしょうか。
 しかし、この象。本当にピンクなんですね、ピンクで決定なんですね。
 とまあ、こんな象のことはこの辺りで。
 注目すべきは、なんといっても虹子でしょう。
 2歳児にしてこの色っぽさ。
 髪のウェーブのかかり方といい、そのあまーい匂いが漂ってきそうな感じ。
 これは2歳児なのに!というわけではなく、虹子という存在そのものが、そういう色っぽさを醸し出すのでしょう。
 間を空けて浴衣姿での登場といい、ちょっぴり内股なところといい、チラリと覗く生足といい……
 美人表記のある麗に次ぐ、美人として、すでにその魅力を如何なく発揮して、トゥルー兄を悩ましてくれそうです。
 いえ、姉妹一の色っぽさ(私としては観月もある種の色気があると思っているのですけど)をもった美人になってくれるんでしょうね。


 


 
 そして、長いような短い旅行が終わり、馴染みのある家に帰ってきたのであります。
 その報告をしてくれるのは、観月です。


やはり――
我が家というのはよいものじゃの。

 この幼さでこのような感想が抱けるものでしょうか。
 これは、家族というものを何よりも大切にするこの家庭ならではなのかも、しれませんね。
 「こうしてともに在るだけで落ち着くし、なにか優しい幸せを感じるのじゃ。
 我が家というものは、心の拠り所として、それが場として存在する以上のものなんでしょう。
 旅行というのは、行く先々での非日常的な体験や経験にあるのかもしれません。
 しかし、それ以上に我が家の大切さなどを再確認するためのものかしら、と観月を見ていて思った次第です。
 観月自身も「今日はなにやら新鮮に感ずるのじゃから、やはりたまにはしてみるべきかのう?」なんて言ってますしね。


よぅし――旅先ではあれこれと遊ぶのに忙しくて
なかなかしてもらえなかったからの。

 この忙しさ、というのは家族みんながそうであった上に、お兄ちゃんは引っ張りだこだったんじゃないかしら。
 そうなると、小さいなりに弁えた感が強い観月は、出遅れてしまって我侭を聞いてもらえなかったり。
 その一週間分の「なかなかしてもらえなかった」は、一体どういうものかしら。


兄じゃ!

抱っこじゃ(はぁと

 抱っこ!
 前にも肩車してもらうと霊力が上がるといった発言のあった観月。
 他の誰よりも抱っこしてもらってたりして、そういう意味以外に抱っこが好きなのかしら。
 この「抱っこじゃ」と、小さな手を広げて催促する姿。
 想像するだけで堪りません。足もじたばたしているかも。
 この家の子はみんな表現がストレートで、お兄ちゃんは大変でしょうね。


いーい気持ちにさせてたもれ(はぁと

 これは霊力関係なく、兄じゃに抱っこしてもらうことが気持ち良いんでしょう。
 ぎゅーっとしがみ付いて、ニコニコと頬を染める姿は、歳相応の可愛らしさを発揮する、このギャップも可愛いですよねえ。

 

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新婚なの! 10-10 (3)

 
「え、えっと。……今まで、どうしてそうしてこなかったんだろうって」

 ゆっくりと、非難するような響きを含ませないよう、桃子は慎重に相づちを打ちます。

「なのはは、アタシに何かを求めてたかもしれないのに。それに気付けずにいて……さっき言ったこと。いま――考えたことで。
 普段からそうやって思ってたわけじゃないんです。今日、桃子さんに言われて……初めて、その意味を考えて」
「あら。じゃあ、良かったわあ。聞いておいて」

 うふふ、と笑いを含ませれば、ヴィータの強張りとでも言うべきものが、多少、弱まったように思えました。

「どうして、今までその事に気付かなかったんだろう。どうして、考えようともしなかったんだろう、って」

 そっと覗き込む、その拳は、膝の上で震えていました。
 言葉の端々に、悔しさと怒りと、そして――どうしようもない不甲斐なさを、自分に感じていることが読み取れます。
 いくら、夫婦だといってもそこまで……
 そう思わなくもありませんでした。
 夫婦だといっても、初めから完璧にこなすことなんて、無理に決まっています。
 いくら、夫婦になるほどだと言え、結局は他人同士。
 自分のことすら、完全に理解し、把握している人間なんていないでしょう。ならば、それが他人となれば尚更です。
 だから、一つずつ、それを乗り越えていけるか――そう、アドバイスをしようとした、次の言葉に。
 そんな、ある意味大人な、割り切った桃子の考えは、取り越し苦労である事を窺わせてくれるのでした。

「もう……同じ失敗はしないって。あれだけ思ったのに。約束したのに、どうして……」
「約束?」
「あんまり元気なモノだから。いつも笑ってるから。いつの間にかそれに慣れてて……」
「……」
「心配だって、口にはするけど。そんなのじゃなくて、本当にしなきゃいけない時に出来てなかった……かもしれなくて」
「…………」
「本当は、なのはがアタシを甘やかしててくれたんじゃないか。欲しい時に言わないでいたアタシに、いっつも何にも言わないで……そう、思えて」

 順々に高ぶっていく気持ちを何とか押さえ込んで。
 ヴィータの脳裏に去来しているだろう風景は、桃子にも大方の予想がつきます。

「こんな……!」
「良いのよ、ヴィータちゃん」
「――えっ!?」

 振り向くその顔は、バスタオルに包まれて、桃子の目から隠します。

「だって。こんなに一緒にいたヴィータちゃんが気付かなかったってことは、それだけなのはが元気になったってことじゃない」
「で、でも、それじゃ……」
「気にしてくれる事は、当然あの子も嬉しいだろうし、私も嬉しいわ」
「…………」
「もし、なのはが"ヴィータちゃんを気遣って"いるとしたら? そうやって、負担掛けたくないって思ってるとしたら?」
「そ、それは……分からないです」

