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新婚なの! 11-5 (1)

 なのはの頭にタンコブを作った夜から、ちょうど一週間後。
 教導隊主導で、各世界の部隊を集めての合同訓練が発表された。
 陸海空の運用の違いを確認し、連携などを含めて、今後の課題となるべき点を整理しようというもの。
 ……というのは、勿論表向き。
 その理由付けとなったところも大切であって、ミッドを中心とした陸の要望を尊重したものになっているから、反対されようもない。
 何故その理由になったのか。
 本当の狙いは、AMF対策の足がかりを見つけようというものだからだ。
 こういうのは、一番初めにぶつかる可能性のある陸の連中から、要望がありそうなものなのに、何故か頑なに拒否してるらしい。
 正直、現場――アタシが知る由もないのだけど――の判断なのかどうか、知らないけど。
 土壇場で発表すれば、ある程度混乱はするだろうけど、その為に実力者を選抜して、最小限に抑えようってことなのか。
 騙し方が正直すぎて、なんだか上手く行きそうにないけど……
 そんな感じで、順々に参加者が集まり始めてる。
 本局にいても、普段見ない顔と廊下ですれ違う機会が増えてきた。

「おい、ヴィータ」

 そんなある日。
 書類を届けに――なんてアナログなんだろう――廊下を歩いていたところで、呼び止められた。
 久しぶりな、よく見知った声で、改めて確認することもなかったので、ゆっくりと振り返った。
 そこには案の定。
 ピンクのポニーテールをした、昔に比べて、暑苦しさが減りつつある女が立っていた。

「なんだ。シグナムか」

 何か用か? と聞けば、随分な挨拶じゃないか、と返す。
 今日は機嫌が良いらしい。
 いつも眉間に皺の寄りそうな顔をしてるっていうのに、そんな感じを受けないからだ。
 いつもそうしてりゃ、こっちだって気分が良いのに。どうにも、コイツは神経質とは違うけど、なにかと口うるさい。
 そんな「暑苦しさ」が減るのと同時に、反動なのか、随分と緩い面も見せるようになってきた。
 大概は、フェイト関係なんだから、油断出来ないんだけど。

「今日は私に用があるわけではない」
「じゃあ、なんだよ」
「まあ、焦るな。久しぶりなのだからな」
「はあ」

 抱えた書類を見せびらかし、忙しいことをアピールするけど、それが嘘なのを見破ったのか、余裕の態度を崩さない。
 こうなると気になってくる。
 聞こうか、聞くまいか。
 忙しくないのは本当なので、聞いても良いんだけど、それでは相手の手の平の上で動かされている気がして、癪にさわる。
 けど……やっぱり聞くことにした。
 勘とでも言うべき、なにかがアタシを引き止めたから。
 シグナムは、くすくすと、楽しそうな、それでいて少し困ったような表情をして、自分の肩を覗き込むようにした。

「ほら、どうした? 会いたかったんだろう?」
「あっ――!」

 逸らされた頭の影に覗いたのは、薄水色の髪をした、はやてと同じ制服に身を包む妖精さんだった。

「久しぶりじゃないか、リイン!」

 思わず駆け寄って、見上げるほどの位置に浮いている末っ子を呼ぶけれど、当の本人はつーんと顎を逸らしたまま、こちらを見ようともしなかった。


  ◆


「そういうことだ。今日は甘やかしてやれ」

 近くのテラスの一角に陣取ったアタシ達。
 シグナムはくくくっ、と肩を揺らしながら、楽しそうにアタシとリインを見比べている。
 アタシはシグナムの正面に座り、リインは、ちょうど中間点辺りで、ふわふわと浮かびながら、尚もアタシの方を見ようとしない。

「ああ、リイン。アタシが悪かったよ、ホント、もう少し早く連絡すべきだった」

 つーん、と聞こえそうなほど、顎を逸らす。
 そんなにしてると首が変なほうに曲がっちまうぞ、と言いたいけれど、とてもそんな軽口を叩ける雰囲気じゃない。
 何とかして機嫌を直して欲しいけど……なんというか突破口が見つからない。

