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新婚なの! 10-12 (2)

 
「なのは、忘れもんねーか?」
「う~ん。あ、ちょっと待って~」

 翠屋へ出かける三人を見送ってから、出かける準備をすることにした二人。
 今日はヒマだからいつでも遊びに来てくれて良いよー、とエイミィが言えば、久しぶりに顔でも見たいねえ、とアルフ。
 バタバタとしたくないため、予定を少し繰り上げて早めに出ることにしたのでした。
 玄関ですっかり準備を終えたヴィータが、普段の出勤風景を思わせる様子で尋ねれば、なのはは、何かを思い出したように引っ込んでいきます。
 何をやってるんだ、と思いながらも、思い出しただけマシか、と前向きに。
 消えてしまった足音に、その主を思えば、自分がいなかったらどうなってるんだろう、と考えて、思わず身震い。
 その、考えたくもない事態に、アタシがいて良かったなあ?と、呆れながらも、一人微笑むヴィータでした。

「あの~、ヴィータ、ちゃん?」

 戻ってくるなり、上から上目遣いに、こちらを窺うなのは。
 ため息混じりに声が漏れます。

「……怒らないから言ってみろ」
「あのね、まだそんな、怒られるようなことじゃないって……思うんだけど」
「じゃあ、さっさと言えよ。ちゃんと怒ってやるからな。覚悟しろ」
「う、ううん! やっぱり全然違ったみたい! うん」

 おずおずと、後ろ手に何かを持ちながら、ご機嫌を伺ってきます。
 明らかに、なにか都合の悪いことが発生したと、誰でも気付く、その態度と口調。
 ここは、早くに白状させるためにも、ヴィータは穏便に済ませてやると、態度で示すのでした。

「ええっと、実は……はやてちゃんから預かり物があって」
「ああ、そうだったのか。んで?」
「それがね。なんていうか、その預かりモノを誰に渡さなきゃいけないかと言うと」
「……これから行く人のところじゃないんだな?」

 ご名答~、とヨイショするなのはの様子に、ヴィータは、がっかりと肩を落としてしまいます。
 はやての預かり物、といえばその相手はすずかになるでしょう。
 昨日会いに行ったときに渡さなければいけないというのに……情けないことです。
 聞いておかなければ、帰り際に大騒ぎする羽目にあったかもしれず、ホッとしたのも確かではありますが。
 先ほどの「思い出しただけマシか」という考えは、合っているようで、とても基準が低いところにあるように、ヴィータには思えました。

「どうする。今日は学校だろ?」
「う~ん……じゃあ、私だけ行ってくるよ。ヴィータちゃんは予定通りに」
「あのなあ。夫婦揃っていかなきゃ駄目だろ、こういうのは」
「それもそうだけど……」
「アルフもお前に会いたがってるんだし。その後だって構わないじゃんか。ちょうど学校も終わる頃にさ」

 建設的な提案をしたつもりですが、なにやら要領を得ません。
 色々言ってはみたものの、結局のところ、自分ひとりで行く、ということを言うだけ。
 嫌な気分になるというより、どうにもその態度が気になるばかり。
 何を持って自分と一緒に行動したくないのか。
 気にはなるものの、それを直接聞いてしまうのは、戸惑われる。なぜか、なのはの態度がひっかかるのです。
 隠し事をするのは、大概不味いことですし、聞きたいのは山々ですが、それとなく聞きだす技術があるわけでもなく。
 結局のところ、なのはの意見を飲むことになってしまうのでした。

