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新婚なの! 10-14 (1)

 
「ごちそうさまでした~」
「ごちそうさまでした、って。そんなに食って大丈夫か?」

 テーブルに広がるのは、甘い、甘いアイスの残骸。
 元々、なのはの分まで用意してあったために、その量は割りと多めでした。
 当然――思い出したように、ですが――、ヴィータもそれについては尋ねました。食べきれそうだけど、量が多いんじゃないか?と。
 それについて大丈夫だ、と答えたアルフ自身、少し多いんじゃない?と思っていたようですが「少ないよりは良いでしょう?」というリンディの鶴の一声。
 余れば家族で食べれば良いんだから――と納得したのですが、杞憂に終わったよ、とアルフは健康的な歯を見せて笑うのでした。

「まあね。使い魔はちょいと作りが違うのさ」

 本当かどうか悟らせない、多分に冗談を含んだ口調に、ヴィータは追求を止めます。
 本人が大丈夫だと言っているのだし、いい大人がアイス食べ過ぎてお腹痛い、だなんて笑い話も良いところ。
 そんなことぐらい重々承知の上でしょうから、これ以上、なにか言うのもはばかれたのです。
 アルフにしても、形が小さいだけで、多少の魔力消費効率に目を瞑れば、大人モードで誤魔化せますし、問題ありません。
 ただ、それを説明するのが億劫に感じられたのか、分かってるだろう? と言わんばかりの表情。
 普通の人間と作りが違う、というのも嘘ではありませんし、変に気を使わせたくなかったのかな、と思ったからでした。

「さてと。今のうちに片付けておかないとねえ」
「ああ、手伝うぞ」
「そうかい? んじゃ、重ねて持ってきておくれ。どうにも、この小さい手じゃさ」
「分かるぞ。何かとこの世界は小さい方に不便に出来てんだ」
「ま、仕方ないさね。大切な時期とはいえ、人間小さい頃の方が短いんだからさあ」

 横着に足でゴミ箱の蓋を開けると、無造作に空箱を放り込んでいく。
 ヴィータが、分別とかしなくて良いのか、と聞けば、全部燃えるゴミだし、とアルフはあっさり蓋を閉めてしまいます。
 確かにそうですが、本当のところはどうだったのか自信が持てず、人間簡単に昔のことなど忘れてしまうものだなあと、僅かばかりの寂しさをヴィータは覚えるのでした。

「さて、どうするね。なのはから連絡は来ないのかい?」
「ああ、そういやそうだな。まあ……話の一つでも弾んでるんじゃねーのかな」
「そりゃそうかもねえ。久しぶりの故郷だしさ」
「ああ。それに今すぐ来られても、アイスの匂いがするだろうし」

 アハハ、と笑うアルフに、ヴィータは上手く誤魔化せたかと安堵しますが、それすらもアルフの気遣いである可能性は捨て切れません。
 気にはなりますが、確かめては意味がありません。
 アルフにとっては、狙い通りにいったのか、ゆったりと、ヴィータに梳いてもらった尻尾を揺らしているのでした。

「アイス食べたばっかだし、急に動くとお腹痛くするよ? ゆっくりしていったらどうだい」
「……それもそうだな。んじゃ、お言葉に甘えて」

 手を引かれ、再びソファーへ。
 しかし、アルフは腰を降ろさず、暫しそこで待つように言っては奥へ引っ込んでいきます。
 別になにか企んでいるのではなさそうだな、とヴィータが大人しく待っていると、何やら装丁が豪華な辞書ほどの分厚さのある物を携えて戻ってきたのです。
 興味津々にしていると、ふふーん、と自慢げに鼻を鳴らすアルフが広げたそれは、家族のアルバムでした。

「どうだい。二人とも随分と大きくなったろう?」
「ああ。それにしても、男と女の双子なのに、あんま区別つかないぞ」
「そうかい?」
「お前は毎日見てるか分かるかもしんねーけどさ。あ、でもこの辺なんか、ちょっと違う感じだな」
「それは最近のだね。これはさ、お互いの服を羨ましがってるところだねえ」

 今度は写真を交えながら。
 家族の、とはいえ、やはり今のハラオウン家にとってはこの二人が主役のようです。
 段々とその比率が増えていき、最近の、と言われるページ以降は二人以外が写っているのは、抱っこしたりなど"ついで"のときだけ。
 アルフの解説を交えながら、一枚一枚なぞって行くところで、ふと、ある疑問がヴィータをくすぐり始めました。
 余り良い考えではなかったために、その様子を隠そうと一応の努力はしたのですが、既に遅かったようで、アルフがぐっと覗き込んでくるのです。

「……なにか気になることでもあったかい?」
「あ、ああ。大体想像できるっていうか、別に良いんだけどさ」
「なにさー。言いかけは気持ち悪いって言うじゃんか。ほらほら」