 当然のように、力なく、自信のない口調。

「だったら、"気付いて上げない"ことも、別に駄目なことじゃないと思うの。もし、そうなら、ね?」
「自分に都合が良すぎる、気がします」

 ヴィータは、どこまでも自分に厳しい――その、責任感の強さをひしひしと感じる桃子。
 結婚を聞いたときの疑問が消えたとはいえ、やはり、心配な子です。

「そう思えるのが、優しさなのかしらね。でも、悪戯に自分を責めることが良いことだとも思わないわ。
 それは殆どの場合、物事を良い方向へ導かないもの。厳しいかもしれないけど……思い当たる節があるんじゃないかしら」

 震えは止まり、じっくり、その熱を内側に溜め込んでいる……ように思えます。
 その大きな瞳を見つめれば分かるのでしょうけど、それは無粋だわ。
 この、それほど厚くない布一枚。
 それは自分とヴィータにとって、とても厚く、まるで壁のようにすら感じられます。
 この壁は、自分にとっては相手の顔が見えないことに煩わしく、ヴィータにとっては、自分を守ってくれるかもしれないモノ。
 暫しの沈黙の後。すっかり震えも止まり、帯びていた熱も徐々に薄れていった頃。
 隔てていたバスタオルが、するりと、落ちるのでした。

「……ありがとう、ございました。桃子さん」
「どう致しまして」

 真正面から見据えることはしない。
 それが出来ないのは、まだ自分に自信がないのか、ただ恥かしいだけなのか。
 そのどちらでもあるような気も――前者の可能性が高そうだが――しますが、桃子にとって、それは大した問題ではありません。
 左目だけでも。
 バスタオル越しにでなく、しっかりとその目でこちらを見て、言えることが大切なのですから。

「さ。早く乾かしちゃいましょ。風邪を引いちゃいけないわ」

 暖房が利いているのも手伝ってか、表面に、毛先はある程度しっとりとするまでに乾いていました。
 それでも、重なった部分や根元には、充分に水分を感じることが出来て、あまり宜しくありません。
 それに、濡れているままで、そこから熱が奪われていくのですし、髪にもよくありません。
 このまま大人しく待っているよう、一言おいて、洗面台からドライヤーを取って来ることにする桃子。
 リビングを出た廊下も、脱衣所もやはり、足元に流れる空気が冷たく、ヴィータを連れてこなかったのは、正解でした。

「ドライヤーもあまり当てるわけにはいかないから大変よね?」

 手に温風を当てて温度を確かめながら、桃子が尋ねると、ヴィータは、えーっと、と間をおいて答えてくれます。

「向こうじゃそういうのも、全部大丈夫なんです」
「う~ん、便利そうねえ。やっぱり、向こうから送ってもらうのは駄目かしら?」
「リンディさんなら……大丈夫かもしれません。いま、総務統括官ですから」
「すごく偉い人なのねえ。だったら生活用品の一つ位……やっぱり駄目ね、こういうことは」

 軽く、冗談でも乗せた口ぶりに、ヴィータがどうしたものかと、笑いながらも、同意するとは言えないといった顔をしています。
 やっぱり良い子よね、ヴィータちゃんって。
 リンディの役職を持ち出して答える辺り、本当に考えてくれている事が分かります。
 こちらの様子に、冗談として乗っかっても良いのか悩んでいるようですが、冗談が分からない訳でもなさそうです。
 これから、以前に増して付き合いが深くなるわけですから、もう少し自分が冗談を言う人間なのだと、分かってもらわないといけないかも。
 桃子は、それを理解したヴィータがどういう顔をするだろう、とそれを考えてはくすくすと、肩を揺らします。
 その向こう。
 ブツブツと、ドライヤーの風の合間に聞こえる、ヴィータの可愛らしい悩み。
 先ほどとは違った、可愛らしい悩みに「こういうところが好きになったのかもね」と、思わず零してしまう。
 その桃子の呟きは、髪を大きく膨らます風に掻き消され、ヴィータには届かなかったようでした。


 


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 金曜日。
 いつものクールさでペンギンさん型のカキ氷機を回すのは、吹雪。
 この子は熱いのが苦手ですから、ひんやり感があるカキ氷作りは向いてるんじゃないかしら。
 それにフンワリかいたカキ氷も溶けないだろうし、バッチリね。
 その傍らで、今か今かと待っているのがさくら。
 飛び出すハートは、目の前にこんもりうず高く出来上がるカキ氷へ向けられるものでしょうけど、ガリガリと音を
立てながら、お皿に氷の山が出来ていくのって見ているのも楽しいですよね。
 公式の立ち絵だと、しょんぼり熊さん的表情が多いけど、今日ばかりはわくわくと、しっかりテーブルの端を握
るほど釘付け!
 こんな目で見つめられたら、お姉さんとして吹雪も気合が入るというものでしょう。
 クールないつもと変わらない表情でも、妹達の為に氷を削ってる吹雪は、意外に力持ちさんかもしれませんね。
 あと惜しむは、もう少し別の、普段とは趣の違う服が見たかったかしら。


 
 そして土曜日。
 平時でも余り更新されることのない土曜日ですが、今回は旅行中ということでバッチリ更新の模様です。
 縁側かどこかに腰掛けてスイカを食べるヒカルと麗。
 麗は、ツンとすました風がなく、小さく切り分けられたスイカに懸命にかぶりついている所。
 普段と違い、帽子もなく、髪留めなんかしちゃって可愛い雰囲気を存分に醸し出しています。
 しかも、ほっぺにお弁当をつけて、ちょっと不器用そうな感じも、さらに引き立てているような気がします。
 そして隣のヒカル。
 一体この子はどれだけ食べる気なのかしら、と。
 まだ脇のお盆にいくつか控えているし(幾らなんでもこれは麗と半分ずつだとは思うけど)
 大食いってイメージはないけれど、やっぱりよく身体を動かす分、お腹も減っちゃうのかしらね。
 ヘアバンドはいつも通り。
 麗みたいに、普段とは違う格好をしてくれても良かったのに。
 あと、二人揃って浴衣姿。二人ともイメージに良くあった色だとは思うけど、スイカ食べる時は膝になにかひいた
方が良いわよね?せっかくの浴衣なのだし。