「分かった。んならアタシは他の用を済ませてからにするから」
「じゃあ、それから合流、でいいかな?」
「ああ。んじゃ、そっちから連絡しろよ」

 返事と共に明らかにホッとした表情を見せるなのは。
 どうにもこうにも気になるわけですが、自分としても、思い当たる節がないわけではない……ような気がしてきました。
 若しかして、アリサとの一件を、なのはは気づいていたのではないか。
 それをして、昨日の今日で顔を会わせなくても良いように、気を利かせてくれたのはないか。
 自分なりに気付かれないよう気をつけたつもりですが……
 一応に、合点のいく考えですが、多分に自惚れを含んでいるような気がしないでもありませんし、ましてや、勘違いという可能性も。
 自分の考えが、合っているのか間違っているのか――
 ヴィータは、そのどちらであっても、なのはのしたいようにさせることにしました。
 彼女なりに、考えてのことですから、それを尊重することにしたのです。
 あっていれば、なのはの言う通りにすることで、好意を無駄にせずに済みますし、違っていれば、心配することもないからです。
 それが、自分の考える、安易な事態であるとすれば。

「くれぐれも失礼のないようにな。忘れてたってこと、知れるなよ」
「はーい」
「そういやメールはどうなってんだ? まだ返してないんだろ?」
「あ――え、ええっと……どうしよっかなぁ。また今度……じゃ駄目かな?」
「駄目だ。覚悟して行ってこい。大体、はやてからの預かり物を忘れるなんざ冗談じゃないぞ」
「上手く誤魔化せないかなあ?」
「無理だな。すずかさんなら兎も角、アリサさんを誤魔化せると思ってるのか? どうだ、無理だろ。いっぺん怒られて来い」
「結局、怒られちゃうんだね……ぐすん」
「どういう意味だ?」
「だって。せっかくヴィータちゃんと一緒にいかなきゃ向こうで怒られずに済むかな~って、思ったのに」
「…………」
「どうしたの、ヴィータちゃん?」
「―――うっせー! さっさと行って怒られて来いっ!」

 朝の慌しさも一段落した住宅街に響き渡る声。
 上着を着込むのもそこそこに、なのはは、ヴィータの声に弾かれるように家を飛び出していくのでした。


 


「久しぶりだなあ」

 ミッドに行く前。
 中学を卒業してから一度、三人で様子を見に来たことのある場所。
 はやては早々に引越しを決めていましたし、自分とフェイトも、進学するつもりはありませんでした。
 エスカレータ式の聖祥大付属において、殆どの同窓生が進むところですから、気にならなかったわけではありません。
 それでも、わざわざ見に行くつもりのなかった自分に、一度ぐらい目にしておいても損はないでしょ? とアリサが言っていたのを思い出します。
 向こうへ生活の拠点を移すことは決まっていて、あとはその時期だけが問題になっていました。
 そんな三人にとっても"進むはずだったかもしれない場所"。
 その時以来。
 この場所に立ち、校舎を眺めるのは。
 別に思い出など一つもない、なのはですが、その時のことが思い出され、感慨深く呟くのでした。

「やっぱり、正直に言った方が良いよね。きっとアリサちゃんのことだから――」
「怒られる、って言いたいの? アタシの印象、どうなってるわけ?」

 ため息混じりに呟けば、あるはずのない返事に、心臓が飛び出しそうになってしまいました。

「――わっ!? ア、アリサちゃん!?」
「驚きすぎよ。アンタ、そんなんでちゃんとやってけれるの? どうにも信用できないわ」
「まあまあ。積もる話もあると思うけど」

 自分の身長の、1.5倍ほどありそうな立派なレンガ造りの校門に寄りかかっていたなのは、その影から覗く顔に、思わず後ずさり。
 驚いて広がってしまった髪の毛を、いそいそと直しながら応対しますが、どうにも情けないばかりです。
 すずかの仲裁に一瞬詰まってから、アリサは、ワザとらしく溜息を吐いては「で、用件ってなによ」と不機嫌そう。
 それが、そう振舞っているだけ、と分かっていながらも、本当になってしまわない内に、ぶら下げた紙袋から四角いモノを取り出します。