 うむ、と小さく唸って、ヴィータは少しばかり気まずそうに尋ねます。

「あのさ。なんでクロノが写ってないんだ? この……ほれ。この集合写真とかそれぐらいしか」

 ヴィータの想像はこうです。
 次元航行隊の偉いさん。今は次期主力艦の艦長にもなろうという人ですから、忙しいのは当然です。
 フェイトよりも一段と写っている枚数の少ない、一家の大黒柱に、忙しくて大変なんだろう、というものです。
 しかし、そんな在り来たりなものではなく、なにかしら深刻な理由があるかもしれません。
 なにせ、家族のアルバムに写ってないのですから。
 それでは気分を害するだろう――ヴィータが口にしないでも、顔には書いてあったようで、アルフの表情は見る見る緩んでいきます。

「……ぷーっ。くっくっくっ」
「な、なに笑ってんだよ」
「アーッハハハハ! ああ、いやいや。悪いねえ」

 何故笑ったのか、分からないではないけれど、触れちゃいけない何かがあるのかと、慎重にしただけというのにこの態度はないだろうと、流石にふて腐れるヴィータ。
 アルフは一頻り笑った後に、こちらの様子に気付いたのか、目尻に涙を貯めながら「ごめん、ごめん」と謝ってきます。
 しかし。でもさあ――と続けられた言葉には、まだ笑いの色が潜んでいるのでした。

「だって。写真撮ってるのがクロノなんだもん。写ってなくて当然じゃないかい」
「―――へ?」
「もうさあ。子供が可愛くて仕方ないのか、暇さえあれば写真撮ってるよ? 世話になった身としちゃ言いづらいけど、フェイトが大きくて助かったよ。あれで年齢が離れたたらと思うと……」
「は、はあ」

 アルフはそんなことを言っていますが、ヴィータにして見れば、不器用は不器用なりにフェイトを甘やかしていたような気がするのです。
 それでも、アルフが言うぐらい子供に甘いというのですから、こちらとしては想像もつきません。
 仕事場で顔をあわせれば、見場もよく、先頭にたって戦う姿は、身内の贔屓目を差し引いても充分に格好良く、好みの差はあれど、充分に「格好良い男性」の範疇に入ります。
 そんなクロノが、子供に目尻を下げて、デレデレしているなんて……
 ヴィータはその様子を思い浮かべながら、自分の可愛い子供相手とはいえ、そんなクロノは見たくないな、と他人ながらに思うのでした。

「そんな顔すんじゃないよ、冗談なんだからさあ。ま、そのぐらい大切にしてるってことさ」
「ふ、ふうん。そういうもんかね。子供ってさ。確かにリインが生まれたときは、すっげー嬉しかったけど」
「腹は痛めてないにしても、自分の子供だからねえ。感動も一入なんじゃないかい?」
「う~ん。そればっかりは体験してみないと分かんねえな……」

 別段、その感動を味わいたいとは思いませんが、興味があるのは確かです。
 元々プログラム体である自分たちに"血肉を分けた家族"というのは縁遠い話ですから、それが一体どういうものなのか。
 あのクロノが……というのも手伝って、自分の想像以上に、それはむくむくと大きくなっていきます。
 このとき、自分がどういう顔をしていたか分かりませんが、何か不恰好だったようです。アルフがニヤニヤと笑いを含めた顔で、意地悪にもちょっかいをかけてきたのでした。

「だったらさ。善は急げっていうじゃない?」
「な、なにがさ」
「なのはと子供、作っちまえば良いじゃんか」
「は、はーーあ!?」
「まあ。出来るか出来ないかは知らないけどさ。なのはに産んでもらうなら大丈夫なんじゃないかい?」

 なのはなら喜んで賛成してくれるんじゃないかねー、などと無責任なこという子犬。
 ヴィータは、そんなアルフの笑顔の向こうに、デレっとしたなのはの顔が透けて見えるようで、一瞬、目眩に似た感覚に襲われます。
 勘弁してくれ――思わず溜息が漏れてしまいます。
 ただでさえ手が掛かると言うのに、その上妊娠・出産だなんて――考えただけで、どっと疲れが押し寄せてきます。
 しかも、子供は産んでお終い、ではないのです。
 本当に大変なのはその後なのですし、入局十年を迎えようとする伴侶に、仕事を一旦辞めろともいえません。
 なら、自分がやったらどう? などと言われそうですが、それは――多分無理。
 なのはも理由は知るところでしょうが、ガッカリ感は否めないでしょう。
 クラクラと揺れる頭は、意外に冷静なものでしたが、ヴィータ自身はそうだとは思っていないようで、やはり混乱していたのかもしれません。

「冗談。どっちがするにしたって勘弁して欲しいね」
「そうかい? まあ、ちょっと若いかな~とは思うけどねえ」
「そういう問題じゃねーよ」
「ふうん。そんなもんかね」

