« 新婚なの! 13-1 (1) | トップページ | 新婚なの! 13-2 (1) »

新婚なの! 13-1 (2)

 午前の訓練が終わって、汗も流し、さっぱりして隊員オフィスに戻ってみると、自分宛てにメールが来ていた。
 出て行くときにはなかったはずだから、どうやら、訓練中に着信したらしい。
 デスクに届くぐらいだから、大した用でもないんだろう。特に保護されている様子もないし。急ぎの用じゃないなら、お昼のときに見れば良いや、とその場で確認はしなかった。

「ヴィータさん。メールのチェックはしなくて宜しいんですの?」
「……はあ」

 食堂で弁当を食べていたら――調味料とかあるし、デスクで食べないんだ――、メンテを始めとした面子に声をかけられた。
 思わず溜め息が漏れる。
 しかし、当の本人は溜め息を意に介することなく、ちゃっかりとアタシの隣に席を取り、興味のない噂話なんかをするものだから、さっぱり弁当を食べた気にならない。

「ねえ、ヴィータ。お弁当作るの大変じゃない?」
「別に。慣れればどうってことねーよ。寝る前に準備しておくし、朝起きて特別なんか作る訳じゃないからな」
「やっぱり、お金を節約してらっしゃるので?」
「……まあな。食堂の方がメニューも豊富だし、楽なんだけどよ」
「そんなこといって。本当は愛する旦那様にお弁当を食べて欲しいんでしょー? きゃー!」

 女性陣は、なにやらキャーキャーと盛り上がっている。
 そんなに羨ましいなら、さっさと良い相手でも見つけたら良いんだ。……隣の男は黙ってスタミナ定食か。つーか、お前、他に友達いないのかよ。
 取り留めない話が、いつまでも続きそうで、「片付けなきゃならない仕事があるから、帰る」といって、食堂を後にした。一応、フーガがスタミナ定食を食べ終わるまでは待ったんだぞ。一人じゃ可哀相だからな。

「はあ……疲れる」

 お昼ぐらい、ゆっくりと食べさせてくれよ……

「さてと。せっかく抜けてきたんだから、見とくとするか」

 昼休みのために、人影も疎らな隊員オフィスで一人、モニタを立ち上げ、メールをチェックすることにした。
 ――なのはからだ。
 前半は軽く読み流して――必要ないことはたくさん書くくせに、必要なことは書かないから困る――、本題らしい段落に目を通す。
 内容はひどく簡潔で、一言でいうなら「今のお仕事は明日で終わりそう」というものだった。
 予定立ててやるものだから、こんなギリギリにならないと分からないってのは、割と珍しい気がする。まあ、単に言い忘れてただけって可能性もあるけど。
 よし。それなら、そろそろ連絡入れておこうかな。
 なのはもそうだし、アタシもまた世話になるかもしれないからさ。


  ◆


「今日は遅いのかあ」

 制服の上着を脱ぎ、ネクタイを緩めて、だら~っとする。
 今日の帰り。トランスポートに向かって歩いていたら、なのはから連絡があった。
 終わらせるための準備に手間取って、思った以上に遅くなりそうだから、向こうの人と一緒に食事を取ることになったらしい。
 そういえば、前にもこういうことがあった気がする。
 確か、あの時はシグナムがいた部隊だったからだっけか……いや、あれは打ち上げだから違うか。
 そのために、夕飯もいらないし、帰りは遅くなるということだった。
 ちゃんと連絡してきたんで、褒めてやりたい――当然だ、と思う気持ちもない訳じゃないけど――けど、アタシの口からは、溜め息しか漏れなかった。

「さて。一応、向こうさんも終わりの時間だけど、どうかな?」

 なのはが終わりだっていうので、一応話だけでもしておこうと、モニタを立ち上げた。
 ミッド本部の空でやってるっていうから、シグナムに聞けば、どの隊を面倒を見てたか分かるかもしれないけど、それは少し躊躇われた。
 シグナムなんかに聞いたら、「過保護だ」とか言われるだろうし、そんなん勘弁だ。
 だから、こういうとき、伝手を頼るに限る。こういうときの伝手だ。

「おう、ヴィータじゃねーか。どうした」

 モニタにパッと明かりが灯り、数瞬あって、よく見知った顔が映し出された。
 歳相応のオジサンで、恰幅がよく、いかにも武装隊出身という体つき。現役で空を飛んでいて、衰えを知らないと言うか、まだまだ行けるぞって感じの人だ。
 後ろに見えるのは、見慣れたオフィスの壁だ。となると、この時間もまだ残ってたのかな。

