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新婚なの! 11-8 (3)

 その後は、世間話を一頻り楽しんだ。
 ユーノはどんな辺鄙な――そう言うと少し面白くなさそうにされた――遺跡を巡った話とか、その先の変わった文化とか、どうしても食べられなさそうな食べ物とか、そんな話。
 アタシは正直なところ、いうのは憚れたけど、なのはが最近――といっても同居し始めた辺りから――どうしてるかって話。
 最初は、あまり気乗りしなかったけど、話しているうちに、愚痴っぽくなったのか、なのはに対する不満みたいなものを、喋ってしまった。
 ユーノはニコニコと相槌を打っていたけれど、正直どんな気分だったんだろうと思うと、恥ずかしくなってきた。
 話はお互い、尽きなかったけれど、このまま一日潰すわけにもいかないし、頃合を見て席を立つことにした。

「はやて。戻ってこないな」
「整理しておいたとはいえ、量は多いから。一日で目を通すものじゃないからね」

 出してもらったお茶を片付けて、司書室を後にする。
 ユーノが指差すまでもなく、直ぐにはやてを見つけることが出来た。
 家族だし当然……と言いたかったんだけど、なんだか女子職員を侍らせてたから目立ってただけというのが――ううん、いいや。
 とにかく、ぼんやりと足場が光る、無限書庫の宙へ蹴りだした。

「おう、お二人さん。どないしたん?」
「はやてが中々戻ってこないからね。心配で見に来たんだ」

 さらっと嘘を吐く――はやては勿論分かってるだろうけど――ユーノに、アタシがどぎまぎしている間にも、二人の会話は続いていた。

「準備はどう? 予定通り進んでるみたいって聞いたけど」
「そやね。お陰さまで。あとは有能な新人ちゃんを見繕って~いうとこかな」
「その要求に応えられて、それでいて手のついてない子っていうと、随分難しそうだね」
「まあ、これでも少なくない人脈のおかげで、まったく見当もついてないって訳でもないんやけど」
「へえ、そうなんだ」

 それでも口調はのんびりしたものだった。
 はやても全く焦ってる様子もないし、目星は付いてるっていうのは、本当なんだろう。ユーノもそれを分かってるのが、その口ぶりから聞き取れる。
 どんなヤツなのか気になるけど、まだ時間は幾らかあるし、楽しみに待っていることにしよう。
 アタシの部下になるヤツかも知んないんだしな。
 そう考えると、早く知りたい気がしないでもなかった。

「ほいじゃ、そろそろ帰ろうかね」

 はやては、そういって振り返ると、ふわふわと宙を舞う本やら書類を手で片付け始めた。
 ……もう少し、ユーノと話す時間はあるみたいだ。
 それをユーノも感じたのか――アタシは遅かったみたいだ――、背中のアタシに、振り返らず話しかけてきた。

「ねえ、ヴィータ。なのはは陸の教導は多いの?」
「うーん、どうだろ。数としては多くないかもしんない。空の人間だし。ここ数回は担当してたみたいだけど」
「ふうん……」
「あんだよ。気になる言い方だな、ユーノ」

 考え込んだような雰囲気だったけど、直ぐに肩越しにこっちを向いた。

「あのね。最近はミッドの地上も物騒だから……気をつけてって」
「それと、なのはの教導となんか関係あんのか?」

 別に「物騒だから気をつけてね」というなら職業に関係なく、気をつけるべきだ。
 それともなんだ。"なのはだから"危ないとでも言いたいのだろうか?

