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新婚なの! 12-6 (2)

「いっぱいあるでしょ? どれか欲しいのがあったら、焼き増しするよ」
「う~ん……悪いけどまた今度で良いや」
「そっか。シャマルはすっごく喜んでくれるんだよ。会った時には、いつも子ども達の話になるし」
「へ、へえ……」
「検診とか、医務局にはお世話になってるから、自然とそういう話になるんだけどね……ヴィータは興味ない?」
「……今度シャマルにキツク言っとく」

 フェイトは「そんな、遠慮なんて良いから」なんて、アタシの言うところの意味が分からなかったようだけど、世の中には知らなくて良いこともいっぱいある。今回のはその一つだ。
 それに、こういうのって、興味あるのが普通なのかな。前に集まったときも、見せてくれたし、みんな興味津々って感じだった。
 アタシだってない訳じゃないけど、自分自身こんな形だしさ、子どもがどうとか、考えたこと――まあ、今はない、かな。うん、ない。

「どうしたの?」
「いや、なんでもない。みんな元気そうで良かったなって、そう思ってさ」
「うん、そうだね」
「喉渇いたしさ、それ貰うぞ」
「はい、どうぞ」

 持って来てくれたミドルサイズのコップからは、シュワシュワと、小さく泡が跳ねている。炭酸飲料だ。
 フェイトは大丈夫になったんだろうか? と思いながらも、いい加減、シュワシュワ苦手なんて子供みたいなことも言ってられないか、と一口含んで喉を潤した。
 ……駄目だな。スカっとするけど、喉が渇いてる時に飲みづらい。
 一つ遅れてフェイトも同じようにする。けれど、その飲み方は逆に喉が渇きそうな、ちみちみとしたものだった。
 やっぱり、今でも苦手なのは変わってなかったのかな。

「お土産もあるんだ、出かけた先の世界の。名産品なんだって。ほら、書いてあるよ」
「へえ。……な、なんだこの色」
「う、うん。私も初めて見たときはビックリしちゃったけど、見た目は兎も角、味は悪くないんだよ?」

 フェイトが取り出した箱――いかにも名産品が入ってそうな作り――を開けると、中から顔を覗かせたのは、とても食欲が沸きそうにない、緑色の物体。
 なんていうか、スライムっていうのが近いのかもしれない。折角薦めてもらったんだし、食べなきゃ失礼かと、箸で摘んでみると、想像より固めの、でもボヨボヨとした感触。思い切って、口に放り込んだ。
 もっちもっち、むちゃむちゃ。口を閉じてるのに、行儀の良い音はしない。
 味は何というか、ヨモギ餅みたいな感じだ。食感も、噛んでいるうちに癖になりそうな粘り気がある。好きな人は好きだろう。
 不味いか美味いかで聞かれれば、美味い部類だろうけど、とにかく、見た目の悪さだけは如何ともしがたい代物だった。
 その世界では、これが受けが良い食べ物なんだろうけど。

「どうかな」
「う、うーん。まあ、悪くないな。中に入ってる餡子みたいなのも、良い塩梅だし」
「そっか、良かった。でも、あまり沢山は食べられないね、これ。自分で薦めておいてなんだけど」
「あ、ああ。顎が疲れてしょうがねえよ。それに、歯にくっ付いて虫歯になりそうだし、よく噛まないと喉に詰まりそうだ。小さい子には向かないぞ、これ」
「……お土産はやめておくね」

 がっかりとした口ぶりに、施設で保護してる子ども達の、お土産にするつもりだったのかと思った。
 こ、これは水際で阻止できて、良かったかもしれない。
 全く。普段は気をつけ過ぎなぐらい気をつけるくせに、変なところで抜けてるんだからな。危なくて仕方ねーや。

「……どうしたの? なにか気になったことでも?」
「あ、いや。なんでもねえよ」
「ふうん。それで、ヴィータ。今日はどうしたの?」
「ああ。ちょっとな。お前の意見を聞きたいっていうか、相談したいっていうか」

 もうちょっと、段取りというか、そういうのもあったろうと思うけど、単刀直入に尋ねることにした。
 はやてに貰ったの、そのままって訳にはいかないから、アイゼンの中にコピーして持ち込んだ。
 管理局に入ってから、外装はそのままに、中身はかなり新式に取り替えたから、利便性は格段に上がった。アタシはシグナムほど、戦闘を意識しなかったし。
 何も言わないでも、フェイトはバルディッシュを取り出したので、そのまま情報を渡した。
 そっと目を瞑るフェイト。
 今頃、バルディッシュから送信されたイメージなんかが、フェイトの頭の中では映し出されてるんだろう。
 暫く経って、フェイトはゆっくりと目を開いた。

