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新婚なの! 12-2 (1)

 何だか、最近なのはの機嫌が良い。そりゃ良いに越したことはないんだけど、ベタベタしてくるもんだから困ったもんだ。
 なにが困るって、寝苦しくて、目覚ましの音をここ何日か聞いてない。目覚めが悪くって仕方ないんだ。
 目覚めが悪いといえば、夢見も悪くって寝た気がしないもんだから、拍車をかけることになってる。
 ただ、どんな夢だったかと言われても、思い出そうとしても何にも覚えてなくて、とにかく、何だかすっきりしない感覚ばかりがこびり付いている。
 ……これの感覚の詳しいところは、絶対なのはだけには知られたくない。
 今までなら、抱きついてくるのは、なのはだったのに、夢見が悪くなってから、どうやらアタシから抱きつきにいってるみたいなんだ。
 それも、なのはが心配――それが一番近い表現のような気がする――と思って抱きついてる……だと思う。
 離したら駄目というか、くっ付いてなきゃ駄目というか……説明できない。とにかく、そんな感じなんだ。
 何のことやら自分でも分からなくて、誰かに相談することも出来ないから、モヤモヤしたまま毎日を過ごす羽目にあってる。


 


「ヴィーっタ。いま暇かなー」
「……暇そうに見えないなら話しかけるなよ」
「うん。暇そうだね」
「はっきり言うのな、お前」

 三人娘の元気担当だ。
 ホントにいつも元気で良い子だけど、もう少し落ち着きを身につけたほうが良い。
 もう、子供じゃないんだし。

「ねえ。ヴィータの結婚指輪って、どこで買ったんだっけ?」
「ゆ、指輪? ああ、これか」
「そうそう。それすっごく素敵だから、どこで買ったのかなあって。ね、教えて」

 椅子に座ったままのアタシに、覆いかぶさるように迫ってくるものだから、話し辛くて仕方ない。
 左手を上げ、指輪を見せてやると、しげしげと見つめる。
 そりゃ、穴が開きそうなほどに。
 覆いかぶさられたままなものだから、首が痛くならない前に退いてもらおうと、店のことを思い出すんだけど……正直上手くいかない。
 三回も足を運んだはずなのに、店のことを何となくしか覚えてなくて、その名前すら思い出せない。

「あー、悪い」
「え~。まさか結婚指輪を買ったお店を忘れちゃったの?」
「……買ったのはアタシじゃねーし」
「旦那さんが知ったら泣くと思うよ? 私への愛はその程度だったの!? 私はこんなに愛しているのに! って」
「悪ぃけど、それは言わせねーよ。色々こっちにもあんだからさ」

 アタシの機嫌が余り宜しくない――当時の騒動を思い出して、ちょっとムッとしただけだけど――のを察知してか、すいと距離を取ってくれた。
 けど、用件はどうにか果たしたいようで、可愛らしく小首を傾げて、アタシをじいっと見つめている。
 ええい、世話の焼けるヤツだな。

「分かった。後でなのはに聞いとくから、明日教えてやるよ。それで良いな?」
「へえ。ヴィータって旦那さまのこと呼び捨てなんだ~」
「ん? なんだって?」
「えー? イメージ的に"あなた~"なんて呼ばないとは思ってたけど、呼び捨てなんだ~。しかも下の名前で。へ~」
「い、いや。勘違いすんなよ。アタシは付き合いが長くってだな。昔っからそう呼んでただけなんだよ。別に意味なんてねーよ」
「へえ。大恋愛の末だったのかな?」

 口角をにんまりと上げて、嬉しそうに笑ってる。
 なにを想像してるのか知らないけど、どうせ碌なことじゃない。噂好きのコイツのすることだから、色々聞きかじったことを頭の中で巡らせてんだろう。
 全く。どうしようもないヤツだ。
 アイツと一緒でその元気を別の方面に使ってくれ。決して悪い子じゃないんだからさ。

「あ、そういえば」
「なにかな。ヴィータ」

 噂といえば、とある事をふと思い出した。
 それは、二つともユーノから聞いたことで、今の今まですっかり忘れてたんだけど。
 その内の一つは、目の前で興味深そうにアタシを見つめている子も関係していて、確かめたい気持ちもちょっとはあるんだけど……どうしたもんか。
 この会話の流れなら自然かもしれないけど、なんだか変に意識しているみたいで嫌だし、勘違いされても――なにを? というのは別として――困る。
 ああ、どうしたもんかと悩んでいたら、そのせいで不自然に間が開いてしまった。
 この溜めのせいで、相手は何事ぞ? とばかりに目を輝かせている。……逆に聞きづらくなってしまった。うーん。

