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新婚なの! 10-11 (1)

 
「もう。また臍を曲げてるの?」
「つーん。流石に二度目はないよ~」
「そりゃこっちのセリフだっての……はあ」

 髪を乾かし、向こうから持ってきた櫛で梳かしてもらっている最中に戻ってきた旦那様。
 別に、普段から就寝前のブラシを任せていたわけでもないのに、桃子がやっているのを見るなり不機嫌そう……いえ、明らかに不機嫌でした。
 ツンとしてあごを逸らし、口をへの字に曲げ、明らかにそうなのです。
 参ったなぁ、ホント……
 こうも簡単に臍を曲げられては、ご機嫌をとる身分としても堪ったものではありません。
 初めはそれに付き合ってはいたものの、流石にそうそう臍を曲げられては、こちらも付き合いきれない、とヴィータも対抗してそっぽを向きます。
 すると、そこへ桃子の耳打ち。
 なのはに、見せ付けるようにするそれは、「やっぱり、甘えてるのね。あの子」と、いかにも楽しそうと言った感じでした。
 その後に続く「普通は親の前で良い格好をするものなのに……うふふ、可愛いわ」など、特にそうです。
 どうしたものかと、薄目でなのはを確認すれば、向こうもこちらを窺っている様子。
 なんて事はありません。
 臍を曲げた振りをして、構って欲しかっただけなのです。
 ヴィータは仕方なさそうに、ため息を吐くのです。

「だったら。今度からお前がやってくれりゃ良いだろ?」
「じゃあ、やらせてくれるの?」

 思わず歩み寄ってくれたヴィータに、なのはは拗ねた態度など何処へやら。パッと顔を明るくします。
 しかし、ニヤッと笑って応えるヴィータの態度に、さっと身構えるのでした。

「嫌がったことなんざ無いだろ。いっつもお前の風呂が遅くてする暇がないだけじゃねーか」
「……そ、そだったっけ」

 あっという間に劣勢に追い込まれたなのは。
 しれっとやり過ごそうと、視線を逸らしますが、ヴィータは追撃の手を休めるつもりはありません。

「ああ、そうだ。逆に、アタシがお前の髪を梳かしてやってるんだろう?」
「え、えっと……あ、その櫛。持ってきてくれたの?」
「話を逸らそうとしても駄目だぞ」
「なんなの? この櫛。なにかあるのかしら?」

 ぴしゃりと遮ったところで、桃子が乗ってきたために、計算通りに話のそれそうなことに、にんまりと口の端を上げるなのは。
 どこまでが計算か分かりませんが、まんまとなのはの思惑通りになってしまうようです。
 ヴィータはしてやられた!と悔しがりながらも、桃子の話となっては、無視するわけにもいきません。
 ほらほら、と薦めるなのはを横目に、その疑問に答えることにしたのでした。

「これは、櫛を通しているだけで、髪のケアが出来るって優れものです」
「あら。それは便利ね。コレ一つで……うーん。どうみても普通の櫛にしか見えないけど」

 指差し説明するヴィータに、桃子は不思議そうに櫛を眺めます。
 そこになのはが、ここぞとばかりに口を挟みます。

「原理は知らないんだ。でも、ちゃんとしておくと、次の日なんか全然感じが違うんだよ。初めてのときはビックリしたもん」
「ああ、それはあったな。コレ一つで随分違うもんだ」
「ふ~ん……それで、どうしたの。なのは、何か気になることがあったみたいだけど」

 突然、桃子に話を振られ、ぎょっとしたなのは。
 さあて、どう答えるよ。
 咄嗟に話を逸らすために持ち出した話なのですから、答えに詰まるのは当然です。
 桃子も、それを分かってか偶然か。
 ヴィータには知る由もありませんが、どちらにしろ、上手く答えられないようなら、ツンとするのを放っておけば良いだけです。
 オタオタと慌てるなのはを尻目に、少しだけ優位に立ったような気分に足を崩して、ゆったりと待つのでした。

「え~っと……私忘れちゃったから。流石ヴィータちゃんだなあって……うん」
「な、なんだよ、それ」

 もっともらしい言い訳を期待していた――その方が見っとも無いのですから――ヴィータとしては拍子抜けです。
 嫌味をこめたため息の一つでも吐いてやりたくなりますが、桃子の手前、遠慮することに。

「忘れた? ヴィータちゃんに準備してもらったって言ってたじゃない」
「そ、それはそうなんだけど~」
「いかにも自分も用意した、みたいな言い方はよくないわね。駄目よ?」
「は~い、済みませんでした」

 桃子に痛いところを突かれたのか、不味そうに眉を寄せ、謝ってみせますが、仕方なーい、といった感じです。
 今一反省の色が見えないことに、ヴィータと桃子は呆れて顔を合わせました。

「……今一誠意ってもんが感じられないな」
「仕方ない子ね。あのね、なのは。旅の準備、したりするのって楽しかった経験ないかしら。例えば、学校の遠足とか」
「え~っと……そうだなぁ、遠足とかも、前の日とかが一番楽しいかも」

 えへへ、と悪気もなく笑う顔。
 イライラしていても、この笑顔でなんとなく有耶無耶になってしまうのだから、得な性分だよな、とヴィータは思います。
 ですが、それをあっさり許すのは自分を含めた一部の人間だけ――他の多くの人にも効果のある笑顔ですが――ということには、気付かないのです。

「そう言うことよ。今度からヴィータちゃん一人に任せたりせず、そうなさい」
「そうしまーす」

 ホントに反省しているのか分かりませんが、母親の手前、そういったことは信用してあげることに。
 ツンと拗ねていた態度も何処へやら、すっかりご機嫌になっています。
 こんなことなら、と機嫌をとろうか一瞬でも考えたことが馬鹿馬鹿しくなってくるヴィータ。
 自身に呆れているヴィータに対し、いつもの調子を取り戻したなのはは、桃子に勧められてお風呂場に向かいます。
 既に湯気が出るほどの熱気はなくなってしまったヴィータを、残念そうに見つめながら。
 しかし、向けられた本人は、その視線に気づくことはありませんし、なのはも、それを望まないようでした。

「変な子ね。櫛は一つで充分なのに。話を逸らすにしては下手ね?」
「あ! え、えっと……」
「ふふふ。二人で一緒に用意することになって、効率悪くなったりしたら……ごめんなさいね」

 本当に悪く思っているのか。
 いささか疑問の残る、語尾の軽さですが、"二人ですること"が何事も重要であると再確認したばかり。
 これは桃子の気遣いなのだと、ヴィータは素直に頷くのでした。


 


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