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新婚なの! 12-6 (1)

 毎日々々、訓練ばっかりで大変だ。局に入ってばかりの頃に比べれば楽――慣れの問題で、気持ちの問題が大きい――だけどさ。
 そして訓練でくたくたになったところで、備品やなんかの申し送り書を揃えるのが面倒でしょうがない。
 数が合わないとか、壊しすぎだとか何だかんだ色々文句言われるし、それを考えると、訓練中からうんざりしてしまう。
 今じゃ慣れたもんだし、位も幾分か上がったから良いようなものの、当時のことは思い出したくも無い。

「フェイト。こっちに戻ってくるのは久しぶり……ってほどでもないか」
「うん。長いときは一ヶ月以上離れることもあるけど、最近は少ないかな。頻繁に戻ってきてるよ」
「そっか。何にせよ、平和が一番だよな。海が騒がしいようじゃ、こっちもおちおち飯も食べられないし」
「あははは。努力します」
「その分、協力は惜しまないからよ。アタシにゃ部隊を動かすほど、権限はないけどさ」
「ヴィータを指名出来たら良いのにね」

 本局のドックに向かう、大きな通路をフェイトと歩く。
 往来の激しさは、本局内でもトップクラスじゃなかろうか、と思うほどで、海やら陸やらの武装隊に、内勤組が忙しそうに駆け回ってる。
 各世界での任務を終え、または、各世界へと赴くところなんだろう。
 辛いこともあれば、達成感もあったり、どちらかというと心重くすることが多いけれど、それでも次の任務はやってくる。
 ドックで補給を受けたりしている内は、束の間の休息ってところだろう。
 しかし、行きかう人たちの足取りや表情を見れば、休息なんて言葉は縁遠そうで、ピリピリとした空気を感じる。ここを離れれば、多少は緩むかもしれないけど。
 アタシ達は、そんな人たちを横目に、場違いなほどノンビリと歩いていた。

「ヴィータは時間よかったの? 私は少しは余裕あるんだけど」
「ああ、大丈夫だ。普段の行いがモノを言ったってところでさ。時間は作ったって程じゃないんだ」
「ふうん。優秀な同僚さんがいるんだ」
「……まあ、な」

 ニコニコ。
 フェイトは言うけれど、きっとお前の考えてることは違うと思う。
 アタシの行いがいいから"優秀な同僚が側にいる"って言いたいんだろうけど、単に普段の貸しを返してもらったってだけ。
 フェイトは執務官になって、少し擦れたかと思いきや、本質はさっぱり変わらないようで、安心するやら心配するやらで、こっちも大変だ。
 そんな、変わっていないと思いつつも、すっかり伸びてしまった背丈に、伸びた髪。視界の端で揺れる金色のそれに、時の流れを実感していると、フェイトの船が見えてきた。

「あれがそうか? 随分立派じゃねーか」
「うん。今の主力だからね。本局では、次期主力艦の配備が徐々に進んでるけど、まだ当分はこれだよ」
「へえ。かなり大きいけど、次のはもう一つ大きくなるんだろ?」
「機動力が大切だから、拠点としての機能を増やす方向に進んでるんだって。でも、これだけ大きくても、動かす人員は減少傾向なんだよ?」
「ふうん。そういやアースラも、最低限必要な人数を聞いてびっくりした覚えがあったなあ」
「直接、艦を使って戦ったりすることは少ないから、そんなに要らないんだ。それでもビックリしちゃうよね」

 フェイトが少し寂しそうに、感傷に浸るように語気を弱めた。
 アースラは来年には退役するそうで、それを思い出したんだろう。
 アタシ達――所謂、八神家の面々――も世話になっていて、それなりに思い出があるけど、フェイトにしてみりゃ第二の家みたいなもんだしな。
 詳しい顛末は知らないけど、リンディさんに引き取られるまで。それから執務官になるまで、随分長く世話になった艦らしいし。
 思い出がいっぱい詰まってる――アタシ達にしてみりゃ、海鳴に置いてきた実家みたいなもんだろう。
 それが立派に役目を終えたとはいえ、解体されちまうとなりゃ、寂しいに決まってる。
 フェイトは自分で艦長やってみたいとか、思ったことあるのかなあ。

