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新婚なの! 11-4 (2)

「ヴィータちゃん。ただいまー」

 ちゃんと連絡してきたので、上手いことタイミングを合わせることが出来た。
 帰ってきて、着替えを済ませ、少しのんびりしたところでテーブルに着けばいいぐらいのタイミングだ。
 こっちも帰ってきてから、少しは休みたいとは思うけど。それが普段なら。
 今日は特に――精神的に、だったけど――疲れたから、一度座り込んで休んでしまうと、動くのが億劫になりそうだったから。
 これが一人暮らしなら「今日ぐらいは、別に良いかあ」とでも、良いんだけど。
 なのはがいるんだから、そういう訳にもいかない。

「わーい。今日も美味しそうだねー」

 着替えを済ませ、髪も解いてすっかりリラックスモードのなのはが、嬉しそうに席に着く。
 中皿にもったから揚げに、ジャガイモの味噌汁にカボチャの煮物に……お決まりのメニューってヤツ。から揚げ以外は昨日の残り物というか、たくさん作ったからな。
 疲れたから、という訳じゃないだけど、今日は少し手抜きだ。
 凝ったものや、色々考えて作るのが面倒になる日だってある。
 ただ、それで下手に気を使わせるのは嫌だし、と思うのもあって、結局のところ、どうするかと言うと、出来るだけ頑張ったりするんだけど。
 段々と夜が長くなっていくにつれて、作った物も日持ちするようになるから、手抜きがし易くなる。
 テーブルに着いたなのはは、アタシの思惑など気にする風もなく、立ち上る湯気に顔を寄せ、から揚げの醤油と油で揚げた香ばしい匂いに満足そうにしていた。
 まあ、彼是考えたところで、なのはは喜んでくれりゃいいんだから、どうでも良いことなのかもしれないけどさ。

「あ、そうだ。ヴィータちゃん」

 順調に箸も進み、そろそろ半分ぐらいなくなりそうかな? というとき。
 不意になのはが切り出した。
 深刻な話ではなさそうだけど、特に楽しそうな話でもなさそうなのは、その口調から明らかだった。
 だから、ふーん、とだけ答えておいた。

「あのね。その内発表になるって言うか。まだ少し先の話なんだけど」

 今日のメインのから揚げを口に運びながら、うーんと、なんて言いながら。
 なのはは教導隊の所属だから、こういう切り出しをしたときに、次にどういう話がくるのか、というのは大体目星がつく。
 なので、悪いとは思いつつ、アタシの返事は決まっていた。

「そういうの。あんま喋っちゃいけないんじゃないか?」

 前から言ってるだろう――?
 だけど、なのはは気にした様子も無いというか、あっけらかんと「今は身内だから良いんだよー」なんて言いやがった。
 そういう問題じゃないだろ。
 機密とか、そういうのは身内云々の問題じゃないんだ。
 もし他所に知れたら怒られるぐらいじゃ済まないんだぞ? 信用問題だ。

「う、うーん。それは分かってるんだけど」

 いつもと違い、本当に悪いことをしてる、といった雰囲気。
 それでもから揚げをしっかり口に運んでいる辺り、油断ならないと思うのだけど。
 ホントに駄目だと思ってるなら、言うの止めろよ、というアタシの言葉を無視したのか、なのはは続ける。

「今度ね。色んなところの人を集めて、大掛かりな訓練やるみたいなの」
「ふ、ふーん」
「本局でやるんだって。あそこなら訓練室も広いし、優秀な結界魔導師さんも揃ってるから」
「……そんなのが必要になるくらい、物騒なことすんのかよ」
「あ、ううん。設備が整ってるって話の例えだよ、例え」

 これでピンと来ないわけが――別の意味で一つ、ひっかかる言葉があったのは内緒だ――ない。
 なにせ、なのはの情報が直通なんだから。
 だったら単なる噂でも何でもない。
 疑ってた訳じゃないけど――メンテの話は信憑性を帯びてきた。
 それと同時に、また別の疑問が浮かんできたわけだけど、それは後回しで良いだろう。

「それのね。まだ内緒なんだけど――AMFの対策っていうか、今回のを足がかりにって予定なの」

 箸を休める様子もないけれど、それが気を紛らわせている風を思わせる。
 アタシだけじゃなく、なのはにとっても今回の訓練ってのは、大きな意味がある、と考えてるってことだと思う。
 アタシとしては……早くなのはには気にしない様になってほしいんだけど……そうもいかないだろうな、とも思う。
 この先、AMFなんて代物を使う連中が増えるかもしれない。
 今現在だって、例のガジェットの詳細が分かってねーんだから。

「よく動く気になったな。色んなところから横槍とか入ってたんだろう?」
「うーん。そうみたい、だね」
「陸でも声を上げるヤツはいるだろうし、こういうときに本局が音頭を取るってのは良いんじゃねーかな」
「だよね。私たちのところでは、プリムさんが一番熱心だったんだ」
「へえ」