「あ、あのな。ええっと……」

 嘘を言ったり取り繕ったりは厳禁だけど「すっかり忘れてた」なんて、口が裂けてもいえない。
 海鳴に帰る前、はやての家に寄ったとき。
 姿の見えないリインのこと、仕事なんだろうなあ、なんて勝手に脳内補完してて、確認もしてなかったなんて。
 どうすれば……どうすれば良いんだよ!
 ああ、リイン。お姉ちゃんのことを嫌わないでおくれよ。

「ヴィータ。ここに入っている店のジャンボチョコパフェは美味いらしいな?」

 こんな時に何を悠長な! と思いもしたけど、ニタニタしたままのシグナムの視線の先には、肩を震わせたリインがいた。
 なにかを我慢しているように思える、その背中。
 明らかに、今のシグナムの言葉に反応してのことだ。
 こ、これが突破口なのか?
 リイン、そしてジャンボチョコパフェ――
 そのキーワードから導き出されるもの。それは一番効果的な気もするけど……いや、多分そうだろう。
 だけど、自分が悪いのに、それを誤魔化すためにモノで釣るって方法は余り……うーん。正直気が引ける。

「私は何か頼むぞ。ヴィータはどうする?」
「あ、ああ。ええっと」

 ちらりとリインを見やる。
 依然、背中を向けたままだが、明らかにこちらを意識していることは分かった。
 これは、そういうことだろうか――?
 目配せすれば、シグナムが、さあどうする? と言わんばかりの顔をしている。
 援助か罠か……
 アタシは決断を迫られた。

「はい、お待たせいたしました。ジャンボチョコパフェのお客様はこちらで宜しいでしょうか」

 目の前に迫力満点に鎮座したのは、この店の名物。ジャンボチョコパフェだ。
 アタシは小さいせいで、座ったままじゃ天辺が見えない。それぐらい大きい。
 そして。
 そのジャ……パフェの向こうに見えなくなったシグナムと、リイン。
 シグナムはクリームソーダを頼み、リインは何も頼まなかった。
 店員さんが一礼をして引き返していく。
 さて。ここからが勝負、ということなんだろう。
 パフェの向こうから、スプーンでかき混ぜているんだろう、カラカラとコップに当たる涼しげな音が聞こえる。
 シグナムは、少し飲んでアイスを食べて、を繰り返しながら、最後はアイスを全部混ぜてクリームソーダにするタイプだ。
 今は、アイスを食べている頃だろうか。

「あ、ああ。このパフェは大きいなあ」

 わざとらしい口調に、返ってくる言葉はない。
 シグナムも、助け舟はここまでだ、と言いたいのかもしれない。
 ならば。
 アタシはもう一つ、気合を入れなおした。

「流石に任務中にこれだけ食べたら大変だ。お腹、壊すかもしんねーし。誰か……手伝ってくんねーかなあ」

 姿は見えなくとも、明らかに空気が変わったのが分かる。
 もう一押しだ。

「ウエハースでアイスを掬って食べたら美味しいだろうなあ……リイン? 食べられそうにないアタシを手伝ってくれない、か?」

 覗きこんでみれば、アタシから見えないのを良いことに、ほえ~っとパフェを見上げていたリインと目が合った。
 気付いて、さっと視線を逸らされる。
 ひどく気まずそうだった。
 もう、ここまでくれば大丈夫だ。アタシが何もしなくても……リインの首がゆっくりとこちらに向けられる。
 ぐっと下唇を噛み締め、頬を膨らませている。
 子供が――外見よりその内面的な――拗ねたような顔が、可愛らしくて微笑ましい。
 にっこり、こちらから笑いかけてみれば、観念したようにふうーと息を吐き、出来るだけ偉そうに、もったいぶった態度を見せてくれた。

「し、仕方ないですね。ヴィータちゃんはお仕事の途中ですから、このリインが手伝ってあげるです!」
「ああ。頼むよ、リイン」

 言い終わるか終わらないかの内に、パフェに飛びつくリインを見て、全く可愛い妹だな、と思った。
 ああ、ホント。こんな可愛い妹を放っておいたアタシが馬鹿だったよ。


 


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