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新婚なの! 10-10 (1)

 
 深刻な話はお終い。
 そうなると、当然次にやってくるのは、もっと気軽なお話。
 にこにことする義母の疑問に答えるのは、嫁の役目でしょう。
 結婚してからこの手の話は何度したかしれませんが、今回は特別中の特別。
 しかし、話が進むに連れ、どれほど旦那が実家との連絡を絶っていたかという、ヒドイ現実を目の当たりにするのでした。
 いえ、絶っていたというのは不適切な表現かもしれません。
 「不精が働いた」
 これが一番当たっていそうだと、二人は結論付けるのでした。
 ……仕方なく、ですが。

「ちゃんと教えたとおりに出来てるみたいだから、良いのだけど……う~ん」
「なのはの……今の仕事は精神的にも大変だから、若しかしてそういう可能性もあるかもしれないです」

 こちらの言葉に、あら?といった顔で応える。

「今の? どういうことかしら」
「武装隊から教導隊ってところに変わったんです」
「ええ、聞いてるわ」
「その中で、生徒をもっていくらか教導することがあるんですけど。それって神経を使う仕事で、訓練の内容から、その後教え子たちがどうなっているかとか……」
「仕事として大変なのが、体力を使うだけじゃないってことね」

 理解が早いのは助かります。
 そこで、多分そうなんじゃないか、と前置きをして、その可能性の内容に言及します。

「ちゃんと手元で面倒が見れるようになる前だと、まだまだ仕事も大変な時期で、それも重なって、連絡しない癖がついたんじゃないかって」
「ふうん」

 便りのないのは元気な証拠とは言うけれど――。
 呆れ加減な桃子の表情に、ヴィータも思わず頷いてしまいます。
 けれど、それは全面的に納得したわけではありません。
 ふと、脳裏に浮かぶ別の可能性。
 若しかして――"なにか"を見落としてたのかもしれない。
 自分は初めから教導隊の仕事は大変で"そういうこともあるだろう"と分かっていたから。
 いつも元気な人が疲れていたのなら、どうしたのかと気にも掛けるけれど。
 それが"いつも通り"なら?
 その当たり前が、実は自分の思い込みだとしたら?
 一応聞いてはみるものの、相手がどう言おうと、これも毎度のことだろう、と勝手に納得してしまう。
 そこに大きな落とし穴があったんじゃないか?
 桃子の問いかけは、まるで試験の問題を見直すかのように、自分の思考を見直すきっかけを与えてくれたのでした。

「どうしたの、ヴィータちゃん?」

 桃子の声に、ハッとする。
 どうやら深く考え込んでいたみたい。
 慌てて何でもないです、と否定はするものの、その反応は反って彼女に疑念を抱かせる事になってしまったようでした。

「"本当に"なにもないのなら良いのだけど……なにかあるんじゃない?」
「え、ええっと……」
「ヴィータちゃんから見て、なのはに別の理由があったかもしれない。そう思ってるんじゃない?」

 責める口調ではありません。
 しかし、きっぱりと言い切ることで、ヴィータはぐっと押し黙ってしまうのです。
 それは無自覚ながらも、核心をつかれたことに他なりませんでした。

「……そうかもしれないって、思わないことも、ないです」
「ただの不精じゃなくて、別に何かしら理由があった……?」

 これは喜ぶべきか心配するべきか悩むわねえ。
 その口調はあくまで軽い。
 けれど、僅かに冷え込む雰囲気を、隣に座るヴィータに、肌にピリピリとした感覚となって伝わるのでした。
 確かにそうではあります。
 単に怠けていたわけではない――としれば、何か別に理由があってしたことにまります。
 昔から、どうにもそういう傾向がなきにしもあらずであったようですが、アリサの話から、そこまで酷くはなかったようです。
 となれば、それは、そうなってしまうほどの大きな理由を抱えていたことの反証です。
 不味い。これは"悪い癖"が出てる証拠なんじゃ……
 肌を刺激する雰囲気に、ヴィータ自身の思考も引きずられていくのでした。

