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新婚なの! 12-4 (2)

 埃や汗で汚れた髪や身体をさっぱりさせて、自分たちのオフィスに戻ってきたのは、正午を大きく廻っていた。
 諸々の書類なんかを作らなきゃいけない――分隊長が大変なぐらいだけど――から、休んでる暇はないんだけど。
 喉の奥に、魚の骨がひっかかったみたいな違和感を、"勘違い"にするために聞いたことが、その作業の手を重くしていた。
 早く片付けて帰りたいばっかりだってのに、遅々として頭は回らなくて、それが余計にイライラさせるし、違和感をより大きく思わせた。

「またあの話か……」

 頭の中で渦巻いていたことが、口から漏れ出る。
 モニタに映し出された書類は半分ほどしか埋まっていない。
 コレを片付けないことには帰れないわけだけど、それよりも隊長から聞いた話が、アタシの頭に靄をかけていた。

「AMF、なあ」

 ここ幾らかで、よく耳にするようになった言葉を反芻する。
 ベルカ式の使い手を要望したのは――決して大きな声で言えない、と注釈つきで――、AMF下での有効な戦力が欲しい、と。
 要請した本当のところを言えないってことは、その原因は秘密にされてるってことかもしれない。
 どうしてだろう?
 ミッド式の使い手だと、下手をすれば手も足も出ない可能性だってある。そんな危険な現場に隊員を放り込みたくはない。
 だから、アタシ達本局の、しかもベルカ式の使い手を要望したんだろう。
 それは分かる。
 けど、犯罪組織が――しかも、決して大掛かりではない――あんなものを手軽に使えるかもしれないって状況は、混乱と不安を呼ぶかもしれないけど、知らずにいて、対抗できない方が問題だ。
 こっちから出向いている状況では、まだマシなものの、それをもって乗り込まれた世界にしてみたら、堪ったもんじゃない。
 そうは言っても、直ぐに対応しろと言われて、出来るもんじゃないってことは分かってる。
 だから、今のところ、偶発的といえる程度の件数においては、今回みたいな方法のほうが安上がりだってのも分かる。
 でも、ベルカ式が有効ってのは、ミッド式に比べての話だ。ある程度のレベルじゃない限り、ベルカ式だって、AMF下では有効な手立てを持たない。
 そんな事情を知らされないまま、現場に放り込まれ、万が一のことがあったんじゃ、こっちだってやりきれない。
 今回はそうじゃなかったけど、もし、AMFを使う相手がいると分かっていれば、連れて行けないヤツだっているんだ。

「……なんでいなかったんだろうなあ」

 一応、使う人がいないこともない魔法――AAAランク防御魔法だから難しい――だけど、今回の相手の中で使っていたヤツはいなかった。
 となると、以前から目撃例のある、ガジェットドローンなんかに積んであるAMF発生装置によるものだろうか。
 ただ、今回の現場ではそれすらも発見されなくて、要請した側にしてみれば、肩透かしを食らったというか、要らない借りを作ってしまったと思いたくなる状況だと思う。
 それでも、今回の連中がAMFを使用した例があって、それも常用だったはずだ。そうじゃなきゃ、あれだけ要求しないはずだし。
 それともう一つ。
 そんなAMF発生装置なんていう物を、扱えるような大きな組織には見えなかった。確かに大所帯ではあったけれど。
 人間や動物を初めとした密売組織で、技術力があるタイプじゃなかったし。
 いうなれば、仲介屋というか、便利屋というか――

「……親玉がいんのかな」

 今でもフェイトが追ってるんだろうけど、聞いた限りじゃ目星はついてないみたいだし、厄介な相手だ。
 モノ自体は弱いとはいえ、AMFを発生させられる機械兵器なんてものを量産できるヤツが、そこらにばら撒き始めたら面倒ってレベルを越えてくる。
 今回の連中が、一体どういう仕組みで、それを持っていたのかは、捜査と取調べが進めば、はっきりするだろうけど。
 それでも不安要素は、減るどころか増すばかりだ。

「あら、ヴィータさん。難しい顔をしてどうなさいましたの?」
「……ん? お前か。ちょっと考えごとな」
「ふうん。もし宜しければ、相談に乗っちゃったりしなかったりしますわよ」
「あ、ああ。そうだな」

 考えごとをしていたのに、メンテの声はいつもと違って、しみ込むように耳に入ってきて、全く驚くことがなかった。
 そのせいで、いつもなら断ってしまうだろう提案にも、なんとなく頷いてしまった。

「この間のさ。AMF対策の合同訓練のことだけどよ」
「ええ。大掛かりだった割には半ば企画倒れだったあれですわね? それが?」
「陸の連中はさ、なんで乗り気じゃないんだろうなあって」

 アタシ達と違って、陸の人間は、大小様々な事件の処理に追われている。
 大きな事件の手掛かりってのは、大体小さな事件から掴むもんで、その"小さな事件"に初めて触れるのは陸の人間だ。
 AMFを使った犯罪組織が現れている、と海の連中が認識するには、そうと言わせるだけの件数を、既に陸の連中が接触しているってこと。
 どの世界も、その多くをミッド式の魔導師が占めるなかで、その存在は脅威のはずだ。
 今回みたいな提案は、陸から出てきても良いというか、その対策費用を要求するべきなのに、腰が重くならざるを得ない本局が先に動いたっていう、珍しい事態になっている。
 ―――そんな様なことを、簡単にメンテに説明した。
 勿論。アタシはその辺の事情に"詳しくない体"で話したんだけど。

