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新婚なの! 11-8 (2)

 相変わらず、整理整頓されているのかいないのか、分からない部屋で、本やらの山を崩さないように、その間を縫うように歩いて、やっとのこさソファーに腰を下ろす。
 以前よりは部屋を広くしたらしいけど、増えた面積以上にモノが増えてしまったみたいで、正直ずっと狭く感じる。
 本が嫌いじゃない人間でも、この天井まで積みあがっている光景は、思わず窒息してしまいそうになるような、言いようのない圧迫感を受けた。
 そんな、広いんだか狭いんだか、明るいんだか暗いんだか分からない部屋で、はやてと二人、大人しくユーノを待った。

「お待たせ。なんにもお構いできなくてゴメンね」
「ええよ。そのためにケーキ食べてきたから。な、ヴィータ」

 抱えるほど大量の書類を携えて、ユーノが遅れてソファーに腰掛けると、はやては気にしないよう、笑顔で応えた。
 一応、はやてもただ美味しいケーキが食べたかっただけじゃなかったんだなあ、と感心したわけだけど、今適当に話をあわせただけかもしれないから、黙って頷くに止めておいた。

「これだね。はやてに頼まれてたモノ」

 今更目新たらしい情報もないんだけど――とユーノが言うのも構わず、はやてはお礼をいう。
 このご時世に紙の資料だなんて、と思わないでもなかったけど、紙媒体で文字を読むってのが好きな人も多くて――自分たちも漏れなくそう――、それほど変でもない。
 その資料に興味もないけど、わざわざアタシの分まで用意してくれたユーノに悪くて、形だけでもと思ってペラペラと捲っていると、はやては礼を言った割には資料に手もつけてなかった。

「やっぱり、新しい情報はそんなないんかなあ」
「そうだね。数とか場所とか。そういうものから、どう割り出すのかって話なんだけど……具体的なものは難しいかな」
「ふうん」
「これに掛かりっきりって訳にもいかないから。言い訳になっちゃうけど……」
「ええよ、気にせんで。無理言ってるんは私やし」

 はやては、ユーノの言い分は分かっていたことだと言わんばかりだ。
 それでもユーノは申し訳なさそうにしている。
 こりゃ、掛かりっきりになれないってのも、うそ臭い。

「ま、こんだけあれば、一応の説得は出来るやろうね。贅沢をいうなら"実害"の一つでもあれば良いんやろうけど」

 はやては、飄々とした様で、とても管理局に勤める人間とは思えないようなことを口にする。

「その"実害"が起きる前になんとかしようって、みんな頑張ってるんだし。駄目だよ、はやて」
「冗談やって。相変わらずユーノ君は真面目やなあ」

 苦笑いをするユーノを横目に、はやては書類を片付けると、うーんと身体を伸ばした。

「予定通りに面子を集められたら、もっと効率ようなるやろうし、あんま心配してへんけどね」

 はやては、いつもの通りに軽い調子だけれど、その声の底に違うものを感じさせる響きを持っていた。
 はっきりと言葉には出来ないけど、自分に言い聞かせているような……そんな不安とかを打ち消そうとしてるような。
 詳細が分からないロストロギアをどうにかしようってのは、ひどくハードルが高い。
 見つけるのも大変だし、よしんば見つけたとしても、その管理なんかにもっと気を使う。しかも、そのどれかに失敗すると、被害がトンでもない規模になるってのが、そのハードルを上げるのに一役買ってる。
 ただ、はやての不安はそれだけじゃないような、もっと、違うところにあるような気がしたけど、そんな簡単に、アタシに気取られたりするだろうか。隠し切れない不安みたいなものを。
 もやもやと胸に立ちこめる気持ちが、資料をぞんざいに扱ったアタシに、ちゃんと目を通しなおそうと思い直させた。

