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新婚なの! 12-5 (1)

「ヴィータ。なのはちゃんとの新婚生活は上手くいっとるかな?」
「……またその話?」
「娘の結婚生活が幸せに満ちたものか。親として心配するのは当然やないの。それやのにヴィータったら、酷い……!」
「……この前は姉だって言ったじゃんか」

 呆れた風なツッコミに対して、はやては知らん顔して話を続けるもんだから、アタシは適当に相槌を打っておいた。
 上手くいってるもなにも、「結婚」という儀式というか行事というか、書面上の話というか……そういうのを間に挟んだってだけで、特別変わったことはしてないし、そんな変わるもんでもないんだから、今まで通り"上手くいってる"に決まってる。
 ――と、そうは言ってみるものの、全く心配の種がない訳でもなく、なのはのことは注意深く見守っておかないと駄目って状況は相変わらず。
 その心配の種っていうのも、最近チラチラと、顔を覗かせていて、どうにも気になってしょうがない。
 その"心配の種"というのも、単に調子を悪くしているだけ――人間だから色々あるだろうし――なのか、それともアタシが心配する内容なのか。今一、図りかねている。

「まあ、なのはちゃんもヴィータがついてくれてるんやから、安心やわね」

 適当に相槌を打ってただけなのに、はやては一人納得してしまったようだ。
 ニコニコとしているもんだから、アタシは一言だけ言っておくことにした。
 いい加減に流してた癖に、やっぱり誤解というか、勘違いされたままでも困るし、最低限のことは言っておかないと。

「アタシがついてるからってよ、無茶されても困るんだけどさ。四六時中、一緒にいるわけじゃねーんだから」
「ふうん。……甘えてるんやよ、それ」
「甘えてる?」
「そそ。ヴィータちゃんが何とかしてくれる~って」
「え~」

 はやてが嘘を言っているとは思わない。きっと、はやての言う通りなんだろう。
 なんだ、癪だな。
 アタシが一緒にいるせいで、なのはが余計に無茶してるみたいじゃんか。
 いや、はやてがそう言ってるって意味じゃないけど、何だかそういう風に聞こえちゃった。
 それに、本人に確かめた訳でもないし。
 でも、やっぱり……癪だな。

「あ~。じゃあ、アタシははやてに甘えることにするー」
「おお、よしよし。ヴィータは甘えん坊さんやねえ」

 人目もはばからず、はやてに抱きつくと、頭をよしよししてくれる。
 身体に回る腕の長さは、変わっちゃったけど、この髪の毛を撫でる、手の平の柔らかさは変わらない。
 久しぶりに感触に、なにか温かいものが胸の中にじんわりと広がっていくような、そんな安堵感を覚える。
 こうしてると、同じように抱きしめるって行為にも、色々意味があるんだな、なんて今更な感想を抱いたりした。
 はやてにしてもらうと、安心するし、幸せな気持ちになる。
 こういうのは、なのはには……ない、こともない。あるって訳じゃねーけどさ。ホントだぞ。

「む~」
「どうしたん、ヴィータ。なんやご機嫌斜めやね?」
「……べっつに。なのはのこと考えてただけ」
「私に抱きつきながら他の女のこと考えるやなんて! 酷い! ヴィータはいつからそんな浮気性な子になってしまったん!?」
「そ、そういうこと大声で言うの止めてくんねーかなあ……」
「いーやーや。ヴィータがそない悪い子なら尚更離したらへーん!」
「むぎゅ!」

 はやてにぎゅーっと抱きしめられるのは悪い気がしない。全然。
 別に、なのはに同じようにされても悪い気がするわけじゃないけど、なんか違うっていうか……喜んだりすると負けた気がする。調子に乗るし。
 だから、なのはに同じようにされたときの事を考えてたら、知らないうちに不機嫌っぽくなった。それだけ。
 でも、それをはやてに言うと、また話のネタにされるし、なのはの耳に入ったりすると面倒だから言わないでおくんだ。

