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新婚なの! 12-4 (3)

 急な任務だったとはいえ、日付を跨いでしまった上に、帰宅は夜遅くになってしまった。
 すぐに帰ることが出来ないだろうって思ってたから、飛ぶ前に連絡は入れたし、実際その通りだったんだけど……何故か帰りにくかった。
 それも、こっちに帰ってきてから直ぐにメールをチェックしたのに、なのはからは一件も入っていなくて、アタシを不安にさせたから。
 何かあったんじゃないか、とか色々悪いことばかりが頭に浮かんできて、確認する為に早く帰りたいはずなのに、足は重たくなるばかりで、中々家に着かない始末。
 本当に何かあれば、アタシのところに、誰かしらから連絡があるに決まってるのに、全然考えが及ばなかった。

「……ただいま」

 いつもの倍以上の重さに感じる玄関を、やっとの思いで開けると、中は真っ暗で、リビングがどうなっているか、ここからじゃ確認できなかった。
 玄関だけが明るくて、奥に進むに連れて闇が濃くなっていき、その闇はなにか全てを飲み込んでしまいそうで、矢鱈と不安をかき立てる。
 靴を揃えることなく家に上がり、妙に響く足音と同調するように、湧き上がる不安を押し殺しながら、リビングの明かりを点けた。

「―――誰もいないじゃんか」

 がらんどうとしたリビング―――エアコンが効いていない以上に、この部屋を寒く感じさせる。
 冷たいフローリングの上を歩いて、人の気配のないソファーに荷物を放り投げる。冷蔵庫を開けると、家を出たときに時間を止めたような光景がそこにあった。
 なのはは帰ってきてないみたいだ。いや、そう判断するのは早計かもしれない。
 一日空けたことに、なのはが仕返しとばかりにどこかに隠れてるのかもしれない。レイジングハートで録画してる可能性もある。
 幸い、と言って良いのか、余り部屋数も多くないし、元々アタシの家だ。人が隠れられそうな場所も全部分かってる。
 魔法を使ってまでは隠れないだろうし、偶にはなのはの悪戯に付き合ってやろう。
 そんな気持ちに切り替えて、逸る気持ちを抑え、冷静に家中を探索することにする。


  ◆


「…………いねえ」

 家中ひっくり返したし、アイゼンにも探索かけさせたけど見つからなかった。
 家捜しした後に、ロビーに問い合わせれば、なのはが出入りしたか分かるってことを思い出して、慌てて聞いてみれば、なのはは帰ってないとのことだった。
 バカみたいだった。
 なのはがどっかで見てるかもしれない、なんて居もしない人間の視線を意識しつつ、なのはの悪戯に全く気付かない素振りをして、心配するかのように振舞ってまで探し回ったってのに。
 そんな風に探している間に、見つけたら何を言ってやろうか、とか、どんな仕返ししてやろうか、とか考えてたのも馬鹿らしい。
 遅くなったから晩ご飯をどうしようかとか、食べに行く時間じゃないなとか、いっそのこと今日はコンビニで済まそうかとか、そんな予定をこっそり立ててたのも馬鹿らしい。
 馬鹿だ、バカだ、馬鹿だ!
 疲れた身体で、なのはのコトばっかり考えてたのが無駄すぎて、そんな自分が情けなくて……
 とにかく腹が立って立ってしょうがない。

「なのはの馬鹿タレ!」

 ソファーに思い切り飛び込む。普段は自分が禁止してるんだけど、知ったこっちゃない。
 ぼすん、と音がして埃が舞ったことだろう。ソファーが、幾らか床を動いたかもしれない。どーせ掃除すんのはアタシだし、このぐらいじゃ下の階には響かない。
 制服に皺が寄るのも構わずに、ソファーでごろごろして、このイライラが小さくなるまで、一頻りうつ伏せのままで過ごした。