 後ろに控える蛍。
 これから他の姉妹たちのところにスイカを持っていくところなのかしら。
 多分、春香さんと一緒に準備をしたんだろうと思うけど、やっぱりこういうのは蛍の仕事のような気がします。
 色は珍しく(?)ピンク色に統一した感じ。
 ホタは可愛いですから、どんな色も似合っちゃいますよね。
 きっと19人分(若しかして全員分)、浴衣を用意したでしょうし、姉妹ごとに似合う色を選んで、そういう作業って
好きそうですし、本領発揮かしらね。
 

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新婚なの! 10-10 (2)

 
「お風呂。先に頂きました」
「はい、どうぞ。うう~ん、良い匂いねぇ」

 ほかほかと湯気の上がる身体に顔を寄せれば、バラの香りが漂ってきます。
 具体的にバラの香りを知っているわけではありませんが、今日の入浴剤がバラの香りなので、そう思っただけですが。
 髪が長い分、お風呂に入っている時間も、長くなるのは当然です。
 それは自分も含め、娘二人もそうなので、よく分かります。
 何が大変かと言えば、長い髪の洗いや濯ぎなのは言うまでもなく、そうしている内に、身体が冷えてしまいがちなのです。
 そうなっては風邪をひいてしまうので、ゆっくり湯船に浸かって、冷えかけた身体を温めないといけません。
 そんなこんなで、知らずの内に、入浴時間が長くなってしまうのです。
 自分たちと同様の娘のお嫁さん。
 桃子は、ほんのり上気した頬と、モチモチ肌を思わせる胸元が可愛らしいヴィータの手をとります。

「向こうのシャンプーはどういう感じなのかしら」
「ええと、便利で一回で済むようになってます。なんだか、頭皮にも優しいみたいで」
「それだけ長いと手間ですものね」

 リビングでアイロンがけをしていた桃子は、クッションを持って、暖房の近くへ案内します。
 これだけの髪を乾かすとなると、少しどころではなく手間です。
 手伝ってあげるわね、と言う代わりに差し出した手を、黙って取ってくれるヴィータ。
 普段、自分の娘には余りさせていないだろう事を出来る喜び。
 なんというか、出し抜いた気持ちになってしまう桃子なのでした。

「便利ねえ。私も欲しいぐらいだわ」
「多分、あっちに慣れてしまうと戻れないぐらい。便利です」
「うふふ。いつの間にか怠け癖がついちゃった子は、特にそうかもしれないわね」
「そう……かもしれないデスね」

 この場にいない子への、ちょっぴり皮肉。
 その"怠け癖"の一番の被害者であるヴィータは、くすりと笑って同意します。

「さあて。頑張って乾かしちゃいましょうか」

 こうして喋っている間にも、新しいバスタオルで後から頭を抱えるように被せ、ウェーブの乗った髪の水分を、優しく吸い取らせます。
 ドライヤーは勿論。ゴシゴシと擦るのだって大敵なんです。
 そういう手間一つ、普段から心がけることって大切。
 はやてちゃんと一緒の頃から変わってないのね、この髪は。
 この手に乗る、赤い髪の艶。
 それは以前と変わることなく、ただ、その艶やかな光に込められた想いだけが、少しだけ違う意味を持っています。
 この変化に、この子は気付いているのかしら――
 自分の足元に、ちょこんと小さく収まる、娘のお嫁さん。
 二人の関係は、きっと、恋だの愛だのいった言葉で言い表そうとすると、安っぽく聞こえてしまいそう。
 そういった、既知の概念に当てはまらない感情ような抱いて、それが何時しか自然になり、二人は――特にヴィータが――結婚したんじゃないかしら。
 何も、自分の、一般的な範疇に納まることばかりで、人が動くこともない。
 この子は、きっと知らずのうちに、それを受け入れていたんじゃないかしら。
 桃子なりの、現時点での結論。
 それに明確な答えを出すべきか、出さざるべきか――
 考えて、なにも焦ることはない。
 だって、きっと二人は当分袂を分かつことがないだろうから。

「そうだ。答えにくいことでしょうけど、ちょっと気になって」
「はい、なんですか?」

 けれど、一度膨れてしまった好奇心は、なかなか大人しくなってくれない。
 桃子は、その方向性を多少変えることで、己の欲求に折り合いをつけることにするのでした。

「お風呂は一人で?」
「……え、え?」
「ええっとね、変な意味じゃなくて。ああ、なに言ってるのかしら。その、二人とも髪が長いから」
「わ、分かります。一人で洗うのは大変なんじゃないかってこと……ですよね?」

 理解が早くて助かるわ~、なんて桃子。
 ヴィータは「変な意味」という言葉の意味を掴みかねているようでしたが、特に追求することなく、話をあわせてくれるようでした。

「え、ええっと……たまに。本当にたまに、なのはが、その、どうしてもって時に」

 少しだけ首を回して、視線を向けるヴィータの頬は、ほんのりと赤みが差しています。
 上がったばかりの頃に比べて、増しているように見えるのは気のせいかしら。
 どちらでも構わないけれど、その口ぶりだと、髪を洗う以外でも一緒に入ってるのね、と桃子は、思わず頬が緩むのを感じます。
 ここで「どうしても髪を洗って欲しいって言うのかしら、あの子」なんて、念を押すように確認することも出来ますが……
 もじもじと恥かしがるヴィータを見ていると、止めておいた方が良いような、余計にしたくなるような。
 この歳にして、お嫁さん相手に悪戯心が頭をもたげそう。
 なんだか、はやてちゃんやなのはの気持ちがわかっちゃうわ、なんてヴィータが聞いたら決して歓迎しないような事を桃子は考えるのでしたが。

「ふふふ。あの子ったら性のない子ね。あまりヴィータちゃんの手を煩わせないよう、言っておきましょうか?」
「桃子さんから……う、う~ん」
「どうしちゃったのかしら。なのはの我侭、なんでしょ?」