「さて。私はちょいと、別に用があるから席を外させてもらうけど、エエかな?」
「うん。他の職員さんには話を通してあるから大丈夫だよ。一応、殆んどのエリアにアクセスできるようになってるはずだから」

 ありがとう、とはやては軽く一礼すると――何だか珍しいものを見た気がした――また来たように、本の山を縫うようにして部屋を後にした。
 はやての背中を見送ったけど、扉が閉じて、部屋がシンと静まり返ったところで、やっとこさ現状に意識が向いた。
 これは気まずい――
 なんたって、ユーノと二人っきりなんだからさ。
 そりゃ、最近全然会ってないし、一度会って話さなきゃいけないかな、と思ってたことも事実なんだけど――なのはに、ああも言った手前――、いざ、そういう事態にとなると踏ん切りがつかない。

「……ねえ、ヴィータ」

 ただでさえ、どんよりとした空気――これはアタシたちの醸し出してる空気だけが原因じゃない――漂う司書室の、空調の僅かな動作音すら聞こえるような、不自然なほどの静けさを破ったのは、ユーノだった。
 どきまぎしたのを面に出さないよう、努めて冷静に返事をしておく。
 別にそんな取り繕う必要もないんだろうけど、何か変に気にしてると思われても嫌だし。

「なのはと結婚したって……本当?」
「……お、おう。本当だぞ」
「そっか。その左手に納まっているものを見れば、聞かなくても分かるけど……一応というか、なんというか」
「変なヤツ」
「よく言われる。結婚したなら、何かお祝いをしなきゃいけないね」

 なにが良い? なんて聞いてくるものだから、慌てて、そんなの構うなって伝えると「そういうわけにもいかないでしょ?」と言われてしまった。
 多分、アタシ達の中で一番の常識人なユーノは、こういうこともしっかりやっておかなきゃ、と思うんだろう。
 でも、付き合いが長い分、なんだか今更って気もするし、照れくさいっていうか。しかも、披露宴とかいうのもやってないし、簡単に報告だけで済ませてたから、お祝いなんて貰ったら、かえって悪い。お祝いの言葉だけもらえれば充分。
 取りあえず、アタシ自身はいらない、気持ちだけで充分だ、と伝えておいた。

「う、うーん。じゃあ、今度なにか面白そうな物を見つけたら贈るよ。これでも色んな世界にいくんだからね」
「なるべく嵩張らないものにしてくれよ。あんま広い家じゃないんだ」
「そうなの? 二人なら結構良い所に住んでると思ったんだけど……」
「まさか。元々の一人暮らしだ、そんな広いとこ住んでも仕方ないだろ? 掃除が大変になるだけだしさ」
「あ、そう、なんだ」
「ああ、そうだけど……どうしたんだよ」

 アタシの言葉に、納得したかのように頷いたけど、どうやら頭の中では違うみたいだ。
 自身の感覚から、広くない家が便利ってのが分からないのか、はたまた、なのはと二人なら掃除が大変じゃないだろうと思ってるのか。
 いや、なのはと二人ってことだから、良いところにでも引っ越したと思ったのか?
 多分、後者だな。
 引っ越してはないけど、引っ越せない理由を説明すると、また長くなるから、ユーノには悪いけど、黙ってることにした。

「なのは、忙しそうだけど、教導隊って意外に、給料良くないのかな……」
「いや、そんなことはないと思うぞ。まあ、アタシもなのはの給料を管理してるわけじゃねーから、知らねーけど」
「一応、お金の管理は別々にしてるんだ?」
「いい大人なんだし、当たり前だろ? 大体、なのは本人の上に、金の管理までさせられたら、こっちが給料貰いてえぐらいだよ」

