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新婚なの! 11-6 (3)

「美味しかったね」
「ああ。なんていうか、本局は大体何処で食べても美味いな。ありがたいこったけどさ」
「うん、色んな世界の人がいるから、誰の口にも合うように、料理人さんも頑張ってくれてるのかな」
「そうだろうなあ、食べもんって一番大切だからな。ほら、別の世界に行ったときとかさ」
「あるよね、口に合わなくて散々なこととか」

 空になった器を下げてもらって、ゆったりと腰掛けなおす。
 二人とも餡子モノを頼んだのは、失敗だったかもしれない。
 交換しても、味の違いをそれほど楽しめなかったから、何だか二人で食べたって利点が少なかった気がする。
 いや、アタシのを聞いてからフェイトが冷やしぜんざいを頼んだんだから、フェイトが気を利かすべきであって……うーん。
 悩むのもいいけど、なんかこんな事に頭を使うのは状況的に勿体無いな、と考えるのを止めた。
 美味しかったのには、変わりないし。

「どうしたの? なにか気になることでも」
「あ、ああ。いや、なんでもない」
「本当? ヴィータったら、すぐに抱え込む癖があるから……」
「ホントだって。これだけ美味かったから、他のも気になるなって、そう思ってただけ」
「そう? なら良いんだけど……」

 心配なのは分かるけど、それを本人を前にして言ってしまうのはどうかと思う。
 その辺、執務官をやるようになって慎重になったかと思いきや、全くそうはなっていなかった。
 こんなのでやっていけるんだろうか……
 前にもこんな風に心配した覚えがある。
 フェイトだって、ずいぶんと経験を積んでるだろうし、今更、アタシに言われたところで余計なお世話かもしれないけど。
 やっぱり――親友だからさ。心配したってバチは当たらないだろう?

「お前ほどじゃないぞ、フェイト」
「わ、私はそんなじゃないよ。ホント、直ぐに相談しちゃうから」
「ホントかあ? ただ分かりやすいから人に心配されちゃうんだろ?」
「ち、違うったら!」
「へへへ、アタシは心配だけどな」

 慌てるフェイトに、意地悪そうに返してみれば、ホントに違うったら、と少し臍を曲げてしまったみたい。
 珍しくムキになってるから、多少自覚はあるってことなんだろう。
 可愛いな――素直にそう思った。
 世間的な評判でいえば、あのハラオウン家の娘さんで、若くして――兄貴より早かったか?――執務官になり、魔導師ランクはSオーバー。
 しかも美人で、スタイル抜群ときている。
 そんな女の子が、ムキになったり拗ねたりする姿ってのは、ギャップがあるっていうのか? それがたまらなく可愛らしく思わせる。
 はやてやなのはが言ってたのは、こういうことなのか、と今更ながらに納得した。
 い、いや、分かっただけで、アタシは違うんだぞ。

「大丈夫、分かってるって」
「んもう。ヴィータったら」
「んで、用事はもう良いのか? すっかりのんびりしちゃったけどさ」
「うん。ホントいうと、用事があったっていうのは口実。ホントは、久しぶりにヴィータにも会いたかったら」

 フェイトの、その微笑を湛えた瞳に、自分の顔が熱くなるのが分かる。照れてしまったみたいだ。
 こういうところ――さっきの迂闊とも取れるのを含めて――、フェイトは本当に正直だと思う。
 別に、親友なんだし、普通なのかもしれないけど、面と向かって笑顔で「会いたかった」と言われると、どうも恥ずかしい。
 その辺。
 なんていうか、好意を伝えることに、躊躇とかないのかな。
 なのはを見てても、その辺は疑問に思う。

「あ、あっそ。んで、なのはにはさ、会っておかなくて良いのか?」
「ええっと……会いに行こうとは思ってたんだけどね。今日は、ヴィータと一緒にいるんじゃないかって思ってたから」
「なんでさ」
「今回の訓練に参加してるものだと、てっきり」

