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新婚なの! 10-15 (2)

 普段より少しだけ早く閉めた翠屋。
 日付の変わらないうちに、こちらを発ってしまう事を予め伝えておいたものですから、そうなった次第です。
 主にそれを主張したのは、ここ二日ばかり不憫の目立つ士郎だったのは、言うまでもないかもしれません。
 いつもより早めの夕飯も済み、ゆっくりと一家団欒を楽しんだ高町家。
 これも、主に不憫を被った士郎が中心――一家の主なのですから、当然かもしれませんが――となり、最後には、流石のなのはもうんざり気味。
 その隣で桃子と美由希に挟まれていたヴィータは『話が積もり過ぎてんだよ。自業自得だ』と念話を飛ばします。
 嫌味半分で言ったヴィータでしたが、今までさっぱり人の忠告に堪えた態度を見せなかったなのはが、その忠告に深々と頷いたのです。
 色々あったけれど、これも良い薬か――
 げっそりする伴侶とは対照的な、彼女の父親の姿に、今度はもう少し早く帰って来て上げよう、そう胸に決めるヴィータなのでした。

「じゃあ二人とも。身体には気をつけてね?」

 既に時間ギリギリ――とはいっても、全く余裕がないわけではなく、余裕を持ったスケジュールの中での"ギリギリ"という……そんなところです。
 玄関先に勢ぞろいする海鳴・高町家の面々に、すっかり帰り支度を済ませたミッド・高町夫婦。
 夜の空気は更に冷たさを増し、室内着に軽く上着を羽織っただけの士郎は、寒そうに身体を縮み込ませているのでした。

「うん。ヴィータちゃんがしっかりしてるから大丈夫だよ」

 胸を張り、えへん、と言わんばかりのなのは。にっこりと微笑むその返事とは対照的に、呆れた顔をする桃子にげっそりとするヴィータの二人。
 けれどヴィータとしては、義母を心配させないために、いつまでもそんな表情をしているわけにもいきません。
 小さく舌打ち――勿論。誰にも分からない程度に――をして、桃子に向き直ります。

「桃子さん、安心してください。ちゃんと面倒見ますから」
「お願いするわね。ああ、なのはがこんなじゃ私がどんな酷い母親なのかと疑われちゃうわね……」

 はやてちゃんに申し訳が立たないわ――ほう、と桃子が肩を落として溜息を吐く様子に、ヴィータはお前のせいだぞ、と伴侶のわき腹を肘鉄してやります。
 された伴侶は当然、顔をしかめますが、すぐに持ち直し、デレデレと、いかに自分のお嫁さんが優しいか語るのです。
 こいつは何をしても結局これなのかよ――
 彼女の胸の中を、ホンの少しの嬉しさと、その他多くを占めるくすぐったさにも似た居心地の悪さが占めていきます。
 その混ざり合った感情を誤魔化すように、いつまでもベラベラと喋る伴侶に対して、ヴィータは肘鉄を続けるのでした。

「いた、いたたた……んもう、ヴィータちゃんったら。そんなに照れなくたって良いのに」
「そういう減らず口を叩いているからだ」

 いい加減、この辺りで止めにしておかないと。そう思ったのかどうか、二人は同時に手を引きます。
 ヴィータとしては、明日からの業務に響きそうだから、と思った次第ですが、なのはがどう思ったかは正直分かりません。乾いた笑いを響かせながら、隠すようにわき腹を擦る辺り、普通に痛くて止めただけかも知れませんが。
 これで青痣の一つでも残ったとしても、自業自得だと、肘鉄を繰り返した本人は、特に同情したりする気はないのでした。

「さて。いつまでもこうしてると別れづらくなっちゃうからね。バイバイ、なのは。元気でね」
「うん、お姉ちゃんも。お兄ちゃんにも宜しく言っておいてね」
「あー、はいはい。全く、妹が帰ってきてるっていうのに、情の薄いお兄ちゃんだことー」