 ユーノは一瞬驚いたように目をまん丸にするけれど、すぐに、アハハハハ、と声を上げて笑った。
 どういう意味か知らないけど、ユーノにとっちゃ、そういうなのはは、意外だったんだろうか。
 こっちに来てる面子の中では、一番長い付き合いのユーノが意外に思うってことは、なのはの猫を被りは、相当ってことになる。
 どうだろう?
 そんな器用な――公私の切り替えとは別に――タイプにも思えないし、かといって、ユーノが見誤っていると思えない。
 優形だけど、仕事の関係上、そういうのは見抜くの上手そうだし。
 そうなると、なのははこの一、二年で変わってしまった、ということになってしまう。

「それだけ、ヴィータに頼ってるってことなんじゃない?」
「迷惑だよ。いや、別に頼るなっていってるわけじゃないけどさ。もうちょっと……」
「甘え方が下手なのかもしれないね、なのはは」
「下手あ?」
「加減が分からないんだよ、きっと。だから、その内お金の管理もお願いされちゃうかもね」

 相変わらずニコリとしているけど、とんでもないことを口にする。
 しかも、年季が入っているというか、実感が篭っているというか。とてもじゃないけど、ただの友人ではないという口ぶりは、グサリと来るのだ。
 別に、普段から金遣いが荒い訳でもないし、むしろ貯まっていく一方なんだから、大変ではないだろうけどさ。
 人の金ってのは、なるべく触りたくない。
 特に、アタシ達は命がけの仕事だし、重みが違うっていうか、何ていうか。

「よ、よく言うよ、お前は」
「そうかな。思ってるのは僕だけじゃないと思うけど」
「……それを口にするかしないか、大きな違いがあるぞ」

 とぼけたって無駄だ、と念を押すと「それもそうかもね」なんて、のほほんとした顔で抜かしやがる。
 いつの間にか、体つきだけじゃなくて、そのほかの部分も逞しくなってたみたいだ。……今それを発揮されても困るんだけどさ。

「ふうん」
「あ、あんだよ。言いたいことあるなら、はっきり言えば……良いだろ」
「うん。あのね、本当にヴィータとなのはが結婚したんだなあって。そう、思ってたところなんだ」
「は、はあ」

 よく相手の意図が理解できなくて、詰まるでもなく、間抜けな声が口から漏れ出てしまった。

「はやてから教えてもらったときは、びっくりしたよ。急だったからね」
「そ、そうか。そんなもんか。ってことは、なのはのヤツ。直接言いに来てないのか?」
「こっちに居なかったしね、それは仕方ないと思うよ」
「いや、それにしたってメールとかよ……ああ、それを言ったらアタシが言やあ良いんだろうけどさ」
「前から一緒に住んでるのは知ってたけど、ね。それに、メールで知ったのも、二人が結婚してちょっと経ってからだったし」
「……い、いや、ホント悪かったよ」

 別に嫌味でもなく――ユーノがそういう感情を押し殺しているのでなければ――、ただ、そうだったと事実を言うだけのユーノに、アタシは何とも歯切れの悪い返事をした。
 フェイトに続き、なのはとの結婚を一番に報告しなきゃいけない人物であり、また、一番報告しにくい相手でもある。
 向こうににして見れば、そんなの知ったことじゃないかもしれないけど……どうにも、バツが悪い。
 普段から、なのはに彼是文句を言ってる身としては、どうにも立つ瀬がないというか、情けないというか。
 そんなことを考えながらも、頭の中では、もう一つ別のことを考えていた。
 ユーノは「メールで知った」と言ってた。しかも「ちょっと経ってから」って。
 なのはとの結婚は、相当に噂になったらしいと、当初は随分冷やかされた訳だけど、ユーノの耳には入ってなかったのか? ってこと。
 別に大したことじゃないけど、冷やかされたときのムカムカやらが思い出されて、頭の端から追い出せなかった。

「あのさ。ここ幾らか出かけてたって、言ったよな」
「そんなに空けてたわけじゃないけど……どうして?」
「あ、あのさ。言い難いんだけど、アタシたちのこと、随分噂になったって聞かされてたから、その……ちょっと経ってたって言うしさ」

