« 暑い日には | トップページ | Baby Princess カテゴリー (日記) »

新婚なの! 11-6 (2)

 当然ながらすることは何もなかった。
 用事がないかと尋ねれば、「仕事手伝ってくれー」なんて泣き言いうものだから、軽く尻を叩いてやった。
 訓練は順調だと嘘を吐きつつ、変わったことがないことを確認をして、その場を後にした。

「家に帰って掃除でもすっかな。いや、それとも――」
「誰かに会いにいく?」

 突然、背中に声が掛かり、思わず振り返る。
 その声には聞き覚えがある、なんてものじゃない、けれど、振り返ろうか悩むってのが正直なところなのに――
 それすら考える間もなく、"思わず"振り返ってしまった。
 声の主はニコニコと笑っている。
 アタシの表情とは反対だ……たぶん。

「あ、ああ、そうだな。リインに会いに行ってもいいな」
「リイン? こっちに来てるんだ」
「シグナムと一緒に。一応、AMF"実戦経験者"だからさ」

 一瞬、なんのことだろうという顔をして、ああ、あのときの事だね、とポンと手を合わせた。
 相変わらずノンビリして……心配だ、こんな調子で大丈夫なんだろうか。
 一回、職場見学でもしたい気分だ。
 いや、あの心配性な兄が放っておくはずないか……うん。

「そっちは?」
「私も同じ。遅れての参加だったんだけど……せっかく来たのに中止になってるんだもん、ちょっと残念」
「理由は?」
「もう聞いたよ」

 歩調をあわせる。
 意識的に歩幅を大きくすると、少しだけ前に出てしまう。
 元々アタシに合わせててくれたみたいだ。
 こういう気遣いも普通なら嬉しいんだけど……相手が相手だけに、ちょっとだけ気にかかる。
 やっかみとか、逆恨みみたいなもんだってのは分かってんだけど。
 だから、なるだけ顔や態度に出さないよう心がけた。

「そうだ。ちょっと聞きたいことあるから、良いかな?」
「ん? 別に構やしないぞ、偶然にも暇になったところだからさ。どうやって時間潰そうか考えてたんだよ」

 フェイトのホッとする声に、気ぃ使いすぎなんだよ、といってやる。
 すると困ったように眉を八の字にして、よく言われるんだ、と苦笑いする。
 お前が思うほど、人は気にしてもいないし、ちょっと厚かましいかな? と思うぐらいで丁度良いんだけどな。
 そう言ったとしても、きっと実行できないだろうし――余計に気にするかも――、それがフェイトらしいというか、良いところでもあるんだって思い直し、口には出さないでおいた。
 ホント、お前の爪の垢を飲ませたいぐらいだよ、なのはに。

「ここにしよう? えっとね、前もって聞いてきたんだ」
「へえ。なんか良いところなのか?」

 うん、ちょっとね。そう言ったフェイトは、少しだけ執務官の顔を覗かせた。
 なんだか気になるけど、やっぱりお前はそのままで良いんだよ、と確認するように心の中で頷いた。
 心の荒むことも多い仕事だけに、フェイトにもそうなってほしくないし、なんたって、反動で、なのはみたいになられても困るしな。
 なのははなのはで、ちゃんとしてるんだけどさ。

「へえ。こんなところもあるのか」

 本局ってのは本当に広い。
 未だに知らない施設がたくさんある。
 単にアタシがそういう方面に興味が無くて、さっぱり探索とかしたりしないのも、手伝ってたりするけど。
 でも、福利厚生やらなんやら、基本的な施設は各世界どこも揃ってて、大体同じような感じだろって思ってるのもあるけどさ。
 それでも、たまにこういった、そこの世界にしかない変わった施設もある。
 文化とか、そこそこで全然違うから。
 今、アタシ達が足を踏み入れた場所は、正にそんなところかもしれない。