 そう答えながら、少し疲れたような顔も見せる。
 調整が大変だったんだろうか。なにかしら、この話題に関する苦労をうかがわせるような顔だった。
 やっぱり、というか、なのはもやはり気がかりなんだろう。
 ある程度技量があれば、口で言ってやればこなせるヤツもいるだろうけど、そんなの極一部の連中だけだ。
 ほとんどは、言って聞かせて、やって見せて、それで訓練積まなきゃなんともならない。
 そういう意味で、実力のあるヤツにだけでも、触れさせておくってのは結構違ってくるだろうし。
 何も分からないまま、やられちまうなんて。あんなのはもう誰にも――
 そこまで考えて、なのはの声にハッとした。

「どうしたの、ヴィータちゃん」
「あ、ああ。いや……」

 上手く誤魔化せずに、しまったと思ったところで「お腹でも痛いの?」なんて聞いてくれたものだから、正直、安心した。
 多分、アタシの内心を分かってるだろうとは思うけど、敢えてそう聞いてくれたことにホッとしつつも、情けない、とも思った。
 なのはだって、いつまでも、そんなことアタシに気にしてて欲しくないだろうし。
 だって――だって、なんだろう?
 そこまで考えて、自分の考えに違和感を抱いた。
 なにか、何だか分からないけど、改めて意識しようとした瞬間。それが何だか分からなくなる。
 前にも、同じようなことを疑問に思った気がしたんだけど――この歳にして呆けが……いやいや、まさかな。

「大丈夫?」
「おう。大丈夫だぞ。ちょっと一休みしただけだ」
「だったら良いけど……早く食べないと、せっかくのから揚げ。冷めちゃうもんね」
「うん? ああ、それなら大丈夫だ。あっちにまだ温かいの残してあるから。お前はそれ食べてて良いぞ」

 指差す先にあるのは、二度揚げする前のから揚げ。
 残したのは明日の弁当の分も考えての量だけど、今晩におかわりする分の量もちゃんと考えてある。
 だから、今お皿に盛ってある分をなのはが食べたって、アタシは残してある方に手をつけたら良いんだ。
 おお。なんだかなのはが不機嫌そうな顔をしているぞ。
 ハハハ。膨れた頬が可愛いぞ。

「ひどい! 私だって温かいの食べたい!」
「だったら喋ってないで、早く食べたらどうだ、うん? まだ温かいだろ?」

 わーっと文句を言いかけたので、その口に一個放り込んでやる。
 これで黙ってくれるかと思いきや、もぐもぐしながらぶーぶー文句を言い始めた。
 行儀悪いし、黙ってろと言うと「だったら私も一緒がいい」なんて言うものだから、アタシだけ作り直さないから大人しくしろと返してやった。

「むー。あ、でもちゃんと冷めても美味しいよ? ヴィータちゃんの作ってくれるから揚げ」
「だったら大人しく食べてろよ。んで、明日の弁当のメニューは分かったな?」
「はーい。了解です」

 ニコニコとから揚げを食べるなのはを横目に、アタシもから揚げを頬張った。
 うん、やっぱりはやて直伝のから揚げは美味しい。今度、桃子さんのも教えてもらおうか。
 何度かご馳走になったときから美味しいとは思ってはいたけど、この間食べてみて、改めて美味しいなと思った。
 なのはは、あたしの作る料理に、それほど文句――とは言っても殆んどが要望といった類のものだけど――を言ったりしない。
 だけど、やっぱり長く慣れ親しんだ味の方が良いはずだ。
 直接会うのは当分できないから、メールか……リンディさん経由でこっちに送ってもらうか。
 はやて直伝の美味しいから揚げが、ゆっくり胃袋に落ちていくのを感じながら、そんな事を考えていた。


  ◆


 さっさとなのはを風呂に叩き込み、明日の準備をして、アタシも遅れて風呂に入った。
 なのはは相変わらず「一緒に入ろうよ~」と誘ってくるので「だったらお前が全部片付けやれよ。明日の準備もな」と言ってやる。
 すると、途端に大人しくなるのだから、初めから言わなきゃ良いのに、と思ってしまうのだけど。
 コレも一つのコミュニケーション、とか言うヤツらしいので、それなりに意味はあるのかもしれない――なんてのは、多分言い訳なんだろう。
 ホントにアタシが疲れてるときは、黙ってやってくれるしさ。
 構って欲しいのかなあ、なのはとしては。

「今日も早く寝られそうだね」

 いち早くベッドに潜り込んだなのはが、捲ったベッドをぽんぽんと叩いている。
 はっきり言うが、それはこっちのセリフだ。
 何かにつけて、ベッドに入るのを邪魔するお前が言うな、というのが正直なところだから。
 こんなことを一々口にしていたらキリがないので、言ったりしないんだけどさ。……言わないのが駄目なのか?
 どうしようかと考えているアタシに「もう~。恥ずかしがらなくても良いのに~」なんて布団から顔を出してるなのはを無視して、ぐるっとベッドを回り込んだ。