 モゴモゴと口ごもるヴィータ。
 話を聞いた限り、首を縦に振るか振らないかといえば、振らないほうが多いような気がしていたのは、なんとなく当たった形に。
 バスタオルの向こうに隠れる、お嫁さんは何を考えているのかしら。
 何が戸惑わせているのか、それについての興味が先立ち、待つべきか、待たざるべきか。
 踏み込みたい気持ちを抑え、桃子はお嫁さんの次の言葉を待ちます。

「……いつも。とにかく我侭を言うわけじゃないんです。アタシに、そうして欲しいときにだけ……そう言うんです」
「何かして欲しいときに?」
「何か具体的に、して欲しいことがあるんじゃなくて……"我侭を聞いてくれる"ってことが欲しい……んだと思うんです」
「自分の欲求を聞き入れてくれる、っていう事実が欲しい。のかしら」
「はい。……多分」

 その口ぶりは、確固たる何かに基づいてのモノではなくて。
 彼女自身も、それがよく分かっていなくて、その自信のなさは、最後に付け足すようにした言葉に現れているようでした。
 自分の問いかけに対して、ジックリと考えながら、自分の中の何かとつき合わせながら。
 それは、問いかけに答えると言う形をとりながら、自分自身に確認を取るように。
 ヴィータの言葉には力強さがなく、これで正解なのだろうか?という疑問符が常に付きまとっています。
 一つ一つ。確かめるように口にする言葉は、途切れ途切れに。
 ヴィータの不安や戸惑いは、バスタオルを触る手を通して、桃子に伝わるのです。

「……本当は、どうしてなのはがそうするのか、解決してやらなきゃいけないんだと……思うんです」
「そうね。もし、ヴィータちゃんの言う通りなら」

 疑問を呈すような言葉。
 それに対し、ヴィータは数瞬の沈黙の後、おずおずと口を開くのです。

「でも、本当にそうなのか……自分の思い過ごしじゃないのか。分かんなくて」
「そう」
「だから。だから……それを求めているかもしれないのに。そういう可能性を考えているくせに、そうしないのは」
「……」
「アタシがなのはに甘えてることに……なるんじゃないかって」
「もし。そうなら、自分でしっかり言わなきゃ、ってことかしら」

 こくり、とバスタオルに包まれた頭が揺れます。

「なら、私から言わないほうが良いわね。でも、もし我侭が過ぎるようなら……一言相談して頂戴?」
「……はい。そうします、です」

 ソファーから降り、足元に座るお嫁さんに覆いかぶさるように、腕を回します。
 一瞬。
 背中が強張るのを感じましたが、それもすぐに緩むのでした。
 背中の重みにゆったりと任せてくれている、その首筋と背中。
 バスタオル越しに頬を合わせれば、ヴィータの高い体温が、それを通り抜けて伝わってきます。
 その触れる頬は、何か言いたそうに震えています。
 話をするときはなるべく、相手の瞳を見たほうが良いのですが、こういう雰囲気の時は逆にそれが妨げとなるものです。
 今の今までしゃべっていた事は、面と向かっては言い難かったのではないでしょうか。
 桃子は、ヴィータを促す気持ちも含め、そのままの体勢で、ジックリと待ちます。
 ただ、何も言うつもりでないのなら、髪を蒸らすのはよくありませんので、放すつもりでいましたが。

「……あの。聞いておいてもらえますか?」

 その必要がなさそうでしたが、依然、話の長くなりそうな雰囲気に、やはり手を離すべきか考えるのでしたが、結局、その空気に任せることにしました。


 


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購読してて良かった 2

 
 水曜日。旅行3日目は、なんと意外にこの子!
 いえね。順番どおりかしら、と思っていたものだから。
 前日までの浴衣姿でないところに、やはり少しばかりの残念な気持ちを持ってしまうのだけど。
 夏らしい爽やかな、帽子のリボンとも色を合わせたワンピースは可愛いわね。
 さて。
 ここで朝顔に水をやっているところで、旅行先で水遣り?と思いましたが、多分夏の一風景なのでしょう。
 流石に旅行先に持ち込めるほど、荷物も少なくないでしょうし……
 以前、名前の由来について語っていましたけど、まさにそんな感じなのじゃないかしら、と。
 小さな虹もかかっていることですし、そんな優しい小雨にぴったりなのかもしれませんね。
 ……ただ、小さい子組の夏休みの宿題の水遣りも手伝ってそうな気がします。
 ちゃんと自分でやらせなきゃ駄目よ?

 

 木曜日。元気な元気な小学生コンビ
 首から提げているものから、ラジオ体操をしている風が窺えます。
 この元気コンビ(星花もちょっぴりお転婆ですから)が、大人しく通常のラジオ体操をするとは思えません。
 思わずテンションが上がって、必要以上にぶんぶん手を振ってくれそうです。
 二人が、ばらばらのポーズを取っていること(多分、夕凪さんが合ってないんでしょうけど)から、なんとなーくそんな気がします。
 旅行先での風景なのか、夏休みの一幕なのか、それは分かりませんが、きっとこの家族の小学生以上の子たちは、みなラジオ体操をしていることでしょう。
 ……たぶん、きっと。
 

