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新婚なの! 11-5 (3)

「はあ~……やっぱり食べ過ぎちゃったかもです~」

 ぷかぷかと浮いたまま、クロールしているリイン。
 運動して食べた分を消費するつもりなのか知らないけど、食後にすぐ身体を動かすとお腹を痛くするんだぞ。
 そんな基本を知らぬはずのないリインが、大人しくしていられない。
 それほどに気になることなのか。
 確か、以前にシャマルと一緒にダイエットがどうとか言ってたことを思い出す。
 自分たちは、プログラム体なんだし、そういうことには縁のない身体の作りのはずなのに……うーん。

「そう気にするな。次の合同訓練で動けなくなるほど身体動かすことになるだろうからな」
「そ、そうなんで――あっ!? プリンアラモードがきたですよ!」

 不安げな瞳が、ぷるんと柔らかなプリンを目にした途端、輝きを取り戻し、お姉さんの持ってきたお皿を大歓迎で迎えるリイン。
 びっくりするお姉さんに一言言って、これはアタシのモノだ! という代わりに、引っ手繰るようにお皿を奪い取った。
 一つ会釈して去っていくお姉さんに構うことなく、リインはテーブルに座り込んで――行儀が悪いにも程がある――、プリンアラモードを目を輝かせて見つめていた。

「さっき、食べ過ぎたとか言ってたのは、どこのどいつだ、ん~?」
「うぅ~、でも~」

 お皿の上で美味しさをアピールするかのように震えるプリン。
 瑞々しさをたたえ、存分に存在感をアピールする果物たち。
 真っ白なクリームは、まるでキャンバスのように、それらの色を、より際立たせている。
 それだけ美味しい振りをアピールされては、リインの、この恨めしそうな目も仕方ないかもしれない。
 そんな様子が可愛いものだから、つい、誘惑に揺れるリインの頬を、つんつんしてしまった。
 意地悪だって思われただろうけど、可愛いんだから仕方ない。

「駄目ったら駄目だ。ホントにお腹壊してもしらないぞ」

 アタシの意志の固さを悟ったのか、リインはしょんぼりヒザを抱えてしまう。
 一応浮いているからいいものの、テーブルの上でそういう格好は余り褒められたものじゃない。

「リイン。こっちこい、そっちじゃ冷えるぞ」

 ぽんぽんとひざを叩いて、こちらに座るよう促すと、仕方なさそうな顔を崩すことなく、ふわふわと宙を漂う。
 ちょこんと座るお尻は、アイスを食べ過ぎたせいなのか、たまたまそう感じただけか、ひんやりとした気がして、やっぱりか、とアタシを心配させた。
 膝の上で不満そうにしているだろう、リインのアンテナを優しく撫でてやった。

「身体の冷えるもんばっかだからさ。悪いな、リイン」
「うー。分かってるですよ~」
「あんなに食べると思ってなかったからさ。止めなかったアタシも悪いんだけど」
「そーですよ、はやてちゃんに怒られる時は一緒ですからね!」
「へいへい、そうだな、一緒に怒られてやるのも姉の役目だかんな」

 しっかし、よく食べるようになったよなあ――
 空色の髪の毛を撫で付けていると、いつまでもリインは子供じゃないです、と口を尖らせる。
 そんなデザートをたくさん食べられるんだから子供じゃない、なんて主張そのものが子供っぽいんだけど、ここは黙って聞いてやることにした。

「ヴィータちゃんがいない間に、リインだって大きくなったんですよ」
「そっか。アタシが家を出て、何年か経ってるもんな」
「そうですよ。もう大きくなったのに、みーんな、私のことをいつも子ども扱いするですー」
「そうか? そうかもな」

 腕組みをして、頬をぷーっと膨らませる様子は、子供が拗ねる仕草の何ものでもない。
 本人にしてみれば、ちっとも嬉しくないとは思うけど、そうやって拗ねる姿は可愛らしくて仕方なく、ついつい意地悪したくなる。

「だってさ。リインが幾つになっても、リインがアタシ達八神家の末っ子であることには変わりないんだからよ」
「えー。嫌です、そろそろ末っ子を脱したいですー」
「そ、それは……はやてに相談しないといけないなあ」

 プリンを一口。
 スプーンを追いかけながら、膨れたままの頬を引っ込める様子のないリイン。
 けれど、つんつんとした空気は身を潜めたみたいに感じられる。
 自分がこの世に生まれてくるまでに、色々苦労のあったことを知っているリインだから、そうなったのかもしれない。
 これは……また卑怯な手だったかもしれない、と今更ながらに思ったけど、もう遅い。

「なんていうかさ」
「どーしたですか?」

 こちらの、口調の変化に気付いたのか、不思議そうにその可愛い顔を上げるリイン。
 その髪の毛より、少しだけ色濃くした大きな瞳に、アタシが映っている。

「アタシにシグナム、シャマルとザフィーラにとっては妹だし、はやてにとっちゃ、いつまで経ってもリインは大切な子供だ」
「妹はいいですけどー。子供、ですか? そろそろ大人がいいです」
「そればっかりは、あと十年ぐらい待つしかねーんじゃねえかな。日本だと大人になるのは二十歳だぞ?」
「ミッドでは働いていれば、十五歳で大人扱いしてくれるですよ?」
「……イヤ、そういう意味での"子供"じゃなくてさ」