 この場にいないことを言いことに、言いたい放題の美由希。
 同意してよいものかと、こればかりは流石のなのはも苦笑いです。

「なのは~。もう帰っちゃうのか~」
「あ、うん。これでも無理聞いてもらってるから……こ、今度は早くに帰ってくるね」
「余り無理しちゃ駄目だぞ~。お前が不本意に帰って来ることだけ避けてくれれば良いんだ……良いんだ……」

 語尾は弱くなるばかりで、情けない風体を晒している士郎ですが、しっかりと愛娘を心配していることは充分に伝わります。何のかんの言いながら、その心配の方向性――夢半ばで倒れることのないよう――は至極真っ当であるのですから。
 父親のそれを受け、娘は神妙に頷きます。

「それじゃ行こっか、ヴィータちゃん」

 わき腹を擦っていた左手で、とんとん、と軽くお嫁さんの肩を突付くなのは。突付かれた彼女が何事かと見上げれば、えへへ、と控えめに笑うなのはの顔がそこにあります。
 こういう時。
 どうして欲しいのか分かるのだけど。
 ヴィータは、甘やかさないんだ、という勝手なルールに乗っ取っては、気付かない振りをしても良かったのですが。何故だか今日は。今日だけは――と言っても、それはとても弱い意志ですが――甘やかしてやっても良いかな、と。

「ああ、そうだな」

 控えめに。けれど求めていることはしっかりと分かるそれ。視界の端で揺れている、なのはの手を取ります。
 すると、自分からそうして欲しいと強請ったくせに、何かを確認するかのようななのはの視線に、ヴィータはその手を強く握り返します。
 なんだよ、と視線で尋ねるヴィータに「だって。いっつもそうしてくれないんだもん」と、言い訳する声に、少しだけ拗ねた空気を潜ませるなのは。
 しかし、娘のことを分かっているだろう、両親の前でのそんな言葉は、強く握るヴィータの態度を軟化させたりしません。
 それでもなのはには勝算があったのでしょう。尚をも拗ね続けていると、ヴィータは意外にもあっさりと折れてしまうのです。
 なのはとその他の人間には分かっているらしいのに、ヴィータ自身に殆んど自覚のない、彼女の「弱い意志」。ヴィータがそれに気付くのはもう少し後になりそうです。

「じゃあね。お母さん、お父さん。お姉ちゃんも。元気でね~」
「さようなら、です」

 元気に右手を振るなのはに、深々と頭を下げるヴィータ。
 それに応え、笑顔で――一名を除き――手を振り返す高町家の面々。
 ゆっくりと頭を上げたヴィータに合わせ、なのはが後へ一歩踏み出したその時。
 一人の声が、ヴィータの足を引き止めました。

「なのはを宜しくね、ヴィータちゃん」

 変わらず、桃子が手を振っています。
 遅れて、士郎と美由希もヴィータに別れの言葉と、なのはを頼むといった趣旨の言葉を発します。
 特に士郎が念を押すように言えば、言い終わらないうちに美由希にわき腹を抓られる始末。
 思わず苦笑いが出そうな場面ですが、ヴィータはそれをグッと堪え、分かりました、と簡潔に。けれど、通る声ではっきりと答えるのでした。


 


 街はすっかり夜の風景となり、ネオンや店頭から漏れる明かりが眩しいぐらい。こういうところは、ミッドのほうが暗いのだから不思議です。
 そんな色とりどりの夜の街を歩けば、もう一つ、別の不思議な感覚に捉われるのです。
 三日前にこちらへ戻ってきた時は、朝だった為に、当然、街の風景は今とは違ったものになります。しかし、ただ時間帯が変わるだけで、こうも街や人の見せる顔と言うのは違って見えるのか、と。
 幾らか住んでいた街なのですから、時間によって街の見せる顔が違うことなんて、当然に分かっていたはずなのに――