 たどたどしく尋ねるも、ユーノは意図を理解してくれたらしく、う~んと腕組みをして唸っては、

「そういうのは耳にしなかったよ。僕のことを気遣って、なんて気の利いた人もいないと思うし」
「そ、それはどうかと思うけど……」

 ユーノの返事に、なぜかホッとした。と、同時に新たな疑問も湧いてきた。
 ユーノの周りだけなかった、ということはあるだろうか。
 そもそも、アタシは直接そういう風に人に聞かれた覚えがない。
 下世話、といっては悪いけど、人の気など構わない人間なんて多いもんだし、そんな噂になったことでアタシが被害に遭わなかったなんて不自然だ。
 結局、全部「そういう噂が周りでたっていますよ」という話だけ。
 なんだろう?
 違和感といっていいのか分からないけど、何だか胸がモヤモヤとして、まるで映りの悪いテレビを見ているような感じだった。

「ふうん。そんな噂になってたんだ?」
「そ、そうらしいんだけどさ。アタシは知らないんだ。人から聞いただけで」
「……変、でもないかもしれないけど。噂ってそういうものだし。でも、それなら、はやてやフェイトも言うだろうしね」
「アタシが嫌がると思って、言わなかったのかな」
「それは充分にありえるけど……実害がなかったのなら気にしなくて良いんじゃないかな。それが誰の気遣いかわからなくても」

 尤もだと思った。
 現に、アタシは実害がなくって、それが誰かの気遣いのお陰だとしたら、これほど有難いことはない。
 お礼をいうのも変だし、心の中で、誰か分からない人に、ひっそりと感謝しておいた。

「でも、こうやって話を聞いてると、本当に結婚したんだなあって。変かもしれないけど実感が湧いてきたよ」
「そ、そうかい」
「なのはは……何となくだけど、結婚とか、そういうのしなさそうな気がしてたから」
「本人が聞いたらビックリするかもしれねえぞ。ユーノにそんな風に思われてたなんてさ」

 ユーノは、笑い飛ばしてたけど、ホントにそうだと思うから本人には言っちゃ駄目だぞ、と念を押しておいた。

「一番驚いたのは、早かったなあってことで、ヴィータと結婚したこと自体はそれほどでもなかったよ?」
「ホ、ホントか?」

 思わず口を吐いて出たけど、デリカシーがなさ過ぎると直ぐに後悔しても後の祭りだ。

「うん。フェイトは分からないけど、少なくとも僕は違うかな。自分でいうのも意識してるみたいで変だけど」

 あははは、とユーノは軽く笑ってはいるけれど、アタシはそれを、胃がキリキリする思いで聞いていた。
 ユーノは、なのはと一番付き合いが長くて、しかも男の子だから、普通に考えたら、一番"結婚"ってことの可能性が高い人物だ。
 人の色恋沙汰とか、そういうことが分からないアタシでも、それぐらいは分かる。
 でも、ユーノは「自分にそれはない」と変に気負うこともなく、きっぱりと言い切った。
 自惚れみたいで嫌だけど、少なくとも、アタシを気遣ってのことじゃない、とは感じられた。

「なんて言うのかな。僕たちはお互いに、お互いの人生において、その意味が大きくなりすぎて、そういう感じじゃなくなった……のかな」
「聞いてると、そういうのが大切な気もするけどな……」
「今の僕は、なのは無しではあり得ないし、なのはは――魔法の力を得るきっかけを与えたのは僕だし。あ、コレは密かな自慢なんだ」
「ふうん。でも、そりゃそうかもな。あんなの探そうと思ったって、そうは居ないからな」
「偶然とはいえ、なのはに魔法を教えたのは僕なんだって。そっちの才能もあるのかなって思っちゃったよ」

 実際は、なのはの才能が凄かっただけなんだけどね――ユーノは、歳に似合わない、遠い目をして懐かしそうに語った。
 なに黄昏てんだよ――冗談でも言って場を和ませた方が良かったんだろうか。
 そうは考えても、口から零れることはなかった。
 アタシは、そういうの苦手なんだ。