「……ヴィータちゃん。まだそう決まったわけじゃないでしょ? そんな顔しないの」
「ふぇんなひょこいっひゃって!」

 ぎゅーっと頬を引っ張られ、なにごと!?と焦るヴィータに、桃子はにこにこ顔。

「うふふ。やーわらかいわあ。なのはも小さい頃はこういう感じだったかしら?」
「にゃのひゃも?」
「そう。う~ん、なのはに限らず女の子は小さいとき、みんなこんな風よ? はやてちゃんだって例外じゃないと思うわ」
「ひゃやても……う~んゅ」

 ほっぺをむにゅむにゅしながらの桃子の言葉に、ヴィータは具体的なイメージが抱けずにいます。
 小さいとき、などと言われても、自身にとって、小さい子供のイメージが余りありません。
 赤ん坊といえば、ハラオウン家のカレルとリエラぐらい。
 触ったり抱っこしたりしたことが無いわけではありませんが、その体験が上手く結びつかないのです。
 リインは、まだ充分に子供といえる年齢ですが、身体の大きさが小さいだけで、身体の造り自体は、自分よりも幾分か大人です。
 そういうことで、ヴィータが困惑の色を浮かべていると、嫌がったりしないのを良いことに、桃子のほっぺた遊びは止まりません。
 ほっぺを伸ばされながらの難しい顔、というのは見ていてとても愉快なものです。
 そのアンバランスの妙が、ますます桃子を楽しませているようでした。

「さて。あんまりこうしてると戻らなくなっちゃうわね」
「ええっ!? ホントか――です?」

 深刻そうな呟きに、思わず声を上げてしまうけれど、それをみて桃子はくすくすと肩を揺らすばかり。

「冗談よ。それぐらい柔らかかったってこと」

 それに、余り堅苦しいのも止めましょう?
 悪戯っぽい笑みに、なにやら歳不相応な可愛らしさを見せる桃子。
 深刻そうに見せたり、次の瞬間には子供っぽくしたり、可愛かったり――コロコロ変わる表情にヴィータはついていけません。
 混乱、とまではいかないでも、思考の纏まらなさは、そのまま口を出る言葉に表れてしまいます。

「え、あ、でも、なのはのお母さんだし、そういう礼儀っていうか、その」
「う~ん……そうね。ヴィータちゃんがそうやって気を使ってくれるのなら、有難く受け取らなきゃ失礼ね」
「そんな大げさなモノじゃないと思うのですけど」

 桃子の反応を額面どおりに受け取れば良いのか――それは悩むところですが、考え込んでも仕方ありません。
 まだ残る指の感触を追うように、膝の上に収まっている手を見つめます。
 そんなヴィータの視線を知った上で、あえて応えない様子の桃子。
 正直なところ。
 ヴィータの考えは当たっているようで、遠慮だなんて、時間はあるのだし、これからもっと仲良くなったら自然とそうなるわ、と言っているようでした。
 うじうじと考えても始りません。
 そう思考を切り替えて、「有難く受け取る」ことで、関係が一歩進むのならそれで良いじゃないか。
 きっと、強く押せば、桃子は従ってはくれるでしょうが、それでは意味がありません。
 今までとは違う、新しい関係の始まりなのです。
 何事も最初が肝心とばかりに、なるべく自然な形になるよう努めるのでした。

「さてさて。せっかく食後のデザートにでもしようかと思ったけれど、なのはがあの調子じゃあ、ねえ?」
「そう、ですね。帰ってきてるのに仲間外れじゃ可哀想ですから」

 うふふ、と笑っては、天井に視線を向ける桃子。

「今頃は集中してる頃だろうし、邪魔しちゃ悪いわよね。送り主のアリサちゃんにも」
「はい。アリサさん、意気込んでいましたから」

 なのはに良いクスリだと思います、と揶揄の響きを乗せてみると、あら、とした表情の桃子。
 冗談をいってみたのがそんな意外だったのか――
 そう悩むヴィータの内心が表情に現れていたのでしょう。
 勘良く、桃子もそれに合わせてくれるのです。

「それなら良いクスリ続きで先に食べちゃうのも良いかもしれないけど、それだとお父さんが可哀想だし……大変ね? お互い」

 可愛らしく、ウインクして見せながら、労ってみせる桃子。
 いい大人だというのに、その態度の可愛らしさは何なんだろう? と、面食らっても、これもなのはの母親なら当然かもしれません。
 理由になるような、ならないような考えを他所において、少しだけ、語尾を強めて返すヴィータでした。


 


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