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新婚なの! 10-11 (2)

 
「なのは。まだかかりそうか?」
「う~ん、そうだなあ。切りいいところまで読んでおきたいから」
「じゃあアタシは先に寝るぞ」
「え~、待っててくれないの? せっかく二人で居るのにぃ」
「……しょうがねぇな。布団の中に入って見ててやるから。頑張れよ~」

 いけず~、そこに夫婦の愛はないノー?などといっていますが、ヴィータは、それを気にすることなくベッドに潜り込みます。
 ぼんやりと温まった部屋の空気をいっぱいに含ませれば、足元からゾクゾクと何かが駆け上がってくるような感覚。
 思っていたよりも身体は冷えていたようでした。
 手足をギューっと縮込ませて、少しでも熱が逃げていかないようにします。
 ぐるりと寝返りを打つヴィータ。
 すると、スタンドの明かりを背にしたなのはが、宛も、テレビで可愛らしい子猫でも見たような顔をして、こちらを見ているのです。
 椅子の背もたれに頬杖をつけば、小さく軋む音。
 舟を漕ぐようにキシキシ言わせては、目を離しません。
 こちらの意思が伝わるよう、あからさまに嫌そうな顔して、ヴィータは文句を言います。

「……あにやってんだよ。モニタはこっちに向いてないだろ」
「だってえ。ヴィータちゃんがとっても可愛いんだもーん」
「ああ、それは分かったから。早く済ませろ。湯冷めして風邪ひいたって知らねーぞ」

 構うことなく、なのはの軽口を受け流したつもりでしたが、そうされたはずの本人は、ニヤニヤとこちらを見るばかり。
 嫌な予感がする……ヴィータは思わず眉間に皺を寄せます。

「それは認めるんだ。そっかあ、ヴィータちゃんも自分が可愛いって自覚あるんだ。ふ~ん。でも当然だよね。私がコレだけ毎日可愛いって言ってるんだから」
「う、うっせ! 無駄口叩いてるヒマがあったら、さっさとアリサさんからのメール読めよ!」

 自信満々に胸を張り、どうだと言わんばかりのなのは。
 軽く受け流したはずなのに「可愛いって自覚がある」なんて言われては、こそばゆいやら何やらで、すっかり相手のペース。
 結局構ってしまって、なのははニンマリとしています。

「は~い……っくしゅん」
「ほれ見ろ。身体が冷えてきてんだ。大体、全部片付けてからだな……」
「あー、はいはい、分かってますよ~」
「ったく。ホントに知らないんだかんな。休みの最後をベッドで過ごす羽目になっても」

 ホントに分かったかどうか怪しげな態度で、机に向かって座りなおすなのは。
 呆れてモノも言えないと言うか、何と言うか、それでも放っておくわけにもいかず、念を押すように、嫌味で返すのです。
 けれど、慣れたものか、なのはは全然堪えていない様子でした。

「そうだね。明日には帰らなきゃいけないし……でも、ヴィータちゃんの看病も捨てがたいしなあ、なんて」
「勘弁してくれ。アタシだって用事があるんだぞ?」
「じゃあ明日は頑張って、明後日から風邪のお世話になるねー」

 机に向かったまま、軽い調子。
 冗談であるだろうことは分かっていても、ゲンナリせざるを得ないヴィータは、思わず棘棘とした口調になってしまいます。

「あさって? バカ言うなよ、仕事はどーすんだよ。アタシだって行かなきゃいけねーんだぞ」
「えー? 私が心配で仕事に行けないって? う~ん、そんなに私のことが――」

 頬を押さえては、一人でイヤンイヤンしているなのは。
 何を勘違いしてんだ――とは言いたくても言えません。
 はっきりとは言いませんでしたが、なのはの言いたいことは大方当たっているのですから、尚更です。
 風邪をひいて休まなきゃいけないような状態で一人、家に放っておいたら心配で仕方ありません。
 しかも、職務柄、急な仕事で呼び出されないとは言い切れません。
 教導官が引っ張り出されるような事態など、そうそう起きはしないとは言え、です。
 もし自分が家にいれば、特殊な事柄でなければ、代わりも出来ますが――しかし、それは多分無理でしょう――
 言ってしまえば説得出来ようとも、それだけは――ヴィータは、それを口にするのを憚れるのでした。
 理由は二つ。
 単に、なのはが調子に乗るのがイヤだから。
 言ってしまえば、今後なにかにつけて、今日のことを蒸し返すでしょう。
 後もう一つは――何てことはありません。
 恥かしいのです。

「ぐっすり眠れる薬を打って、ベッドに括りつけておくから安心しろ」
「ひっどーい。病人をそんな扱いするだなんて!」

 背もたれに押し付けて、椅子をキシキシ言わせはしますが、こちらを向くことのないなのは。
 別に顔が見たいわけじゃないし、顔が見られるのもイヤなので、気にもしないぞ、と胸の中で強がるヴィータでしたが。