「多分ここだけなんじゃないかな。"私たち"はよく使うんだって」
「ふうん」

 なるだけ興味のなさそうに振舞う。
 そういう態度を望まれたんだから、そうするべきだ。
 ある程度賑わっている店内を見渡し、ちょうど四人掛けの角席を見つけ、そこに席を取ることにした。
 フェイトはメニュー表を取り出すと「ここは餡蜜が美味しいんだって」と薦めてくれた。
 つい最近、大きな大きなパフェを食べたばかりで、流石のアタシも遠慮しようかと思ったんだけど、見本の写真が余りに美味しそうで、結局折れてしまった。
 フェイトは冷やしぜんざいを頼むことにして、ゆったりと、金の愛機を取り出した。
 それに合わせるように、アタシも愛機をテーブルに置いた。

「この間のお礼、遅くなってゴメンね。メールとかじゃなくて直接言いたかったから」
「んなの気にすんなって。まあ、通信だと結局時間合わせなきゃいけないけどさ」
「海に出てると時差とか計算が面倒で……」
「まあ、それはあるなあ」

 えへへ、と笑うフェイトに、いつもと違った印象を受ける。
 そういうことは、アタシ達の中で一番面倒がらないはずだし、別に自分で計算しなくても、機械が勝手にやってくれる。
 それを突っ込もうと思ったときに、ふと、フェイトも嘘が下手だったことを思い出した。
 これには、触れないほうが良いんだろう、きっと。

「良いんじゃねーの? 今日会えたんだしよ」
「うん。あ、そうそう、その報告書。やっぱりヴィータはこういうの上手だね、他の人たちも褒めてたよ」
「へえ。じゃあ、また他の部署からスカウトされたりしちまうのかな。へへへ」

 また、という部分にひっかかったらしく、フェイトに問い返されてしまう。
 口が滑ったとはこの事だ、と思いながら、誤魔化すことをせず、正直に説明した。
 誤魔化すという手もあったし、もしそういうことをしたなら、フェイトはそれに合わせて追求しなかったはずだけど。
 アタシの決して上手くないだろう説明を、フェイトは興味深げに聞いていた。
 説明し終わると同時に、フェイトはゆったりと微笑んでくれた。

「そうなんだ。うふふ。ちゃんと約束、果たせそうだね」
「約束? なんだっけ、なんかったか?」
「え?」

 本当に。本当に意外そうな顔。
 けれど、直ぐにいつもの調子に戻って「ちょっと、違った形になってるからかな?」と、一人納得したようだった。
 正直言って分からない。
 そこで会話は止まってしまって、蒸し返してまで聞く気にはなれなかった。
 何故だか知らないけど、フェイトの安心した顔を見ていたら、別にそれでいい気がしてしまったから――だと思う。
 自分のことすら、分からない状態だった。

「それでね。今日ヴィータに会いに来たのは、他でもないんだけど」

 やんわりと切り出したフェイトは、先日の話の続きを聞きたいらしい。携えたケースから書類をいくつか取り出した。
 なんだろう、と素直に思った。
 報告書は出してるんだし、別に今更言うことなんてないはずだけど……
 そこで、何故デバイスを取り出したのか、疑問にも思っていなかったことの答えが出た。

「さすがヴィータだね。"上手い報告書"だって改めて感心しちゃった」

 執務官の顔を覗かせたフェイトの言わんとすることは、直ぐに分かった。
 アタシが"上手く"書いた部分に、疑問があるって言いたいんだ。
 その部分とは、「アタシが下手をして、襲い掛かってきた動物を二匹、メンテが真っ二つにしたところ」だ。
 アタシとしては、確かに失態を犯したってのもあったけど、アイツの行動が不利に評価されたくなかったから。
 着替えに戻った時に上手く誤魔化しておいたんだけど……やっぱり駄目だったみたいだ。
 これで、アイツにまで迷惑がかかったりしたら、悪いな……。