 えー、とあからさまに嫌そうに口をへの字に曲げるリイン。
 そんな顔してると、口に変な皺が寄って、将来シャマルみたいに……いや、シャマルに皺はないけどな。
 とにかく。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?
 そう言っても尚、曲げたままの口に、仕方なく、小さく分けた苺を放り込んでやった。
 もぐもぐと動く頬は、その頬の柔らかさを想像させる。

「そうだなあ、例えば……なのは、いるだろ?」
「はい。ヴィータちゃんの旦那さまですねー。どうですか、新婚生活はー」
「お、おう。まあな……って! 今はリインの話だろ!」

 慌てて話を戻そうとすると、足をバタバタさせながら、慌てるヴィータちゃん可愛いです~、とか言いやがる。
 い、いつの間にこんな可愛げのない子に育っちまったんだ……
 くそぅ。はやてやシグナムのいる環境は、子供の教育には良くないのか?
 いや、管理局って色んな人がいるからな、そこで揉まれて逞しくなったのかも――そう思わなきゃやってられない。

「ええっと、例えばな? なのはは、もういい大人だけど、桃子さんにとっちゃ、まだまだ子供なわけだ」
「そーなんですか? なのはさんは大人に見えるですよ」
「でもな、これは、ずっとずーっとそうなんだ。なのはがお母さんになっても、桃子さんにとっちゃ、なのはは子供なんだ。ずっとな」

 ふーん、とは言うけれど、リインは今一納得したのかしてないのか分からない感じ。

「だから。リインが大人になっても、ずーっとはやての子供だし、アタシ達の妹であることには変わりないんだ」
「じゃあ、ヴィータちゃんがリインのお姉ちゃんなのも、ずっと変わらないですか?」

 ゆっくり頷く。
 リインは、やはり納得したのかしてないのか、今一分からない顔をしている。
 この辺は人生経験、といったら大げさだけど、もう少し大きくならないと分からないかもしれない。
 感覚的な問題だからな。

「そんでな? ――アタシ達は、離れてたって家族だってことも変わらないんだ」
「どーして、そんな話を?」

 アタシに向かって座りなおし、背筋を伸ばす。
 口調の変化を、リインなりに感じ取ったのかもしれない。
 こちらとしては、それほど変化をつけたつもりもなかったんだけど……やっぱり、家族なのかもしれないな。
 ここ幾らか顔を合わせてなくても、そういう些細な変化がわかるのって。

「家を出てから、あんま連絡とらずにいて悪かったよ、リイン。ちょっと……油断してたんだ」
「油断、ですか?」
「ああ。そういう、離れてても大丈夫だって意識があったから、つい。ちゃんとさ、言っておく――」

 言い終わらないうちに、リインの頬がみるみる膨らんでく。
 ぷーっと膨れた頬は、これ以上ないくらいに不満であることを現している。
 何だろうと思い、つい止めてしまう。
 すると、すいーっと上がってきたリインに詰め寄られ、ぺちん!とその小さな手で頬を叩かれた。

「そ、そんなこと! リインには分かってたです!」

 顔を真っ赤にしている。
 アタシの言葉が心外だ、と言わんばかりに――怒っている。

「リインは子供じゃないですから、そんなこと分かってたです! た、ただ……」
「ただ?」

 聞き返す言葉に、リインはぐっと息を飲み込み、視線を逸らしてしまう。
 ここまでは勢いも手伝ったのだろう。
 けれど、肝心な一言の前に、どうやら躓いてしまったみたいだ。
 それでも、口をモゴモゴとし、なんとか切り出した。

「……なのはさんばっかり構うから、ちょっとだけ意地悪……したくなっただけです」

 つん、と逸らす。気まずさ全開だ。

「ヴィータちゃんは……リインのお姉ちゃんなのに、です。ヴィータちゃんは、なのはさんばっかり。詰まんないです……」
「そ、そう、か?」
「そうです! リインのこと忘れちゃうほど、なのはさんばっかりです!」

 勢いを取り戻したのか、いーっとして、アタシが悪いと主張する手を緩めない。
 他にも色々と、矢継ぎ早にアタシが悪いと思う理由を言いまくる。
 早口に――口を挟ませないようにするのか、一度止まってしまうと続けられないからか。
 とにかく、リインが言うには、自分を可愛がってくれたアタシが、なのはにうつつを抜かすようになったから面白くなかった、ということらしい。
 ……そうだったのか?
 久しぶりに実家に帰ったときに――指輪騒動のときは、報告に寄っただけだし――、会えなかったのを怒ってるんじゃないのか?

「鈍感です! デリカシーの欠片もないです! 愚鈍です、唐変木です!」
「お、落ちつけったら、リイン」
「べー、だ! ヴィータちゃんのバカ、バーカ!」

 がん、とショックを受けた。
 リインがいつの間にこんな口の悪い子になってしまったんだ。
 誰だ。こんな品のない言葉を教えたのは!