「幾つか私の知らない情報もあるね」
「そっか」
「それで……ヴィータは何が気になってるの?」

 さして驚いた様子もなく、淡々としたものだった。これが執務官としてのフェイトなんだろうか。
 別に期待してたわけでもないし、さっさと本題に入ることにした。

「簡単にいうとさ……これをアタシに渡した、はやての理由、かな」
「直接聞いちゃ駄目なの?」
「それも考えなかったわけじゃないんだけどさ。何で説明が無かったのかな? てことを考えたら、やっぱ聞くべきじゃないんじゃないかって」
「うーん。それが良いかもしれないね、秘密の話みたいだし。でも、私が聞いても良かったのかな」
「ま、まあ、それは聞かなかったことにしてくれ」
「了解。多分、はやてと被ることもないだろうし、大丈夫だと思う」
「うん。ありがとな。そんでさ。フェイトはどう思うよ」

 アタシの言葉に、フェイトは赤い瞳を半眼に閉じると、ゆっくりと考え込むようにした。
 ただ、実際にそうしているのかは分からなかった。何となく、既にフェイトは結論を出しているように感じられたから。

「……事故で、いくつか公表されて無いのがあるね」
「ああ。それはアタシも気になったけど」
「ううん。そうじゃなくて、死者が出ているってこと。こっちではそうなってるけど、"公式"には出てないね」
「……どういうことだ?」
「局としては認めたくない"事故"ってことなのかな。特に陸の人たちにとって」
「う~ん」

 フェイトは「他の世界のも数件あるけど、殆んどはミッドや、その周辺だね」と付け足してくれた。
 ますます分からない。アタシにとっちゃ意味がない――人が死んでるのに、随分な言い方だと思う――って印象だった。
 今のところ考え付くのは、アタシ達に気をつけろ――それを言ったら、はやてだって同じだし、普通に注意してくれれば良いことだ――ってこと。
 だけど、それにしたって不自然さは付き纏う。

「数が決して多くないとはいえ、局員の間で話も出るだろうし、関連性を疑う人がいてもおかしくはないね」
「その辺は、さっぱりだな、アタシは。地上に知り合いが、いないわけでもないけどさ」
「うーん。私も意識しておくね。別件としても、このAMFの話は気になるから」
「ああ、頼むよ」

 最後、フェイトの語尾には、力が篭ったように聞こえた。
 前に遭った、AMFを使うガジェットのことを思い出したのかもしれない。アイツらの後ろに控える人物に、心当たりでもあるんだろうか。
 こっちも相談に乗ってもらったんだし、フェイトの話を聞いてやりたかったけど、この場では、気付かない振りをしておいた。

「そっか。お前にも分かんないか。まあ、今渡されて直ぐにってのも無理な話だよな。悪かった」
「う、うん。ごめんね、ヴィータ。せっかく来てもらったのに、力になれなくて」
「いや、気にすんなって。いきなり押しかけて、無理難題押し付けたアタシが悪いんだからさ」
「うん……ホント、ごめんね」

 フェイトは言葉の雰囲気ほど、落胆した風ではなかった。何か引っかかってると言うか、言いあぐねているという中途半端な感じ。
 別に、そんな態度を不愉快に思ってるわけじゃない。ただ、直感として捉えたものが、そう思えただけで、他意はない。
 まだ、頭の中で情報が整理しきれていないだけかもしれないし、ホントに分からなかったとしても、フェイトの責めに帰する理由はないんだから。
 一旦、間を取るためにコップを傾けると、フェイトも合わせて――相変わらず、ちまちまと――コップを傾けた。
 思ったよりも喉が渇いてたみたいで、こういうとき、甘い飲み物は余計に粘っこくなるばっかりで、ちっともスッキリしなかった。あと、炭酸は喉が痛い。

