« お疲れ様 | トップページ | 坂本少佐のとある一日 2 »

新婚なの! 10-12 (1)

 
「おはよう。今日はゆっくり眠れたみたいね?」
「はい、お陰さまでです」
「ふぁ~あ。うん、ゆっくり寝たよ~」

 ダイニングで朝食の準備をする桃子に、どう見ても睡眠時間が足りなそうに答えるなのは。
 勿論、士郎は心配そうに尋ねますが、なのはは「大丈夫だよ~」と言うばかりで、どうにも要領を得ません。
 今だ白ばかりの、彩の少ないテーブルにちょこんと座り、こっくりと舟を漕いでいます。
 こっそりと横目で――そんなことしなくても気付かれないというのに――様子を窺うのはヴィータです。

「目覚めが悪かったのかしら」
「昨日は随分遅くというか、日付が変わっても起きてましたから」

 尋ねる桃子に、なのはを窺いながら答えます。

「普段はどのくらいに寝てるんだい、ヴィータちゃん?」
「えっと。大体は日付の変わる前に。そうしないと次の日に響きますから」

 なのはが船を漕いでいる為に、ヴィータが答える羽目になってしまいます。
 これも嫁の役目かも、と思いながら、あれこれと質問に答えていきます。
 きっと、こういう話しは本人から聞くことを楽しみにしていただろう、なのはの両親のためでもあります。
 初日の夕食時などに幾らか機会があり、果たされたとはいえ少々のこと。
 滅多に帰ってこない娘です。
 どれだけ聞いても足りることはないと言うのに、本人がこの調子ではどうしようもありません。
 このままでは、なのはを待っていると、次の機会に――それもいつになるか分かりません――なってしまいそう。
 その辺り、仕方なく折り合いをつけ、自分に聞くことにしたのかな?と、ヴィータは自分の旦那の不甲斐なさに苦笑いです。
 ……聞いている本人達の娘でもあるのですが。

「仕事熱心というか、趣味が仕事になってるような感じだね~」

 のん気な感想を抱くのは美由希。

「向上心がある、といえば聞こえが良いかも知れないけど。ちょっと、ねえ?」

 流石に呆れ気味なのは桃子。

「お父さんは心配だぞ。まだ十代じゃないか。それなのに……」

 相変わらず心配性なのはお父さんである士郎。

「でも、お父さん。遊びまわって男をとっかえひっかえするより、ずーっと健全じゃない?」
「そ、そんな底辺と比べないでくれ……」
「う~ん、まあ。ちょっと頑張りすぎかなかって思うところはあるけどね」
「さ、用意の手伝い。してちょうだい。今日はちょっと遅いわよ」

 朝食の準備もそこそこに、すっかり話しこんでしまった三人に対して、桃子が発破をかけます。
 時計を横目に慌てて腰を上げる美由希に、名残惜しげに視線をおくる士郎。
 ヴィータも同じく席を立とうとしますが、なのはを見てやって欲しいと、桃子に先手を打たれてしまうのでした。
 漕ぐペースがゆっくりになっているのは、こんな騒がしい――しかも話題は自分のことです――食卓にあっては、驚きです。
 いえ、驚きよりも、呆れの方が何倍も大きい。
 これが自宅ならば、叩くなり抓るなりやり方はありますが、流石に家族の前でそれは出来ません。
 小さく揺すりながら、テーブルとお凸がこんにちは、しないよう、気をつけるのが関の山なヴィータなのでした。

「おい。起きろよ、なのは。朝ご飯だぞ」
「……う~ん。そういえば、ジャムは残ってる~?」

 やっとこさ目を覚ましてくれたと思いきや、第一声がジャムとは……流石に呆れてしまうヴィータ。
 寝ていてそれとは、何か夢でも見ていたのか、実家に帰るのにそればかり気にしていたのか。
 確かに気になるほど、桃子のお手製ジャムが美味しいことに異論はありません。
 しかし、それでもこの場で――なのはが答えるべき事項を代わったのです――言うことでしょうか?
 怒るなり何なりしたいところでしたが、それを我慢したのではなく、ただ単に呆れがそれを超えてしまっただけのことでした。
 嫌味の一つでも言いたいのをグッと堪え、ため息でそれに代えるヴィータ。
 けれど、思ったとおり堪えるべき本人は、全く気にしている様子はありません。

「さあな。桃子さんに聞いてくれ」
「そうじゃなくて……家の話だよ~。ヴィータちゃん、残り少ないって言ってたでしょ~」

 そうだっけ、と思いながらも、そんな事を言ったことがあったような気がします。
 確か、なのはが余りに遠慮なくジャムを塗りたくるので、控えさせる為に嘘を言ったような、そんな記憶。
 思い出したのですから、いい機会だと聞いてみるべきでしょうが、なのは本人の前では、そう言うわけにもいきません。
 持って帰り――しかも家にまだ蓄えがある状態で――在庫が豊富にあると分かってしまえば、また遠慮のない毎日に戻ってしまうからです。
 別に、べっとりと塗りたくって美味しそうに食べるのが駄目とも、健康上の理由とも、言うわけではありません。
 ただ、頻繁に催促するのは気が引けるのです。
 今や家族になったとはいえ、親しき中にも礼儀あり。
 別になのは自身に催促させれば問題ないのかもしれませんが、そのとき、ヴィータの頭にはそんな要領の良い考えは浮かばなかったのです。

「どうだったかな。覚えてねーや。あったかもしんねーし、なかったかもしんねー」
「……え~、ちゃんと見てくれなきゃ。私、好きなのに……」

 眠い目を擦りながら、それでもジャムを気にするなのは。
 普段、他の事にもそれぐらい注意を払ってくれ、という苦々しい思いを抱えるヴィータ。

「だったら自分で管理するんだな。大体、お前がほとんど食べてるんだろうが」
「……ふぁ~い、分かりましたあ……」

 起きてられないのか、具合が悪くなったのか。
 そのどちらにしろ、なのははまた眠たそうに、こっくりと船を漕ぐばかり。
 そんなに夜更かししてたのかしら――流石に心配になります。
 明日からは、またいつも通りの生活に戻るのです。
 たった一日。リズムが狂うほどではないにしろ、こうも眠たがるのは気になるものです。
 どっか悪いんじゃねーだろうな……
 なのはの性格を分かっていれば、そう心配せざるを得ません。
 しかし、この場では確認しようにも、家族三人を不安がらせることにもなり兼ねず、ひとまず置いておくヴィータでした。


 


 新婚なの! 10-12 (2) >

 

|

« お疲れ様 | トップページ | 坂本少佐のとある一日 2 »

新婚なの!」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« お疲れ様 | トップページ | 坂本少佐のとある一日 2 »