「見解をね、確かめておきたいんだけど」
「……そんで、いまこんなところで渡して大丈夫なのか? その……色々と」

 周囲を視線だけで窺うようにして、無言のうちに伝えると、フェイトはゆっくりと半眼を閉じた。

「執務官にはね、ちょっとだけ権限があるんだ。その当たり、秘密主義だって批判もあるんだけど」

 だから安心して良いよ、というフェイトに、そこまで言うならと、記録を渡すことにした。
 バルディッシュがその情報を受け取り、デバイスとリンクして映像として情報を確認していくフェイト。
 今頃頭の中には、あのジャングルの光景が映し出されているはずだ……ちょっと恥ずかしい。
 それほど長いものでもないし、倍速再生も出来る。
 確認は直ぐに終わり、フェイトはゆっくりと半眼を開けた。
 その第一声は、予想通りのものだった。

「ねえ。この同伴者の子のことなんだけど」
「あ、ああ。それはさ、アタシを守るためで、なんつーか緊急的な」
「ううん。そうじゃなくて」

 言いかけた、アタシの言葉の意味を理解した上で、フェイトは更に言葉を続けた。

「この、エスティマ=メンティローソって……どういう人?」

 "どういう人"。
 それの意味するところは分かったのだけど、とりあえず簡単に、一般的な意味で答えておいた。
 ベルカ式の使い手で、一応Aランク試験には合格していること。あと性格についても少々、アタシの感想を述べておいた。
 するとフェイトは、ふうん、と珍しく気のない返事をした。
 当然とは思ったけど、フェイトの欲しがっている情報ではなかったみたい。

「……あのね、ヴィータ」
「どうかしたか?」
「いくらなんでも、この人の魔法は殺傷能力が高すぎる。特別に訓練でもしない限り、こうはいかないよ」

 執務官の顔のまま、真っ直ぐにアタシを見据える。
 その表情と発言に、ハッとして息を呑んだ。
 今まで全く意識したことがなかったけど、フェイトの指摘どおりだ。
 あの時ならまだしも、落ち着いた後なら充分に思い至っていいはずの考えだった。
 "殺傷設定"の魔法を使うなんざ、普通の課程を辿った魔導師じゃ無理なはず。
 独学で、怪しげな情報を探れば出来ないこともないけど……そこまでするリスクがない。バレたら大変だし。
 そうなると、フェイトの言ったとおりってことになるのか?

「独学って可能性も否定出来ないけど……このこと、他の誰にも言ってないよね?」
「あ、ああ。言ってないっていうか、すっかり忘れてただけというか……」

 なんとも歯切れ悪く言うと、難しい顔をしていたフェイトは、ぷっと吹き出した。
 何がそんなに可笑しいんだよって、思わずムッとしてしまうと「だって、そんなウッカリさんだって思わなかったから」ときたもんだ。
 ちょっとショックだ。
 まあ、それがショックということは、普段はしっかり者と思われてるってことで……うーん。
 すっかり逸れてしまったところで、フェイトが小さく咳払い一つ。軌道修正してくれた。

「ヴィータ。悪いとは思うけど、この人のこと調べてみるね。何かあってからじゃ遅いし」
「……任せた」
「何か分かったら教えるから。……もちろん、いい報告でも」

 目を伏せてバルディッシュを片付ける。
 アタシも充分そうらしいけど、フェイトだって相当に分かりやすい性格をしている。
 今だって、フェイトの頭の中じゃ、ある程度見通しは立ってるんだと思う。
 それでも敢えて「いい報告」と口にしたのは、アタシの不安を少しでも軽くするためだろう。
 だから「別にそんなの気にしないから。アイツ、変なヤツだし」と言っておいた。
 ――失敗だったような気がする。

「ところで……あっ、来たみたいだよ?」

 何か言いかけたけど、アタシの後に視線を投げては、パッと顔を綻ばせた。
 振り返れば、注文をとりに来たウェイトレスさんが、お盆に注文の品を載せてこっちに来たところだった。
 タイミングが良いのか悪いのか。
 そう考えながらも、アタシの頭はフェイト同様、すっかり餡蜜に興味が移っていた。


 


 新婚なの! 14-6 (3) >


 

|

« 暑い日には | トップページ | Baby Princess カテゴリー (日記) »

新婚なの!」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 暑い日には | トップページ | Baby Princess カテゴリー (日記) »