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新婚なの! 11-7 (3)

 昨日の今日で、なのはの帰りが遅い。
 若しかして忘れてるんじゃないか。そろそろ、こっちから連絡しようかと思うぐらい遅くなった頃に、連絡が来た。メールで。
 珍しい――そう思った。
 別にメール自体珍しいことじゃないし、一々通信すんなって釘を刺しておくぐらいだから、宜しいと思いはしても不審に思うことはない。
 そのはずなのに、その日のメールは何故か引っかかった。内容というか文面というか、そういうものには全く問題はなかったんだけど、何故か気になって仕方なかった。
 分からない。今までそんなこと考えたことも無かったのに、「メール」という方法で伝えられたことが、やけに気に障った。

「……なにカリカリしてんだろうな、アタシは」

 昨日のんびりしたのがいけなかったんだろうか。
 大体、なのはは今週いっぱい忙しいって言ってたのに。
 むしろ、昨日が例外だったんだ。今日は普通、普通なんだ。
 そうやって、言い聞かせるように反芻しても、どうにもモヤモヤが晴れなかった。

「でも、帰る前になったら連絡するって……どーすっかな」

 一人で食べるのは味気ない。
 たった数日のことだけど、はやての家に帰ったり、なのはの家に帰ったり、アリサさん家に遊びにいったり……大勢で食べる機会が多かった。
 帰ってきてからも、リインとシグナムと一緒したり、そういえばプリムさんともご飯食べたっけ。いつもなら、多くて二人とか――部隊で一緒のときがないわけじゃないけど――少ないもんだから、新鮮だった。
 そういうの久しぶりに味わうと、何だか一人になるのがとても寂しく感じる。
 感じるようになったと言うよりは、今まで忘れてたというか、はやての家を出たときもそう思ってたはずなんだ。それなのに、どうしたってんだろうな。

「やっぱり、なのはが来てからかなあ」

 それまでは、ちょくちょく誰かが遊びに来てたりしてたわけど、勿論一人の方が多かったわけだ。
 でも、なのはが遊びに来るようになって、帰らせるのも可哀想だから一緒に夕飯とか食べるようになって、それで段々居付かれるようになって。
 それも一年とかになれば、一人の時の方が少なくなってくるわけだし、忘れてたのも仕方ない……のかも。
 今までのことを思い出していると、ますます一人で夕飯を食べる気が失せてくる。
 今日は特別早くも遅くもない。
 普通、というか今から用意して夕飯を済ませば、日付が変わる前、いつも通りにベッドに入れるかもしれない。
 なのはに教導の仕事が入ると、メニューのチェックとかで――その辺アタシはプログラムが割りに決まっているし――中々眠らないもんだから、当然アタシも眠れない。
 当然、というのは変かもしれないけど、起きてるんだなあと思うと、気になって眠れないんだ。
 放っておくといつまでも起きてるかもしれないし、というか、何回かそうやって夜更かししてたみたいで、朝に全然起きられないこともあったり無かったり。
 いい加減、自分でその辺の自覚を持ってやってもらわなきゃいけないし、その為にはアタシが世話を焼きすぎるのも、良くないんじゃないかって、そう思うには思ってるんだけど……
 ――思ってるだけで、全然実行に移せない。
 厳しくしなきゃと思いつつも、なのはも生徒のために出来る限りのことをしようと頑張ってるんだし、それなら、こっちだって出来ることはしてやりたい。
 だから、負担にならない程度に、ギリギリまでは寝ないようにして、そのせいで少し寝るのが遅くなって、朝に起きられないようなら叩き起こしてもやる。
 そうなると、アタシ自身はなのはより遅くに寝なきゃいけないし、朝は起きてるか確認する為に、少し早く起きなきゃいけない。

「……なんだよ。結婚する前から全然変わんねーじゃんか、これ」

 いや、結婚したお陰で良かったのかも知れない。
 知らない仲ではないけれど、言ってしまえば他人になんでそこまでしなきゃいけないんだって話だ。
 そんなことを、頼まれたわけでもないのに――遠まわしには頼まれたのかもしれないけど――してたって言うんだから、アタシもいい加減お人よしだ。
 これがアタシじゃなくて、フェイトだったとしたら、もっと甲斐甲斐しく世話でもしたんだろうか。
 いや、したに決まってる。アタシは、フェイトほどなのはのこと好きじゃねーし。
 あーあ。アイツは本当に恵まれてると思うよ。
 魔法の才能以上に、人間関係にさ。

