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新婚なの! 10-9 (3)

 
「そうね。ヴィータちゃん自身が選んだ事なのだから、私が口を挟むのはどうかとも思ったんだけど」
「い、いいえ! だって、桃子さんはなのはのお母さんで、だから、なのはの心配をするのは当然だから、えっと」

 慌ててフォローするヴィータが可愛かったのか、桃子はくすくすと笑い出します。

「そう言ってくれると嬉しいわ。
 でもね、"なのはに押し切られたヴィータちゃんが幸せかしら"ということ。
 知らない仲じゃないのだし、今は曲がりなりにも娘なんですもの。心配するのはそれほど変なことじゃないと思うの。
 あの子は甘え方を知らない、なんて言ったけど、今の様子を見てたら杞憂というか……今までの心配がぐーんと小さくなっちゃって」

 そうなのよ?と、相手を安心させるような口調に、ホッと息を吐くヴィータ。

「全くなくなったわけじゃないのよ? あの子が、そういう性格だっていうのは重々承知しているから。
 きっと、私には分からないモノを抱えているって、いくら母親でも全部は……こういうのは逃げかもしれないけど」

 桃子のその口調は、ヴィータに心配を掛けさせまいとする、心遣いであろうことが窺えます。
 それが充分にこちらに伝わっている為に、その軽い口調に合わせて、相槌も軽快に、なるべく明るいトーンで。
 そうしながらも、一字一句聞き逃さぬようにしっかりと耳を傾けるヴィータでした。

「それが大きいのか、小さいのか。それは分からないけれど、ヴィータちゃんなら大丈夫なんじゃないかって。
 なのはもそれを分かっているんだろうけど、ヴィータちゃんにとって重荷であったりするなら……駄目じゃない? 夫婦として」
「夫婦として、ですか」

 聞き返す言葉に、ゆっくりと頷く桃子。

「だって、ヴィータちゃんの人生は他でもない、ヴィータちゃん自身のモノなんですもの。
 それがなのはの我侭で潰されちゃうような事があったら……
 きっとそれに気付いたあの子も傷つくと思うの。
 ああ、駄目ね。結局あの子の心配ばかりで。これじゃ何のための話か――」
「そ、そんなことないです! 桃子さんは、なのはのお母さんだから、そういうのは当然です!」

 今度は強い調子で言い切ります。
 心配を掛けさせまいとする気持ちに応えるために。
 あわせずに居た視線を、しっかりと交差させて、相手の瞳をジッと見つめて。
 見つめた先のその表情。
 急な声に驚いたのか、果てはヴィータの言葉に驚いたのか、それとも別の何かが。
 兎に角、ヴィータの大きな瞳に映った桃子は、目を見開いて、驚きの表情を作っていたのでした。
 しかし、それも直ぐにいつもの優しげなモノに戻り、左手でグッと肩を寄せてくれるのです。

「ホントにいい子ね、ヴィータちゃんったら。家のなのは何かには勿体無いぐらいかも」

 おどけてみせる桃子に、思わず戸惑ってしまうヴィータ。
 見上げれば、にっこりと微笑む顔があるのでした。

「褒めてるのよ。こんな優しくて可愛らしい子が、なのはのお嫁さんになってくれただなんて。はやてちゃんに悪いぐらいよ」
「じゃ、じゃあ……はやてには何か美味しいもの、送っておいてください」
「美味しいもの? う~ん、今思えばあの時のお願いって、はやてちゃんへのご挨拶だったのかしら」
「あのとき?」

 なんのことだろう、と尋ねるヴィータの態度こそ意外だ、と言わんばかりの桃子。
 しかし、察しの良いのか、直ぐにその疑問のなんたるかに答えてくれます。

「なのはが急に"はやてちゃんに美味しいお菓子贈るから送って!"って。なんなのか聞いても、とにかくそれしか言わないものだから。
 それで、何でも良いか聞き返すと"なるべく箔のつくもの!"だなんて我侭言うのよ? それで仕方なく一等いいものを作って、リンディさんに渡してくれるようお願いしたの」

