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新婚なの! 11-3 (2)

 なのはが戻ってきてから、大急ぎで戻る羽目にあった。
 時間が迫ってるのは分かってるはずなのに「待っててくれて嬉しいよ~」なんてのん気なこと言いやがるから。
 仕方なく時間短縮のために足でも踏んでやろうかと思ったら。

「このままでは遅刻決定だな。どうする?」

 と、先輩の威厳たっぷりに、整った顔を思う存分発揮するプリムさん。
 それでも素直にいうことを聞くことはないだろう、後輩のなのはは、う~んと、考えて――素振りだったかもしれないけど――仕方なさそうに頷いた。
 正直言って驚きだ。
 やはり先輩は怖いものなんだろうか。
 いや、これは単に時間は守らなきゃいけない、と当たり前のことを思い出しただけだろう……そう思いたい。
 素直に認めたなのはは――それでも渋々、といった感じだけど――名残惜しそうに、アタシの頭を撫でると、プリムさんと一緒に食堂を後にした。
 去り行く背中を眺めていて、美人さんは、なのはと大して身長が変わらないことに気付いた。
 プロポーションが良いからか、均整がとれているために思った以上に身長が高めに思えたのかもしれない。それとも、アタシが緊張しすぎて大きく見えていただけだろうか。
 何やら楽しげに言葉を交わしているだろう二人を見て、教導隊に入れば三人で並んで帰ってたんだよなあ、などと下らない空想を繰り広げては自分も早く帰らないといけないことを、すっかり忘れていた。

「あら。ヴィータさん。今日はどこへ行ってらしたんですの?」

 珍しく休憩時間を謳歌されたようですけど――
 帰ると、面倒な同僚が自分のところへやってくるなり、嫌みったらしく笑う。
 相変わらず涼しい顔をしているし、口にする言葉は軽薄で心が篭っておらず、お陰で何を考えているのか分からない。
 自分の相手が戸惑っているだろうことは、分かっているはず。
 それを楽しんでいるんだろうか。こういう部類の人間ってのは少なからず居るもんだけど……
 ふと、脳裏に「自分の気持ちが伝わらない」と悩んでいた美人な先輩の苦労が過ぎさる。
 この能天気さというかふてぶてしさの10分の1でも、プリムさんに……そこまで考えて、止めることにした。
 考えてもせん無いことだし、まだ見ぬ旦那様の苦労が増す気がしたから。

「ふふふ。新婚旅行から帰ったばかりですから、寂しくなっちゃったりしたんじゃないですの?」
「……ばーか」
「少々反論が遅いですわね。若しかして図星だったりなかったり、かしら」
「うっせーよ」

 ニヤニヤと覗き込んでくる顔を無視して、デスクに戻ることにする。
 後では、まだ何か喋ってる声が聞こえるけれど、構うと調子に乗るので、徹底的に無視する。
 こういうところ。なのはみたいだ、と思わないこともない。
 こっちの性格見越して、構って欲しくてそういう態度を取ってるのかもしれないけど、疲れるので勘弁して欲しい。
 なんだって、こんな相手のテリトリーにずけずけと踏み込んでこられるのか。
 思いやる気持ちとかだな、そういう気持ちはないのか? と聞きたくなる。
 人との距離感、なんて普段考えないことを思っていると、ふと、さっき聞いたばかりのアドバイスが思い出された。

「お前さ。一つ聞いて良いか?」
「ええ、なんなりと。口座の暗証番号やアクセスパスワードなんかは、心苦しいですけど流石に……」

 大げさに肩を落として残念がる様子に、いらねー、とだけ答えておく。
 すると「それで私の愛を試していらっしゃるのなら……」などと訳の分からないことを口にし始めたので、もう一度無視することにした。
 前にも、こんなやり取りをしたような気がしたからだ。
 すると、こちらの動きが意外だったのか、咳払いをすると、態度をくるっと改めた。
 頼むから、初めからそうしてくれ……

「あのさ。お前って、誰に対してもそうなのか?」
「ふふふ。私をそんな尻軽女だと思ってもらっては困りますわ……ええ。そういう意味ではないと分かってますとも。
 結論から申しますと、大体そういう感じですわ。ああ、もちろんヴィータさんは特別ですわよ。その辺り、心に留め置いて下さいましね」
「……ああ、分かった」

 出来るだけ素っ気無く答える。
 下手に反応するから余計に乗っかってくるんだし、初めからこうしてれば良かったんだ。案の定、話は広がらなかったし。
 しかし、まあ――どんな人に対してもノリが同じってのは凄いな。
 コイツは機転が利きそうだし、無闇に敵を作らないタイプだろうから出来る芸当なのかもしれないけど……それにしたってなあ。
 自分や、今日知り合ったばかりな人の悩みが馬鹿らしくなってくる。
 別に羨ましいとは思わないが、気にはなる。
 どういう環境で育ったらこうなるのか? この性格を身につけるには、どういう原因があったのか? などなど。
 同じ部隊に配置されて、それほど長い付き合いでもないが、得な性分だな、と思わせる程度には知っている。
 ただ、自分には死ぬほど似合わない、というか、あんな性格の自分なんて、想像するだけで気持ち悪くて仕方がない。
 ……コレは決して、メンテを悪く言ってるわけじゃないぞ。
 誰に言い訳するでない言葉に、思わず溜息を吐くと、右から肩越しに顔が覗きこんできた。