 ちょっぴり残念そう、首を傾げる。

「なのは、どうしたの?」
「別の教導が入ったんだってよ。泣きながらそっちに行ったらしい」

 呆れながら言うと、フェイトは小さく笑った。本当に、小さく。

「なのはったら、泣いちゃったの?」
「みたいだな。アタシは話に聞いただけで、見たわけじゃねーんだけど」
「ふふふ、さすがに、ヴィータの前じゃ泣けなかったのかな?」
「う~ん。アタシの前でこそ、めそめそ泣いてアピールしそうなもんだけどな」
「そうなんだ?」

 今のがそんなに面白かったのか、肩を可笑しそうに揺らしている。
 何が可笑しかったのか、全然分からないんだけど、フェイトの、なにかツボにはまったのかな。
 どの辺りで止めようかと思ったところで、フェイトは自分で何とかしたみたいだ。
 目尻の涙を拭う仕草をして、話を続けた。

「別に泣かなくたっていいのに……そんなに残念だったのかな、参加できなかったの」
「全くだ。向こうさんでもすっかりからかわれたみたいだし、あんまアタシがいうのも可哀相か」
「そうだね、余計落ち込んじゃうかも」
「う、うん」

 どういう姿を想像したのか知らないけど、フェイトは相当可笑しな光景を思い浮かべたらしい。
 まあ、あのなのはが泣くなんて滅多にないから、ある意味可笑しくてしょうがないかもしれないけどさ。
 アタシも相当無様な格好を思い浮かべたし。
 この分だと、その晩に、アタシがゴチンしたのは、黙ってた方が良さそうだ。

「そんじゃ、なのはには会ってないのか」
「うん。でも、別の教導が入ってるなら、結局会えなかったね」
「まあ、な。んでさ、フェイト。前になのはに会ったの、いつだ?」

 最近ないんじゃねーか?
 何となくそんな気がして尋ねてみれば、少し間があって、「最後にヴィータに会ったあとに一回だけ」と言った。
 どうやら、アタシに例の話を持ってきた辺りで一回、本局で顔を合わせたらしい。
 全くマメなことだ、と思う。
 よくよく気がつくというか、そうやって周囲に使う気をもう少し自分に向けたらどうだ、と思うのはアタシだけじゃないはず。
 ……なんつーか、似たもの同士だな。なのはとフェイトは、さ。

「これからの予定、どうなってんだ?」
「今日は暇だけど……なんで?」

 言い出しておいて、ちょっとだけ迷ってしまう。
 今日、さっき会ったときは何か色々ともやもやしてしまって、良い顔が出来なかったけど、話してるうちに、そんなの気にならなくなってきて。
 それで、最近、顔を合わせていないなんて聞かされると、何ていうか……悪い気がしてしまう。
 フェイトはそういう気遣い――アタシは、なのはの嫁だし――は嫌がるかもしれないけど、アタシとしてはやっぱり、気になる。
 あの日、ああは言ってくれたけど……これを、後ろめたいって言うんだろうか。

「遅くなるだろうけど、家、寄ってくか?」

 目を逸らしちゃったけど、なんとか、口にする事が出来た。
 言い辛いっていうか、照れたというか、色々渦巻いてて上手く表現できないけど、そんな感じ。
 フェイトは、そんなアタシが予想外だったのか、大きな目を更にまあるくしていた。
 そんなに驚くようなことかよ、と思わず毒づいてしまいそうになるけど、これも普段の行いがモノを言うんだろうと、思わぬしっぺ返しを食らった形だ。
 なのはには偉そうに、普段から云々なんて言ってたけど、まさか自分に返ってくるとは思ってなかったから。
 それとも、厚かましいとか、よくも言うとか、そんな風に驚かれた――いや、それはない。フェイトは、そんなヤツじゃない。
 バカか、アタシは。

「ど、どうしたの? 難しい顔して」
「あ、いや。気にスンナ。ちょっと考えごとしてただけだ……」

 納得したようなしてないような顔をして、だったら良いけど、なんて歯切れ悪く応える。
 いかんな。
 早く話題を変えるなりしないと、どっちもド壺に陥りそうだ。

「んでさ。どーなんだよ」
「う、うん。せっかく誘ってくれたんだけど……ごめんね。そんなにゆっくりはしてられないんだ」
「あ、そうか。お前も忙しいもんな」

 歯切れの悪い答えは、アタシに悪いと思ったのか、別に理由があったのか。
 それを確かめる術はあるけれど、どうにもそれは躊躇されて、アタシは口ごもってしまった。
 フェイトを気遣ったというのもあったけど、一番の理由は、なんの根拠もない、けれど信用できる――直感とも呼べるもの。
 随分と臆病になったもんだと、自分で自分を笑った。

