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新婚なの! 11-2 (2)

 アタシ達の弁当の中身に対して、プリムさんは興味津々だった。
 言うには、早起きが苦手で自分では弁当の類を作ったことがないみたい。
 それで、感心しながら、どういう手順なのかとか、その他諸々を結構詳しく聞かれて、また食べるどころではなくなってしまった。
 弁当ってのは、元々冷まして詰めるものだから問題ないんだけど、時間は足りなくなったかもしれない。

「ふうむ。しかし、結局は早く起きなければならないんだろう?」
「高い保護機を買えば、夜のうちに作っても大丈夫だと思いますけど」
「う~ん。あれは確か高かった覚えがある。それでは私が作るといっても、彼が首を立てには振らんだろうし」

 保護機ってのは、通称みたいなモンでホントはもっと名前が長い。
 機能は温度とか湿度とか、その他諸々をきっちり一定に保ってくれるよ!と便利なので夏場は重宝する、らしい。
 らしい、というのは広告なんかで見るだけで、アタシもなのはも使ったことがないから。
 多くの人があれの購入には躊躇するだろう。
 まあ、どちらにしろ、弁当を持って出かける段階で冷まさなきゃいけないんだから、あれだけど。
 そんな保護機の購入を駄目だ、と言うらしい彼というのは、旦那様のことだろうか。
 口ぶりから言って倹約家なのか、そこまでしなくても良いというのか、それとも……少し、気になる。

「ティーノさんは欲しいって言われないんですか?」
「さあな。言わないということは、必要ないのだろうな。わざわざ買ってまで私に弁当を作らせようとは思わんだろうし」
「……それもそうですね」

 なるほど、といった感じで相槌を打つなのは。
 今のティーノさんと呼ばれた人が、プリムさんの旦那様なのかな。
 ここの家では、夫が家事を担当してるみたいだ。
 今までの話の流れと、なのはの僅かな沈黙を挟む苦い同意からいって、プリムさんは家事能力が低いらしい。

「良いんだ。……私がそういうのがさっぱりなのを分かってて……それに、向こうから言い出したことだから」

 外見に似合わない、拗ねるその姿が可愛らしい。
 しかし、会ったばかりで、まだよく知らないと言うのに、この人と一緒になろうと思った人に会ってみたいな、とちょっと思った。
 話を聞く限り、苦労の耐えなそうな旦那様に思えたから。
 共感を覚えるというか……そういうのは失礼かもしれないけど。
 決して口には出さないようにしよう。
 そんな事を考えながら、アタシの視線は拗ねるプリムさんを見つめたままだったらしい。
 アタシの視線に対して、今のが恥ずかしく思えてきたのか、話題を変えるようだった。

「あ、ええっと。ところでタカマチ。キミたちの馴れ初めというのは、劇的だったんだな?」

 いきなり話題を変えるには、変えすぎだ。
 それは、なのはも同感だったようで、ケホケホと咽ていた。……そうだよな?
 どういう理由なのか聞いてやろうかと思ったけど、話を振った美人さんも待ちかねている状況で、なのはは返事を迫られている。
 アタシじゃなけりゃ、誤魔化しも出来ないだろう。
 そのまま大人しく待つことにすると、なのはは、それは気まずそうに口を開いた。

「え、ええ。まあ」
「うん? この前とえらく違うようだが……えっと、確か、いきなり――」
「わ、わー! ストップです!」

 何のことかと思う瞬間。
 突如、アタシの耳はなのはの手によって塞がれてしまった。
 よほどアタシに聞かれたくないみたいで、かなりに勢いで塞がれた為に、耳がポーンとしてしまってる。
 美人さんも、そうたらしめる大きな黒目を、更に大きくしている。
 ホントになにを言ったんだよ、なのは……

「いくら食堂でも、大声を出すものじゃない」
「は、はぁい……」
「何も恥ずかしがることなんてないと思うが。どちらかと言うとヴィータ君のほうが恥ずかしいんじゃないか?」

 更になのはの抵抗は増す。
 これは相当らしいな、と思わざるを得ない。
 どうやらプリムさんの中では"アタシが恥ずかしいやり方"で出会ったらしい。
 これは聞くまでもなく出鱈目だろ。
 だから、こんなに焦ってやがるんだ。
 そんななのはの胸のうちを知ってか知らずか、敢えて無視しているのか。
 プリムさんは、興味深そうに話を続ける。

「初対面でいきなり殴りかかってきた相手が、三回会っただけで悪魔的に可愛いと告白してきたなんてな」
「は、はあ!?」
「た、確かに劇的というか……う、うん。まあ、そうだな」

 今度はアタシの声に目を見開くプリムさん。
 しかし、驚きに関しちゃアタシだって負けちゃいない自信がある。
 なんだって?
 アタシが告白しただ?
 全く見に覚えのない話に、頭の中はぐるぐると渦巻いていて、どうにも冷静でいられそうにない。
 年上の、それも自分より偉いだろう人に対する口の利き方じゃないことなんて、すっかりどこかへ飛んでいってしまっていた。
 混乱する思考には、耳を押さえていた手に、更に力が篭ったことなんて、さっぱり気にならなかった。

