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新婚なの! 10-13 (1)

 なのはを待たなくてはいけなくてなってしまったヴィータは、仕方なく辺りを散策することに。
 元から、余裕が出来たら行きたいと思っていたところを幾つか候補に上げてあったので、困ることはありませんでしたが。
 まずは図書館へ向かうことにします。
 はやてと通った図書館。
 あの頃。本を読むことに、それほど興味を覚えなかったことを、今更に後悔するヴィータ。
 はやては、本を読み聞かせてあげるのが楽しかったようですし、自分も、はやてが喜んでくれているから、とそれ以上を考えなかったのです。
 けれど、それだけじゃなく、もっと積極的に本を読みあったり、他にすることがあったんじゃないか、と。今更に遅すぎることだと分かってはいても、図書館を前にして、そう思わずにいられないのでした。
 次は病院。
 自分たちが来る前。そして、はやてが歩けるようになるまで人一倍お世話になった人。「海外の親戚のところへ行く」と言ったとき、大変心配していたことを思い出します。
 せっかく足を運んだのだから、と思っても、流石に病院は今日も以前と変わらぬ忙しさで、会って話をするなんて、とても出来そうにありません。
 分かっていたこととはいえ、会えるかな?と一抹の想いがあったことは否定しません。仕方なく、はやてと何度も通った通路を辿ってみることに。
 所謂「闇の書事件」を解決してからは、次第によくなる足にその足取りも軽く――それでもリハビリは見て痛くなるほど大変なんなものでしたが――、毎日が嘘のように楽しかったことを思い出すのでした。
 次は公園。
 ゲートボールに通い、爺ちゃんや婆ちゃんたちと、全国の猛者どもをなぎ倒し、頂点を極めたあの日のこと。まるで昨日のように思い出すことが出来ます。
 そんな思い出深い場所であっても、今の自分の脇を吹き抜ける風は、どことなく冷たさを感じさせるのです。
 海鳴を後にして二年。当時の優勝時期から含めると、もう数年が経過しています。当時のメンバーも色々あって、今は殆んど集まらない……嘗てのように元気とはいかないでしょう。
 体調や年齢を抜きに考えれば、集まれないメンバー筆頭が、自分であることは心苦しいところですが。
 最後に目にした日から、なんら変わることのない風景に安堵を覚え、そこで思い思いに時を過ごす人々の顔が違うことに寂しさを感じながら、ヴィータはその場を後にするのでした。


 


 なのはとの待ち合わせ場所に近いところ。
 かつてフェイトが住んでいて、今は子供を二人授かったエイミィが引き続き住んでいるマンションの近く。当然、なのはの実家の近くでもあるのですが。
 そこいらで適当に、ぼんやりと立っていても怪しまれない所で連絡を待つことにしたヴィータ。
 昨日の冬らしい冷たさとは打って変わって、今日は日差しも温く暖まり、秋口を少し過ぎた頃を思わせます。
 頬を撫ぜる風は流石に暖かとは言えませんが、それでも厚着をした身体には心地よいぐらいで、冬着に順次着替えていく並木を抜ける風の音と相まって楽しくなってきます。
 久しぶりの海鳴の町です。このまま少し待ち合わせに遅れても構わないか、と思い始めたところでタイミングよく携帯が震えるのでした。

「おい、なのは。もう終わったか」
「……う、うん」
「そうか。――んで、どうする。来るか?」
「……えっとね。アリサちゃんとすずかちゃんが、学校を案内してくれるんだって」
「へえ。良いのか? 授業中だろ?」

 電話の向こうの声は、なにかに戸惑ったり、躊躇していました。それだけの感情を潜ませながらも、至って普通に振舞っている――ヴィータの耳には、そう聞こえました。
 この場面において、そのように振舞わなければならない理由に考えを巡らせますが、如何せん材料が足りません。
 そのために、わざわざ「来るか?」などといった的外れな質問をしたのです。
 なのはの返答は、理由は分からずとも、確信を深めるだけの材料を与えてくれました。
 何の前置きなしに、相手の提案を受け入れて予定を変更した、というのは充分に在り得る――数年ぶりの友人でありますし――話です。
 しかし、あの二人が、自分が待っているの知りながら――流石にそれをなのはが黙っていることはないでしょう――強引に引っ張る、というのは多少無理があるからです。

