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新婚なの! 11-2 (3)

「夫となる人物からプロポーズを受けたというのは同じだが、私たちは立場が逆というか……」
「そうなんですか?」

 なのはの疑問に「恥ずかしい話ではあるんだが……」と前置きをして、プリムさんは話してくれた。
 自分が結婚するに至ったのは、どうにも駄目人間――旦那さん、その他の面々曰く、であるらしい――なので結婚してくれたらしい。
 当然、立場が逆、といわれたわけなので、アタシ達夫婦においてはなのはが駄目人間、ということになる。
 プリムさんには悪意の欠片も見当たらないが、遠まわしにも、なのはが駄目人間と言われたことに、アタシは笑いを堪えるのが大変だ。
 ざまぁみろ。
 幾ら、なのはがそう思っていなくて反論したいのだとしても、目上の人に対して滅多なことは言えまい。
 それが全くの中傷というなら、話は別だろうけど。
 案の定、なのはは隣で、なんともいえない顔をしていた。

「人に言われるまで自覚がないというのは……なんとも情けない話なんだが」
「う、うーん……」
「ふうむ。そう考えると、彼に一度ヴィータ君を会わせたくなるな」
「え、え?」

 なにやら知らないが、一人でうんうんと納得している。
 余り良い予感はしない。
 すると、にこりと笑顔――多少ぎこちないが、充分に魅力的な――を向けて、アタシにいう。

「なにやら近しい感じを受けるからな。若しかしたら気が合うやもしれん。どうだ、ヴィータ君」

 言外に、もちろん会ってくれるだろう? と言っているのが分かる。
 こちらに拒否権がないことは、はっきりしていた。
 拒否されることを想定していないのか、こうなってしまえばこちらが断らないと思っているのか。
 前者だろうと、少ない材料から判断をするものの、さっきとは違う意味で、この人はなのはに似ているかもしれない、とそう思わせる。
 どうだろう? と笑顔のままのプリムさんに、アタシは無言で頷き返すしかなかった。
 プリムさんの「近しい感じを受ける」というのは、言葉どおりの意味なのか、別の意味を含むものなのかは、分からないけど。

「タカマチから話は聞いていたが、想像よりもキミは可愛い子だったし、彼もきっと気に入ると思う」
「そ、それは光栄です」

 表情こそ変わらないものの、上機嫌であるらしいことは伝わってくる。
 話に聞いていたとはいえ、初対面の自分をこれほどに気に入ってくれたことは嬉しいけれど、さすがに少し戸惑う。
 なんというか……なのはが二人いるような気がして。
 "こういう人間"に好かれる性質なのだろうか、と思えてくる。
 人に好かれるのは、困ることではないのだけど……こういう気苦労の増えるようなことは勘弁して欲しい。
 そういう人間を、自分が引き寄せているのか、自分から甘い香りに集まる虫のように近寄っているのか、それは分からない。
 どっちにしろ、難儀なことには変わりないのだし。
 そう考えると、プリムさんの旦那様に一度会ってみるのは、苦労を分かち合うことが出来るかもしれない。
 ならば、別にアタシにとっては不都合はないんじゃなかろうか。

「しかしだ。お互い忙しい身だからな。中々思うようにもいかないか」
「そ、そうですね、プリムさん」
「なるべく早くしないと、どうも忘れてしまいそうで心配だ」

 冗談めかす響きはなく、本気で心配しているようだった。
 これも、なのはの話に拠るけれど、プリムさんは考えるよりも身体が動く――誤解を招く表現だが――タイプらしい。
 目まぐるしく変わる周囲の状況に、直ぐに対応出来ない人で、それでも何とかしようとするものだから"考えなしに身体が動く"なんて勘違いされるとか。
 旦那さんの話では、今では人並みになったけれど、昔は大変だったそうだ。
 ……ああ、これは確かに本人の前では言えないな、と今更ながらに思う。
 そんなプリムさんは、難しい顔をしながらも、フォークでお昼を口に運ぶ。
 すでに興味は、冷めかけたお昼に移りかけているらしい。

「だったら、私から伝えておきましょうか? 今日は内勤なので、会えないこともありませんし」

 やっと、表情にも余裕の出てきたなのはの提案に、頼む、と頷く。
 プリムさんのことは、まだ分からないことが多いけれど、後輩の申し出にアッサリ頷くのはどうかと思ったけど、アタシが口を出すことじゃないだろう。
 これで安心、といった顔をしていたプリムさんは、何か閃いたのか、表情を緩ませた。
 アタシとなのはで、その挙動に注目していると、コレは良い考えだぞ、と言わんばかりに、その柔らかそうな唇から滑り出るのは