「…………寝ちまってた、みたいだ」

 妙に身体が重い。
 意識を、水底から引き上げるような感覚と、それに身体がついてこない違和感に、しばらく身を委ねる。
 段々と意識と身体の感覚が合致していく中、横になったまま時計を眺めると、思い切り、日付が次の数字になってる。草木も眠る丑三つ時ってヤツ……だったかな。
 変な寝方したせいで、身体が痛い。寝違え程ではないけど、結構痛い。
 そう言えば、寝違えって首ばっかりで、他の箇所ってなりにくいのか、ならないのか。どっちなんだろ? なんて特に意味のないことを考えつつ、身体を起こした。

「それもこれも、全部なのはのせいだ。なのはが帰ってこないのが悪いんだ」

 しかも連絡の一つもない。
 普段、必要もないときには連絡してくるくせに、こういう肝心なときに、メールの一本も寄越さないんだから腹が立つ。
 僅かな期待とともにメールを問い合わせてみるけど、代わりにやってくれたアイゼンは何も言わない。なのはから連絡は依然ないんだろう。
 一体なんなんだ。
 なんで何にも言ってこない。
 アタシの声が聞きたいとか顔が見たいとか、何かあるだろ! 通信できなくてもメールの一つぐらい打つ時間はあるだろ!
 ああ、腹が立つ!

「くっそう。こんなに興奮しちまうと、寝られねーじゃねえかよ……どうしてくれんだ」

 明日は休みじゃない。
 あと数時間もしたらまた出勤だ。
 このまま本局にとんぼ返りして、向こうで仮眠室を借りた方が良いかもしんない。
 なのはと入れ違いになるか、アタシの出勤時間ギリギリに、荷物だけでも取りに帰ってくるかもしれないけど、そんなの知ったことじゃない。
 もし文句言ってきたとしても、それは連絡の一本寄越さないお前が悪いんだ!って言ってやるんだ。

「なのはめ。帰ってくるなら今のうちだぞ。連絡入れるなら今のうちだぞ」

 ぶつぶつ文句を言いながら、制服を脱ぎ、皴取りをするためにハンガーにかける。
 髪を解きながら冷蔵庫の中身を思い浮かべ、何を食べようか考える。
 軽く風呂に入ろうか。それともやっぱり本局で風呂を借りるか……向こうなら食堂もあるし、何かと便利だ。
 どうしよう。どうするか。
 今すぐ家を出るには早すぎる。だからと言って、このままここでノンビリ時間を潰すのは面白くない……面白くないんだ。

「……はあ。もう良いや」

 時間を潰しても潰しても、一向に、なのはから連絡はない。
 遅すぎる晩ご飯も、早すぎる朝ご飯も食べず、風呂にも入らず、待ってたっていうのに。
 よく考えると丸一日なかったんだ。今ここで小一時間待ったところで、なのはからタイミングよく来るはずがない。
 時間を気にしつつ、掃除をしたり洗濯したり――こっちの世界は防音ばっちりだから大丈夫だ――していても、結局なにもなかった。

「もう行こう。このまま家にいて、なのはと鉢合わせになったら、休む時間なくなっちまうもんな……」

 疲れて帰ってきたなのはの世話をすることを考えると、それだけで疲れる。
 ここは、なのはと顔を合わせて、余計な疲れを持ち込まなかったことをラッキーに思うことにしよう。
 ああ、やっぱり普段の行いがモノを言うんだな。アタシは運が良い。
 ……運が良い。運が……良いんだ。

「じゃあな、なのは。今日帰ってきたら絶対説教だからな。ちゃんと連絡しないせいで、アタシがどんだけ心配したか教え込んでやる」

 制服の袖に腕を通し、コートを着て、エアコンを切る。
 明かりを消して、小さく足元で光る明かりを目印に玄関までいって、揃えられてない靴を履いた。
 玄関を開けると、チクチクとする冷たさを纏った空気が、アタシの頬を撫で、思わず首をすくめてしまう。
 ガチャン、と小さく音を立てて玄関が閉まると、同時にロックが掛かる。
 その音が、暫く――といっても一日以上空けることは少ないんだけど――家に帰ってこないんだな、と思わせる。
 だんまりを決め込んだ玄関ドアが、誰かみたいで無性に腹立たしいもんだから、イーっと憎たらしい顔をして出勤することにした。

 


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