「お久しぶりです」
「ハハハ、そうだな。なんだ、仕事でも必要になったか?」
「ぶっ!? な、なんでその話を……」
「新婚だと、なにかと入用だろう? それに、お前さんは人気だからこっちも――それほど変わった話を振ったつもりはねえんだが……どうした?」
「い、いんや。なんもねーです」

 前に依頼を受けた理由を、何で知ってるんだと思って焦ったけど、全くの早とちりだったみたいで、変な汗をかいちまったや。
 オッサンも、ちょっとアタシの様子が変だと思ったみたいだけど、すぐに話題を戻してくれた。
 ありがたいや。

「あ、あのさ。最近そっちで、なのは……高町一等空尉が教導を請け負った部隊があるはずなんですけど」
「高町――お前の旦那さんか。ええっと……ちょっと待ってろよ」

 視線を脇へ逸らし、右手でキーを叩き始めると、それほど待つことなく、その手が止まる。
 どこの部隊だったか早く聞きたいのに、オッサンは難しいというか、不可解とでも言わんばかりに、眉間に皺を寄せた。

「なにか変なことでも?」
「いや、なんと言うかだな……つい最近だよな? 聞きたいのは」
「は、はい。そうですけど」
「……来てないぞ?」
「へ? じゃ、じゃあ。今日終わりらしいって、そういう予定のは?」
「ええっとな……こっちには来てないな。ううーん、高町、高町……ああ、あったぞ」

 ど、どこ!? と思わず身を乗り出しそうになる。

「陸の方を担当してるみたいだぞ? お前さん、聞き間違えたんじゃないか?」

 オッサンは混乱してたと思うけど、アタシほどじゃない。断言できる。
 空だった……はず。いや、アタシの思い込みだったのか? しっかり話を聞いた訳じゃないし。
 そういえば、一回は陸を担当してたみたいなこと言ってたけど、それ以外は空だったような……う~ん。

「あ、えっと……勘違いしてたみたいで、ゴメン」
「そうか。なら良いんだが」
「お手数かけさせて悪かったです。まだ仕事中だったのに」
「忙しくてな。このまま何もなけりゃ、直ぐにでも帰れる程度だが」

 ハハハ、と笑い飛ばす。ということは、今、後始末中と言うことだろうか。
 どこも安全じゃねーんだなあ。
 アタシみたい、定時を一寸すぎたぐらいで帰れるのは幸運なんだ、と改めて思わされた。
 一度出動が掛かると、移動やら何やらで、一日帰ってこられないこともあるんだけどさ。

「時間使わせて悪かったです。今日はこの辺で」
「気にすんな。一人で暇を持て余してたところだったしな。ところでヴィータ」
「あにさ?」
「いま、自宅か?」

 なんの疑問も持たずに頷いた。
 すると、オッサンはニヤッと口元を緩め、

「女の子っぽくない家だな、割と普通だ。いや、イメージ通りだけどな」
「は、はあ? そんなの当たり前じゃんか。賃貸なんだぞ。どんなだよ、女の子っぽいって」
「ハハハハ、気にするな。じゃあな」
「へん。さっさと切ってくれよ」

 オッサンは「旦那さんにも宜しくな、評判良いからさ。やっぱり可愛い子ってのは良いもんだ」と言って、逃げるように通信を切った。
 せっかく、イーっとしてやったのに、残念だ。
 何も映さず、向こう側が透けて見えるモニタを前に、一人溜め息を吐いた。

「さて。陸といやあ……大丈夫かな、ゲンヤさん」

 アドレスをいれ、応答待ちのモニタを見つめる。
 余り気が進まず、既に当初の目的と離れつつある、自分の行動に疑問がなかったわけじゃないけど、今はとにかく、連絡を取ろうと思った。
 特に考えも纏まらないまま、応答があり、モニタに色が戻った。
 一番に目に飛び込んだ背景は、さっきと同じだった。

「お、八神んとこのヴィータじゃねーか」
「スイマセン、ナカジマ三佐。お時間宜しいでしょうか」
「もう家か? 羨ましいもんだ」
「はい。お陰さまで」
「ハハハ。まあ、俺たちは暇なのが一番だけどな。よし、プライベートってんなら、そんな堅苦しいのも無しだ」

 こっちから見えるだろう範囲から、書類やらを押し退けて体裁をとる。こっちの世界だとわざわざ紙媒体に落とすことは少ないから、それを踏まえると、ゲンヤさんの忙しさは、相当なものだと分かる。
 それにしたって、あんなやり方じゃ、下手したら書類はぐしゃぐしゃだし、またギンガに怒られるんじゃねーかな、と思ったけど黙っておいた。
 その方が面白いし。