「さて。そろそろ出ようか。ヴィータにも用があるだろうし」
「あ、あー……その点については安心してくれ、というか。今日は開店休業なんだ」
「そ、そうなんだ?」
「まあな」

 意味の分からない、といった返事も、今日は中止だろ? といえば直ぐに納得顔。
 ゆっくりと腰を上げ、伝票に目を通す。
 ニコニコ現金払いでも良いけど、こっちの世界じゃそういうのはすっかり廃れてて、イメージでいうと電子マネーとかいうヤツらしい。
 どっちが払うとか、そういうので譲り合ったり遠慮したりというのは、余程でないとない光景だ。
 レジで支払いを済ませ、出口に足を向けようとしたところで、フェイトはくるりと背中を向けた。

「こっちだよ、ヴィータ」
「お、おい。こっちじゃないのかよ」

 レジの直ぐ向こうに扉が見えるってのに、フェイトは逆方向。つまり入ってきたほうへ歩き出す。
 そこで初めて気がついた。
 この店は一方通行になってる。
 アタシ達が入ってきた出入り口は、"入り口"だったんだ。
 そこからやってくる人の流れに逆らって、フェイトはゆったりと慣れた感じで進んでいく。
 どこへ行くのかは分かっても、なぜそうするのか分からないアタシは、ただついて行くしかない。
 そうやって、入り口付近で足を止め、入り口付近のパンフやらを手に取った。

「な、なんだ、それが見たかったのか?」

 三冊ほど手に取ると、その内の一冊を渡してくれる。
 なんてことはない、本局で行われる、レクリエーションの案内だった。
 こんなものに興味があるとは思えない。
 もう一度確かめようとしたところで「ごめんね、じゃあ、帰ろうか」と、フェイトは踵を返し、出口に向かって歩き始めた。
 なんだか分からない。
 でも、なにか考えがあってのことだろう。ここは執務官御用達らしいし。
 アタシは、なるだけ不自然にならないよう、平静を装ってフェイトの背中を追った。


  ◆


「なるほどなあ」

 大変だな、と口にすれば、少しね、とフェイトは肩をすくめる。
 付回す連中は、何組かで、一定時間ごとに入れ替わりながら、動いているらしい。
 一方通行のお店で、逆走したりと、周囲を確かめる方法があったり、パンフを取ったりするのは合図だったり……色々やることがあるんだと。
 詳しい説明はしなかったし、アタシもそれほど興味もなかったから、話はそこで終いになった。
 フェイトがコレだけ気をつけるって、やっぱり何かあるんだろうなあ。

「私たちも、仲良くやっていかなきゃいけないんだけどね」
「まあ、そりゃどこでも当てはまるこった」
「私たちは、まだそんなに影響力がないけど、やらない訳にはいかないし」
「アタシは、それほど身に沁みたことはねーけどな」
「ヴィータ教官さんは、怖いのかな? ふふふ」
「ち、ちげーったら。アタシは優しいんだぞ」

 大方は、事態を大きく見て動いている上で、改善点を挙げてはぶつかっていると言う印象で、私怨で動いているやつなんざ少数だろうと思う。
 そりゃ「正義の味方」をしているわけじゃないし、長くいれば色々と見えてくるものがあったとしてもだ。
 その辺は、アタシの仕事じゃないけどな。
 アタシの仕事は……そうやって変えていこうとする人を支えて、守ることだからさ。