「だから、と言うか、近くになりすぎて、お互いにそれが大きくなりすぎて、結婚とかそういうことは考え……違うかな――」
「ん? なにがさ」
「まだ若いってこと。なのはの世界では、まだ普通に学生をしている年齢だって聞くし。結婚なんて普通考えない年齢だよ」
「すずかさんや、アリサさんも、まだ学校行ってるもんな。なのは達も、こっちに来なけりゃ、まだ学校通いかあ」
「うん。少なからず、向こうでも生活してたし、きっと、なのはもそう考えてるだろうって、思ってた」
「ユーノも同じなのか? その辺」
「う~ん……流石に結婚を考えるには、早い年齢かなあとは思うよ。いくら管理局で働いているとはいえ」

 本当のところは分からないけど、ユーノはそもそも考えてもいなかった、と言ってる。
 確かにまだ子供といえる年齢だし、結婚して家庭を持つとか、そういう感覚からいえば早い。
 もし子供でも生まれたら、子供が子供を育てるようなもんだしな。
 ミッドでは、その辺どうなってんのか知らないけど、ユーノが言うくらいだし、割と一般的な価値観なんだろう。

「でも、このまま大人になって、その時にどうなるか? と言われると、それはその時になってみないと分からないかな」

 仮定の話をしても、しょうがないとでも、言うんだろうか。
 ユーノは更に、「けど」と続けて、

「今のままなら、きっとそういう関係にはならないと思う」
「……なんでさ」

 聞くべきか聞かざるべきか。悩んだのはほんの数瞬だった。
 この場で聞かれたくないことは、わざわざ言わないだろう。だから、これはユーノが言っておきたいことなんだ――そう、勝手に判断したから。
 単に、それは言い訳で、アタシ自身がユーノの話を聞いておきたいと、思っただけかもしれない。
 こう言っちゃ怒られるだろうけど、正直言って、後ろめたさみたいなものがあるから。
 内心――アタシとユーノ。その両者の――どうであろうと、表面上はその判断で正しかったようで、ユーノはゆっくりと口を開いた。

「さっきも言ったけど、お互いに距離が近すぎて、そんな風に見てなかったのかもしれない」
「お前、こっちきてから会えない方が多かったじゃん。何か理由をつけないと集まれないぐらいにさ」

 ユーノはゆっくりと、かぶりを振る。
 そういう意味じゃないって言いたいらしい。

「僕にとっても、勿論フェイトにとっても、もう掛け替えのない人になってしまって、結婚とか――恋愛とか? そもそも、そういうことを考える対象じゃなくなってたのかもね」
「そ、そんなもんか」
「フェイトに確認したわけじゃないけど、話を聞く限り、僕はそう思ったかな。ああ、一緒なんだって」
「そっか。覚えとく」

 慌てずに言い足した辺りに余裕が感じられる。ユーノのいうことは信用して良いだろうとおもう。
 その辺。アタシにとっちゃよく分かんない世界だからさ。

「だけど、なのはから言われたら結婚してたかもね。断る理由もないし……ヴィータはどうして受けたの?」

 一度言葉を切ったあと。付け足された言葉に、アタシはどう返事をしていいものか、正直困った。
 素直に言えば「お前と一緒だ」と、首を縦に振るしかない。当時は、そんな感じだったから。
 本当のことだし、素直に言えばよかったんだろうけど、何故かその時は、直ぐに答えることが出来なかった。
 なんだか、ユーノの意見に、賛同するっていうか、アタシの結婚した理由を、それと同じにしてしまうことに、抵抗感があったから。
 ユーノは、そんなアタシの態度すら予想通りといわんばかりに、態度を崩さない。