「思いついたは良いが……スケジュールを合わせるのが面倒、か?」
「ええ。それはそうですね。ヴィータちゃんは航空隊ですから」
「そうだな。お互いいつ出動がかかるか分からない身分だ。やはり、いっそのことこの機会に、ヴィータ君を教導隊に誘ってみたらどうだろう」

 これが"良い考え"。あの表情の根拠のようだ。
 良いアイデアかもしれない―――少し子供っぽく頬を紅潮させる様に、流石のなのはも呆然としている。
 それはそうだ。
 まさか会って話をするためだけの方便に、所属を変えるなんて誰が思いつくと言うんだ。
 しかも、教導隊に入るなんて、フェイトの執務官のように何かしらの資格がいるのとは別の意味で、一番難しい部類に入る。
 そんなところへ入ろうなんて……まあ、簡単に言ってくれるものだ。
 しかし、言った本人は全くその辺りを気にする素振りもなく、寧ろアタシ達の反応こそが意外だと言わんばかりに戸惑っている。
 突拍子もない――こうであるから、この人の言動は読み辛いのではないだろうか、と思ったとしても、アタシは責められないだろう。

「うーん。さすがに急すぎたか……だが、ヴィータ君。キミも興味があるんだろう? タカマチのいる職場に」

 別に全く興味がないわけではないけれど、今すぐにどうかと聞かれれば……残念ながら、首を横に振らざるを得ない。
 再来年には、はやて念願の部隊も立ち上がるから来年いっぱいは忙しくなるし、それでなくてもなのはの世話で手一杯。
 その整った顔を落胆の色に染めたくはないけれど、済みません、としか言いようがなかった。
 しかし、少し確信めいた言い方。気にはなるところだけど……

「いや。こちらこそ無理難題を押し付けて悪かった」

 整った顔のために、僅かな動きでも、何を言わんとしているのかよく分かる。
 アタシですら分かるのに、他人に内心が伝わらないとは、この人は一体どういう環境で今まで暮らしてきたのだろうと、不思議でならない。
 気にはなるけれど、そんなこと本人に尋ねるわけにもいかないし、なのはに念話で尋ねても、何故かしれないけど、バレてしまう。
 ここは大人しく、湧き上がる下世話な好奇心を抑えるしかない。
 こうやって、この話題に関係のないことをつらつらと考えていると、不意に頭の上から声が降ってくる。

「そんなことないですよー。ヴィータちゃん、この間も誘った時、駄目って言ってたでしょ? どーして?」

 今更言うか、としか言えない内容だったが、プリムさんの興味を惹くには充分だったらしい。
 どういう話なのかと尋ねられ、なのはは、ここぞとばかりに、プリムさんも私に協力してください、という。
 自分の頼みなら無下に断るだろうけど、プリムさんの頼みなら、そうもいかないだろうから、という意図が見え隠れする。
 小癪なヤツめ。
 努めて気をつけていたはずなのに、どうやらそれが表情に表れていたみたい。
 視線を感じ、そちらに顔を向けてみると、プリムさんが何かに納得したような顔でこちらを見ていた。

「是非、キミの推薦状を書かせていただくよ。タカマチの押しが強いんだ」
「えー。そこはもっと積極的に押してくださいよ~」
「私より旦那様のお願いのほうが効くと思うのだが……どうだろうか」

 雰囲気で押し切るのは止めにしたみたい。
 アタシとしては有難かったけど、援軍を得たと思っていたなのはにしてみれば、予想外だったようでしょぼくれていた。
 けれど、その反応を見越したかのような提案に、気を良くしたみたいで、直ぐに頷いていた。
 そんなの世辞だろう?
 そう憎まれ口の一つでも叩いてやりたかったけど、まだ会ったばかりの仲なのだし、黙っておいた。
 しっかし―――こういう切り替えの早さ。この二人は気が合うんだろうか。
 そういう意味で、まだ見ぬ、美人さんを見事に射止めた旦那様の苦労は何倍にもなってるんじゃないかと心配した。
 なにせ、同じ教導隊にいるのだから。


 


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