「…………良いから早く帰って来いっての」

 空調が効いてるはずなのに、妙に寒いんだよ……


  ◆


「ただいまー」

 クッションを抱えてソファーに座り、ぼんやりテレビを眺めていると、疲れた声がリビングに飛び込んできた。
 玄関を開け閉めする音はなかったし、その前に届くはずのメールも電話もなかった。
 だけど、その為に気づかなかったわけじゃない。
 別段なのはが、気配を消すことに意識を傾けたわけでもないだろうし、それぐらいならアタシが無意識であっても全く気づかないこともない。
 若しかして、なのはが注意――連絡忘れたのを怒られるとか――したのかもしれない。
 どっちにしろ、アタシはなのはが帰ってきたのに気付けなくて、慌てる羽目に遭った。
 どうにも、調子が狂う。

「おう、お帰りだ。どうした、遅かったな」
「あ、うん。ちょっと忙しくなっちゃって」

 いつもなら止めろと言ったってするくせに、今日に限ってソファーから少し離れたところで、居場所なさそうに立っている。
 表情も優れないし、肩もガックリ落としている。
 大体相手の胸の内――やっぱり怒られると思ったんだろうか――を読めたような気もするけど、違和感も付き纏う。
 一応目配せだけして、反応を待たずに腰を上げた。

「もう遅いから軽いモンで良いな? イヤだって言われてもそれ以外に作らないぞ」
「あ、うん」

 なのはの語尾が、少し上擦る。
 その調子が、アタシの違和感の正体をはっきりさせてくれた。
 恐れてるのはなく――申し訳なさそうな、その声。
 アタシが移動したのにあわせて、視線がテーブルの上をなぞったんだろう。
 テーブルの上には"二人分"のお皿やら、食器が並んでるんだからな。
 なのはの態度を正しく理解してなかったみたいだ。
 そんな風にされちゃ、連絡寄越さなくても、怒れねーじゃねえかよ……

「寝るだけだからな、寝つきが悪くなるだろ。さっさと着替えて来い」
「はーい」

 それだけ指示して、エプロンをつけて遅めの夕ご飯作りに取り掛かった。

「えっと、ヴィータちゃん。その、若しかして……」
「心配すんな。別にお前を待ってたわけじゃないんだからな。偶々、アタシも忙しくて帰りが遅かっただけだ。偶々、な」
「ふ、ふうん」
「自惚れんなよ、お前を待ってたわけじゃなんだからな。ホントにホントだぞ」
「う、うん」

 言ったそばから後悔する。
 どうにも間が持たなくて、ついつい余計なことを口にしちまうんだ。
 特になのは相手だと、そのどうにも気持ち悪い空気――なのはに見透かされているような――が後押しして、それを誤魔化そうとしてしまう。
 そんな具合を分かってるんだから、いい加減止めたら良いんだけど……これだって出来れば苦労しない。
 ああ、なのはにどうこう言っても、アタシだって同じようなもんかなあ。
 分かりやすいって点に関しては。

「えっと、遅くなったって、合同訓練でなにかあったの?」
「うん? いや、それは……まあ、そんな感じ。色んな世界の連中が集まってるからさ。各自、事情があるんだし、仕方ないさ」
「そうだね。流石にトップってわけじゃないけど、それなりの人たちが集まってるから、お互いに大変だもんね」
「そういうこったな」

 なのはの態度に違和感がなかったわけじゃない。
 その正体――望んでたわけじゃないけれど――は、いつも通りの反応がなかったってこと。これは、何かあったんじゃないかとアタシに思わせる。
 一瞬の戸惑いに、返事が遅れてしまっても、なのははそれを不審がることはなかった。
 けれど、その声の裏には、何かに驚くような、怯えるような響きすら感じられた。
 ……いや、なのはの事をあれこれ考えながら待っていたせいで、余計なこと考えちまったのかもしれない。
 絶対なのはに知られるわけにはいかねー。
 こんなんバレたらいい話のネタになっちまう。

「ほれ、早く風呂にでも入って身体温めてこい。この季節じゃすっかり冷えてるだろ」
「うん。終わった後も忙しくて軽くシャワー浴びただけだったから」
「ああ、そうだ。言っとくけど沸いてないからな。お前が連絡してこないもんだから準備できなかったんだ。次からはちゃんと忘れんじゃねーよ」
「はーい」