「そういう訳じゃないけど。ちょうど耳にしたから気になって」
「……なにをさ」

 聞き返したアタシに対して、どうにも歯切れ悪げに口元をモゴモゴさせる。
 言いかけたんだから、最後まで言えよ。気持ち悪い。

「――あのね? ミッド地上に限った話じゃないらしいんだけど」
「あにさ」
「武装局員とかのね、襲撃というか……物騒な話が相次いでるらしくて。それなのに、表立って報道されてないって耳にしたから、それ、知ってるかなって」

 尚、歯の奥に物が挟まったような物言いのユーノ。
 その話が本当なら、多少なりと耳に入っても良さそうなのに、さっぱり。初耳だった。
 本当は声を上げて驚きたいところだったけど、誰が聞いてるか分からないんだし、全く知らなかったということだけ、しっかりと伝えた。
 ユーノの肩越しに見えるはやては、そろそろ片づけを終わりそうな雰囲気になってる。

「今回はどのくらいこっちにいるんだ?」
「う~ん。ある程度溜まった資料をはやてに渡すだけだったから……とんぼ返りかな」

 それが本当なのか口実なのかは図りかねるけど、取りあえず頷いておいた。

「お前も忙しいだろうけどさ。一回なのはに会ってやれよ。モニタ越しじゃないのも久しぶりだろ?」
「うん、出来るだけ早いうちにそうしたいな。ヴィータが言ってたこと、本当かどうか気になるしね」
「な、なに言ってんだよ。嘘なんざ吐いてねーぞ」
「ごめん、そういうことじゃないんだ。ただ、そんななのはを見てみたいじゃない」

 興味本位だよ――そんな風に念を押すから、余計に怪しく感じるんだ。
 でも、ユーノの願いは叶わないかもしれない。なんたって、フェイトの前では手料理を振舞ってたぐらいだかんな。
 ……やっぱり、猫を被ってるんだろうか。アタシ以外の前では。
 ちょっと、いや、大分面白くない。

「お待たせ、お二人さん」
「お目当ての物は見つかった?」
「そやね。"お目当て"のものは見れたかな? うん、無理して帰ってきてもらった甲斐があったわ」
「それは僕も同じだよ、はやて」

 やっぱり口実だったのかな、という思いを強くしたわけだけど、その意味も何となく分かった今では、下手に口を挟んだりしない。

「女子職員の無防備な姿を、もうちょっと見とりたいけど、私もそない暇な立場やないしね」
「はやて。そういうのは本人達のいないところで言った方が良いって……」
「せやね。変に意識されて丈が長なっても困るし」
「おほん。責任者の前でも、止めて欲しいな」

 ユーノにまで釘を刺され、はやては、明るく笑って誤魔化そうとしているけれど、身内としては恥ずかしい限りだ。
 若しかして始終こんな感じなのかな、と心配になるけど、そんな話は耳にしないし、ちゃんと弁えてやってるんだろう……多分。
 嫌だぞ。
 なのはみたいに、女の子に人気があって云々なんて、はやてはさ。
 別に、はやてに彼氏とか、そういう人ができて欲しいって訳じゃないけど。

「ほいじゃね。ユーノ君。今度暇なときに美味しいお土産、楽しみにしてるわ」
「はやてが何か奢ってくれるんじゃないんだね」
「はっはっは。こない美少女がお土産を待っとるやなんて、幸せやと思わへん?」
「そうだね。そう思うことにしておくよ」

 薄暗い無限書庫の中にあって、蛍光灯よりも品のある光を放つ足場を蹴り、ゆっくりと宙に身体を投げ出す。
 ゆったりと、低重力の不思議な感覚を味わいながら、ユーノに別れを告げた。

『ヴィータ。美味しいお土産もって遊びに行くから、楽しみに待っててね』
『おう、楽しみに待ってるぞ』
『ちゃんと、はやての分も用意してね』

 ちらりと横目で確認したユーノは、にこやかに手を振っていた。
 念話だったんだから、黙っていても良かったんだけど、小さく振り返って、手を振り返しておいた。
 どんどん小さくなっていくユーノ。
 光の加減か、直ぐにその表情を確かめることは出来なくなったけど、その"笑顔"に改めて責任重大だな、と想いを新たにした。
 でもさ、ユーノ。
 悪いけど、お前に言われるまでもなく、アタシはなのはを泣かせるつもりなんざねえさ。


 


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