「ど、どうした? それほど驚くこともなかろう。自分のことなのだから」
「い、いえ! それは誤解です!」
「誤解?」

 アタシの言わんとすることの意味が分からない、といった顔。
 プリムさんからしたら、なのはから聞いた話が本当なわけで、この反応は仕方ない、ということになる。
 となれば、丁寧に誤解を解かなければならない。
 なのはは妨害してくるけど、"プリムさんが聞きたがってるんだ"、という大義名分を手に入れたアタシの前には無力だった。

「ええっと。初対面で殴りかかったっていうのは……本当です」
「本当なのか。いや、またそれは変わった出会いだな……人のことをいえる立場ではないかもしれないが」

 出足で躓いた。
 間違っていないだろう? というのが無言のうちに伝わってくる。
 そこは飛ばして、次のところから話し始めるべきだったかもしれない。
 しかし、今の話を聞いて「変わった出会いだな」と当たり前のように受け取れるこの人は、少し変わってるな、と思う。その上、なにか含みのある言い方。
 そうだから、なのはの話も疑うことなく、信じてしまったのだろうか。
 ここはそうだと思いたい。
 なのはに、他人を言いくるめる、それこそはやてみたいな話術があるとすれば、アタシの……ううん、考えるのは止そう。
 決して明るくない想像に思わず身震いするけど、ここで萎えているわけにはいかない。

「え、えっと。そうじゃなくて、その次です」
「次?」

 うーんと、考えるように――多少行儀悪く、フォークを持ったまま――腕組みをして考える。今度は下手を打つわけにはいかない。

「……タカマチのことを悪魔的に可愛い、と告白したという話かな?」
「そう、それです。それは真っ赤な嘘です。話の90%ぐらいは嘘です」

 逸る気持ちを抑えて、なるべくゆっくりと事実を伝えれば、不思議そうに首を傾げる。
 さらさらと、髪が頬に散るのも絵になる。だけど、そんな光景に見惚れている暇はない。
 続けようとしたところ、傾げたまま納得しかねるといった感じのプリムさんが口を開く。

「確かだな。燃えるような情熱的な感じだったと。夜の人気ないビルの屋上に呼び出されて……私にはわからんが、告白とすればよくあるシチュエーションらしい」
「は、はあ」
「それは……嘘なのか?」
「……嘘というか。決して正しくない、といったほうが」

 アタシの返事に対し、いぶかる、とまではいかないでも、そういう類の感情が眉宇をひそめさせる。
 整った顔立ちなモノだから、そういう感情の動きは、より大きくこちらに伝わる。
 ああ、分かって欲しい。
 アタシが「本当です」と答えなかったわけを。嘘じゃない、と、本当です、には大きな溝があるんだってことを。
 夜のビルの屋上だったのもホントだし、あのとき、なのはの周りが燃えてたのも本当。
 ただ、その受け取り方というか、解釈というか、それは事実ではなくて、過分になのはの都合の良い解釈になってるってことを。
 駄目だ、どうにもならない。
 突破口の見つからない事態に、苦々しく右斜め上の、この事件の犯人を見やる。
 どんな余裕の構えかと思いきや、その顔は笑顔を取り繕いながらも、冷や汗を垂らしながら、口の端が引きつっていた。

『おい、なのは。こりゃどういうことだ』
『え、えへへ』

 今のところ自分に都合の良い流れは維持してるけれど、それでも風向きが悪くなりそうなことは分かっているらしい。
 なのはにとって今日、弁当を忘れたことは、それ以上に失敗ってことになりそうだ。
 アタシが届けに来た上に、昼食を一緒に採るだなんて全くの想定外。
 なのはにとっては都合が悪いことこの上ないだろうけど、アタシにとっちゃある意味助かった。
 まさか、自分がこんな風評になってるなんて思いもしなかったし。
 これが教導隊の中でも一部なのか、広く知れ渡ったものなのかは分からないけど。どちらにしろ、自分に対する間違った評価を正すことが出来るチャンスに恵まれたってことは良いことだ。
 それは、決して楽な道ではなさそうだけど。
 あれこれと念話で確認をとっていると、向かいに座る美人さんの目が、僅かに細められた。

「私を前にして、夫婦で秘密の相談か? 何やら良い雰囲気じゃないか」

 傾げるそれは同じだというのに、まるで違って感じる。
 確かになのはの言っていた通り、素直な人のようだった。
 だけどこれで誤解されるって……
 何でそんな風に見えるのか。それはそれで気になるけど、今はそれどころではない。
 なぜか知らないけど、念話を使っていることがバレてしまったのだ。
 それなら、失礼を承知で今のうちに、なのはと話をつけるべきだ。
 未だにしらばっくれる旦那の太ももを抓ると、話をつけようとしたんだけど、