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購読してて良かった

 
 以前の海晴お姉さんの告知で、トゥルー家族として試練の一週間を過ごさなければならないと、誰もが覚悟をしたわけですが。
 しかし!
 天は見捨てなかったのです。
 月曜日に「今日から(土日で挟まれているわけで、実質9日間日記なし!)一週間、日記がないのね」と落ち込んでいた全世界のトゥルー兄兄たち。
 けれど、夜になってみるとニュースフィードになにかしら、お知らせのマークが。
 何かと思って確かめてみれば、日記が更新されてるじゃないの。
 それも一日目は19人の姉妹を統べる長姉、海晴お姉さん!
 浴衣姿も素敵です。しかも画像をクリックすると特大の海晴お姉さん!
 そして二日目は霙姉さん(順番通りかな?と思わせつつ)と、膝枕されて可愛く眠る観月とキュウビ!
 観月はいつも巫女さんの格好ですから、余り変わらないかな?と思わせつつも、大き目の帯にハチマキ?のない普段とは違った様子。
 小さく丸くなって眠る姿は当然に可愛いのですけど、やっぱり、ちゃんとした立ち姿が見たかったかしら、と。
 あと、キュウビはしっかりと抱っこできる存在なのね。ああ、ふわふわで気持ち良さそう……
 そして今日は、初見のクールでミステリアスでありながら、仄かな色気を窺わさせる霙姉さん!
 こうして黙っていれば(随分失礼ね)格好良いのに……と思わせたところで、観月を仰ぐ団扇に「小豆」の文字。
 これって、餡子好きが公式設定っていうことかしら。
 イヤリング?をしている姿も色っぽいです、霙姉さん。

 霧賀先生の髪の先の描き方って、濡れた髪の毛みたく感じて色っぽさが一層増してるような気がしています。
 

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夏コミのお知らせ

 
 来る夏コミですが、そこで月咬洞さまが頒布される本の宣伝です。
 その名も――「ヤガミマガジンDX」!
 ヤガミマガジンDX
 みなさま。機会がありましたら是非お手にとってご覧下さいな。
 詳しい内容は上記バナーから見て頂くとして、とにかく参加者が豪華!
 私も及ばずながら参加させていただきました。


 
 また、Recovery&Reloadさまにて、新刊の告知がアップロードされております。
 詳しい内容はリンク先のバナーをクリックなさって下さい。
 Beautiful Amulet
 バナーに映っているのは擬人化されたRHさんですって。
 髪の毛=フレーム、瞳=本体の宝玉、のイメージかしらん。


 
 こちらでは、ギコガコ堂さまで新刊「しゃまるでございまーす ザ☆ムービー シャマル対ネガシャマル」の告知がなされています。
 メカだったりネガだったり……次辺りはスペースが来ちゃったりすると終わっちゃうから無しかしら。
 東映まんがまつり、みたいな雰囲気!
 

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新婚なの! 10-10 (1)

 
 深刻な話はお終い。
 そうなると、当然次にやってくるのは、もっと気軽なお話。
 にこにことする義母の疑問に答えるのは、嫁の役目でしょう。
 結婚してからこの手の話は何度したかしれませんが、今回は特別中の特別。
 しかし、話が進むに連れ、どれほど旦那が実家との連絡を絶っていたかという、ヒドイ現実を目の当たりにするのでした。
 いえ、絶っていたというのは不適切な表現かもしれません。
 「不精が働いた」
 これが一番当たっていそうだと、二人は結論付けるのでした。
 ……仕方なく、ですが。

「ちゃんと教えたとおりに出来てるみたいだから、良いのだけど……う~ん」
「なのはの……今の仕事は精神的にも大変だから、若しかしてそういう可能性もあるかもしれないです」

 こちらの言葉に、あら?といった顔で応える。

「今の? どういうことかしら」
「武装隊から教導隊ってところに変わったんです」
「ええ、聞いてるわ」
「その中で、生徒をもっていくらか教導することがあるんですけど。それって神経を使う仕事で、訓練の内容から、その後教え子たちがどうなっているかとか……」
「仕事として大変なのが、体力を使うだけじゃないってことね」

 理解が早いのは助かります。
 そこで、多分そうなんじゃないか、と前置きをして、その可能性の内容に言及します。

「ちゃんと手元で面倒が見れるようになる前だと、まだまだ仕事も大変な時期で、それも重なって、連絡しない癖がついたんじゃないかって」
「ふうん」

 便りのないのは元気な証拠とは言うけれど――。
 呆れ加減な桃子の表情に、ヴィータも思わず頷いてしまいます。
 けれど、それは全面的に納得したわけではありません。
 ふと、脳裏に浮かぶ別の可能性。
 若しかして――"なにか"を見落としてたのかもしれない。
 自分は初めから教導隊の仕事は大変で"そういうこともあるだろう"と分かっていたから。
 いつも元気な人が疲れていたのなら、どうしたのかと気にも掛けるけれど。
 それが"いつも通り"なら?
 その当たり前が、実は自分の思い込みだとしたら?
 一応聞いてはみるものの、相手がどう言おうと、これも毎度のことだろう、と勝手に納得してしまう。
 そこに大きな落とし穴があったんじゃないか?
 桃子の問いかけは、まるで試験の問題を見直すかのように、自分の思考を見直すきっかけを与えてくれたのでした。

「どうしたの、ヴィータちゃん?」

 桃子の声に、ハッとする。
 どうやら深く考え込んでいたみたい。
 慌てて何でもないです、と否定はするものの、その反応は反って彼女に疑念を抱かせる事になってしまったようでした。

「"本当に"なにもないのなら良いのだけど……なにかあるんじゃない?」
「え、ええっと……」
「ヴィータちゃんから見て、なのはに別の理由があったかもしれない。そう思ってるんじゃない?」

 責める口調ではありません。
 しかし、きっぱりと言い切ることで、ヴィータはぐっと押し黙ってしまうのです。
 それは無自覚ながらも、核心をつかれたことに他なりませんでした。

「……そうかもしれないって、思わないことも、ないです」
「ただの不精じゃなくて、別に何かしら理由があった……?」

 これは喜ぶべきか心配するべきか悩むわねえ。
 その口調はあくまで軽い。
 けれど、僅かに冷え込む雰囲気を、隣に座るヴィータに、肌にピリピリとした感覚となって伝わるのでした。
 確かにそうではあります。
 単に怠けていたわけではない――としれば、何か別に理由があってしたことにまります。
 昔から、どうにもそういう傾向がなきにしもあらずであったようですが、アリサの話から、そこまで酷くはなかったようです。
 となれば、それは、そうなってしまうほどの大きな理由を抱えていたことの反証です。
 不味い。これは"悪い癖"が出てる証拠なんじゃ……
 肌を刺激する雰囲気に、ヴィータ自身の思考も引きずられていくのでした。