「ねえ、ヴィータ」
「ん。どーした?」

 暫しの沈黙の後。おずおずと切り出したフェイトの、視線は少し泳いでいるように思えた。

「えっと……なのはは、どうしてる、かな」
「なのは?」
「う、うん」
「う~ん」

 何を躊躇しているのかと思った。
 フェイトがなのはの心配をするなんて当たり前だし、アタシ相手になにを遠慮するってんだ。
 ――と、思いはしたものの、フェイトにしてみれば、アタシ相手だからこそ、素直に言えないのかもしれない、と。
 変な勘ぐりはこの辺にしておいて、フェイトの話に、即答というか在りのままを言うかどうか、最近のなのはの様子を伝えるのは、正直躊躇われた。
 きっと……無闇に心配するだろうし、それに……なんだか自分の不手際を晒すようで嫌だったから。

「……別に。なんも変わったことはねーよ。いたって普通だ」
「そ、そっか。なら良いんだけど。……ヴィータがそう思えるなら」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん! なんにも! ヴィータが大丈夫だっていうなら安心だなって。それだけ」
「そうか? なんか、気になることであんのか?」
「ううん。一番近くにいるヴィータがそう思えるなら、大丈夫だって」

 慌てて、オタオタする――オタオタするのはよく見るけどさ――フェイト。ちょっと心配にはなるけど、そんな様子も可愛いなあ、と思う。
 アタシらの中でも、可愛いタイプってのは珍しいんじゃないだろうか。リインとはまた違う感じでさ。
 そんな可愛い――執務官らしからぬ、というか――フェイトは、一体何をそんなに慌てたんだろう。
 気にはなったけど、いつも通りとはいえば、いつも通りな感じもするし、突っ込んだら悪い気がして、流すことにした。
 フェイトも、アタシがそれ以上突っ込まないことが分かってか、ホッと胸を撫で下ろす。
 やっぱり何かあったのかな?

「――ああ、そういや一つだけ。変わったというか、気になったことがあったな」
「な、なに……?」
「あのさ。アイツ最近、また香水変えたんだ。というか、元に戻したっていうか。うん、そういやそうだな」
「ふ、ふうん。そうだったんだ」
「……そうだな。戻したといえばさ、フェイト。お前は今どうしてんだ?」

 聞いて、デリカシーがない質問かと思ったけど、もう遅い。
 フェイトは気分を悪くしたのか――何となくそんな感情とは縁遠そうなイメージだけど、多少はあるだろうと思う――、じっと口を瞑ってしまった。
 やっぱりこれは謝ったほうが良い。完全に失言だ。
 そう思って口を開こうとした時、それを遮るようにフェイトが切り出した。

「変えたよ。うーん、変えたっていうのは違うかな。気分転換っていうのかな。ずっと同じのを使ってるわけじゃないんだよ?」
「へ、へえ。そういうもんなのか」
「うん。なのはだって、その日の気分とか、仕事先とか、そういうので変えたりすると思うよ。あ、これはなのはに限った話じゃなくて……」
「ぜ、全然気付かなかった。そ、そうやって変えるもんなのか?」
「う、うん。そうだけど……」

 フェイトはアタシの無知具合に戸惑いながらも、物を知らない子供に、優しく教えてくれるお姉さんみたいな感じだった。
 さっきのはアタシの勘違いかと思えるほどで、安心したんだけど、それでも自分がデリカシーのないことを言ったのは事実として、しっかりと胸の中に残った。
 しっかし。そんな変えるもんなのか……
 確かに、なのはもはやてもシャマルも、幾つも持ってたけど、そんな風に使い分けてるなんて、全然気付かなかった。
 良かった。こんなの、なのはかはやてに知られたら、一週間ぐらいは笑いの種にされてたところだった。
 改めて、この仲良しグループにおける、フェイトの重要性というか、貴重性を確認した思いだ。

「う~ん。今度から気をつけるようにする」
「そうだね。なのはも嬉しいと思うよ。ヴィータがそういうところに気付いてくれるのって」
「そ、そうか?」
「うん。だって、変える理由がヴィータなのかもしれないんだよ? それを気付いてくれたら嬉しいもん」
「アタシが理由?」

 訳が分からない。
 それを言ったら、仕事先やなにかで変えたりするってのも、今一要領を得ないところなんだけどさ……

「雰囲気とか、かな。華やかな場所と、訓練の場じゃ服装も変えるでしょ? それと一緒だよ」
「へ、へえ。そう言われてみれば、そんな気もするけど」
「なのはが、どう考えてるかまでは分からないけど。例えば、今日は甘えたいなあ、とか。そんな雰囲気になる香りを――」
「いっつもそんなだよなあ、アイツ」
「え、えっと……今日はリードしちゃうよ! みたいなのをアピールしたいときとか――」
「リードっていうか、我侭放題で振り回されてるって感じだ……」

