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新婚なの! 11-7 (2)

 昨日は早くに寝たっていうのに、何故だか眠たくてしょうがない。
 普段より早く寝たせいで、調子狂ったのかもしれない。
 長く寝れば良いってもんじゃないのかもな。
 欠伸を噛み殺し、目尻に浮かぶ涙を拭き拭き、今日も朝からの訓練場へ向かう。
 まことバリアジャケットは便利だと、毎度の事ながら考えていたら、どうにも雰囲気が悪いことに気付いた。昨日までとは違う意味で。
 肌に触れる空気がピリピリしていて、その原因となっている意思とも感情とも言うべきものは、ここにはない、何か別の物に向けられているようだった。
 正直、気にはなるけれど、自分が指揮してるわけでもないし、これだけの大所帯、聞いて回るのは不毛だ。
 訓練場を満たす空気の一部は、決して良いとは言えないけれど、全員プロなんだし、それを引き摺ることはない。だから、続行しても大丈夫だって判断だろうと思う。

「さ、今日も頑張りましょう、ヴィータさん」
「……お前がそんなこと言うから空気悪いんじゃないか? そういうこと言うと、雨が降るとかのあれだ」
「あら。では、今度から雨が欲しいときはお呼びくださいな。いつでも降らして見せますわ」
「冗談だろ」
「いいえ、ヴィータさんの頼みとあれば、雪だろうと降らせてみせますが?」

 余裕綽々の態度に、どっかの砂漠世界にでも送ってやろうか、と毒づきたかったけど、一々構うと調子に乗るので仕方なく胸のうちで呟くに止めた。

「それにしても、何だかんだ言って、ほとんど残ったんじゃねーか?」
「なにが、ですの?」
「――あのさ。訓練きついし、筋肉痛だっけ。あれのせいで脱落者が出るんじゃねーかって話」
「ふうん」

 興味なさ気な、けれど含みのある呟き。
 咄嗟の割には上手く誤魔化せたんじゃないかと思う反面、自分の浅はかさに思わず嫌気が差す。
 そして、これ以上、誤魔化す手段の思いつかない、自分の頭を恨んだ。
 誤魔化すためには、会話が不自然に感じられない内に、言葉を続けなければならないわけで、、そのための時間は少ない。
 その限られた時間の中で、何が出来たかというと……結局、何も出来なかった。
 でも、これが怪我の功名と言うのか、使い方間違ってるんだろうけど、下手に言葉を繋がなかったせいで、相手もそこで話題を別の物に移していった。
 ここで繋げていたら、もっとボロを出してた可能性が高かったわけだし、運が良かったと言うべきか。
 やっぱり、人は余りベラベラと口をきくもんじゃない。
 そんな下らない実感を抱えていると、程なくして合同訓練が始った。


  ◆


 推薦や希望者が集っただけあって、みんなやる気もあったし、技量も充分だった。
 現在確認されている分については、原則さえ分かっていれば対処はそれほど難しくない。けど、その基本が大きな差になる。
 多少とはいえ、ベルカ式の方が比べて有利だし、特にアタシ達――極近しい面々。家族とか――は"予習"も出来ているわけで、余裕はあった。
 他の参加者が、未だに何とかやりくりしている横を、悪いと思いながらもさっさと過程を終わらせてもらった。
 手本はプリムさんを初めとした教導隊の人たちに加え、珍しくやる気を出してたシグナムが加わっていて、丁度アタシに空きが来たってのが大きな理由だけど。

「ふう。なんとも負荷が掛かって仕方ねーや」

 訓練室の端に陣取って、適当な岩場に腰を下ろす。
 他にも森林地帯や、市街地なんかの想定もあるだろうけど、今はとにかく慣れることが先決だし、この環境で問題はない。
 所々にそびえる、背の高い岩に反響してか、遠くであろうガジェット・ドローンの爆発音が届く。
 この分なら、思ったより順調に行程をこなせるかもしれない。

「ヴィータさん。隣、宜しいかしら」
「そういうのは、一応でも返事を聞いてから座るようにしろよ」

 呆れるように言っては見るものの、相手は全く堪える様子がない。ホント、予想通りの行動で、面白くない。

「今日はみなさん、一段とやる気があるようで宜しいですわねえ」
「そーだな。アタシは眠たくて……いけねーや」

 喋ってる間にも欠伸が出て、不意に途切れてしまう。
 それが不恰好なのか理由は知れないけど、にやにやと笑われてしまった。
 アタシの右手には、普段と違って銀色に光る愛機が握られている。
 不用意な一言が命に関わるということを、一度教えてやった方が良いだろうか、などと考えていると、それを遮るかのようにメンテが話し始めた。