「はい、すずかちゃん。ごめんね、昨日忘れてて」
「え~っと……あ、これって若しかしてはやてちゃんの?」

 手渡されたのは、片手でやっと持てるほどの、丁寧に包装された箱。
 すずかは受け取ると、その大きさと重みから、送り主が誰なのかを言い当てました。
 察しの通り、はやてから預かってきたことを明かし、忘れていたことを重ねて謝ります。
 その横で、アリサは一人不機嫌そうな顔を続けています。
 一緒に呼び出されたにも関わらず、怒る自分を後回しにされたのでは、当然かもしれません。
 いつもなら聡く気付くすずかも、はやてからの贈り物にすっかり気を取られているのか、気付く様子はありません。
 そう言う振りをして、事態の流れを楽しんでいる可能性もありますが。
 気の利く友人に無意識ながら頼ってしまったことを不甲斐なく思いながら、そのイライラを不義理な友人にぶつけるようです。

「ったーい~。なにするのアリサちゃん」
「なにするの? じゃないわよ。で、アタシには何もってきたのよ、お土産」
「アリサちゃん……あ、うん。もちろん、忘れるわけないじゃない~」
「はあ……ったく」

 どの口がそれをいう――
 思わず毒づくアリサの口に、愛想笑いで返すのが精一杯です。
 ガサガサと漁って紙袋の底から直方体の丁寧に包装された――店のロゴらしきモノが見える包装紙――箱を取り出します。
 大きさは、すずかのモノより一回りほど小さく、その割りに、手にしっかりとした重み。
 お土産を受け取り、嬉しそうな顔の一つでもしてくれるかと思いきや、アリサのしかめ面は変わりません。
 その寄せた眉には、すずかとは違い、全く中身が想像出来ないことに苛立つ気持ちが、あったのかもしれません。

「えっと、開けてからのお楽しみ~って方が良いかな?」
「ほぼ一日授業残ってんのよ? 待ってられないわ」
「んも~。せっかちさんなんだから、アリサちゃんは」

 そんなにお土産が気になるのー?
 素直じゃないなー、などど言っていると、さっさと教えなさいよ、と怒るでもなく、ため息交じりのアリサは呆れた様子。
 コレは失敗だったかな、となのはは、はやての言伝どおりに説明することにしたのでした。

「あのね、中身は一風変わったペット用品だって」
「ペット用品? 例えばどんな?」
「さあ。はやてちゃんが詳しく教えてくれなかったから私も」

 アリサだけでなく、すずかも苦笑い。
 表面上同じ反応をする二人ですが、内心それはバラバラです。
 これだけ引っ張っておいて結局知らないなんて、どうするつもりだったのよ……と、アリサ。
 あ~あ。やっぱりはやてちゃんも変わってないなあ、としょうもない悪戯をする親友に、すずか。
 二人の内心を知らない為に「はやてちゃん、今頃くしゃみしてるかもね」なんて、紙袋を片付けながら、笑うのでした。
 実のところ。はやてとしては、その場で開けて話しのネタになることを望んでいたのですが、その計らいも、なのはのお陰で台無し。
 しかも不当な評価まで受け、嘗ての故郷で知らずの内に散々です。
 その張本人がノホホンと笑っているのですから、知れたら怒ってしまうかもしれません。

「ええっと。すずかちゃん、アリサちゃん。注意事項って言うか、その」
「分かってる。絶対外に出しちゃいけないんでしょ?」
「私のはそんな大丈夫だと思うけど。うん、分かってる」

 根回しのはやて。
 その辺の許可はバッチリ取得済みです。
 特例として、自分達に近しい人たちはこの日本に住んだまま、ミッドの事情を知る数少ない人間です。
 勿論様々な規制はついて回りますが、このような恩恵――といっても、殆んどありませんが――があるならば、むしろ歓迎したいぐらい。
 二人も慣れたものですが、一応、ということです。

「ところですずか。はやてからのお土産ってなんなの?」
「えっとね。本だよ。向こうで面白そうな。ミッドの原書と翻訳の二冊ね」
「ふう~ん。二人の馴れ初めを考えれば当然の選択かもね。今度は私も本にしてもらおうかしら」
「じゃあ今まで貰った本、いくつか貸してあげるね」