「私たちの学校って、エスカレーター式でしょ? だから、同級生の子、みんな顔見知りで」
「なるほどね。融通利かしてくれたってわけか」
「……うん、だから、ね」

 実際なにがあったのか。
 聞いてしまえば楽なのに、それはするべきじゃないと、理性と呼ぶべきものが語りかけてくるのです。
 努めて普通を、平静を装っているだろう、伴侶に対して、自分が出来ることは何か。"それ"を解決してやることこそが、一番なのでしょうが……
 次の言葉を、相手が望んでいるだろう言葉を―――ヴィータは言うしかありません。

「そうか。友達ってのは大切にしないとな。エイミィさんには……アタシから言っておいてやるよ」
「――うん。ごめんね、ヴィータちゃん」

 電話からは、なんとも表現しがたい、砂が流れるような音。
 その雑音の合間から、この電話を切って欲しいけど、切って欲しくない――そんな、相反する思いが流れ込んでくる気がするのです。
 そんなものは、こちらの勝手な思い込みであって、向こうは全くその気でないかもしれない。
 重々、それを承知の上で。
 それでも、ヴィータはそう思えて仕方なかったのです。
 だったら。
 それなら―――向こうから。なのはから切ってくれ。
 自分から、自分からこの電話を切ってしまったら、なのはとの繋がりを切るような気がしてしまうから。
 今の、手を伸ばしているのに、掴んでほしいのに、そう出来ない手を。
 そんな、なのはと辛うじて繋がっているこの電話を、手を、離してしまうのはとても気が引けたから。
 せめて。大丈夫だという、この不安な気持ちはこっちの勝手な思い込みだ、ということの証明のために。
 そこまで思い至って。
 ―――そんなの、保身じゃないか。
 なにもせず、相手に委ねるだけだなんて、することじゃない。
 何か出来るはずじゃないか。相手の気付いて欲しくないという気持ちに、こちらが気付いたの言うのなら。
 自分こそ、動くべきじゃないか。
 何もせず、なのはに自分から切らせることは、もっと残酷じゃないかしら、と。
 もしこの想いが思い過ごしなら、からかい半分で笑ってくれる。それで良いじゃないか。
 だったら――することは決まっています。

「……そうか。失礼のないようにな。アリサさんを困らせるんじゃないぞ。それと、すずかさんに宜しくな」
「んも~。もう少し私のこと、信用してったら」
「だったら、信用に足りるようにするこった。んじゃな」
「う、うん……」
「……ああ、そうだ」

 切る、という意思表示に対する、なのはの声。それの響きの意味するところ。
 それを聞いては、言おうか言うまいか考えていたこと。
 こちらから切ってしまう代わりに。
 なるべく優しく、でもこれは偶々で、お前がどうしてるかなんてアタシは気づいてないんだぞ、と。その意思を声に乗せて。

「なるべく……早く帰ってこいよ。最後に桃子さんのご飯、食べたいからさ」
「……なーに? 私じゃなくてお母さんのご飯なの?」
「へん。今日を逃せばまた何時になるか分かんねーだろ? お前のは帰りゃいつだって食えるんだからよ」
「あ、え? 私のご飯?」
「最近全然作ってくんねー、お前のご飯な。んじゃな、あんまり長居すんじゃねーぞ」

 返事は聞かない。
 聞くために切らないでいたら、このままズルズルと引き摺ってしまいそうで、だから――そう言う代わりに押される終了ボタン。
 ホントは、聞かずに終えてしまうことに抵抗がなかった訳じゃなかったけど。
 なんだかそれは、顔を合わせて言うよりも、もっと恥かしく感じられてしまったから。バレてしまうのが嫌だったから。
 ホントだったら、話を聞いてやるべきなんだろうけど、その勇気が今はなくて、それに、自分にそれをしてやれるだけの器量があるか甚だ疑問で。
 電話の向こうで、どんな顔をしているかしらないけど。
 自己満足に過ぎない、逃げに等しい行為だけれども。
 なのはのヤツ、きっと泣いてなんていない。いつもの通り、デレデレと目尻を下げているに決まってる。
 中継をしてくれる愛機に、余程のことじゃない限り取り次ぐなよ、と言い聞かせて、ヴィータはその場を後にします。
 無自覚で、不器用で。
 さらっと、相手がデレてしまうようなセリフを言っていることが、どれだけ恥かしいか。
 分かっているはずなのに、肝心な時にそれが出来なくて、気付かないという、矛盾したような奇妙な状況に陥っている。
 確かにヴィータは、なのはの想いを受け止めて、導いて上げられなかったけれど、小さな気遣いがどれだけ救いになっているか。それにもまた気付いていないのでした。


 


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