「あ、そう言やさ」
「なあに?」
「キャロとエリオってどうしてるんだ? 前に保護施設からは出たって聞いたけどよ」

 唐突な話の振りに驚いたようだけど、急に思い出しちゃったもんだから、勘弁してくれると有難い。
 アタシ達が、守らなきゃいけないのは、本当のところはそういう子供たちだったりするわけで、その繋がりで、不意に脳裏に浮かんだのが、その二人の顔だった。
 自分が出来る範囲で、持てる力をそういうことに使いたい。
 管理局にいる多くの魔導師たちは、皆そう思ってる。だけど、特にアタシ達は、そうしなきゃいけない理由があるんだ。

「えっとね。キャロは自然保護区に。エリオは陸士資格をとるために頑張ってるよ」
「へえ。じゃあ、あれか。エリオはアタシ達と同じ仕事をする気なのか?」
「同じどころか、今度はやての作る部隊に来るつもりなんだって。このまま順調なら充分間に合うって連絡が来てたよ」
「ふーん。なら、エリオは随分と優秀なんだな、アタシ達と一緒にやっていこうって言うんだからさ」
「そう、だね」

 笑顔を作るけれど、その実、あまり嬉しそうではないフェイト。
 エリオの成長は喜ばしいことだろうけど、思わずそうしてしまうのも分からないわけではない。
 何も好き好んで危ない仕事をしなくても……というところだろう。
 アタシはそういう子供を持ったことがないから、想像でしかないんだけどさ。
 リインはまた少し状況が違うし。
 でも、エリオは状況が状況だし、管理局の仕事が危険だって以上に、魔法にかかわる仕事に就かなくても良いだろうに。

「キャロもこっちに来るつもりだって。保護区での仕事も遣り甲斐があるって言ってたんだけど、ね」
「そっか。んでもさ。悪いことばっかでもねーよ。一緒になりゃ、前みたいに月一や週一ってこともなくなるしさ。アタシやなのはもいるぞ」

 アタシとしても、思うところはあるけれど、この場では取りあえずフェイトを励ます方向でいくことにした。

「そう、だね」

 仕事の合間を縫って、積極的に時間を作ってたのは知ってる。
 そうでないときは、メールや映像通信で補ってたのも知ってる。
 ああいった子供たちはそういうことに恵まれてないからな。誰かがいてくれる、というのは大切だ。
 それでも、一緒にいられる事が幸せとも限らない。
 自分がしたいことをさせてあげる。その結果、辿る道先が重なるというのは、嬉しいもんだ。
 だけど、あの二人の場合。それ以上に恩返しがしたいという気持ちも強いだろうと思う。意識するしないを別にして。
 だから、そういう意識しない内に可能性を狭めているんじゃないか。自分の意思だと思っているものが、実は違うんじゃないか。
 フェイトは、その辺りも心配してるんじゃないかと、アタシは思ってる。

「エリオもキャロも、アタシ達の下でちゃんとした使い道を教えてやれるんだ。一番いいことじゃないか?」
「う、うん」
「どうせ一年だけだしよ。その後のことはまたその時考えたら良い。元に戻るのか、それとも……さ」
「うん。そうだね」

 フェイトとしては、デバイス片手に前線に立つような仕事はして欲しくないだろう。
 でも、それを口に出さずとも態度に出せば、二人はフェイトの為にそういう選択をするに違いない。
 結局は、自分の意思だと思っているものが、外部から半ば強制された、歪んだものになってしまう。
 ならば顔を直接会わせないのが良いだろうけど、いつまでも二人を燻らせておくわけにもいかないし、ここいらが潮時かもしれない。
 アタシが言うのもなんだけど、二人はしっかりしてる。
 どうこう考えを巡らせるよりも、やってみるのも良いかもしれない。
 何て言ったっけな、こういうの……

「案ずるよりも産むが易し、かな?」
「え?」
「それがどういう理由かよりも、それで何を成すか。二人にも、そういう時間が必要なのかも」
「そうかもな。あの二人は、どう見たってお前となのはよりしっかりしてるからな」

 へへへっと笑って言えば、一瞬なにを言われたのか分からなくてか、きょとんとした顔をする。
 でも直ぐに頭を巡ったのか、またしもて、むーっと口を尖らせた。
 そういう素直で子供っぽいところが、言われる原因だって分かんねーのかな。
 可愛いんだけどさ。フェイトらしくって。


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