 すずかの手にしたお土産を、アリサはまじまじと見つめては、すずかの説明に聞き入っています。
 普段は、よく周りの見えているすずかも、本の話となると途端に見えなくなるのか、止まらなくなってしまうことがあるのです。
 今回は、アリサも知らない話ということで、その勢いは、いつもの比でないことは、明らかなように思えます。
 なのはは、悪いとは思いながらも、勢いがついてしまう前に切り出すことにしました。

「二人とも。授業は良いの?」
「ああ、それね。大丈夫よ、ちょうど自習だから。そうじゃなきゃ受け取りに来ないわよ」
「うふふ。そうじゃなきゃ自主自習にするつもりだったんじゃない?」
「ばっ、バカ言ってんじゃないわよ。学生の本分なんだからそんなこと……」

 言い切ろうとするアリサに、「普段はつまんなーいって言ってるのにね?」と切り返すすずか。
 親友の、思わぬ裏切りに、アリサの顔はどんどん赤みを増していきます。
 わーわーと言い訳をする彼女の姿に、なのはは思わず噴出してしまいました。

「な、なによ! なにが可笑しいっての!?」
「だ、だって。相変わらずアリサちゃんは照れ屋さんだな~って」
「やっぱりそう思う? もう少し素直になったら良いのにって」
「くぅっだらない事を言うのはこの口かしら~?」
「いひゃい! いひゃいよ、あいひゃひゃん!」

 目元も口元も笑っていると言うのに、その手に込められる力といったら。
 ぎゅーぎゅーと伸びる頬が、その強さを物語っています。
 言い出したのは自分だけど、本来こうされるのは、すずかちゃんじゃないかしら、と思いながらも、これではマトモに喋れません。
 魔導師同士なら念話という手もあるけれど……
 下手に反論すれば、この手に込められる力は強くなるばかり。
 どちらにしろ、反論できる状態ではありませんでした。
 久しぶりのアリサの指に「昔もよくされた気がするなあ」なんて、感慨深く思う暇などは、当然、今のなのはにあるはずもありませんでした。

「全く。そう言いきれる自信なんてのはどこから来るのかしらね」
「自信もなにも。見たそのまま――あ、いいえ。何でもありませんです」

 思わず丁寧になってしまう語尾に、ふん、と顎を逸らすアリサ。
 短くなってはしまったけれど、相変わらず綺麗な金髪が、日の光を受けて輝く様子は変わりません。

「言っとくけど、私はアンタほど分かりやすくないわよ」
「どうかな? 私にとってはアリサちゃんの方が随分分かりやすい、よ。ホント」
「す~ず~か~」
「あん、アリサちゃんったら怖い~」

 眉間に皺を寄せるアリサから、自分を盾にして逃げるすずか。
 昔からこの二人はとても仲良しだけど、前はこんな風にしていたか、記憶が定かではありません。
 特にすずかは、こんなに積極的だったかしら、と。
 ただ自分が忘れてしまっただけなのか、中学を卒業してから何か変わったのか。
 離れてしまって、普段の二人が何をしているか、電話やメールのやり取りから全く分からないわけではありません。
 しかし、不精が働いたせいで、自分の中の二人は中学を最後に、そのままで時が止まっているような気すらします。

「――? どうしたのよ、なのは」
「え、うん。ああ、あのね。そうやって怒ってばかりだと皺になっちゃうよーって思ってたとこ」
「だったら怒らせないよう気をつけなさいよね。大体」
「分かってるったら。ヴィータちゃんにも口酸っぱく言われてるんだからあ」

 言い方が悪かったのか、そうでないのか。
 アリサが一瞬。
 今はそうでなく、既に錯覚かとも思えるほどの印象になっています。
 けれど、この視界がチリチリとするような感じ。
 しかし、この感覚を信じるとすれば、あきらかに一瞬。あからさまに不快感を露わにしたように思えました。


 


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