 アルフは、あくまで引き下がったわけでなく、まだ相手の反応を楽しむかのように尻尾が揺れています。
 そんな安い挑発には乗れません。ここは断固として拒否の意思を見せておくべきです。
 ヴィータは、あーだ、こーだと理由を述べ、いかにそういう話がトンでもない事なのか必死に語るのですが、子犬は全く態度を変えません。
 それどころか、尻尾の揺れは更に大きくなっています。
 結局。ヴィータは、それが相手の思惑通りであったこと気付かないまま、そろそろ言い訳のネタも尽きかけ、どうしようかと思っていたところ。
 ニヤニヤと尻尾を揺らす、この憎たらしい子犬は、あっけらかんと言い放つのでした。

「そうやってさ。なのはのこと、考えてやってるんだろ? じゃあさ、遠慮なんかすることないじゃないか」
「だか――え、なんだって?」

 その唐突な言い分に反応できないヴィータに、赤い子犬は更に続けます。

「さっきも言ったじゃん。遠慮することなく、正直に言えば良いんだよ。なのはもそれが嬉しいんだしさ。ヴィータがなにに、誰に遠慮してるのかしらないけど――」

 軽口の裏に潜む、親友の伝えたいもの。
 その言葉の意味するところと共に、ヴィータの胸にしんと沁みこんでいくのでした。

「分かったろ? もっとさ。口うるさいぐらい心配してんだぞーって、言ってやれば良いんだよ。それがきっとさあ。どういう気持ちの現われなのか、あの子にはしっかりと伝わると思うし……
 言いすぎだってのは良いじゃないさ。足りなくて後悔するよりずっと。だから安心して――まあさ。あの子の性格からして、怒られたいんだよ。迷惑に思うかもしんないけど」
「ふ、ふうん……」
「アタシには分かってんだよ? ヴィータがなのはを好きだーっていうの。素直に出せずにいるだけだって」
「―――!? ば、バカいうんじゃねーよ! あ、アタシは別に!」
「照れない照れない。ちょっと表現方法を変えてさあ、もっとストレートにしたって良いじゃんか~」

 そう言ってアルフは余裕綽々に尻尾を振っては、こちらがどれだけ言葉を尽くして"言い訳"しても、聞き入れる素振りが全くありません。
 ニヤニヤと頬を緩めては「んも~、分かってるってえ」などと、暖簾に腕押し。
 もうこうなっては、実力行使しかない、とヴィータが思わず拳を固めたところで、ふと、その子犬は表情を変えるのでした。

「何が怖いのさ、ヴィータ」

 姿かたちは子犬のまま。
 そのために顔にも幼さが残り、大人バージョンの鋭さの欠片もありません。
 それでも。
 いま、ヴィータに向けられている表情は、大人のそれであり、到底子供では出来ないようなモノでした。
 微笑むような、それでいて少しだけ愁いを帯びたような。
 ヴィータは、思わずドキリとして、あれだけカッカと来ていた身体の熱が、さあっと潮が引くように落ち着いていくのを感じたのです。

「なのはを好きだって言うの。なにがそんなに怖いんだい? 誰にも遠慮することなんてないじゃない。だって、二人は夫婦なんだからさあ。誰が文句あるって言うんだ。
 もし、フェイトに遠慮してるんだって言うなら……さっさと別れちまいなよ。でもさ、そうもいかないだろ? ヴィータはなのはのこと好きなんだし、なのはもさ……ヴィータのこと好きなんだから」

 余裕をたっぷりと蓄えた言葉運びに、ヴィータは、がん、としか言いようのない衝撃を受けました。
 別に怖いわけじゃない。
 若しかして、自覚がないだけで怖がっているのかもしれない……何に対してなのか、分からないけど。
 けれど、親友であってフェイトの使い魔である彼女が確信めいてそう告げたのだから、多分、そうなのだろうと、思わざるを得ません。それを、間違いだといえる材料がないのですから。
 でも、だからといって黙って認めるわけにはいかないのです。
 アルフの言うことが、どう、本当に正しいのか。
 自分は、本当はどう思っているのか。自覚がないってことに対して、よく自分に向き合わなくてはいけません。
 ヴィータは、先ほどとは違う意味でもって、拳を固めます。
 確かめなくちゃいけない――そう。なのはのために。

「―――ああ、そうだな」
「だろ? 別に素直になったって、誰も咎めやしないよ。ま、節度ってモンはあるけどさあ」
「へへ。それはなのはに必要なモンだな」
「なんだい。あの子は相変わらずストレートにしてるのかい? そりゃ一寸自重しなきゃいけないかも……」

 子犬の消えいく語尾。その脳裏に去来する風景がどんなものなのか――ヴィータは怖くて聞けないでいます。
 アルフの考えが友人間において当たり前の物であるとすれば、なのはは、相当に周囲を慌てさせる行動を取っていたことになります。
 その相手は当然……彼女のご主人であるフェイトでしょう。
 まだ自分の知らないなのはの愛情表現――敢えてそう言うことにする――、それも、まだ過剰なものが控えているのだとしたら。
 ヴィータは、アルフを否定し、フェイトに譲らなかったことを、僅かばかりに後悔するのでした。


  


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