「それで、なにが問題なんですの?」
「何がって言うか……今回のアタシ達の任務だよ。ベルカ式が多かったろ?」
「ああ。そう言われてみればそうですわね」

 本当に今初めて気付いたかのように、手をポン、と打った。
 コレは怪しい――直感とも言うべきものがそう告げている。
 コイツが気付かないわけがない、ってのが理由といえば理由だ。情けないところだけど。

「ベルカ式の使い手を、一々レンタルするより、AMFの対策を自分たちでしたら良いじゃんか。こっちからじゃ、出向くのに時間かかるし」
「そうかしら。レンタルの方が安上がりですわよ。一から訓練するなんて、コストが掛かりすぎますもの」
「んでもなあ。今回……は違ったけど、そこらで使い始めたらアタシ等が幾らいても足りねーぞ?」
「さあ。そんなこと仰られても、考えるのは私たちの仕事ではありませんし」
「そんなこと言って。取り返しのつかない事がおきてからじゃ、遅いんだぞ」
「まあ、そうですけど。そんなこと、私たち下っ端の気にすることじゃありません。お偉いさん方が、頭を悩ませることでしょう?」

 しれーっと答える辺りが嫌味ったらしい。

「ところでヴィータさん。若しかして今回の任務には、AMFを使う相手がいたということですの?」
「―――は? い、いや。隊長に聞いてみたけど、何にも言われなかったぞ」
「へえ。そうですの」
「な、なんだよその顔は」
「いえ。構成員からそこまで想像できるなんて、流石私のヴィータさんですわ、と感心していたところですの」

 アタシの言葉を全く信用していないとでも言いたげな顔だ。
 それと、アタシはお前のものじゃねーぞ。

「例えば。ヴィータさんの推測が正しいとして、そういうことが私たちに知らされていないというのは、少し面白くありませんわね」
「だ、だろ?」

 その「例えば」ってところにアクセントを置くのが、いかにも嫌みったらしい。
 なんだろう。今日のコイツは特に意地悪だな。

「幾ら私たちでも、急にAMF下に放り込まれれば対応できませんもの。この若い身空で死にたくはありませんし」
「暗に自分が優秀だって言いたいのか? まあ、それには反論しないけどさ」
「ほほほ。お褒めに預かったところで。ヴィータさんが、そこまでこの世界の未来を憂いていたことに、驚きを隠し切れませんわ」
「バカにしてんのか」
「いえいえ。新婚ほやほやで、明るい未来に夢いっぱい、頭の中がピンク色なってやしないかと、心配していたもので。ホッと一息、安心しているところですのよ」
「……それはそれで馬鹿にされてる気がするぞ」

 ニヤニヤしているその面を、引っ叩いてやりたいところだけど、グッと我慢した。
 元々身長が高めのコイツには、普段から見下ろされてばかりで、しかも今は座っているせいもあって、その差が一段と開いている。
 人を見下ろすってどんな気持ちだろうなあ、なんて考えながらも、やっぱりコイツに相談なんてするんじゃなかったと、大きく後悔した。
 あと、バカにされてる気がする、じゃなくてバカにされてた。
 へん、残念でした。ピンク色なのは、なのはの魔力光だ。アタシは違うぞ。

「ところで。ヴィータさんは、確か八神特別捜査官のご家族でしたわよね」
「んだよ急に。……そうだけど、それがどうかしたかよ」
「やっぱり色々情報が入ったりしますの? 家族ですから、そういう話が上ることもありますでしょ?」
「残念だけど、それはねーよ。家族でもその辺はしっかり線引きしてる」
「ふうん。ヴィータさんでも、お零れに預かれるわけではないですのね。残念」
「へん。知ってたとしてもお前には喋らねーから安心しろ」

 ヴィータさん冷たい! ―――とか言って、よよよと泣き崩れる振りをするのが鬱陶しい。
 大体、噂話ならめっぽう強いらしいお前が、疎いアタシから何を聞き出したいって言うんだよ。
 それにだ。はやてから教えてもらえるような情報が、お前の欲しがるものだとはとても思えない。詰まんない仕事の話ばっかりだぞ?
 いや、仮に欲しがったとしても、教えてやれないけどな。意地悪とかじゃなくて。
 本当のところ、今でもちょくちょく聞いたりするんだけどさ。規則違反だし、バレたら大変だ。
 特に、お前ったら口が軽そうだしな。

「随分な言われようですわね」
「へっ?」
「私だって、下世話な噂話ばかりに詳しいわけじゃありませんし、偶にはお堅い話が聞きたいときもあります」
「へ、へえ。じゃあ、今度なんか気になったら頼りにさせてもらうぞ。良いのか?」
「ええ。ヴィータさんのご所望されるのでしたら、どのような内容でも応えてみせますわ」

 妙に自信満々に振舞うけれど、どうせハッタリだろう。
 何でも聞いてくれ、なんて胸を張って、アタシに何かを聞かせようと付き纏うもんだから、精神的に疲れちまった。
 この調子だと、ヘタなこと聞いたらなに要求されるか分かったもんじゃない。
 コイツの情報網を使うことは、多分この先ないだろう。


 


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