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新婚なの! 11-5 (2)

「えへへー。おいひーですぅ」
「リイン。アイスばっか食べるとお腹壊すぞ、ちょっとこっちのもお腹に入れとけ」

 はいですー、なんて言いながらもう一口、アイスを頬張る。
 すでに自分の体積の三倍以上が、その可愛らしいお腹の中に消えている。
 一体どうなってるんだろう、不思議でしょうがない。
 冷気系の魔法を習得してるから、冷たいのに強いのか? いや、まさかな。
 それならシグナムは暑いのが平気ってことになるけど……冬は兎も角、夏はなんか苦手みたいだったな。
 フェイトは雷が苦手だった見たいだし。

「そうだ、シグナム。今日はなんの用だったんだ?」

 パフェが大きいもので、行儀が悪いのは分かっていたけど、椅子の上に立っているので、自然と見下ろす形になってる。
 そろそろ、アイスとメロンソーダを一気にかき混ぜるか、後もう少し食べるかという境目。そんなコップの中身を見つめていたシグナムは、ゆっくりと視線を上げた。
 アタシの言わんとするところは分かるはずだ。
 本当に「リインが会いたいからついてきた」わけがない。
 シグナムは、表情一つ変えることなく、小さくなったアイスをかき混ぜながら、まずは、パフェを頬張ってご機嫌なリインに目配せした。

「ああ、リイン。そろそろ"気をつけるんだぞ"? 主にも言われているだろう」
「――ふ、ふぁーい。分かってるですよー」
「普段出来ない贅沢に、浮き足立つのも分かるがな。程ほどに……」
「んもう~。シグナムは意地悪ですね!」

 ぷんぷん、と頬を膨らませながら、リインはいかにも怒ってるぞーって感じで、自分の背丈の半分ぐらいあるスプーンをくるりと回す。
 先についてたクリームは飛び散るのでなく、まるで霧雨みたいに、小さく小さく舞い散り、アタシ達を覆うように徐々に広がっていった。

「なんだ、これ?」
『単なる"目くらまし"だ。これで二分ほど効果があるらしい』

 シグナムは再びクリームソーダになったコップに目を落とし、リインも何事もなかったかのように、パフェに挑んでいた。
 アタシもリインに習い、何事もなかったように、パフェを一口すくう。
 さて。
 シグナムが言うには二分ということだから、手っ取り早く済ませなきゃいけない。

『ザフィーラから話は聞いているな? そのことについてだ』
『なんだよ。念話だったらこんな小細工しなくても良いだろ?』
『甘いな、ヴィータ』

 ふふん、とシグナムは笑うが、クリームソーダを前にしちゃ全く格好にならない。
 けれど笑う訳にもいかず、ぐっと下唇を噛んだ。

『どうやら念話を読み取る技能を持つ連中がいるらしくてな、そのためだ』
『内容まで、か?』

 あくまで表情には出さない。
 シグナムは、さあな? とだけ口にし、「それ。一口貰うぞ」といってはパフェにスプーンを突っ込んだ。
 リインはアイスを残し、生クリームに戦場を移していたところだった。
 流石に冷たかったと見える。
 アタシは「リンゴとか食べろ、リイン。チョコも美味いぞ」なんて言いながら、スプーンを動かした。

『どの程度の制度を誇っているかは知らん。ただ、そういう技術があるのは確からしい』
『これはシャーリーが作ってくれた妨害プログラムなんですよ~。予め作っておいた会話が代わりに流れるんですよ』
『へえ、そりゃ便利だ』

 偉いぞ――ここはシャーリーを褒めるべきなんだろうけど――、と褒める代わりに自分の分のポッキーをリインの口に近づけてやる。
 嬉しそうに口いっぱいに頬張っては、リスのように頬を動かす姿を見て、これじゃ甘やかすなって方が無理だよなあ、なんて思ったりした。
 それとは別に、シグナムとの話を続いていくのだけど。

『お前の里帰りの件……ご苦労なことだ。全く』
『ん? なにを警戒することがあんだよ』
『さあな。それこそ奴等に聞いてみたらどうだ。大方、リンディ総括官との個人的な接触でも警戒したのだろう』
『それで?』

 一口と言いながら、まだアイスを食べているシグナム。
 アタシだって勤務中じゃなけりゃ、こんなの一人で食べれたんだぞ。
 リインが食べ過ぎるのが心配だから、ちっとは許してやるけどよ。
 アタシの金なんだからな、遠慮しろ。

『それと、教導隊との接触には気を使っておけ、らしいぞ』
『あ、あー……』
『どうし……まあ、これから気を付けたら良いだろう』
『まあ、そうする。けどさ、何が駄目なんだよ。大体、アタシはそういうの出来そうにないだろ』
『それを判断するのはお前じゃない。私とて、知ったことではない』

 念話ごしにため息を吐いたのが分かる。
 けれど、目の前のシグナムは、全く変わらぬ様子でリインと一緒にパフェを食べている。
 リインが「ホントにおいひいですね」といえば「ああ。噂に違わぬ出来栄えだ」と、僅かばかりに頬を緩めている。
 変なところだけ器用になりやがって……
 しかしシグナムのヤツ、甘いモンって好きだったっけ?