「どうかしたの?」

 呼ぶ声に引き戻されれば、覗き込むようにするなのはの顔。わざわざ声をかけるぐらいですから、それだけの顔を自分がしていたことになります。
 けれどヴィータは「別に」と、そっけなく答え、さっさと歩き出します。
 手を繋いだままなので、急に歩き出してしまったヴィータに引っ張れてしまい、なのはは、つんのめるようになってしまったようです。早足で追いつき、急に歩き出したことになのはは文句を言ってきますが、彼女それを無視しています。
 ヴィータは、少しだけ感傷的になっていたかも――という胸の内を知られたくなかったからです。
 それをネタに、からかわれる、というよりも、なのはが同調してしまうのが怖かったから、というのが一番の理由。自分の胸のうちを悟らせぬよう、ヴィータは無視し続けます。

「んも~。そんなに急がなくたって大丈夫なのに」

 結局、ヴィータはその足を緩めることなく、夜の臨海公園の、更に人気のない雑木林まで歩きました。
 無視すればするほど、なのはの追求の手は緩まるどころか、逆に強くなるのは分かっていましたが、それでもヴィータは無視し続けました。
 足を進め、街の喧騒から離れていくたびに、胸の中に冷たい夜風が吹き込むような気がしたからです。
 ここで、なのはが楽しい話題でも振ってくれれば、一言ぐらいは答えられたかもしれませんが、そうではありませんでした。
 なのはが口にしたのは「どうしたの?」「どっか痛いの?」などと、こちらを心配することばかり。
 そんな状態では、下手に答えられません。

「良いんだ。こっちに来るときだって、スムーズにいかなかっただろ?」
「でも。まだ余裕あるんでしょ?」
「ねーよ」
「えー。ヴィータちゃんのことだから、もう一つ余裕を持って予定を立ててくれてると思ったのに~」
「……はあ。お前がその予定すら越えたとか考えねーのか? そりゃよ。久しぶりの家族と別れづらいってのは分かるけどさ」
「んふー。ヴィータちゃんってやっぱり優しい~」
「あー、へいへい。だからな、その遅れを一寸でも取り戻すために早足だったの。それにだ。さみーと喋りたくもなくなるだろ?」
「あ、そっか。だったら、そう言ってくれたら良かったのに。念話とかでも」
「そりゃ悪かった」

 咄嗟に飛び出た割には、上手く誤魔化せたようだと、ヴィータは安堵の表情。
 決して自分がそういうことに長けていないと、情けない自負ではありますが自覚している彼女にしてみれば、ここは、上手く誤魔化せたというよりは、なのはが素直だったということでしょうが。

「うぅ~。流石に寒いね~」

 そう言っては、なのははヴィータが返事をしない内に、さっと腕を伸ばそうとします。しかし、繋いでいない手は、当然のように荷物を持っているのであり、抱き寄せることが出来ません。
 悪かったのは、それに気付くのがおくれたこと。なのはは「あっ」と声を上げた時には荷物の角が、抱き寄せたいお嫁さんに当たってしまったのです。

「ご、ごめん! 大丈夫?」
「まあな。そんなに硬いもんでもねーし」

 なのはが荷物を放り投げるようにして心配するので、ヴィータは多少の痛みを我慢することにします。今は兎に角、心配されることが自分にとって負担でしかなかったからです。
 なのはが何かを想い、自分はそれと周りの想いに応えられることが出来るのか――それに対するリアクションをせず、黙ってやり過ごそうとするのが、いかにヴィータが今の自分に自信がないのかを証明していました。
 なのはは、努めて普段どおりに話題を振ってくれるのですから、ヴィータ自身が今すぐに結論が出せなかったとしても、無用の心配をかけぬよう、それに乗ってしまえば"いつもの通りに"会話が進むはずなのです。
 そんな気遣いにも気付けないでいるのか、自分も同じようにする自信がないのか――とにかくヴィータは黙ったまま。
 気遣っているつもりで、それが余計に相手に負担をかけていること。
 なのはの秘められた胸のうちにヴィータが気付いて上げられれば。そして、当たり前になってしまったこの関係を見つめなおす余裕が生まれれば、事態は好転するのですが――現時点では望み薄なのでした。

「ほれ。しっかり持ってねーと汚れちまうぞ」
「うん。でも、ヴィータちゃんが、黙ったままなの……心配だったから。そんなに痛かったのかなって」
「いや、ホントにそんな痛くなかったから安心しろって」
「ホントに……本当?」