「溜息なんて吐いてどうなさりましたの? ヴィータさんには似合いませんわ」
「……分かって言ってるなら相当なもんだな、お前」

 アタシの言葉に、意味ありげに含み笑いをしては、視界から消える。
 コイツの性格からして分かってるんだろうけど、それを敢えて言わない辺りが、なんと言うか。
 いつまでも構ってるわけにもいかない。
 午後の二部から訓練もあるし、そろそろ片付けに入らないと帰れなくなっちまう。
 早くに帰って夕飯の支度をしないと――そこまで考えて、自分が全く問題にしていなかった話を思い出した。

「おい、ちょっと待てったら」

 アタシの声にピタリと一時停止し、くるりと軽やかに踵を返しては、にんまりと口の端を上げる。
 べ、別にお前の嬉しがるような話じゃねーよ。
 なんて言葉をぐっと飲み込んで、さっさと本題だけ告げることにする。

「あのさ。新婚旅行って何の話だ?」
「え? 新婚旅行はどこにするか、という話ですの? しかしヴィータさんは――」
「うるせーよ。お前がさっきアタシに言ったんだろうが」
「おほほ。そうでしたわね。おほん。で、なにか問題でも? 旦那様の実家、というか出身世界に帰るんでしたのでしょ?」
「あ、ああ。それはそうで合ってるんだけどさ。いやさ、お前にそんなこと言ったっけなっと思って」

 本当にそうなのだ。
 全く言った覚えがない。
 幾らか休みを取る、とは言ったけれど、それで誰かに説明した覚えはない。
 そりゃ、部隊の責任者やらには休暇を申請しなくちゃいけないから、公言していないという意味で。

「嫌ですわ。ウキウキ、そわそわしてましたの、お忘れになって?」

 呆気にとられた顔をしては、直ぐに切り替え、呆れた調子で肩をすくめる。
 そうだっただろうか。
 全く記憶にないのは本当だけど、ここまできっぱりと言いきられると、嘘を言ってるとは思えない。
 呆気にとられた顔も「何を言ってるんだろう?」という雰囲気だったし。
 それも演技だ、と言われれば否定しきれないのも事実だけど、そこまで疑うのは流石に可哀想な気もする。
 確かに、休む前日の最後には顔をあわせた気もするし、その時にチラッと口走ったのかな。
 仕方ない。言った言わない、という話なんてのは不毛だ。アタシとしては口にしてない証拠なんてのは無いんだし。
 それでも、なんとない違和感が拭いきれなかったけど。

「旦那様との新婚旅行を前に浮き足立って、仕事が疎かになるのも分かりますけど、私としては寂しい限りですわね……」

 はあ、と大げさに溜息を吐く。
 そんな殊勝なもんかよ、という言葉は胸にしまっておいてやったけど、どうやらそれでも気付いたらしい。
 表情に出てたんだろうか。
 少しだけ眉を寄せ、寂しそうな顔をする。
 今のは流石に傷ついたのだろうか。
 いつも涼しい顔をしている分、負の感情というか、そういう顔をされると際立つ。
 何だか悪い気がして、どう言ったらいいか考えていると、小さくかぶりを振りながら、こちらに戻ってきた。

「そんなに私のことを気遣ってくださるなら……」

 身をせり出すようにして、顔を寄せる。
 コイツもなのはと一緒で、やたら近づきたがるよな。迷惑この上ない。
 別に、お前のことなんざ気遣ってないぞ、と一応に否定だけはして、言うことだけは聞いてやることにした。
 いくらなんでも聞かずに否定するのは悪いしな。
 どうせ否定することになるだろうと、身構えていると、頬をなぞるように顔を動かし、そっと耳打ちしてきた。

「明日のお昼ご飯。ご一緒してくださるだけで構いませんことよ?」

 予想していた言葉――具体的に想像してた訳じゃないけど――と違ったために、思わず少し仰け反ってしまった。
 するとメンテは、アタシの動きに合わせるようにさっと身体を引いてしまい、一瞬にして、顔をこっちの視界から消してしまう。
 その動きを追ったところで、楽しげに、にんまりと口の端を持ち上げる、普段どおりの顔がそこに乗っかっているだけだった。
 耳元で囁くような声。
 それは、単に声の大きさのことだけじゃなく、なにかしら別の意味も込められているように思えた。
 どんな顔をしているのか――感情が面に出ているなら、だけど――確認しようと思ったのに、そこには普段どおりにしている顔だけ。
 本音を読み取られないように、軽口で覆いを被せてしまったというんだろうか。
 今のささやきには、どういう意味があったんだろう。
 いつも通りの、単にアタシをからかってるだけかもしれないのに、どうにも気になって仕方ない。
 聞くべきか、聞かざるべきか。
 返答を待たせている身としては、結論を出すに時間が足りない。
 取り合えず、明日まで覚えている自信は全くないけれど、この問題は後回しにすることにした。

「……まあ、一緒にするぐらいなら構わないけどな」
「宜しいんですの?」

 そう言いながらも、うふふ、と零れる笑いを隠すことができない――いや、隠そうとしないのか。
 どちらにしろ、こちらの返答に、いたく満足していることだけは確かだった。
 このぐらいなら実害もないだろうし、明日のスケジュールを確認すれば、一緒にお昼をとる時間もないかもしれない。
 心待ちにするようなことでもない。
 明日になって、その場で考えたら良いだろう。


 


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