『主の作ろうとなさっている新部隊が、奴さんは相当気に入らんらしい』
『そんで揚げ足の材料を探してるって訳か』
『私たちも、元はといえば大きな顔が出来る身分ではないしな。何が致命傷になるか分からん』
『……それは心得てるよ』

 そうでなくても、私たちのような存在は気に入らんのだからなあ。
 パフェを口に運ぶシグナムの口調は、どこかのんびりしたもので、緊張感の欠片もない。
 リインは話を聞いていないのか、相変わらず、んー、とパフェの美味しさにほっぺが落ちそうになっていた。
 このままじゃアタシの分がなくなっちまう。
 負けじとスプーンをパフェに突っ込んだ。

『同僚やら色々潜り込ませているんだろう。となると、テスタロッサになのはは難しいとなるが……』
『それはザフィーラからも聞いた』
『また主の後見を買って出ておられる方々の面子が、更に機嫌を悪くしているようだ』
『その辺も、足がかりにしたいわけか』
『そんなもんか』

 いつの間にか、三人が大きなパフェの器を真ん中に、顔を引っ付き合わせている状況になっている。
 誰も、こんなアタシ達を見て、割りに真面目な話をしているなんて思ってないだろう。
 リインのご機嫌を直して貰うために――後でもう一度謝っておこう、これでは誠意がない――注文したんだけど……中々役に立つ。
 さらに、下に行くに連れて、器がすぼまっているせいもあって、段々と顔の距離が近くなる。
 リインとなら良いけれど、シグナムとこれだけ顔が近いってのは、歓迎すべき事態じゃない。
 別にそれでなんだ、という訳じゃないんだけど。

『これは由々しき事態だ、ということはアコース査察官も仰っていた』
『ん?』
『自分たちの中に、一部勢力の思惑を受けて行動する輩がいるのだからな。信頼、というものが大切な仕事だ』
『でもさ、そうやって情報横流ししてんのも問題じゃねーの?』

 尚も食べ続けるシグナムに言えば『さあな。私は"独り言"を盗み聞きしただけだ』などど平然と言い切る。
 そういうのは、騎士の風上にも置けないような行為じゃないのか? なんて言ってみても、知らん顔。
 手口としては、よくあることだとは言え……これは声を大にしては言えないことだ。
 何だか、俗世に染まりきってるシグナムを見るのは忍びないぜ……

『あ、ヴィータちゃん。そろそろお時間ですよ』
『お、そうか』

 あんまり話は進まなかったような気もしたけど、確認の意味も込めて、これはこれで良いんだろう。
 シグナムは、リインと競うように底の方の溶けかかったアイスをすくおうと、奮戦している。
 もう付き合いきれない。
 いち早く離脱を決めて、椅子にちゃんと行儀よく座ることにした。

『忘れるところだった。実はだな。もう一つやっかいな技能というのが――』
『うん?』

 聞きなおそうとしたところでリインの「お時間ですよー」という声が、脳内に響きわった。
 これは今まさに、最後になろうとしている一口をシグナムと争っているリインの声ではなく、どうやらプログラムの一環らしい。
 それが分かったのは、一瞬の躊躇をみせたシグナムの、その隙を見逃さなかったリインの嬉しそうな顔。
 いくら、最後の一口を争うために、集中力を高めていたとはいえ、時間終了を知らせつつ、シグナムを出し抜くのは無理だからだ。

「……ま、まあ。そういうことだ」

 そーいうことですー、なんて合わせるリインを、恨めしそうに見たのは気のせいだろうか。
 シグナムは勢いよく腰掛けると、アイスのほとんど溶けかかったクリームソーダのコップを手に取る。
 緑色のメロンソーダの上に浮く、氷みたいになって残ったアイスを、くるくると溶かさないようにかき混ぜては、名残惜しそうにパフェの器に視線を送る。
 なんだ、まだ残していたのか。
 自分のがあるんだから、別にいいじゃないか。
 いつの間に、お前ったらそんな意地汚くなったんだよ。
 それに、甘いモノで、しかもアイスクリームだろ。
 呆れ半分に見ていたけれど、自分で頼んだパフェの残りが、シグナムの腹に納まったのかと考えると、なんだか面白くない。

「シグナム。アタシの分、なんか奢れ」
「ん? なんだ、もう腹は膨れたんじゃないのか」
「ったりめーだ。まさかお前が残りのほとんどを食べちまうなんて思ってなかったんだよ」

 いーっとしてやれば、コップを傾けつつ、仕方なさそうにウェイトレスさんを呼ぶ。
 プリンアラモードを頼んでくれたようだった。

「リインは、もうお腹いっぱいですからあ。手伝ってあげられないですよ~」

 膨れたお腹を擦りながら、満足そうにプカプカと浮かぶリインに、そんなに食べるとお腹壊すぞ、と言っておく。
 ハッとお腹を抱え、心配そうにジッと見つめるリイン。
 もう、子供じゃないんだし――外見や実働年数からいえば、充分に子供かもしれないけど――そんなぐらいじゃ大丈夫のはず。
 そうアタシが思っても、当人としては食べ過ぎたと思ったんだろう。
 あー心配だ、とか、あーはやてちゃんに知れたらどうしよう、だの、あーお願いですから内緒にして下さいですー、などと言っている。
 今日ばかりは、そのお願いを聞いてやらなきゃいけない。
 ……ホント、今日だけだけどな。

「さて。私はそろそろお暇させていただこう」

 残り少ないクリームソーダを一気に傾け、空になったコップをゆっくりテーブルの端に寄せる。
 伝票をするりと持ち上げるシグナム。
 もう帰るのか? と尋ねれば、さっきのプリンアラモードは私の奢りだ、とだけいって、席を後にした。
 別に引き止めたいわけじゃないけど、あっさり帰ってしまうのも、なんだか寂しいもんだ。
 途中、そのプリンアラモードをもったウェイトレスさんとすれ違い、何か一言かけて、人ごみに消えていった。


 


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