「……ヴィータちゃん。まだそう決まったわけじゃないでしょ? そんな顔しないの」
「ふぇんなひょこいっひゃって!」

 ぎゅーっと頬を引っ張られ、なにごと!?と焦るヴィータに、桃子はにこにこ顔。

「うふふ。やーわらかいわあ。なのはも小さい頃はこういう感じだったかしら?」
「にゃのひゃも?」
「そう。う~ん、なのはに限らず女の子は小さいとき、みんなこんな風よ? はやてちゃんだって例外じゃないと思うわ」
「ひゃやても……う~んゅ」

 ほっぺをむにゅむにゅしながらの桃子の言葉に、ヴィータは具体的なイメージが抱けずにいます。
 小さいとき、などと言われても、自身にとって、小さい子供のイメージが余りありません。
 赤ん坊といえば、ハラオウン家のカレルとリエラぐらい。
 触ったり抱っこしたりしたことが無いわけではありませんが、その体験が上手く結びつかないのです。
 リインは、まだ充分に子供といえる年齢ですが、身体の大きさが小さいだけで、身体の造り自体は、自分よりも幾分か大人です。
 そういうことで、ヴィータが困惑の色を浮かべていると、嫌がったりしないのを良いことに、桃子のほっぺた遊びは止まりません。
 ほっぺを伸ばされながらの難しい顔、というのは見ていてとても愉快なものです。
 そのアンバランスの妙が、ますます桃子を楽しませているようでした。

「さて。あんまりこうしてると戻らなくなっちゃうわね」
「ええっ!? ホントか――です?」

 深刻そうな呟きに、思わず声を上げてしまうけれど、それをみて桃子はくすくすと肩を揺らすばかり。

「冗談よ。それぐらい柔らかかったってこと」

 それに、余り堅苦しいのも止めましょう?
 悪戯っぽい笑みに、なにやら歳不相応な可愛らしさを見せる桃子。
 深刻そうに見せたり、次の瞬間には子供っぽくしたり、可愛かったり――コロコロ変わる表情にヴィータはついていけません。
 混乱、とまではいかないでも、思考の纏まらなさは、そのまま口を出る言葉に表れてしまいます。

「え、あ、でも、なのはのお母さんだし、そういう礼儀っていうか、その」
「う~ん……そうね。ヴィータちゃんがそうやって気を使ってくれるのなら、有難く受け取らなきゃ失礼ね」
「そんな大げさなモノじゃないと思うのですけど」

 桃子の反応を額面どおりに受け取れば良いのか――それは悩むところですが、考え込んでも仕方ありません。
 まだ残る指の感触を追うように、膝の上に収まっている手を見つめます。
 そんなヴィータの視線を知った上で、あえて応えない様子の桃子。
 正直なところ。
 ヴィータの考えは当たっているようで、遠慮だなんて、時間はあるのだし、これからもっと仲良くなったら自然とそうなるわ、と言っているようでした。
 うじうじと考えても始りません。
 そう思考を切り替えて、「有難く受け取る」ことで、関係が一歩進むのならそれで良いじゃないか。
 きっと、強く押せば、桃子は従ってはくれるでしょうが、それでは意味がありません。
 今までとは違う、新しい関係の始まりなのです。
 何事も最初が肝心とばかりに、なるべく自然な形になるよう努めるのでした。

「さてさて。せっかく食後のデザートにでもしようかと思ったけれど、なのはがあの調子じゃあ、ねえ?」
「そう、ですね。帰ってきてるのに仲間外れじゃ可哀想ですから」

 うふふ、と笑っては、天井に視線を向ける桃子。

「今頃は集中してる頃だろうし、邪魔しちゃ悪いわよね。送り主のアリサちゃんにも」
「はい。アリサさん、意気込んでいましたから」

 なのはに良いクスリだと思います、と揶揄の響きを乗せてみると、あら、とした表情の桃子。
 冗談をいってみたのがそんな意外だったのか――
 そう悩むヴィータの内心が表情に現れていたのでしょう。
 勘良く、桃子もそれに合わせてくれるのです。

「それなら良いクスリ続きで先に食べちゃうのも良いかもしれないけど、それだとお父さんが可哀想だし……大変ね? お互い」

 可愛らしく、ウインクして見せながら、労ってみせる桃子。
 いい大人だというのに、その態度の可愛らしさは何なんだろう? と、面食らっても、これもなのはの母親なら当然かもしれません。
 理由になるような、ならないような考えを他所において、少しだけ、語尾を強めて返すヴィータでした。


 


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新婚なの! 10-9 (3)

 
「そうね。ヴィータちゃん自身が選んだ事なのだから、私が口を挟むのはどうかとも思ったんだけど」
「い、いいえ! だって、桃子さんはなのはのお母さんで、だから、なのはの心配をするのは当然だから、えっと」

 慌ててフォローするヴィータが可愛かったのか、桃子はくすくすと笑い出します。

「そう言ってくれると嬉しいわ。
 でもね、"なのはに押し切られたヴィータちゃんが幸せかしら"ということ。
 知らない仲じゃないのだし、今は曲がりなりにも娘なんですもの。心配するのはそれほど変なことじゃないと思うの。
 あの子は甘え方を知らない、なんて言ったけど、今の様子を見てたら杞憂というか……今までの心配がぐーんと小さくなっちゃって」

 そうなのよ?と、相手を安心させるような口調に、ホッと息を吐くヴィータ。

「全くなくなったわけじゃないのよ? あの子が、そういう性格だっていうのは重々承知しているから。
 きっと、私には分からないモノを抱えているって、いくら母親でも全部は……こういうのは逃げかもしれないけど」