「なのはちゃんも普段からこないしてくるんか?」
「んー……まあ、してくるかなあ。何かにつけて抱きついてくるもんだから、困ってるんだ」
「そりゃ仕方ない。私だってヴィータが近くにおったら、こないな感じでぎゅーっとしたなるもん」
「で、でもさ。はやてはアタシの嫌がることしないじゃん」
「なのはちゃんも、ヴィータが嫌やないから、抱きついてると違うの?」
「ち、ちげーもん。忙しいときとか、こっちにも都合あんのにさ。あと時と場所を選ばずにしてくんのも困る」
「へえ。時と場所を選ばないかんほど、色んなとこで一緒におるんやね……羨ましい」

 そんなの羨ましがらなくて良いって!―――そう言おうとしたのに、はやてが腕に力を込めるものだから、何だか口に出来なかった。
 その時のはやての「ぎゅー」の意味が、なんだか違った気がしたから。
 アタシとしては……羨ましがってもらって良いかなって。
 押し付けられた胸の感触に、どきどきと、はやての鼓動が伝わってきて、制服越しだけど、温かかった。

「ヴィータはエエ子やね。姉としては鼻高々や」
「えへへ。それに引き換えなのはのヤツはさ。桃子さんの評判を落としかねないことばっかりするんだ……はあ」
「う~ん。ホントなのはちゃんは上手いこと使い分けてるんかね?」
「なにが?」
「あんな。知り合ってから随分になるけど、そないだらしない事もないし、しっかりした子やよ。せやけどヴィータの話聞いとると……」
「ま、まあ。はやての言うことも分からないではないけどさ」

 頭の上ではやては、うーんと首を傾げて悩んでるみたいだった。
 ホントになのはのヤツは、アタシとフェイトぐらいにしか、そういう一面を見せていないんだろうか?
 人に言わせると、それは名誉なことらしいけど、見せられる方にしてみればイイ迷惑だ。……フェイトは違うかもしんねーけど。
 そりゃさ、いつでも気を張り詰めて、しっかりしてろ、とは言わない。
 でも、そこまで本性隠さなくたって良いのに……と思わないでもなかった。
 だって、はやても親友だろ? なのは。

「ヴィータの場合。私の教育というよりもヴィータ自身がエエ子やったから、というのが大きい気もするけどね」
「そ、そうかな。アタシは、はやてと一緒にいたから……だと思ってる。ううん、絶対そうに決まってる」
「ほほほ。そう言うてくれると姉冥利に尽きるわね。私と一緒におったからやーって」
「えへへへ」

 はやてがニコニコ、ニッコリ。頭を乗っけながら、アタシの頭を撫ぜてくれる。
 本当に嬉しいみたいで、その気持ちが、撫でる手の平から伝わってくるみたいだった。
 ホントに優しい気持ちになれる。
 気持ちがささくれ立ったときとか、ホントに落ち着く。
 優しくて、温かくて――

「可愛いねえ、ヴィータは」
「そ、そうかな。はやてが言ってくれるのは嬉しいけどさ」
「こうやって私が撫で撫でしとるときと―――アイス食べとるときかな? 可愛い顔なんは」
「わ、笑わなくなって良いじゃんかー」
「ごめんごめん。私の作ったご飯食べてる時もやったね~」
「ち、ちげーったら。そういう意味じゃないって~」

 わははっ、と笑うはやてに、思わずむーっと頬を膨らませてしまうけど、更に笑われてしまった。
 ちょっと子供っぽかったかなと思わないでもないけど、やっぱりというか何というか、はやてと一緒にいると気が緩むのかもしれない。
 一緒に暮らしてた、海鳴にいた頃みたいな、そんな感じに。

「うんうん。ヴィータが元気そうで良かったわ。ちゃんと心配してるんやよ?」
「うん、大丈夫だって。今まで通りだからさ」
「こうやって私が撫でたるように、ヴィータもなのはちゃんの事を安心させとるんやろうねえ」
「……そ、そうかな」
「そうやなかったら一緒におらへんと思うよ、なのはちゃん?」
「そ、そっかな」
「うん。なんや、大変みたいやしね……」
「わ、分かってるって……なのはが大変なのはさ」