「あ、あのさ。お前って噂とか、そういう世間話、好きだろ?」
「う、うーん。どうかな? 人並みだと思うよ?」
「まあ、それでも良いんだけどさ……」
「なになに。随分悩んでるみたいだけど? 何か確かめたいことでもあるのかな? 大丈夫。私にどーんと任せなさいな!」
「あ、ああ。そんなら――」

 ゴクリと喉が鳴る。
 大丈夫。なに、知らない人のことを聞くんじゃない。自分の旦那の話じゃないか。全く不自然でもなんでもないぞ――と自分に言い聞かせた。
 何を大げさな、と思わなくもないけれど。

「アタシがさ。結婚したばっかりの頃の話だけど」
「ああ、うん。あの時は驚いたなあ。結婚するってこともそうだったけど、まさかお相手が、教導隊のあの人なんだからさあ。うん、そうそう――」
「あ、ああ。そんで、それでだ! それってどのくらい噂になってた?」
「――え? なに?」

 しまった。もっと聞き方があったろうと思ったけど、後の祭りだ。
 目の前では、きょとんとまあるくした目がアタシを見つめている。何を言ってるんだろう? という目だ。
 そんな目も、徐々に認識が追いついてきたのか、目尻が下がり、ニマニマと頬が緩み始めた。何ともだらしない顔だ。鏡でも突きつけてやりてえ。
 大体、放っておいたら、際限なく喋りそうなお前が悪いんだ。
 慌てて口を挟むもんだから、こんなことになっちまう。
 くそー。

「へへえ。ヴィータもそういうのが気になるお年頃になったんだねえ」
「うるせーよ。こう見えてもお前より年上なんだかんな」
「年功序列なんて流行らな……嘘嘘、冗談ですヴィータさん」
「……ああ。どうでも良いから早く教えてくんねーか。駄目なら別のヤツにするし」
「あー! 待って待って! ちゃんと答えますったら!」

 そう勢いよく応えてくれた割には、うーんと腕組みをして考え込んでしまった。
 ふざけた振りして、その裏ではちゃんと考えてくれてたんだろうか? ――いやあ、それはねーな。
 うんうんと唸る様子を横目に、ちらりとユーノの言ったことを考えてた。
 メンテの言う通りなら、耳に入ってても不自然じゃないと思う――と、ふと引っかかりを覚えたところで、目の前の腕組みが、ポン、と解かれた。

「そういえば、私はこの辺で聞いただけだった……気がする」
「この辺で? アタシの周囲ってことか。そんじゃ、ちょいと狭くねーか?」
「うん。それでね、どこで聞いたのかなーって考えたら、エッちゃんに聞いたんだったーって」
「エッちゃん?」
「ああ、えっとね。エスティマちゃんだから」
「あ、ああ……そういう風に言われてんのか、お前らの中では」

 うん! と胸を張って言われても困る。
 一応、位はアタシの方が上なんだからその辺きっちりしてくれ。友達と喋ってんじゃないんだぞ。
 やっぱり、アタシって舐められてんのかなあ。
 結構厳しくやってるつもりなんだけどな……足りないんだろうか、厳しさが。

「そうなんだよねえ。思い出してみると、珍しくあの子が噂集めてきてくれたんだ。うんうん」
「はあ。そんじゃ、お前が直に耳にしたわけじゃないんだな?」

 アタシの言葉にあっさりと頷いた。
 ふうむ。そうなると、アイツに問い質してみる必要があんのか。……嫌だなあ。
 そう思いながらも、一つ、疑問に思った。
 アタシの中の印象じゃ、アイツは噂好きというか、首を突っ込みたがりで、積極的にこういうことを、してそうな感じなのに。
 この仲良し組に言わせると「珍しく」となるらしい。
 なんだろうな、気になる……

「そういうこと。じゃ、指輪のこと、宜しくねー!」

 喋りたがりのくせに、あっさりと引き上げていった。
 なにか具合でも悪くなったんだろうか、と思案していたら、自分の唇にやけに力が入っていたのに気付いた。
 嫌だと考えてたのが表に出たせいだろう……多分。
 その機嫌の悪さが、自分に向いていると勘違いして――というところか?
 それなら悪いことしたな。
 うん、ちゃんと用件を済ませてやるとするか。いや、そうでなくても、するつもりだったけどさ。

「さて。どーすっかなあ」

 メンテのニヤケ顔を思い出しながら、聞くべきか聞かざるべきか、もう一度考えた。
 確かに気にはなる話だけど、だからと言って何がなんでも聞かなくちゃいけない、と言うほどでもない。
 それなら、もっと気になる――いや、気にしなきゃいけない話があるんだから。
 ただ、それは、おいそれと人には聞けない話だし……うーん、困った。
 午後からの予定をこなすために、聞くべき相手を思い浮かべながら、部隊室を後にした。


 


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