「はい。ありがとうございます」
「ちょうど暇してたところだ。そういや結婚報告以来だったか?」

 ニシシ、と笑う顔に噴出しそうになった。
 いきなり何てこと言うんだ。
 なんだ、やっぱり人が結婚したってそんな気になんのかな。

「……は、はい。え、えっと、その話はまた今度ってコトで」
「そうか? 一応、八神からちっとは耳に入れてるんだが、やっぱり本人から聞きたいだろう?」
「え、えっと! ゲンヤさん! 最近、そっちでやってる教導のことで、少し」
「うーん? なんか気になることでもあったか?」
「……個人的なことなんですけど」

 ふうん、とゲンヤさんは少しだけ態度を崩すと、こっちに話を促してくれた。
 正直言うと、ここまできて、躊躇う気持ちが出てきたんだけど、それよりも疑問を解決したい気持ちが幾らか大きくて、切り出すことが出来た。

「そっちに……なのはは行ってますか?」
「高町の嬢ちゃんか? ……ああ、そうだな。ここ何回かは来てもらってるらしいな。俺のところじゃないから詳しくは知らんが」

 何を聞いてるんだろう? という顔をしている。
 そりゃそうだ、とアタシ自身も思う。
 そんなこと知りたけりゃ、本人に直接聞けば良いわけだし。なにせ、その相手とは結婚してるんだから。
 そう思ったところで、ゲンヤさんが小さく、あっ、と何かを思い出したように腕を解いた。

「高町の嬢ちゃんで思い出したんだが、この前の出動は手伝ってもらってな。改めて助かったと言っといてくれ」
「この前の出動?」
「おう。違法魔導師と……数体のアンノウンで構成された連中に対してな、手を貸してくれたんだ」
「……で、それから?」
「見事に魔導師の方はお縄を頂戴したわけだが、アンノウンは取り逃がしちまった」

 ゲンヤさんの表情は暗い。
 目に見えて落ち込んでる訳じゃないけど、こういう仕事なら、誰しも経験するような顔だった。
 それに対し、アタシも詰まらない表情をしていたと思う。ゲンヤさんとは違う理由で。
 ――アンノウン。指すところは違うかもしれないけど、アタシ――フェイトも。なのは、はどうだろうか――にとっては嫌な思い出だ。

「ホント、高町の嬢ちゃんには助かった。あの子がいなかったら被害はもう少し大きかったろうな」
「被害? 盗みとかなにかか?」
「それもあるが……人的被害だな、この場合」

 深い溜め息が漏れる。
 今の言葉と態度に、アタシの頭の中で一つの言葉が過ぎった。
 けれど、今はそれを口にはせず、話を続けることにする。
 元々、あれはアタシのところにあるはずがない、モノだから。

「ったく。アンノウンのことを聞いても、知らぬ存ぜぬの一点張りでな。どうやら、本当になんなのか知らないらしくて、全くお手上げだ」
「変な事件ですね」
「本当にな。局のデータベースでも、主だったものは引っかからないし……どうなってんだか」
「事件数、少ないんですか?」
「さあな。耳には挟むし、単に共有化されてないだけだろう。怠慢だな、自分のことだが」

 ゲンヤさんが、苛々しているのが分かるから、アタシは胸の中で頭を下げた。
 本当は、ゲンヤさんが欲しがっている情報を知ってるからだ。でも、諸々の個人的な事情で言えないことを、謝った。
 こんなことしたって、何の解決にもならないし、アタシの自己満足に過ぎないんだけど。
 話の流れを見るに、この辺りが切り時かな、と思った。

「ん……詰まらない話になっちまったな。で、どうだ。コレでよかったのか?」
「はい。たまに、なのはの帰りが遅い日とかあったんで、ちょっと」
「ふうん。仕事の話は家でしないのか。まあ、よく考えてみりゃ、それが普通か。飯が美味くなる話でもないからな」
「はい。アタシも殆んどしません」
「ま、聞きにくいってこともあるか……」

 僅かに、懐かしむような光が宿り、目が細められる。
 ゲンヤさんところは、家族全員管理局務めだからな。それに……こういうことには、特に気持ちが分かるんだろう。

「それにしてもだ」
「な、なにか」

 椅子に深く腰掛け、リラックスした表情を作る。

「まさか、お前さんが結婚するとはな」
「ま、またその話ですか」
「そりゃそうだろう? 今のお前と顔を合わせて、他に何を聞くってんだ?」
「う、うーんと……それでも、別に話すことなんて、特に」
「あれだ。年寄りの下世話根性だとでも思ってくれ。どうしたってな、娘と同じぐらいの歳の子が結婚したと聞きゃ、気になるもんだ」
「は、はあ」