 桃子のその口調は、ヴィータに心配を掛けさせまいとする、心遣いであろうことが窺えます。
 それが充分にこちらに伝わっている為に、その軽い口調に合わせて、相槌も軽快に、なるべく明るいトーンで。
 そうしながらも、一字一句聞き逃さぬようにしっかりと耳を傾けるヴィータでした。

「それが大きいのか、小さいのか。それは分からないけれど、ヴィータちゃんなら大丈夫なんじゃないかって。
 なのはもそれを分かっているんだろうけど、ヴィータちゃんにとって重荷であったりするなら……駄目じゃない? 夫婦として」
「夫婦として、ですか」

 聞き返す言葉に、ゆっくりと頷く桃子。

「だって、ヴィータちゃんの人生は他でもない、ヴィータちゃん自身のモノなんですもの。
 それがなのはの我侭で潰されちゃうような事があったら……
 きっとそれに気付いたあの子も傷つくと思うの。
 ああ、駄目ね。結局あの子の心配ばかりで。これじゃ何のための話か――」
「そ、そんなことないです! 桃子さんは、なのはのお母さんだから、そういうのは当然です!」

 今度は強い調子で言い切ります。
 心配を掛けさせまいとする気持ちに応えるために。
 あわせずに居た視線を、しっかりと交差させて、相手の瞳をジッと見つめて。
 見つめた先のその表情。
 急な声に驚いたのか、果てはヴィータの言葉に驚いたのか、それとも別の何かが。
 兎に角、ヴィータの大きな瞳に映った桃子は、目を見開いて、驚きの表情を作っていたのでした。
 しかし、それも直ぐにいつもの優しげなモノに戻り、左手でグッと肩を寄せてくれるのです。

「ホントにいい子ね、ヴィータちゃんったら。家のなのは何かには勿体無いぐらいかも」

 おどけてみせる桃子に、思わず戸惑ってしまうヴィータ。
 見上げれば、にっこりと微笑む顔があるのでした。

「褒めてるのよ。こんな優しくて可愛らしい子が、なのはのお嫁さんになってくれただなんて。はやてちゃんに悪いぐらいよ」
「じゃ、じゃあ……はやてには何か美味しいもの、送っておいてください」
「美味しいもの? う~ん、今思えばあの時のお願いって、はやてちゃんへのご挨拶だったのかしら」
「あのとき?」

 なんのことだろう、と尋ねるヴィータの態度こそ意外だ、と言わんばかりの桃子。
 しかし、察しの良いのか、直ぐにその疑問のなんたるかに答えてくれます。

「なのはが急に"はやてちゃんに美味しいお菓子贈るから送って!"って。なんなのか聞いても、とにかくそれしか言わないものだから。
 それで、何でも良いか聞き返すと"なるべく箔のつくもの!"だなんて我侭言うのよ? それで仕方なく一等いいものを作って、リンディさんに渡してくれるようお願いしたの」

 大変だったんだから、と言わずとも、その口調と表情が雄弁に語っています。
 ヴィータとしては、なにか言いたいところでしたが、なのはのいい加減さに呆れてものも言えない、といったところです。
 自分の予測があっているのか、と尋ねる桃子に対し、それは正しく、はやてへのご挨拶であったこと、その辺りの簡単な顛末の説明をします。
 それを聞いた桃子は、呆れるやら驚くやら。くるくると、可愛らしく表情を変えるのです。
 でも最後には「なのはったら性のない子ね」なんて笑っていました。
 ヴィータ自身。それは身に沁みて分かります。
 しかし。それがどういうことであるのか。
 なのはが、自分に対してそういう態度をとってくれることの意味。
 その一端を聞くことの出来た今と、そうでない時では随分と違ってきます。
 それでも――迷惑であったりする事には変わりないのですけど。

「そうならそうと言ってくれなきゃ、ねえ? んもう、はやてちゃんに何て思われてるか心配だわ。はぁ……」
「大丈夫です。すごく喜んでましたから。その……結婚を二つ返事で許してくれるぐらいに」
「ヴィータちゃんと菓子折りが同等……うーん。これはすごく評価してもらってる、と受け取って構わないわよね?」

 問いかけに、ヴィータはこっくりと頷き返します。
 肯定の意を示した身としても、簡単に認めるのは気が引けますが、この場では桃子をガッカリさせるわけにも行きません。
 それに、桃子の作る菓子類を評価していることにもなるなら、別にそれも構わないかな、と思ったのもあります。
 また、はやての本音を伝えるのは適当ではないと思ったからです。
 何の憂いもなく――決して、なのはを否定する、という意味でなく――、自分となのはとの結婚を認めたわけではありません。
 でもそれは、はやて自身がこっそりと本音を漏らしてくれた事。
 その事実を踏まえれば、誰か他人に、それが、いくら顔見知りであっても伝えることはするべきじゃない、と。
 これは、自分だけが心に閉まっておくべきことなんだ、と。

「ふふふ。なら今度ははやてちゃんも連れて帰ってきて? とっておきをご馳走してあげるから」
「ご、ご馳走……」

 ヴィータの脳裏に、昨晩の夕食の風景が蘇ります。
 帰ってきたばかりの娘に、いくらか振るったはずであるのに、それをして"とっておき"と言わしめる料理とは、一体どういうものなのか。
 思わず、喉がゴクリと鳴らすヴィータの様子が、桃子にとっては可笑しかったようです。

「でも取りあえずお菓子のほうが良いかしら。料理の方はまた今度、ね?」

 くすくすと、それを堪えるように続ける桃子。
 しかし、ヴィータは脳裏を駆け巡る、まだ見ぬ夕食の風景に浸っていて、返事が数瞬、遅れてしまうのでした。

「あら? いま、何を考えてたのかしら? 若しかして、何を作ってくれるか考えてた?」

 堪えていた笑いが、またも零れだし、ヴィータはかあっと顔が熱くなるのを感じます。

「うふふ。でも悪い気なんて全然しなくてよ?
 前からヴィータちゃんが私の料理やお菓子を高く評価してくれてるって知ってるし、その舌が確かなことも。
 それはとっても光栄だもの。あの、初めてお泊りに来てくれた時の嬉しそうな顔、ちゃ~んと覚えてるわよ?」
「あ、あうぅ……そ、そういうの、なのはには内緒にしておいてください、です」
「相手と秘密を共有するだなんて素敵だと思わない? この場合、弱みになっちゃうのかしらね」