 尚も心配するなのはに、頷いてみせるヴィータ。

「あ、あとね。やっぱり私がのんびりし過ぎたの……怒ってない?」
「ああ、それか。大丈夫だって。時差があるだろ? あっちとこっちじゃ。それに早足だったしな」
「う、うん」

 これから言うことは半分以上、嘘だ――ヴィータは、なのはに嘘を吐くのは何度目だろうな、と自嘲気味に自らに語りかけるのです。

「ホントいうとさ。黙ってたのは考えごとしてたからなんだ。帰ったら何からしなきゃいけねーかな、とかさ。休暇明けは仕事溜まってるんだろーな、とか」
「……そんなこと考えてたの?」
「まあ、な」

 実際、それは考えていなかったわけではありませんし、当然になのはも同じ心配はしたはずです。
 だから、これで上手く話が転がる――なんていうのは、全くに甘い見通しだったと、ヴィータは直ぐに悟ることになるのですが。

「えー! そんなこと考えてたのー!?」
「な、なんだよ、いきなり」
「深刻な顔してるから、てっきりもっと世界の命運を賭けたような悩み事だと思って心配したのにー」
「は、はあ!?」

 思わず間抜けな声を上げてしまう。
 それほどに、なのはの発言は突拍子のないもので、しかもその表情は至って真剣なものだったからです。
 一体コイツはなにを考えてたんだ……?
 ヴィータは、深刻に悩んで、黙っていたことが馬鹿馬鹿しく感じられ、それを思わず表現してしまいました。
 ……言葉ではなく、その右手で。

「ひっどーい! どうした叩くの? 叩くの反対!」
「う、うっせー! アタシの悩みはそんな大層なもんじゃねーんだ!」
「え、え?」

 "大層なもんじゃない"。普通、それは逆のときに怒るんじゃないかしら。しかし、二人はお構い無しに会話は転がっていきます。

「こっちは割りとどーでもいいこと考えてたっていうのに、お前がそんな深刻に心配したらこっちが心配すんじゃんかよ!」
「だ、だって! ずーっと黙ってるし、若しかしたらーって思ったんだもん!」
「黙ってたのは余計なこと言わないためなんだ! いっつもアタシをからかおうとするから勘違いしたんだぞ!」
「えー! 私のせいなのー!?」

 そうだ! という返事は、なのはにとって八つ当たり以外の何ものでもなかったでしょう。そんな返しを受けると思っていなかったのか、えー! と、あんぐりと口を大きく開けたまま。
 けれど、ヴィータの行動は八つ当たり以外の何ものでもないのですから、その反応はとても正しいのですから仕方ありません。

「そうだそうだ! お前が悪いんだかんな!」
「そ、そんなことないよ! せめて半分にしてよ! 半分!」
「どーして半分もアタシが悪いんだよ!」
「だってえ」
「だってじゃない」

 むー、と膨れっ面のなのは。
 対するヴィータも、むっと口をへの字に曲げて対抗します。
 どうするのか、どう出るのか?
 じっと相手の出方を待っているヴィータに、なのはの腕が伸びてきたのです。
 捉まるもんか。
 その手を払いのけようとして、それが叶わぬことを、一瞬遅れて悟るのです。それは、片方の手が荷物で塞がり、もう片方の手は、今だなのはが握っていたのです。
 あっ、と声を上げる間もなく、ヴィータの頬は、まんまと伸びる手に捕まってしまったのでした。

「あ、あうー。にゃのは~」
「えっへへー。作戦勝ちだね」
「にゃ、にゃにがさくへん勝ちだよ。たみゃたみゃだろ」
「ふふふ。その偶然を引き寄せるのが私の強みなんだよ?」

 自信満々に胸を張るなのは。
 言ってることが滅茶苦茶だ、と文句の一つも言ってやりたいけれど、頬っぺたを引っ張られたままじゃ埒が明かない。
 こっちが文句も言えないことを良いことに、その態度を崩そうとしない。
 本当に腹立たしい。
 ヴィータは、こんなときまで主導権を握られてしまって、何だか涙の出てくる思いがするのでした。