 大変だったんだから、と言わずとも、その口調と表情が雄弁に語っています。
 ヴィータとしては、なにか言いたいところでしたが、なのはのいい加減さに呆れてものも言えない、といったところです。
 自分の予測があっているのか、と尋ねる桃子に対し、それは正しく、はやてへのご挨拶であったこと、その辺りの簡単な顛末の説明をします。
 それを聞いた桃子は、呆れるやら驚くやら。くるくると、可愛らしく表情を変えるのです。
 でも最後には「なのはったら性のない子ね」なんて笑っていました。
 ヴィータ自身。それは身に沁みて分かります。
 しかし。それがどういうことであるのか。
 なのはが、自分に対してそういう態度をとってくれることの意味。
 その一端を聞くことの出来た今と、そうでない時では随分と違ってきます。
 それでも――迷惑であったりする事には変わりないのですけど。

「そうならそうと言ってくれなきゃ、ねえ? んもう、はやてちゃんに何て思われてるか心配だわ。はぁ……」
「大丈夫です。すごく喜んでましたから。その……結婚を二つ返事で許してくれるぐらいに」
「ヴィータちゃんと菓子折りが同等……うーん。これはすごく評価してもらってる、と受け取って構わないわよね?」

 問いかけに、ヴィータはこっくりと頷き返します。
 肯定の意を示した身としても、簡単に認めるのは気が引けますが、この場では桃子をガッカリさせるわけにも行きません。
 それに、桃子の作る菓子類を評価していることにもなるなら、別にそれも構わないかな、と思ったのもあります。
 また、はやての本音を伝えるのは適当ではないと思ったからです。
 何の憂いもなく――決して、なのはを否定する、という意味でなく――、自分となのはとの結婚を認めたわけではありません。
 でもそれは、はやて自身がこっそりと本音を漏らしてくれた事。
 その事実を踏まえれば、誰か他人に、それが、いくら顔見知りであっても伝えることはするべきじゃない、と。
 これは、自分だけが心に閉まっておくべきことなんだ、と。

「ふふふ。なら今度ははやてちゃんも連れて帰ってきて? とっておきをご馳走してあげるから」
「ご、ご馳走……」

 ヴィータの脳裏に、昨晩の夕食の風景が蘇ります。
 帰ってきたばかりの娘に、いくらか振るったはずであるのに、それをして"とっておき"と言わしめる料理とは、一体どういうものなのか。
 思わず、喉がゴクリと鳴らすヴィータの様子が、桃子にとっては可笑しかったようです。

「でも取りあえずお菓子のほうが良いかしら。料理の方はまた今度、ね?」

 くすくすと、それを堪えるように続ける桃子。
 しかし、ヴィータは脳裏を駆け巡る、まだ見ぬ夕食の風景に浸っていて、返事が数瞬、遅れてしまうのでした。

「あら? いま、何を考えてたのかしら? 若しかして、何を作ってくれるか考えてた?」

 堪えていた笑いが、またも零れだし、ヴィータはかあっと顔が熱くなるのを感じます。

「うふふ。でも悪い気なんて全然しなくてよ?
 前からヴィータちゃんが私の料理やお菓子を高く評価してくれてるって知ってるし、その舌が確かなことも。
 それはとっても光栄だもの。あの、初めてお泊りに来てくれた時の嬉しそうな顔、ちゃ~んと覚えてるわよ?」
「あ、あうぅ……そ、そういうの、なのはには内緒にしておいてください、です」
「相手と秘密を共有するだなんて素敵だと思わない? この場合、弱みになっちゃうのかしらね」

 くすくすと喉を鳴らし、楽しそうな桃子。
 笑顔でこっそり怖いことを言う……。
 思い、そのとんでもない考えが口から零れることのなかったことを、感謝するヴィータ。
 しかし、自分をニコニコと見つめる桃子を前に、これからの期待と不安が入り混じるのです。
 何だか、なのはのみならず、桃子にも少しずつ弱みを握られるようになりそうな――いえ、現に握られているのです。
 この母子に対して――理由は違いますが――頭が上がらなくなっていくと言うか、やっぱり敵わない辺り、似ているんだろう、とヴィータは思うのでした。


 


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