 興味もあるし、どこか心配でもある。内心どうなのか、アタシからは計りかねるけど、複雑であることは確からしい。
 気になるなんていうけど、スバルどころか、ギンガも、まだまだだと思うんだけど……やっぱり、父親は違うんだろうか。

「大丈夫じゃないんですか? ギンガってモテそうですし」
「そりゃあ、なんたってクイントの娘だからな。美人で器量よし、モテて当然だろう?」
「だったら心配しなくても……」
「だから心配なんじゃねーか」
「はあ」

 ゲンヤさんは、なんとも言いがたいといった感じで、口をへの字に曲げてしまった。
 なにが違ったのかな?
 ギンガが結婚できるかどうか、それを心配してると思ったんだけど……うーん。
 アタシらの周りには、親しい"父親"っていうと、士郎さんぐらいだしさ。なんか分かんないや。あ、でも、なのはと里帰りした時、何か複雑な感じだったような……

「ゲ、ゲンヤさんがそんなじゃ、ギンガも心配で結婚出来ないから、大丈夫ですよ」
「な、なにおう! そりゃ、どういう意味だ」
「どうって。そうやって書類の扱い方とか……」
「これか? ま、まあ、最近口うるさくなってきたのは確かだけどな」
「だらしなくしてるから、そうやって心配されるんじゃないですか? しっかりしたら、ギンガも安心して――」
「ぐ、ぐぅ……八神んところの教育はどうなってやがるんだ」

 痛いところを突いたのか、ゲンヤさんは、顎に梅干を作って黙ってしまう。
 しまったな。ちょっと言い過ぎたのかもしれない。
 なにか、さっきから気持ちが浮つくというか、口が軽くなっているのかも。人間焦ると、口数が増えて、余計なことを言うらしい。

「はあ、若い娘と喋るのは疲れる……」
「スミマセン、まだ仕事中だったのに、時間を割いていただいて」
「急に丁寧にしたってな……まあ、お前さんが気にするのも分かるが」
「そういう、ものですか?」
「伴侶が危険な現場に身を置いていると思えばな……当然だ」

 重みのある言葉だった。
 プライベートなことだけど、ゲンヤさんの身の上を考えれば、深みのある、人生の先輩として以上に、意味のある言葉だった。
 今日、交わした言葉を振り返ってみると、今更ながら、その重みに、身の引き締まるような思いだった。

「さて。そろそろ戻るぞ」
「はい、ありがとう御座いました」
「またなんかあったら連絡してこい。ちったぁ相談に乗ってやるよ」
「はい」
「あと八神にな、もうちょっと顔出せって言っといてくれ」
「分かりました」

 最後は明るく締めてくれた。
 色が落ち、また向こう側が透けて見えるモニタを眺めて、ほう、と一息ついた。

「なのは……嘘、吐いたのかな」

 そうだとして、理由が分からない。
 アイツの性格からして、嘘――否定的な意味でなく――を吐くことはあるけれど、それにしたって、釈然としない。
 アタシが挨拶しておくって言ったとき。それほど過剰じゃなかったけど、嫌がったのも合点がいく。
 心配かけたくないとか、そういうのが一番ありえるだろうけど、仕事先を偽ることで、何が隠せるというのか。
 何を隠さなきゃいけなかったのか。
 なのはは、それによって何を得たのか。

「いや、保身ってわけじゃないだろうな」

 なんとなく、そんな気がした。
 結婚したからって、別になにか変わった訳じゃない。毎日してることは、さして変わらないし。
 でも、アタシの中では、なにか変わったかもしれない。
 自覚はないんだけど、結婚してから……特に最近は、その正体は分からないんだけど、その"何か"がアタシを変えた気がする。
 思い返してみて、なのはが"アタシの為に"、その嘘を吐いてくれたような気がしたから。
 改まって、自分のことを振り返ってみると、なのはの言動を、そんな風に捉えた覚えがなかった。
 だから、漠然としているけど、アタシは変わったんだ。そう、思えた。

「……まだ、なのはが嘘吐いたって決まった訳じゃねーし」

 帰ってくるのは、もっと遅くなるだろう。
 日付が変わる前には帰ってくるとは思うけど……それまでには全部終えて、帰りを待っていてやらないとな。


 


 
 新婚なの! 13-2 (1) >


 

|

« 新婚なの! 13-1 (1) | トップページ | 新婚なの! 13-2 (1) »

新婚なの!」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 新婚なの! 13-1 (1) | トップページ | 新婚なの! 13-2 (1) »