 フェイトは眉を八の字にして、すっかり困ってしまった。
 その後も幾らか例えを出してくれたんだけど、その一つ々々にコメントしてたら――こんなことに。
 アタシだって悪気があったわけじゃないんだ。
 ただ、フェイトの例えに対して感想を言ってただけなんだ。ホントだぞ。ホントだったら……

「……そ、そういうことだから。ちょっと気にしてあげると、喜んでくれるかも」
「あんま調子乗らせるのもアレだと思うけど、そうだな。今度から気をつけとく。あんがとな、フェイト」
「うん。そうしてあげて」

 すっかりフェイトに教わる形になっちまった。
 アタシの方が、ずっとなのはと一緒にいるってのにさ。情けないやら腹立たしいやら、色々複雑だった。
 ただ、世事に疎かったってことにしておきたいけど、そうも言ってられないだろう。
 なのはの事だしな。

「ところでさ。最近会ってないのか? アタシに聞くってことは……」
「なのはに? う、うん。会ってない、かな」
「そっか。メールもなにも無いのか? いや、聞くぐらいだから、ないんだろうけどさ」

 フェイトはなにやら気まずそうに頷く。
 別にフェイトが気まずく思うことなんてないのにさ。相変わらず遠慮がちなヤツだ。

「なのはのヤツ、サボってんだな。無駄に、用もないのにしろとは言わないけどよ。もうちょっと――」
「う、ううん! そんなじゃなくて……なのはも心配かけたくないんだよ! きっと」
「心配?」

 そんなの、連絡寄越さないほうが心配かけるじゃんか。
 一度悪いこと考えると、そういう感情ってのは膨らみやすいもんなんだ。
 特にフェイト、お前ってそういうタイプだしさ。便りがないのは~って思わないタイプだろ。

「そ、それは、その……便りのないのは無事な証拠って言ったりするじゃない。それだよ、きっと」

 意外だな、全然そういうタイプに見えなかったのに。
 なんで慌ててるのか知らないけど。
 それを誤魔化すように、フェイトは矢継ぎ早に喋り始めた。

「家ではどうなの? のんびりしたり出来てるんでしょ? えっと、顔色が悪いとか、そんなのないんだよね? きっと、多分毎日大変なんだよ、なのは。一緒に暮らしてるんだから、分かるでしょ?」
「まあ、それは分かるけどさ。……アイツ、肝心なときに黙るからさ。心配なんだよ。お前だって、なのはのそういう悪癖、知ってるだろ?」
「あ、うう、うん」
「だからさ。アタシじゃ分かんないんだよ……情けないことだけどさ」
「ヴィータ……」

 確かに、子供じゃないんだから「今日食べたご飯美味しかった」とか、くっだらない内容なら、メールしなくても良いだろう。
 でも、些細なことでも相手の近況を知りたいってときはあるだろうし、特に放っておくと何もしない子は、こっちから構ってやらないといけない。
 そんなこと、フェイトなら分かってるだろうと思ってたし、むしろ、アタシが忠告されるかと思ってたのに。
 これを甘やかしだって、そういう考えもないこともないけどさ。やらなくて、後悔はしたくないし。
 もっと、こう。遠慮なんかせずに、なのはへメール入れるよう、言った方が良いんだろうか?

「フェイトもさ。お前から連絡入れてやってくれよ。それなら、なのはだって返事するだろうし」
「うん。私もなるべく時間作るようにするね」
「ああ。アタシには言い難いこともあるだろうしさ。そういうの……頼む」
「……うん、分かった」

 結婚した後。初めてフェイトに会った日のことを忘れたわけじゃない。
 だから、こんなことを頼むってのは情けない限りなんだけど――やっぱり、フェイトには敵わないって心のどこかで思ってるんだろう。
 現に、フェイトはアタシの気づかないなのはの変化を――しかも、最近会ってないというのに――気付いてたみたいだし。
 ただ、だからってそのまま甘えるわけにもいかない。
 約束を守るためにも、アタシだってさ。頑張らなきゃいけない。
 これでもよ。なのはの嫁だからさ。


 


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