「まあな。よいしょっと」

 タイミングよく布団をまくってくれるので、そのままうつ伏せに倒れこむようにする。すっかりお決まりのパターンだ。
 覆いかぶさってくる布団は、空気をたっぷりと抱き込んでいるから温かで、直ぐにでも瞼が落ちそうだった。
 枕の位置を整えて、さあ寝るぞ、と意気込んだところで、同じようにしているなのはがこちらを見ていた。
 顔だけ向けても良かったけど、筋を違えても嫌だから身体を横向きに起した。
 なのははアタシに、ご機嫌を伺う子供みたいな視線を向けている。

「さっきの。ご飯のときの話だけど」
「んー」
「ヴィータちゃんは……どうする?」
「なにがさ」
「参加……するのかなって」

 馬鹿みたいだ。
 普段はこっちが呆れるぐらいに自信満々で、もう少しは遠慮というものを覚えろと言いたくなるぐらいなのに。
 何を遠慮してるって言うんだ。

「なんでそんなこと聞くんだよ」
「え、だって……教導隊が出るって私言ったでしょ? だから、その……」

 なのはの懸念がさっぱり分からなかったけど、今の一言で何となく掴めた。
 アタシが普段から、外ではくっ付いたりすんなって言うから――最近はその機会もグッと減ったけど――それを気にしてたのか。
 確かに、合同訓練なんて場でそんな目に遭うかも知れない、と思ったらアタシが参加を渋る、なんて可能性もあるもんな。
 言われてみればそうかもしれないけど、流石になのはだって、仕事中にそんなことはしないだろ。
 だけど、アタシが嫌がるかもしれない、なんて思うって事は悪いけどアタシのせいじゃない。自業自得だ。

「――ああ、そのつもりだ」

 ほっとしたような、安堵の気持ちに僅かばかり別の感情が宿ったような溜め息を吐く。
 若しかしてアタシを"心配"してたのか? ――自分の考えが間違っていたような気がしてきた。
 なのはは、自分がAMF対策の訓練に出るのをアタシが心配して一緒に参加しようとするのかって。それが聞きたかったんだろう。
 そりゃ、お前がそんなものに関わるってなら心配だ。
 訓練だから、とかそんなのは抜きにしてだ。正直言うと心中穏やかじゃないってヤツだな。
 今回のことだって、本局主導――しかも教導隊まで出張るってんだから――じゃなきゃ、行くなと言うところだ。
 確かに、アタシのことを気遣ってくれるなら嬉しい。
 人の心配を出来る、心の優しさは長所だろうとは思うけど、時として、長所ってのは短所にもなり得る面を持ってる。
 お前は……なのはは――その長所が、短所として自分に跳ね返りやすい。

「ったく。なんだ? そんなこと、一々確認取らないと心配だったのか?」

 何度、溜息を吐いたか知れない。
 時折、自分は信頼されていないのかと、疑問に思ってしまうことがある。
 そんなことはない。自分が信用しなくてどうするんだ――という想いが大きいから、別段表面化することはないんだけど、それでも全くないといえば嘘になる。
 なのはめ。本当に、アタシを困らせることに関してはお前の右に出るものなんていない。
 図々しいほどの自信と、馬鹿馬鹿しいほどの心配――よくも、そんな性質が同居できるもんだ。

「え、だって。ヴィータちゃんも色々忙しいっていうし、若しかしたらって思って。あ、えっとね。ヴィータちゃんの実力なら――」

 なんだか言い訳がましい。
 そんな調子では、若しかして何か裏があるんじゃないかと勘ぐりたくもなる。
 確かめようと声をかけようと思った、その瞬間。
 なのはが遮るように、口を開いた。

「あ、あのね。なんていうか、そのー」
「なんだよ。はっきりしねーな」
「ええっとね……実は」

 ごくり。
 喉が鳴るのが分かる。
 なのはは何を言いたいのか。
 アタシが無理して、なのはの様子を窺う為に訓練に参加するのかってなら、それは否定するつもりだ。
 例え本当のことだって「それは嘘だ」と言わなくちゃいけない時だってある。
 なのはの言葉を待ちきれずに、飛び出しそうになりそうになる声を押し殺して、それを待った。
 知らずの内に、布団の中で拳を握り締めいた。

「私――その訓練出ないから」
「―――は?」

 えへっ、と笑う声が聞こえそうなほど、なのはは見事な照れ笑いだった。

「色々頑張ったんだけど、ちょうどその時に教導の仕事が別に入っちゃって」
「…………」
「それで、私と仕事中に堂々と会えるチャンスだーってヴィータちゃんが来てくれるならね、嬉しいけど……あれ? どうしたのヴィータちゃん?」

 固めた拳の使い道は、一つしかなかった。
 そうしたアタシを、誰が責められよう。


 


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