「あ、ヴィータちゃん。泣いてるの?」
「な、ないひぇなんてにぇーです」
「んもー。嘘は駄目だよ、嘘は。嘘吐く子はこーだからね!」

 嘘、という言葉に過剰に反応してしまう。
 決してなのはの言う"嘘"が、今の自分のことを指していないということが、わかっていても。
 ああ、やっぱり嘘なんて吐くもんじゃない。
 前だって、嘘で誤魔化して、結局上手くいかなくて、なのはを無駄に心配させただけじゃないか。
 そうやって、後悔ばかりが胸に押し寄せても、本当のことを言うだけの勇気が、今のヴィータにはありませんでした。

「う、うむぅ……」
「えへへ。寒いねー」

 なんやかんやと考え込んでいる間に、なのはにまんまと抱き寄せられてしまうヴィータ。
 身に沁みる寒さだというのに、嬉しそうにするなのはの言葉が、どれだけ自分が満足しているのかと、それを言葉にするよりも強くヴィータに伝わってくるのです。
 既にいくらか寒空の下にいるために、洋服の表面はすっかり冷えていて、抱き合ったところで直ぐには温まりません。
 それでも、ヴィータにとっては充分に温かでしたし、お互いの体温がもたらすものよりも、こうやっている事実が、なによりそう感じさせるのです。
 けれど、とヴィータは思います。
 いま自分が受けている温かさを、自分はなのはに与えられているのだろうか、何か様子のおかしいらしいなのはに、自分は何をしてやれるのだろうか、と。
 嘘を吐いて、相手を無用に心配させたというのに、それを抱いて許してくれる。自分ばかりがこんな調子では顔向けも出来ない。今の自分にとって、なのはがいつもの調子であることが、何よりの救いであることが痛いほど分かる。
 ヴィータにとって、それは旦那様との関係において、今、その感覚は非常に重要なものでしたが、彼女にその自覚はありません。

「あーあ。ヴィータちゃんも、もう少し素直になってくれると嬉しいのにな~」
「……あ、アタシのどこが素直じゃねーっていうんだよ」
「えー? じゃあ、今は、素直にしてるの?」

 分かっているくせに、聞き出したくて敢えて分かってない風を装うなのは。
 そんな風に言われてしまうと、天邪鬼ではないにしろ、素直ではない性質の自分としては、思わず反発してしまう。付き合いは長くなっているのだし、その辺りは分かっているだろうに……ヴィータは思わず毒づきたくなってしまうのですが。
 結局。
 こうしては、素直になれない理由を相手に求めてしまうのが駄目だというのが、分かっているのに。前にも、こうして誰かに指摘されたような気がして、実行できていないことを、ヴィータは充分に反省したいのです。

「……し、してるよ」
「そーかな? 私にはいつも通りに見えるよ?」
「そ、そんなお前の主観なんて知らねーよ」
「えー。ちゃんと人にも分かるようにしなきゃ駄目だよ~」
「あっそ。そんなの知らないね」

 答える代わりに、その言葉と裏腹に、腕に力を込めてみる。なのははどう解釈しようと「寒いんだからな。そういう意味と違うんだぞ」と言い訳することは出来る。
 なのははきっと、嬉しがってなにか茶々をいれてくるだろう。
 ヴィータはその時をじいっと待っていましたが、相手は中々動こうとしません。黙ったまま、抱きしめられている腕の感触の意味を確認するかのように。

「……あ。なんだか今は素直だね」
「し、知らねーって言ってるだろ」
「はいはい、そうだね。素直じゃないね」

 ぐずる子供をあやす様な声で、なのははヴィータの頭をゆっくりと撫ぜます。今のなのはの手には、どんな感情が伝わっているのでしょう。

「……ホント、素直じゃないね」

 その響きに込められた想いを、どう解釈するのか。"誰か"に向けられたものなのか、そうでないのか。
 単なる呆れたようなだけなのか。
 ヴィータが考えあぐねていると、転送の準備が整ったことを相棒が知らせてくれたのでした。

 

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