「こんなこと、今更いうまでもないと思うけど」
「気持ち悪いな。はっきり言っちまえよ」
「え、でも……」
「言いかけたら気になるだろ。大丈夫だ、ここじゃ無闇にアイゼンを起動させることも出来ないし」
「あ、ああ、うん」

 冗談のつもりだったんだけど、アタシのキャラに合わなかったのか、ユーノは初めて表情を引きつらせた。
 ……もう、こういうことを、なのは以外に――いや、もう一人大丈夫そうなヤツがいたか。
 うん、その二人以外には言うのを止めよう。

「管理局に入ってから、なのはにどんな風に過ごしてきたか、どんな出会いがあったか、それらを全部把握するなんて不可能でしょ? いつまでも子供じゃないんだし、僕たち以外に仲のいい人だって随分いると思うんだ」
「まあ、そりゃそうだろうな。仕事で顔を合わせるヤツとか、色々いるし」
「だから、僕たちが全く知らない人と、いつの間にか結婚してたって、全然不思議じゃないよね」
「思ったら一直線だからなあ。あり得なくはねえかもしんない」
「でも、知った仲でいえば……受ける側というか、"僕たち"の意識というか、どう想ってるかはあまり重要じゃないかなって。そう思うんだ」
「ふうん」

 まだ、なにを言いたいかは分からないけど、重要な話をしようとしてるのだけは、分かる。

「僕がね。驚かなかったのは――ヴィータ。なのはが誰を選んだか? そのことが一番重要だって思ってたからなんだ」
「……へえ」

 わっと、声を出さずにいられたのが不思議だった。驚きすぎて、声も出なかったのかもしれないけど。

「確かに、もしする気があるのなら、こっちからアプローチすることも出来たろうけど、なのははどう思うかな」
「さあね。お前やフェイトからのアプローチなら、あっさり結婚したんじゃねーか? 言われて嬉しくないこともないだろうし。アイツが結婚に憧れてたかは知らないけど」

 とても意地悪な言葉だと思ったのに、ユーノはあっさりとそれを認めた。

「意中の人がいなければ、僕たちに悪いなあと思って、なのはは結婚してくれるかもしれないね」
「う~ん、ないとは言い切れないな。それが、ユーノやフェイトなら、尚更だ」
「うん。だから、なのはには、"なのはであって欲しい"から、そういう決め方は望まないんだ」
「それだって、なのはの決断には変わらないけどな」

 そうは言ったけど、ユーノの言いたいことは、分かる。
 アタシだって、なのはには"なのはであって欲しい"から、それを捻じ曲げてまで、何かをしようとは思わない。
 言ったとおり、それを決断するのも、なのはには変わりないんだけど、口説き落とすってのは、どうにもしっくりこなかった。

「そりゃさ。相手に悪いなあって。これだけ想われてるんだから、それも悪くないなって決めるってのもさ、世の中にはあるかもしんないけど」
「へえ。ヴィータも色々知ってるんだ」
「馬鹿にすんなよ。……なのははそんな風に決めたりしないだろ。相手に悪いなって、確かに全く好意がなけりゃ、応じたりしないだろうけど、そういう気持ちで応えるって、絶対に相手に伝わる。初めはわからなくても、その内にな」
「僅かであっても、好意であることには変わりないけどね。でも、相手に悪いなあって、そういう同情っていうか――なのはは、逆にそういうことを嫌がるんじゃないかな」
「もし、自分が逆の立場だったら、嫌かもしんないもんな。私に悪いと思って結婚してくれたんだ~って、それを知ったらさ」
「フフフ、そうだね」

 ユーノの言い分は、言い訳に聞こえないこともない。
 でも、アタシの知ってるユーノはそんなヤツじゃないし、もし、言い訳してたとしても、アタシに対してはしないだろ。そう、思う。
 感触的には前者。
 ずっと笑ってる。強がってる風にも、取り繕ってる風にも見えない。
 ユーノに抜群の演技力があるか、アタシの目が節穴なら話は別だけど、少なくとも前者である可能性は、ない。