「ひーん!」
「わ、こら。泣くなって!」
「ヴィータちゃん帰ってぎでぐだざいでずー!」

 目じりに、その瞳の大きさに負けない涙を溜めて、鼻水をずるずると啜っている。
 ぐちゃぐちゃの顔のまま、アタシの胸元に飛び込んでは、ネクタイをぎゅーっと引っ張った。
 首が絞まる、けれど、リインはもっと苦しかったのかもしれない。
 そう思うと、何も言えなかった。

「な、なんだよ……そうだったのか、リイン」

 リインは答えず、ただ、ひーんと声を上げるだけだった。


 


「泣いたらお腹空いちゃったです」

 アタシの膝の上で、満面の笑みを浮かべながら、プリンをスプーンに乗せるリイン。
 さすがに多く食べさせるのは心配だったので、四分の一ぐらい、分けてやることにした。
 ……それでも、パフェを食べたお腹には充分多い量なんだけど。

「現金なやつだな」

 えへへ、と笑いながらも、プリンや果物を口に運ぶ手は休まらない。
 ホント……可愛いな、リインは。

「今日の分は、ヴィータちゃんのお詫びということで受け取っておくです」
「プリンはシグナムの奢りだけどな」
「だったら……また別です。今度、お詫びのおやつを貰いに来るですよ!」

 えっへん、と胸を張る。
 随分と膨れてしまったお腹が、ぽっこりと制服の下で窮屈そうにしているように見えるのは……気のせいだろう。
 なんというか、さっき食べたパフェのことは、すっかり頭から消え去っているようだけど、そのぐらいで機嫌を直してくれるというんなら、安いもんだ。
 なのはの我侭に比べたらな。


  ※


「ふう。お腹いっぱいですね~」

 ヴィータと別れ、リインはふわふわと、人ごみの中を飛んでいた。
 普段は人の目に付くように、それなりの高さを飛ぶのだが、どうにもその高度が足りない。
 その満足そうな呟きと、お腹を擦る動作から、身体が重いのだろうか、と思わせる。
 ただ、それに気付くのは注意力の高い――常に他人の動作に気を配る、という程度で充分だが――人間か、身内のものだけ。
 その後者に当たるものが、不意に柱の影から顔を覗かせた。

「どうした、リイン。随分と足取りが軽いじゃないか」

 皮肉めいた声に、さすがのリインも気付いたのか、ご機嫌な顔の眉をひそませる。
 ヴィータといた時の、頬を膨らませる仕草といい、とにかく表情がコロコロ変わるもので、見ているものを飽きさせない。
 だから、つい。
 シグナムであっても、からかいたくなるのだ。

「言い訳が上手いことだ。一体誰に似たんだろうな?」
「……知らないです」

 つーん、とあごを反らせる。
 それは、答えを知ってるくせに敢えて自分の口から聞き出そうとする態度が気に入らない、という意思表示。
 またそうやって、想像通りの反応をしてくれるのが、可愛いと周囲の者に思わせる。
 それに気付かないのは……根が純粋で子供だからかもしれない。

「ヴィータはお前を可愛がっているんだ。正直に甘えたら良いだろう? あのような"言い訳"などせずに」

 皮肉の張り付いた声に、逸らした顎そのままのリイン。
 その態度が、図星だと雄弁に語っていることに気付かない。
 くすくす、くすくす――
 皮肉の張り付いたシグナムの口から、思わず笑みが零れてしまう。
 それがますます、リインの態度を頑なにしてしまうのだ。

「嬉しかったんだろう? ヴィータが自分をちゃんと家族だと言ってくれたことが。忘れていなかったことが」
「……」
「だから言ったろう。心配することなどないと、信じていれば良い、と」

 寄り添って、耳元で囁くけれど、それでもリインは動かない。
 動けないのかもしれない。
 ああも言い切ってしまった手前、簡単には肯定できないだろうから。
 けれど、そうやって下手な意地を張り続けるのも、また子供の証明であるかもしれなくて。
 シグナムは、それ以上は追求しなかった。
 そうやって意地を張ることも、ときには大切だと思ったからだ。

「さて。帰るとするか。一等良い部屋を用意してくれたようでな、私も色々楽しみなんだ」

 黙って差し出す腕に、まるで鳥が止まるように腰を下ろすリイン。
 いまだ、シグナムと顔を合わせようとはしないけれど、その表情は、いくらか和らいでいるように見えた。

「これから数日はダイエットだな? 幾らなんでもあれは食べすぎだ」
「あ、あれは! あれは、ヴィータちゃんが悪いんです。リインにこーんなに食べさせるぐらい心配させたんですから!」

 ぷーっと膨らます頬は、思わず突付きたくなる。
 ――ヴィータも同じように思ったことだろう、ふふふ、やはり私たちは"家族"なのかもしれんな。
 ぷにぷにと柔らかなそれに、伸びそうになる指をグッと堪え、シグナムとリインを肩に乗せ、用意された部屋へ引き上げていった。


 


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