「眠気覚ましに一つ。詰まらない話なんて如何でしょうかしら」
「……詰まんないんなら、余計眠たくなんねーか? まあ、どっちにしろ眠るほど時間はねーけどさあ」
「そういう意味ではないんですの。残念ながら」
「あ、そう」

 相変わらず貼り付けたような笑顔なものだから、その最後の部分がやけに恐ろしく聞こえた。
 口調も表情もいつも通りだって言うのに……不思議なもんだ。
 こっちがどう思ったかなんて全く構わずに、メンテは視線を遠くに投げてから口を開き、アタシは思わず息を呑んだ。
 その横顔が、やけに真面目に見えたから。

「昨日、ニュースはご覧になりましたかしら。夜でしたら局は問いませんわ」
「ま、まあ。見たけど。ほんのちょっとだけ」
「ヴィータさんはニュース見たりしませんの? そういうのは詳しくチェックしそうに思っていましたのですけど」
「……昨日は偶々だ。とはいっても、あんま普段から積極的には見ねーかなあ」
「ふうん」

 何が面白いのかしらないけど、含みのある声だ。
 口にはしないけど、お前がニュース見てるか見てないか、そんなの考えたこともなかった。
 私生活を思わせない感じなんだよ、お前。
 それ以上に、他人の私生活なんざ興味ないけどな。自分のところで精一杯だし。

「だったらこの話はここでお終いです」
「……ん? なんだそれ」
「あら。気になります?」
「そ、そりゃそんな言い方されたら気になるだろ、普通」

 普段以上にもったいぶった口調に、話の導入部分と思われる部分で切られてしまったものだから、気になってしょうがない。
 こうやってこちらの興味を惹こうとする作戦なのかも、と思わないことも無かったけど、それに乗っかることに何故か不満はなかったし、気になると言ってしまった後ではもう遅かった。
 それでも、ただで乗ってやるのも癪だったから、せめてもの抵抗としてむーっと口をへの字にして、眉に皺を寄せてやった。
 すると、こちらの様子など構わぬように――殊更取り上げるほどでもない。普段どおりなのだけど――くすくすと肩を揺らし始めた。

「眠気が吹き飛んだのと一緒に、退屈の虫も退治できたみたいですわね」
「な、なんだそりゃ」
「ただそれだけですの。元々それだけで、この先もオチも何にもありやしませんわ」

 なんだそれ。
 そう言いたかったけれど、なんだかこれ以上相手に思い通りになるのも悔しい気がした。
 乗っかるのも不満がなかったのは、話の続きが多少なりとも気になったからだ。でも、それがないとなれば、話は別だ。
 けれど、地団駄踏むほどでもなく、気がする程度にしかならないもんだから、カッとするというよりガッカリと、気が抜けた方が大きかったのかもしれない。
 そんなものだから、思い通りに事が運んで、くすくすと肩を揺らしている相手を抓ったり叩いたりすることは無かった。
 右手の中でジッと出番を待つ愛機には、ガッカリさせたかもしれないけど。

「……どうしたよ。もう笑わなくて良いのか」
「え、ええ」
「珍しく歯切れが悪いじゃねーか。うん? 珍しく当てでも外れたか」
「外れたかと言われれば、この後にお冠なヴィータさんがデバイス片手に私を追い掛け回して、キャッキャウフフとなるはずでしたのに……」

 はあ、と心底ガッカリしたようにため息を吐く。
 これが珍しく、上辺だけでなくて本当にガッカリしているものだから、今度はこっちが可笑しくて堪らない。
 へへえ。普段は乗せられてしまうから、今日こそはと警戒しても結局思惑通りだったのに、今日に限って素直にしていれば大丈夫だなんて。
 コイツの口じゃないけれど、普段の行いが良いとこういうこともあんのかな、なんて思ったりした。
 ……なんだか同じことを言うヤツが近くに居た気がするけど、気のせいだろう。

「そんなにしたいんならしてやろうか?」
「宜しいんですの?」
「ああ。身体が冷え切らないように動きたかったところだからな。ほら、先に走って良いぞ」
「お、おほほほほ。そんな怖い目をなさらなくても――」

 ニッコリ笑うと、向こうも笑って返すけど既に腰は浮き上がってる。それが良いだろう。
 アイゼンが唸りを上げて薙ぐより一瞬早く、素早くステップを踏んで数メートル。アイゼンは体温の残った空間を空しく切り裂くだけ。
 相変わらず素早いことだ。気配を残したまま、しかも初動を感じさせない。
 真面目に昇格試験受けてくれりゃ、アタシのところからさっさと異動になんのになあ。


 


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