「本当に好きあった相手同士が結婚するんだって、子供染みた言い分だけどね」
「別に良いんじゃねーの。大人が皆、そういうものでもないだろうし、何しろ、なのはは子供だぞ」
「あはは。そういえば、僕たちみんな、まだ子供だね」
「そういうこった」

 外見がまるで子供のアタシがいうと、ホント冗談にしか聞こえないだろうけど。

「うん。想像するのは僕たちの勝手だけど、何があったとしても、なのはは、色々な人たちの中から、ヴィータを選んだ。それは変わらない。だから、それで良いと思うんだ。僕の好きななのはが選んだことだから」
「……好き、なんだな」
「そうだね」

 正直だ。嘘も、強がりも、何もなくて、ただ只管に素直に。
 結局、これが言いたかったんだろうと思う。アタシの自惚れじゃない限り。
 今回のことは、はやてが場を設けてくれた。
 これはきっと、アタシがユーノに、会い辛いというか、後ろめたいというか、そういう風に思ってるのを知ってたから。
 どうなるにしろ、一回会わせてみたら良いと思ったのか、事前に相談して、ユーノの話を聞いたのか。
 詳しいことは聞かなきゃ分からないけど、どっちにも聞くつもりはない。
 アタシはユーノに報告できたし、その気持ちも聞くことが出来た。
 その想いを、じっくりと噛み締めておく必要がある。
 フェイトも、桃子さんも、アリサさんも、アルフも。みんな同じようなことを口にした。そして……ユーノも。
 アタシは、偉ぶるでもなく、かといって卑屈になることもなく、"なのはに選ばれたこと"を自覚して、その想いに応えなきゃいけない。
 でもそれは、誰かに言われたからじゃない。
 言われたことで、早くに結論に達したかもしれないけど、それでも、なのはが大切なことに変わりはないから。
 口に出して言うことはないかもしんないけどさ。恥ずかしいし。

「でもな、ユーノ。油断してたら駄目だぞ」
「なにを?」
「アタシがなのはに愛想を尽かしたときの話だよ。そしたら次はお前かフェイトだかんな」
「愛想?」
「そうだよ。大変なんだぞ、アイツの世話は。ホント、金の話までし始めた――いや、それは忘れよっと」

 目をまん丸にしたユーノは、直ぐに声を上げて笑った。
 余程可笑しかったらしい。
 一応フェイトにも言っておいたことだから、ユーノにも言っておかないとフェアじゃないかな、と思ったんだけど……

「心得ておくよ。いつになるか分からないけど」
「アタシは我慢強い方じゃないからな。下手すると、はやての新部隊が出来る前になるかもしんねえ」

 ユーノはニコニコとしている。
 今のも冗談というか、そんな感じなんだから、何か返してくんないと気持ち悪いんだけどな……
 いや、そんなことで冗談いうなという、ユーノなりの意趣返しなんだろうか。
 いやいや、ユーノに限って。でも、なあ――

「でも、ホント。アタシになんかあったときは、フェイトかお前が頼りなんだからさ。油断すんなよ」
「それは頷けないね」

 聞き返そうとしたアタシに「そんな縁起でもないこと」と、珍しく口調が厳しかった。
 確かにアタシだって、そんなのは勘弁だけど仕事柄、万が一ってのがあるんだし、口にしたくなるときもある。
 それに、こんなこというのはフェイトとユーノに対してだけだ。
 二人は、なのはについて同じ解答を用意していた。
 これって、どれだけなのはのことを分かってて、大切にしてるのかってことの証明だと思ってる。
 そんな二人が認めてくれたんだ。アタシは自信を持って、なのはと付き合っていけば良い。
 そうじゃなければ、なのはを哀しませるし、二人をガッカリさせるもんな。
 ああ、大変だ。なのはと結婚すんのは。


 


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