 それに対する、はやての返事は、なにやら重苦しく感じられた。
 アタシはアタシなりに、なのはの大変さを分かってるつもりだし、それに対して、出来るだけのことをしてやりたい。
 けど、今のはやての返事にこめられた意味は、なんだか、今のアタシじゃ駄目だって、違うんだって言われてるみたいに思えた。
 最近様子が変なのは、やっぱり何かあんのかな――
 家に帰ってくると元気っぽくて、抱きついてきたりするけどさ。時折見せる"疲れ"の端々は、そういう意味なのかもしれない。
 そう思うと、途端に自分のしてることに自信が持てなくなってくる。
 なのはは、本当はどうなのかって。
 喉に引っかかった魚の骨みたいだ。

「……アタシはさ」
「うん?」
「はやてみたいになれないのかな」
「どういうこと?」
「なのははさ。アタシとフェイトには本性……というか、ぐたぐたして見せたりするけどさ。アタシがはやてにするみたいに、安心させてやれてんのかなって」
「大丈夫やって。そうやなかったら帰ってこーへんって。そう言ったやろ?」

 別に、はやての言うことを信用しないわけじゃない。
 でも、それだけじゃ、膨らみ始めた不安を抑えられなかった。

「……アイツ。帰ってこないとき偶に連絡寄越さないからさ。結婚する前辺りに、口酸っぱく言い聞かせたんだけど」
「なに。またしてくれへんようになったんか?」
「……ついこの間さ、一回そういうことがあった」
「ふうん。悩めるお嫁さんってわけか」

 あの日。帰ってきたアタシに「ちょっと遅くなるけど帰れるから」とメールがあった。
 帰ってきたらちゃんと説教してやるんだって、そう意気込んでたんだけど、結局それは意気込みだけで終わってしまった。
 疲れてる―――そうは思わなかった。
 けど、何というか、滲み出るものがあったというか、やけになのはが小さく見えたから。そんな背中を見たら、何も言えなかった。
 そんな、少し前の違和感が強く蘇ってきた。
 なのはは、怒られると思ってたんだろう。色々言い訳というか、アタシのご機嫌を取ろうとしていた。
 それを「そんなことするぐらいなら、早く帰って来い」とか「今日は許してやんないからな」とか、言えばよかったのか。
 結局、アタシがしたのは「疲れを残すと、みんなに迷惑かかるぞ」といって、早く休ませることだけだった。
 今から思えば、もっと他に言い方があったろうと思う。
 優しくするというか、気遣ういうというか。
 こんな分かりにくい態度じゃなくて、言葉にしても良かったんじゃないかって。
 なのはは、ホントはどうして欲しかったのかって。

「なあ、ヴィータ。私思うんやけどな? ヴィータがそない弱気やと、なのはちゃんも安心できへんのと違うかな」
「……そうかな。アタシ、弱気かな」
「ヴィータの弱気が伝染ってまうよ。こういうとき、ヴィータが引っ張ってあげんと。なのはちゃん、結構だらしないんやろ?」
「……うん」
「今、なにを考えてたのか分からへんけど、もっと自分のすることに自信をもたんといかん。なのはちゃんは、そういうヴィータを好きなんやから」

 はやての言葉は力強く、アタシの胸を叩いた。
 確かに今一寸だけ、弱気だったかもしれない。
 反省するのと後悔するのは違う。今のはきっと後悔だけだったんだろう。それが、表情に出てたのかもしれない。
 だから、はやては指摘してくれた。アタシのことを"一番"分かってくれてるから。
 はやては、アタシのことも、なのはのことも分かってるみたいで、敵わないなあ、やっぱり頼りになるなって思いながらも、少し悔しかった。

「はやてにこうして貰ってると、弱気になんのかな」
「ふふふ。ヴィータは強い子やからね。たまーにこうやって誰かに甘えるのが私かと思うと、名誉なことやと思うわ」
「うん。じゃあ、名誉だって思ってて」
「そやね。名誉ヴィータ賞やね」

 はやての身体に回す腕に、力を込めた。
 はやては、抱き返すことで応えてくれた。
 気が緩んで、それが弱気に繋がったんだろうと思う。でも、それは今だけ。はやての前でだけ。
 今日もなのはは帰ってこないらしいから、こうやってはやてに会いに来たんだ。だから、明日には元気でいようと思う。
 アタシは自覚ないけど、はやてが「なのはは、そういうアタシを好きだ」っていうから。
 なのはを元気にするためには、まず、アタシが元気でいなくちゃいけない。
 少し癪な気もしないでもないけど、アタシはなのはの嫁なんだからさ。


 

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