「別に念話でなくても構わないだろう? どちらの話が本当なのか。私も興味のあるところなんだ」

 皮肉ではない。
 純粋に興味があると言っている。
 どうしてそこまで好意的な興味を寄せられるのか、今一理解しかねるけれど、ならば、と思う。
 念話で話をしていても、なのはが本当はどうやって言いふらしていたのか分からない。
 アタシに怒られるのを避ける為に、都合の良い返事をしている可能性もないとは言えないし。
 そうなら、正直にプリムさんの前で喋って、なのはの口を塞ぐのが得策だ。
 幸い、口に出しても良いと――それも裏のない提案である――お許しが出ている。

「え、えっと。なのはは他に何を言っていましたか?」
「他に? さっきの馴れ初めの話はもう良いのか? なにやらキミに不都合があったようだが」
「ええっと……それはもう少しすり合わせが」

 そうか、とプリムさんは少し残念そうに話を続けてくれる。
 半ばアタシの都合なのに、目上の人にここまで気を使わせることになってしまって……コレは後で、なのはに埋め合わせさせとかないと、な。
 アタシがあれこれ考えている内に、その話は進み、なのはの"悪行"としか言いようのない実態が、次々と白日の元に晒される。
 それがどの位、なのはにとって都合が悪いのか。
 依然としてアタシに回した手に込められる力の強弱が、何よりも雄弁に教えてくれる。
 結論からいうと、お前にノンフィクション作家は出来ないな、というほどの脚色振りで、その度合いはアタシの胃痛度と比例していた。
 コレは相当の雷が落ちることを覚悟してもらわないといけない。
 それぐらいのものだった。
 ……しっかし。よくもこれだけ自分に都合の良い話ばかりを言いふらしたもんだ。
 それで、プリムさんといえば。
 なのはの話を本当だと信じているわけで、アタシの注釈が入るたびに、首を傾げたりするものだから、別の意味で大変だった。
 「そ、それも違うのか……」と何度言ったか分かりやしない。もう、当分その言葉を使わなくても良いだろう、というぐらいに。
 それでも、なのはが都合悪そうにしている素振りが可愛かったのか、興味深げに最後まで付き合ってくれた。

「ふうん」

 ゆったりと、感心したように頷いて、水の入ったコップを傾ける。
 あれだけ喋れば、喉の一つや二つ渇くのは当然だろうと思うほどに、よく喋ってもらえた。
 そんな中で一つ。喋り方や、なのはの話からして、普段、自分から進んで口を利いたり、お喋りを楽しみとしていない部類の人だということもわかった。
 若しかすると、一週間分、いや、もっと喋ってしまったのかもしれない。
 もしそうなら、話にだけ聞く旦那様に謝らないといけない。
 元から、会話の多くない間柄かもしれないけど、だからといって少ないリソースを使ってしまって良い理由にはならない。
 全く、これも全部なのはが悪いんだ――目上の人が、そうしたことで、自分も遅れて口の渇きを潤すことにする。
 それを見て、げっそりした――自業自得なので、全く同情に値しない――なのはも、同じくする。
 お昼には手も着けず、延々喋り続けるだけの三人と言うのは、人の目にはひどく変わって映っていたことだろうと思う。
 だとしても、それに構っている暇はなかったんだけど。

「大筋で話はあっているが、各々解釈が違っていた……ということか?」

 最後の確認、と尋ねられた言葉に、黙って二人して頷く。
 本当は、アタシとしても言いたいことはあった。
 けれど、このままでは、プリムさんの首が傾きすぎで疲労骨折してしまう、と思ったから、適当なところで妥協せざるを得なかった。
 それが「各々の解釈」という着地点。
 アタシが嘘だ、といったのは、なのはとの解釈が違ったせいで、嘘と言うほどでもなかった、というもの。
 不本意ではあったけど、プリムさんの首、時間的制約、アタシの名誉を守る。この三つを満たすための最大公約数が、それだったのだ。
 ようやく落ち着いたことで、プリムさんは、久しぶりに整った顔を崩さずに済むようになった。

「そうか。人というのは大変だな? どれだけ言葉を交わそうとも、誤解が生じるのだからな」
「そ、そうですね」

 なのはが意図的に誤解を招いていたことは、この際黙っておく。

「けれど、それでも結婚出来るのだから……それだけお互いが好きあって、求めていたということだろう?」
「……はい! そうですね!」

 こんな恥ずかしいことをよく口に出来るものだなあ、と思わずにはいられない。
 普段喋らない分、それが恥ずかしいことだと思わないのだろうか。
 それは、また別の機会に考えるとして、横で我が意を得たり! とばかりに返事をする旦那のわき腹を抓ってやった。

「いっ!?」
「うん? どうした」
「い、いいえ。なにも……えへへ」
「そうか……しかし。なんというか、プロポーズを受けるというのは、お互い嬉しいものだな。ヴィータ君」
「え? ええ、はい」

 これも折り合いをつけた点だ。
 最初に告白したのはアタシ、ということで折れ、プロポーズをしたのはなのは、ということで落ち着いた。
 プロポーズに関しては、事実そのままなのだから、アタシが一方的に損した気もしないけど、これはなのはと個人的に話をつけなきゃならないことだし、目を瞑ることにした。


 


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