 コートをソファーの背に放り投げ、早速風呂の準備を始めようとするなのはは、生返事をする。
 注意したことに全く堪えてない感じだ。
 どうかなあ、と思うけれど、いつもの調子を覗かせてくれれば、それだけで安心できる。
 ホント、"いつも通り"の体で面倒そうにソファーに身体を預ける。上着を脱いでネクタイを緩めては、だらしなく上体を流していく。
 風呂に入れって言ったのに。
 風呂の準備はしてないって言ってあんのに。
 全然聞いてない――
 肩越しに覗くなのはは、全く動く気配を見せない。
 "今帰ってきたばかり"って言い訳の為に、殆んど夕飯の用意はしてない。
 だから、準備の間に入って来いって意味だったのによ。この分じゃ、風呂の準備もしてやらなきゃいけなくなりそうだ。

「おい。まだ時間かかるんだからよ、自分でやってこい。アタシはやんねーからなあ」
「う~ん。分かってるぅ……」

 フライパンの上で野菜やお肉が踊る音の合間に、気だるそうな返事だけが曖昧に聞こえる。
 家に帰ってきて緊張が解けた上に、充分に温まった部屋がそれを助けたのかもしれない。
 帰ってくる前に家主を感知するシステムあるけど、勝手に電気とか点くのが気持ち悪いからさ、切ってあったんだよなあ、センサー。
 しかし、なのはのヤツ、"アタシが帰ってきたばかり"の家が充分に温まっていることに、さして疑問を抱かなかった辺り、相当疲れていたのかもしれない。
 連絡をすっかり忘れていたことの、後ろめたさが無くても、なのはの態度は充分に納得がいく。
 なのはのこと。心配しすぎてし過ぎることはないって思うこともあるけど、今日ほどになると、気がかりなのは確かだ。
 でも、絶対に知られたくない、そんなに気にしてばっかりってこと。

「おーい、寝るなよ。これから飯なんだからな。寝たら起さないぞ。アタシ一人で食べちまうからな。ホントだぞ」
「う~ん……分かってまあす」

 ジュージューと油の跳ねる音は日本もこっちも変わらないけど、換気扇はほぼ無音だ。
 それでも、なのはが動いているだろう、音は耳に届かない。
 起きている気配はするんだけど、動いていないって事は、だらだらとソファーの上で寝転がっているに違いない。台所からの良い匂いを感じながら。
 仕方ない。
 さっと身体を温めるだけとはいえ、ある程度時間はかかるんだし、早めに風呂に入れなきゃいけない。
 空間パネルを出して浴室の操作をする。
 家の何処にいても操作出来るっていうのは便利だ。こっちの世界にはリモコンなんて殆んどない。
 洗面所が温まって、風呂が沸いた頃に起してやるとす――

「ヴィータっ、ちゃーん?」
「お、おおう!? ど、どどうしたんだよ、なのは」
「えへへ。びっくりした?」
「あったりめーだ。そんないきなり後ろに立たれたら誰だって驚くだろ」

 さっきとは違い、そこにはちょっと疲れながらも笑顔のなのはがいた。甘えるように頬を摺り寄せた。
 全然気付かなかった。
 そんな注意を逸らしたわけじゃないっていうのに、真後ろを取られるまで、全然。
 今度はアタシに気取られないようにしたっていうことだろうか。全く、人をからかう時に使う頭とか熱意を、もっと別のモンに使って欲しいもんだ。
 まあ、それと同じぐらい後進を育てたりするのに使ってたり、自分を高める努力は怠らないわけだから……うーん。
 なんだか多くの人が恩恵に預かりながらも、アタシには余りお零れがないような気もしないけど……気のせいか?

「このあっつーい杓文字で叩かれたくなかったら、さっさと風呂入って来い」
「まだ、もうちょっと時間かかるでしょ?」
「っても数分だぞ。その間にコート片付けたり着替えの準備して来い。そこまでは流石にしてやんねーぞ」
「は~い」

 残念~、と言わんばかりのニュアンスで、なのははアタシの頬を突っついて、そっと身体を離した。
 料理をしているせいか、訓練後にシャワーを浴びてきたせいか、いつもの良い匂いはしなかった。
 身体を離す時に動く空気に、それが漂うのに、それがないってことに少しだけ寂しいような気がしないでもない。
 そんなことを考えている後ろでは、面倒だなんだと言いながら片づけをしている声が届く。
 ちょっとだけ声にも元気が戻ってきた感じだ。
 どうだ、どうだと考えながらの頭は、その声を感じては濁った思考が少しだけ澄んでいくように思える。
 すっかり軽くなって、いつもの調子を取り戻したなのはの声を耳に心地よく感じながら、遅い遅い夕飯を作る手を進めていった。


 


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