「内装は余り変わらないでしょ?」
「おう。アタシらは、トランスポート使っての移動が殆んどからさ。こういう艦はほとんど使わないし、見る機会が少ないんだけどよ。確かにおんなじ感じだな」
「居住性が増したのは良いんだけど。食堂とか、お風呂とか、娯楽施設とか。その代わり、一度出ると帰ってこられないんだもん。良いのか悪いのか、悩んじゃうよね」
「海の人間の宿命みたいなもんか。その点アタシ等は良いぞ? よほどじゃない限り家に帰れるからさ」
「良いなあ。私の借りてるマンション、家賃なんて寄付してるのと変わらないんだもん」
「へへへ。そりゃ難儀だな」
「もう、引き払っちゃおうかな……」

 フェイトの艦――所属してるって意味で――に案内してもらい、今は"住まい"と化している部屋を見渡している。
 一言で表すなら、味気ない部屋だった。小奇麗といえば、聞こえは良いかも知れないけど、物自体があまりない。内装云々以前の問題だった。
 アースラに居た頃は、結構飾り立てたりしてた記憶があるし、若しかしたら、アレはアルフの仕事だったのかもな。
 そうだとするなら、今の部屋を見たら、さぞやガッカリするだろう。この様子じゃ、家の方はもっと酷いことになってるだろうことが、容易に想像できる。なにせ、家に居ないんだし。
 こりゃ教えるべきか、黙っているべきか――
 きょろきょろと視線を泳がしていると、フェイトが「飲み物、なにか取ってくるね」と部屋を出て行ってしまった。

「そんなだったら途中でなんか買ったのによ……忘れてたのかな」

 そんなような気がするけれど、流石にそれはないだろうと、否定しておくことにした。
 さて。
 初めて来た部屋で一人、取り残されてしまうと、時間をどう潰して良いものか困ってしまう。
 時間を潰す、といっても飲み物取ってくるだけだってなら、それほど時間もかからないだろうし、大人しく待っていようかな。
 ……という考えも、あっさり自分でひっくり返してしまった。
 この綺麗に片付いた――片付けるほど物もなさそうだが――部屋で、一際賑わし居場所。壁にかけられた、コルクボードらしきものに、写真が所狭しと飾ってあったのを見つけたから。
 ちょうど、フェイトの頭で見えなかったんだな。いや、高い位置にあったから、アタシの視界に入ってなかったのかも。

「へえ。色々写真撮ってるんだなあ」

 古いのもあれば、新しいのもある。
 こっちの世界は、小さなモニタで、映像データをいつでも映し出せるから、写真自体は少ない印象だ。その代わり、希少価値というか、特別感は増してるけど。
 そんな写真を、しかも飾ってあるということは、その人間にとって、それだけ特別ってことになる。
 新しいのはエリオを初めとした、捜査に出かけた先で、保護した子供だったりが多い。勿論、アタシ達のもあるけど。
 古いのは、海鳴の家族や、中学時代に撮った思い出の写真。思い出と言っても、色あせるほど時間も距離も経ってないけどさ。
 それにしても――なのはの多いこと。
 古かろうが新しかろうが、そのどちらにも多いのは、なのはの写真だ。

「まあ、当然といえば当然か」

 フェイトの想いを、アタシは、その向けられている相手より知っている自信がある。
 知っているだけに、アタシはそれに敵わない――勝負する類じゃない。アタシのそれと、フェイトのそれは違う――と常々思っていたし、フェイトのことを応援するつもりでいた。
 だけど、実際には、なのはの隣にいるのはアタシで、そうしなきゃ駄目だと背中を押してくれたのはフェイトだ。
 だから――というのは変だけど、アタシはちゃんと――それこそフェイトの分まで――なのはの事を考えなきゃいけないんだ。

「……なんだろ。つい最近。同じこと考えた気がするなあ」

 記憶にないけれど、その"想い"だけが胸に残っている。
 フェイトには敵わない。やっぱりフェイトが一番だ――確かにそう想ったはずなのに、記憶には全くない。
 違和感というか、どうにもすっきりしないモヤモヤの置き所に困っていると、タイミングを計ったかのようにフェイトが帰ってきた。


 

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