「だったら病人にならないよう努力するんだな。とりあえず、机に向かってメールを読んで、早く寝ろ」
「……はーい。ちぇ、ヴィータちゃんの意地悪」
「意地悪で結構だ」

 ブツブツと、こちらに聞こえない程度に文句を言う態度が面白くありません。
 けれど、せっかくやる気になったようですし、こちらに興味を向かせないよう、余計なことは言えないのが、それに拍車をかけます。
 ヴィータが、むーっとしていることなど知らず、机に向かうなのは。
 左側の髪はスタンドの明かりを通すために、普段は栗色をしているものが、琥珀のように見えます。
 その琥珀色の長く、真っ直ぐに伸ばした髪をバンドで一本にまとめ、右肩から前へ。
 いつも、寝るときはポニーを解いているなのは。
 日常は、左側にポニーを作っていて、以前はそれのない姿に違和感を覚えたことを、ふと、ヴィータは思い出すのでした。
 それも今は、ポニーを作っていない姿も見飽きるほど見ていて、何時から、そう思わなくなったのかと、疑問に思います。
 その疑問を解決するべく、いくらか頭をめぐらせますが……結論は出ません。
 ああ、そんな長く、一緒にいるのか……
 ぼそり。
 感慨深げな口調で小さく零れたことに、ヴィータ自身、気付かないのでした。

「ねぇ、ヴィータちゃん。起きてる?」
「……ん。ああ、起きてるぞ」
「いま、寝かけてたでしょ? 返事がちょっと遅かったもん」

 むーっと膨れっ面であることが、想像できる口調のなのは。
 やれやれと言った感じで、ヴィータが答えます。

「……いつも直ぐに返事できるわけじゃねーぞ。こっちだって色々考えることがあんだよ」
「ふーん。ねえねえ、それって私のこと?」
「……まあな。色々な意味で」
「ふうん。素直じゃないんだからあ~」

 えへへー、と笑うなのはに、見えていないことが分かっていながら、べーっと舌を出すヴィータ。

「気遣いを分からない奴だな。正直に言ったら傷つくから言わなかったってのに」
「どーいうこと?」

 なのはは、首を右に傾けては、文面が映し出されたモニタを見続けています。
 琥珀の部分は増えたけれど、逆側の暗さが深まり、その落差に僅かばかりの気味の悪さを覚えるヴィータ。
 その、明るく照らされる琥珀色が普段のなのはであるなら、その暗さは、自分にも分からない、気付けないでいた闇であるように思えてきます。
 早く終われば良いのに――ヴィータの呟きは、なのはの耳には届かないのでした。

「仕事しっかりしてるか?とか、誰かに迷惑かけたないか?とか、また騒動起してねーか?とか」
「え、ちょっと、最後のは心当たりがないんだけど……」

 流石に心当たりがなかったことには、戸惑いを見せるなのは。
 にししっとヴィータは笑います。

「予防だよ、よ・ぼ・う。万が一に起したとき、対処できるだろ?」
「さ、流石にそれはないと思うけど……はい、気をつけますです」

 今一真剣みの足りない声。
 こっちから顔が見えないと思って油断しているんだろうか、はたまたいつも通りなのは……多分、後者でしょう。
 相変わらずだなあ、とヴィータは思いますが、今日はそれだけ。
 少しずつ、眠気が自分に腕を伸ばしてきているために、何だか上手く頭が回らないのです。
 まだ大丈夫ですが、億劫に感じるようになっているのは確かなのでした。

「……なぁ、まだかかりそうか?」
「うん、って。さっきからそんなに経ってないよ、そんなに進まないったら」
「そうじゃなくて喋ってるからだろ」

 言われてハッとし、直ぐに言い繕います。
 直ぐに出たのは幸運でしたが、そんなに眠くなって思考が鈍っているのか、それとも――
 その可能性がなきにしもあらずですが、一応否定しておくヴィータ。
 何だか認めるのは癪ですし、なのははが調子に乗ってくるからです。

「う~ん……なあに? そんなに早く終えて一緒にお布団に入りたいの? んもー。そうならそうと言ってくれれば良いのに~」

 否定しておいた可能性を、ばっちり言い当てる勘の良さが恨めしい。
 案の定。調子に乗って、なのはは、あーだこーだと、いかにヴィータが自分を好いているか、勝手にしているのです。

「ば、ばーか。お前は没頭すると他のことに手が回らなくなるからだろ」
「流石に寝る間を惜しむことは無いよ。しかも、ヴィータちゃんがベッドが待ってるのに」
「べ、別にアタシはお前なんか待ってなんかないぞ。勘違いするな」

 机に向かったままでも、にえっへっへ、と笑っているなのはの顔が、ありありと脳裏に浮かびます。
 慌てて否定しますが、そういう態度が余計になのはを喜ばせたり、相手の言葉を肯定していることに気付かないヴィータ。
 そうやって気付かずにやっていることが、いつものなのはの態度に繋がっていることに、今だ自覚がないのでしょう。
 気付いているのなら、とっくに改めていることでしょうから。

「さっきは待っててやる~って言ってくれたじゃない~」
「そ、そんなこと言ったか? 見張っててやるとは言ったけど……いや、確か言ってない、はず」

 え~? 言ってたよ~と、なのは。
 これで逆に確信を深めたのはヴィータでした。
 こちらが自信のないことに付け込んで、自分の思い通りにしようと言う魂胆が見えたからです。
 もう騙されないぞ!となのはに詰め寄れば――実際はベッドの中ですけど――、思ったとおり、えへへー、と誤魔化し笑い。
 全くどうしようもないヤツだ、と毒づけば、だってヴィータちゃんはそういうと可愛いんだもん、と返します。
 ほとほと呆れてものも言えない、といった態度を取って、黙ることにしたヴィータ。
 その後、何度か話しかけられましたが、内容も大したことはなかったので、そのまま無視します。
 すると、徐々に腕を伸ばしてきた眠気に、がっちりと捉われてしまい、いつの間にか瞼はしっかりと落ち、意識は沈み込んでいくのでした。


 


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