 くすくすと喉を鳴らし、楽しそうな桃子。
 笑顔でこっそり怖いことを言う……。
 思い、そのとんでもない考えが口から零れることのなかったことを、感謝するヴィータ。
 しかし、自分をニコニコと見つめる桃子を前に、これからの期待と不安が入り混じるのです。
 何だか、なのはのみならず、桃子にも少しずつ弱みを握られるようになりそうな――いえ、現に握られているのです。
 この母子に対して――理由は違いますが――頭が上がらなくなっていくと言うか、やっぱり敵わない辺り、似ているんだろう、とヴィータは思うのでした。


 


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ちょっと遅れて更新

 
 29日付けの日記ですがマジカル夕凪さんです。

 のっけから「メロンメロンメロン!! です(はぁと」だなんて、このブルジョワめ!
 あさひさんは食べられない?として、それでも19人分のメロンが用意できるトゥルー家。
 と、色々気になることはあるのですけど。
 いつも元気印のはっぴーらっきーはねむーん(はぁと、なんて言ってる夕凪さんが丁寧に喋ってるわ。
 この後はいつもの調子を取り戻して、元気元気!なんですけど。
 ふと、気付いたように「浮気はイケナイイケナイ―― ですね(はぁと」とちょっとお姉さんぶってみせて?
 なんというか、時折みせる虹子の丁寧語というか、お姉さんっぽく振舞うのと同じような破壊力があるじゃありませんこと?
 どういう心境の変化なのかわからないですけれど、威力があることは確か。

 ここ何日か、食後のデザートが桃続きのようで。
 どうやら、先日のプールでのことが尾を引いて、蛍の調子が悪いみたい。
 やっぱり風邪をひいた時は桃よね。
 私は桃缶よ。
 バナナ、桃ときて、メロンがでたら……というのは冗談。
 けれど、そこはトゥルー家。
 ちゃんとした桃よ。缶詰じゃなくて。
 確かに、ふわふわの桃の皮をむいて、あの匂い立つ香り。
 とーってもいい匂いのする、やっわやわの桃を――(この「とーっても」や「やっわやわ」と強調するところに桃好きを窺わせるわ。
 そして……「がぶりっ!!
 「きゃー、やっぱ、桃もいいなぁ――(はぁと」なんて。
 足をジタバタさせて、きゃーきゃー言ってるところが、ありありと想像できますね。
 こんな風に話を聞かされては、夕凪さんでなくとも、桃を食べたくなっちゃいますよ。
 ここで一つ。
 夕凪さん。丸ごと剥いて食べてるのかしら。
 小学生の女の子が、一人でおやつを準備して、桃を食べている。
 普通の家庭じゃあり得るのかしら。
 いくら、自分のことを自分でするトゥルー家であったとしても、そんな自由に果物を食べられる環境……ふうむ。

 と、散々桃に対する魅力を語ってくれた夕凪さんでしたが。
 今日のデザートはメロンです!
 数日待った甲斐があったのか、そのために今日はちょっとだけ雰囲気が違ったり。
 ふわふわと浮き足立って、思わず丁寧口調になっちゃったのかしら。

 そして、その待望のメロン。
 春風さん(蛍の体調が優れないためにここ数日は大立ち回りだったのじゃないかしら)の得意と言うじゃない。
 「フレッシュメロンとクラッシュアイスで作った つめたーくてあまーいメロンジュース(はぁと
 どんなのか、私には想像できないけれど、夕凪さんが好きだと言うのだし、春風さんのお得意とくれば、ねえ?

 「魔法にかかっちゃう気がするよ?
 夕凪さんも魔法使いですけど、女の子はみんな魔法が使えちゃったりするんですね。


 


 そして、31日付の日記は真璃の出番です。

 「しゅわしゅわって泡が弾けて、キラキラ光るの! きれいなお空を飲んでるみたいな気持ちになるわ!
 真璃のこの表現力。
 気品すら感じさせる辺りに、流石マリーアントワネットの生まれ変わりを自負するだけあるわ。
 綺麗なものも、好きな真璃。
 ある種、誇らしさも感じる表現に現されるのは「クリームソーダ」
 確かに、あの緑のしゅわしゅわする飲み物は憎いヤツよね。
 メロンソーダをコップに注いで、上にアイスクリームを座らせて。
 「ソーダに浮かべた氷の粒にくっついて――しゃりしゃりになったところのアイスが
 これが醍醐味よね。
 夏の強い日差しを受けて、昇っていく泡が弾け、コップの表面についた水滴が、光を反射してキラキラ光の。
 真璃のように「お空を飲んでるみたい」なんて表現は、とても出てはこないけど。
 今度、メロンソーダを飲む機会があったら、夏の空を思い浮かべてみるのも良いかも知れないわね。

 「マリーの前に出てきてもいいものは、甘ーくておいしいものだけ。
 子供らしさの何ものでもないのだけど、この口ぶりに、あえてそれを感じさせない辺りに真璃の凄さがあるの。

 「マリーのために、今日のおやつをクリームソーダにしたってこと――
 本当に真璃のためを思うのなら、ここは心を鬼にして、それは駄目よ、と言わなければならないのだけど。
 難しい注文よね。
 あの真璃に、信頼を寄せられては、思わず頷いてしまいたくなるもの。
 ああ、どうしたら良いのかしらね。彼は。

 ここで、先日の夕凪さんの日記。
 真璃ったら幼稚園児だったわけだけど、そんなこがクリームソーダを用意できるものなのかしら。
 カルピスぐらいなら分からないでもないけれど…
 トゥルー家は、おやつは一括で用意されてるのだし(例のどら焼き事件)。うーん。

 

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