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新婚なの! 11-1 (1)

 なのはの実家から帰って一週間。
 特に言うべきことは何もなくて、帰った日もスムーズになのはを出勤させることが出来た。
 まあ、強いて言うなら……なのはが割とアタシの言うことを聞くようになったってことか。……割と、だけど。
 ただそれも、思い出したようにするだけで、殆んどが今までどおりなんだけど。
 それでも、少しだけ負担が減ったのは助かった。
 そんな事を思った、ある朝のこと。

「忘れもん、ねーか?」
「うん、大丈夫だよ」

 いつも通り、玄関で、一足先に出かけていくなのはの忘れ物チェックをする。
 大体昨日の晩に準備をしておけって言うから、十中八九「うん、大丈夫」という返事が返ってくる。
 例に漏れず、今日も同じ返事だった。
 けど、

「――あっ、そういえば」

 いつもに比べて、幾らか分厚くなっている鞄の中身をチェックしたなのはは、ハッと顔を上げ、靴を脱ぎ捨てると、慌しく自室――というか、元々アタシの部屋――へ引っ込んでいく。
 何のことかと思い、脱ぎ散らかした靴を揃えながら待っていると、えへへー、と悪戯でも見つかった子供みたいな表情で戻ってきた。

「昨日ね。チェックしたままサイドテーブルに置いたの忘れてたみたい」
「……ん?」

 戻ってきたなのはが小脇に抱えていたのは、小型のコンソールではなく、ファイルに束ねた書類だった。
 話を聞いている分には、前者だとばかり思っていたから、少しだけ驚いた。
 その書類の束をアタシに持っているように言うと、脱ぎ散らかしたはずの靴を履き始める。
 別にお礼が欲しいわけじゃないけど、さも当然のようにされると、ちょっとばかり小言の一つでも言いたくなるのが人情ってもんだ。
 そう思って、口を開こうとした瞬間。
 小言を言われるはずだった人物に、先を越されてしまった。

「うん、ありがと。ヴィータちゃん」

 それは書類を持っていたことに対する礼であって、自分が話題にするはずだったものとは違うのだけど。
 それでもお礼には違いなんだし、若しかしたら二つまとめて言ったかもしれなくて、素直に、うん、とだけ頷いてしまった。
 鞄と書類のファイルを受け取って、準備完了らしい。
 いつも通りに、一歩寄っては、身を屈めた。

「……なんだよ」
「分かってるでしょー? 毎朝の恒例行事なんだから~」

 血色の良い――体調とは別の意味でそうなってるかもしれない――頬を目の前に持ってくる。
 そんなことしなくたって分かるんだけどさ。そこで素直にしてしまうのは負けたような気がするから――と、以前ならそこで随分渋ってたんだけど。
 なのはの実家に帰る前。
 一週間の出張前に風邪を引いたことを思い出してた。
 あの時の、どうしようもない、寂しいっていうのか、胸に夜風が吹き込むような感覚が蘇る。
 その感覚が、知らずの内に衝動というか、身体を突き動かしてしまう。
 ……風邪引くのも嫌だしな。

「―――えへへー」

 満足そうな顔。"何に対して"満足したのか知らないけど……別に知りたくもないし。
 そう思っても、それを表情から読み取ったのか、こっちの都合などお構いなしとでも言いたいのか。
 どっちか知れないけど、相手は許してくれないらしい。
 他人には決して見せられないような、だらしない表情でアタシを捉える。

「今日はやけに素直だったねー。ついに愛する旦那様に、いってらっしゃいのチューをするの、気に入ってくれたのかなー」
「……んなわけないだろ」
「またまた~。顔にはそうやって書いてあるんだよ? 気付いてなかった?」

 そんな訳があるはずじゃなし、と思いながらも、慌てて手の甲で頬を拭ってしまう。
 咄嗟の行動で、なのはの言を肯定してしまったようなものだ。
 けれど、それに気付いたところで後の祭り。
 目尻を目いっぱい下げて、蕩けるような笑顔のなのはがそこには立っていた。

「な、なんだよ。その顔は」
「べっつに~? じゃあ、行ってきま~す! えへへ~」

 そのままの顔で外に出るな、と言いそびれた。というよりも、声をかけようとした頃には、とっくにドアの向こうに消えてしまっていた。
 まあ、切り替えの上手いヤツだから、それほど心配はしてないけど……してないけど、やっぱり心配だ。
 だからと言って今から追いかけるのもなんだし。絶対に誤解するだろうから。
 いつまでもニヤニヤしてないことを祈りながら、今度は自分が出かける準備をする番だ、と玄関を引き上げた。


 


 洗濯をしたり、掃除を軽く済ませたり、なのはが出かけた後も朝は忙しい。
 大方終えて、着替えを済まし、ダイニングを通り過ぎた時。視界の端に、本来なら映るはずのないものが映っていた。
 勘違いかと思い、一度足を止める。
 まさかな、と思う。
 あの、なのはが仕事に必要なものを忘れても、これを忘れてたことなんてないし。
 じゃあ、この視界の端に映ったものはなんだろう、ということになる。
 今一信じがたい事態を前に、改めてそちらに視線を向ければ、目の前の現実が、それが勘違いでなかったと教えてくれる。

「……あんだけ忘れ物はねーって言ったくせに」

 テーブルの、なのはが朝食を採っていた席に置いてあるもの。
 なのはに似合う、空色のナプキン。
 それに包まれた、今日のなのはの昼食。お弁当だ。
 書類の束を思い出したのは偉かったが、それでも弁当を忘れるなんざマイナスだ。
 人が苦労して作った物を忘れやがって……どうしてくれようか。

「どうもこうも……ったく」

 腹が立つから夕飯の代わりに食べさせる、という手もあるけれど、それは少し可哀想だ。
 しかし、このままにしておくのは勿体無い。
 けれど自分の分はあるのだし、流石に二人分食べるのは無理だ。午後に響くしな。
 ならば――これしかない。

「手間のかかる旦那様だことだ」

 これしかない、なんて。
 初めから他の選択肢など用意していなかったくせに――
 内面を知る、もう一人の自分が語りかけてくるような気がした。
 うっせーよ、と誰に言うでもなく、鞄に二人分の弁当箱を詰め、今日のスケジュールを確認する為にアイゼンに呼びかけた。


 


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